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 佐々城 信子(ノブ  明治11年(1878)7月20日〜昭和24年(1949)9月22日
 佐々城信子を、文筆活動のなかに加えることは不自然な感じでもあるが、国木田独歩とのかかわりとして、ここに加えた。

<生い立ち> 
 医師の佐々城本支と社会運動家の佐々城豊寿の長女として東京神田西小川町で生まれた。
 相馬黒光とは母方の従姉妹同士である。海岸女学校(青山女学院)で学んだ。

 16歳の信子は母・豊寿に伴って、明治28年(1895)の春から北海道札幌と伊達に居住し、教育所で臨時教員として英語を教えた。

<国木田独歩との出会い> 
 一時、東京の三田四国町の家に戻った、明治28年(1895)6月、国木田独歩と出会った。自宅で信子の両親が日清戦争従軍記者招待晩餐会を開いた。そこに従軍記者として招待を受けたのは国民新聞側では徳富蘇峰と国木田独歩、その他数名いた。また毎日新聞からも招待者がいた。その宴会の席上で、信子は「雪の進軍」の軍歌を歌い花を添えた。

 独歩は、千葉県に生まれ、東京専門学校(早稲田大学)英語科を中退した。明治24年(1891)1月、一番町教会で植村正久から受洗した。日清戦争従軍記者として明治27年(1894)11月11から「国民新聞」に『愛弟通信』その他を連載した。これが人気を呼び、独歩の名を世間に広く知られるようになった。

 独歩は、以前から北海道移住に憧れを抱いていた。道庁も内陸部開拓の進展を図るために全道9箇所の土地貸下げを、明治28年(1885)2月1日、公示した。そこへ、北海道から一時帰京した信子に出会い、ともに北海道を愛する思いが媒介となったのか、たちまち、ふたりは恋愛関係に陥った。ふたりの愛の巣を北海道の自由な山林のなかに夢見た。

 反対する周囲から逃げるように栃木県塩原温泉に逃避行をした。駆けつけてきた本支に結婚の許しを得て、その足で独歩は夢の実現のために北海道へ向かった。その日は9月16日だった。

 北海道に足を踏み入れた独歩は、予め知人の内村鑑三を通して札幌農学校教授・新渡戸稲造を紹介してもらい、新渡戸の伝手で道庁の参事官から土地選定等の計らいを受け、空知川沿岸を決めた。だが、千葉の暖かなところで生を受けた独歩には9月半ばで千葉では想像できない厳しい冬を思わせる寒さと、わびしい小屋の集落にたじろいだ。

<結婚> 
 母の反対を押し切って同年11月11日、結婚した。母の豊寿が二人の結婚に折れたのは、周囲の説得、なかでも徳富蘇峰と潮田千勢が仲にはいって豊寿を説得したのだった。独歩に授洗した植村正久の司式、徳富蘇峰の媒酌、竹越與三郎の保証人、潮田千勢の世話の下に独歩の自宅で結婚式を挙げた。

 豊寿は、結婚を認めたものの東京に居を構えることを許さなかったために、ふたりは新居を神奈川県逗子の田越村桜山(現、逗子市桜山)の柳屋に構えた。北海道をあきらめた独歩はアメリカの神学校に校費で留学する夢を抱いて、教会に通った。

 ところが現実の生活は夢のようには行かずに苦しい生活が続いた。日本橋の病院長の娘として育った17歳の信子には、まだ人生の先が読めなかった、といえようか。4月に信子は失踪した。結婚5ヶ月で離婚した。

 翌年の5月3日、「愛破れ、希望滅し、猛気消え、自信死し、死灰よりも冷然たり。自殺の念の動くも無理ならず。」と、独歩は、その日の日記を夜10時に記した。

<離婚、出産> 
 信子は、翌29年離婚して北海道に再び渡った。そこで、独歩との間にできた浦子を30年(1897)1月産んだ。
 浦子を里子に出して3年間、札幌で暮らした。

<両親の死> 
 母豊寿の活動を支えた父の本支が明治34年(1901)4月13日に死去し、その年の6月15日に母豊寿が49歳で死去した。

<渡米> 
 34年9月、親戚会議でアメリカに追いやられる羽目になって、森広と結婚するために渡米の途に着いた。乗船した鎌倉丸の事務長・武井勘三郎と恋に落ち、アメリカに上陸せずに帰国した。同船していた鳩山春子はスキャンダルとして新聞に告発したと言われている。

 このことで武井は日本郵船を辞めた。武井の妻は勘三郎との離婚を承知しなかったために信子と勘三郎は制度上の夫婦にはなれなかった。勘三郎との間に一女瑠璃子が生まれた。

 大正10年(1921)2月に勘三郎と死別した。同14年(1925)、末の妹が病弱だったため栃木県真岡に移住した。真岡の自宅で日曜学校を開き、聖書と讃美歌を教えた。

 72歳で死去し、真岡市海潮寺に葬られた。

 有島武郎の代表作「或る女」のヒロイン早月葉子は信子をモデルとしている。
出 典 『女性人名』 『北へ』 『植村3』 『明治ニュース事典5』 『安曇野1』

徳富蘇峰記念館 http://www2.ocn.ne.jp/~tsoho/index.html
北海道都市地域学会ニュースレター4 http://wwwsoc.nii.ac.jp/haus/downloads/nls/nl2004_1.pdf

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