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大都会−闘いの日々−の引き出し

冬に始まり夏に終わったこの物語は、黒岩刑事(渡哲也)と謎の女直子(篠ヒロコ)との出会いから別れまでを描く。
黒岩の妹の恵子(仁科明子)は、黒岩刑事に恨みを抱くやくざに高校時代に暴行されるという過去を持ち、その過去を引きずりながら、いつまでも幸せを取り逃がしている。そして、直子は自らをブルーフィルムに撮られてしまい、その8mmフィルムを取り返すため、暴力団に接近してゆく。
この二つの大きなストーリーを背景に、基本的に1話完結のエピソードが展開される。
DVD等で初めて視聴する人は、最終3話(29〜31話)を最初に見るといい。もちろん、恵子と直子の結末はそこで分かってしまうけれど、この物語の完成度がそこで実感できるはずだ。
というのも、この物語は、放送中よりも後年になってから評価されたようなのだ。放送中の視聴率は決して高くなかったし、問題提起となる第1話、第2話が終わると、しばらく小粒な話が続く。演出もまだ小慣れていない感じで、地味な展開に我慢できない人はさっさとチャンネルを変えてしまうだろう。それが後半に行くに従い盛り上がりを見せ、最終3話に突入すると、画面から目を離すことができなくなる。全話見終わってから、ようやくスケールの大きさが理解できるのだ。
★の数は、飽くまでも私の個人的な好み。最大が★5個。

第1話「妹」
妹

★★★★
第1話は、黒岩刑事(渡哲也)と同居する妹の恵子(仁科明子)の過去を明かしながら、暴力団の若頭の殺害事件の容疑者を追う展開。容疑者の義理の妹を絡めながら話が進むので、「妹」というタイトルは、その両方を掛け合わせたものか。
この話がないと、「大都会−闘いの日々−」のその後の恵子に関する展開はないので、それだけ重要なエピソードとなる。
しょっぱなから画面に現れるのは記者クラブ。新人の九条記者(神田正輝・新人)が初出勤し、キャップの滝川(石原裕次郎)が競馬新聞を読んでいる。事件は記者たちの目線から始まり、関西の潮会(うしおかい)系の暴力団が東京に居を構えたことが分かり、警視庁捜査四課から「深町軍団」と呼ばれる精鋭たちが城西警察署に乗り込んでくる。
この事件は、容疑者(石橋蓮司)を捕まえるために、関係のない義理の妹(水沢アキ)の幸せをも奪ってしまうという後味の悪い結末となる。恵子が過去を知られることで自分の幸せを逃してゆくこととオーバーラップさせながら。
脚本:倉本聡
(1976年1月)

第2話「直子」
直子

★★★★★
第2話は、謎の女直子(篠ヒロコ)が恋人・久光(伊吹吾郎)に騙されてブルーフィルムに撮られることから始まる。このエピソードが最終回まで、この物語の重要な主題となっている。
空気を読めない九条記者(神田正輝)が、久光が暴力団員であること、黒岩(渡哲也)が刑事であることを直子に知らせてしまい、直子は8mmフィルムの件が仕組まれていたことだと知ってしまう。ここから、直子は葛藤の末、久光に復讐し、そしてフィルムを自分の手で取り返すことを決意する。
そこからの直子の変貌ぶりが恐ろしい。久光と暴力団が会う時間を聞き出し、それを黒岩に気づかせることで警察を動かし、結果、久光が消されることになる。
復讐を終えた直子は、この後、自らの手で8mmフィルムを取り戻すことになるのだが、そのためにとった手段の詳細は最終回まで分からない。
脚本:倉本聡
(1976年1月)

第3話「身がわり」
身がわり

★★
しばらくは小粒な話が続く。5年前に身代わりで殺人事件の犯人として逮捕された森田(渡辺篤史)が出所し、潮会の幹部・倉石(深江章喜)の娘を誘拐する。
倉石が金策に走る間、警察には、娘を救い出すチャンスはいくらでもあるのだが、深町課長(佐藤慶)から倉石が現われるまで待つよう指示される。引き延ばした末、倉石は現われるが、舎弟は森田に刺され、森田は倉石に射殺される。
最後にキャップの滝川(石原裕次郎)が「組織ってやつは、時々一人じゃできない悪いことを、心も痛めずにやっちまうんだ」というのがこの話の結論かも知れない。
脚本:斉藤憐
(1976年1月)

第4話「協力者」
協力者

★★★
松田優作がゲスト出演ということで、評価されている作品ではある。
手違いで東洋新聞に写真が掲載されてしまった情報屋の松宮(小鹿番)が殺される。松宮の弟・次郎(松田優作)は、小坪一家の中堅で、兄を殺した関西訛りの男を探しに走る。
映画のような長回しとか、次郎が関西訛りの男を刺した時の場面割りとか、最後に別の人間が犯人だと告げられて次郎がサングラスを外した後の片目とか、演出には凝っている。
なお、この回で初めて、直子(篠ヒロコ)が潮会の情報を黒岩(渡哲也)に伝える。もちろん、黒岩はそれを止めようとするし、どういう方法で情報を仕入れたのかも知らない。
脚本:倉本聡
(1976年1月)

第5話「めぐり逢い」
めぐり逢い

★★★★
短編映画を見るような好作品。
潮会に関係する吉本組系暴力団員の小野田(蟹江敬三)の情婦(宮下順子)に「貧乏でお腹を空かせた学生」だと勘違いされた黒岩刑事(渡哲也)が、そんな勘違いを受けたまま、彼女に食事をおごってもらったり、最後は列車の切符まで買ってもらって上野駅まで見送りされてしまう。
その一方で、ストーリーを引っ張るのは、新人の九条記者(神田正輝)。せっかく掴んだネタを毎朝新聞の松川(宍戸錠)らに話してしまったり、相変わらず不慣れな新人ぶりを全開させる。それでも、滝川(石原裕次郎)の指示通りに女を尾行していたおかげで、他の新聞社が知りえない小野田逮捕の瞬間をキャッチできた。
「めぐり逢い」というタイトルがとてもしっくりくる、見終わった後に切なくなるような作品。
脚本:斉藤憐
(1976年2月)

第6話「ちんぴら」
ちんぴら

★★
ゲストは19歳の浅田美代子。弘前から東京に出てきて間もない女性(浅田美代子)が付き合っていた男・坂井(林ゆたか)が、酔っ払って拳銃を発砲。その理由は、やくざを殺す計画から逃げるため、わざと逮捕されたのだということが、彼女の証言から分かる。
殺す予定の相手は潮会のやくざで、新幹線で東京に向かっている。坂井の仲間は目的を達するために東京駅に向かうが、先回りをした警察に逮捕される。
やはりここでも、ずれた感覚の九条記者(神田正輝)の取材手法で、女性が仕事を辞めざるを得なくなるという出来事も起こる。もっとも、黒岩刑事(渡哲也)はそれを自分自身の行動にも重ね合わせて自問自答する。
脚本:永原秀一
(1976年2月)

第7話「おんなの殺意」
おんなの殺意


後味の悪さが残るという意味では「大都会−闘いの日々−」らしさがある作品だが、全体の中では繋ぎの小作品としか見えてこない。
あくまでも個人の感想。
8年前に抗争相手の組長を刺殺した沢井(岡崎二朗)の出所後の動きを追う。8年の時を経て、彼の居場所はない。出所時に見かけた女(赤座美代子)が唯一のよりどころになってしまう。
8年前、彼の動きを察した情婦が丸山刑事(高品格)と高木刑事(草薙幸二郎)にたれ込んだものの、警察はその動きを止めなかったことで、事件を発生させてしまったことが分かる。そして今回、警察は同じように人一人を不幸にしたのではないかと、黒岩刑事(渡哲也)はまた自問自答する。
脚本:大津皓一、塩田千種
(1976年2月)

第8話「俺の愛した ちあきなおみ」
俺の愛した ちあきなおみ

★★★★★
前半でのクライマックスともいうべき最高傑作だと思う。
題名のちあきなおみが出てくるわけではないが、名曲「喝采」は、この回の主人公でもある少女・木下マヤ(高橋洋子)が好きな歌という設定で、彼女が出演するテレビ番組で効果音楽として流されるが、それがそのままこの回のラストにも重なる。
プロダクション経営者にテレビ出演と引き換えに襲われそうになったことで相手を殺したことを、生放送で告白し、放送を止めようとする局側と続けようとするディレクター(蜷川幸雄)との応酬の中、「喝采」の曲を残して音声は切断される。
途中、本題とは関係ないエピソードとして、黒岩刑事(渡哲也)の関西時代の恋人(服部妙子)が東京を訪ねてくるが、事件のために会えない。間もなく結婚するという彼女は、結局会えないまま新幹線で帰ってゆく。
本題の間に挟まれるエピソード、そして、本題のクライマックスも、木下マヤの語りと警察が犯人を特定する経過とが交互に場面転換される。否が応にもその盛り上がりには引き込まれざるを得ない。
脚本:倉本聡
(1976年2月)

第9話「解散」
解散

★★
山辰組の幹部・村井哲夫(青木義郎)が潮会の刺客に襲われることから事件が始まる。青木義郎はこのシリーズの説明の中でレギュラーとして紹介されているケースが多いが、実際はこの回に出ているに過ぎない。
元城西署捜査四課の刑事で、11年前に滝川(石原裕次郎)が警察と暴力団の癒着を暴露した記事がもとで刑事を辞めたという過去を持つ。
組の若い衆の自立の資金を得るため、組を売却する決意をするが、やはり後味の悪い結末が待っている。
なお、この回では、直子(篠ヒロコ)が潮会に関してかなりコアな情報を黒岩(渡哲也)に提供する。この物語の最終回に向けての伏線の一つだろう。
脚本:永原秀一
(1976年3月)

第10話「憎しみの夜に」
憎しみの夜に

★★
黒岩刑事(渡哲也)は直子(篠ヒロコ)から、ホステスのみづ江(内田あかり)がヤクザの滑方(曽根将之)に付きまとわれているとの相談を受ける。その滑方が死体で発見される。
直子が、自分が受けた経験と彼女とを重ね合わせて語る場面があり、ラストでも黒岩を前に、その時の自分も同じ憎しみを抱いていたと静かに語る。
黒岩と直子との関係を描くための一つの通過点のようなストーリーで、滝川(石原裕次郎)や黒岩にも、人生を語らせているあたりは、見所でもあるし、ちょっと目障りでもある。
脚本:野上龍雄
(1976年3月)

第11話「大安」
大安

★★★★★
事件は起こらないのに、大日会組長(内田朝雄)が一般人の家にお詫びに回り、それに黒岩刑事(渡哲也)が同行するという話。普通の刑事ドラマではありえない設定・発想。「大都会−闘いの日々−」でしか実現できない。
組長の娘(大関優子:後の佳那晃子)の結婚式が行われるが、招待されるのは一般人のみで、組員は呼ばない。しかし今、関西の潮会系暴力団との抗争は激化している。同じ会場で式を挙げる他の一般市民に危険はないのか。
一般市民と同じ目線でこれを記事にしたのは毎朝新聞の大久保記者(平泉征)。輪をかけて娘当人に直々に取材を敢行する大久保に、組長は静かに怒りを押し殺す。しかし、それをはき違えた舎弟(清水健太郎)が大久保を刺すことで最後に事件が起きることになってしまう。
罪のない家族の結婚式開催の是非、一般人に及ぼす影響、それを記事にするマスコミのあり方。そういった問題提起を含む問題作。
また、この回で、恵子(仁科明子)と九条記者(神田正輝)とが出会うことになる。それから、直子(篠ヒロコ)がかなり入り込んでいないと得られない潮会関連情報を黒岩に提供して来たり、事務員の英子(新井春美)が黒岩に好意を持っている素振りが見えたり、後の伏線となるエピソードもさりげなく差し込まれている。
脚本:倉本聡
(1976年3月)

第12話「女ごころ」
女ごころ

★★
丸山刑事(高品格)が以前に逮捕した女(中尾ミエ)が、夫の木元(森次晃嗣)が拳銃を所持しているため逮捕するようタレこんできた。
一色課長代理(玉川伊佐男)はこの機会に他の組員を拳銃不法所持で次々と逮捕する。しかし、木元が情報源だと組から疑われ、木元は組長を射殺せざるを得なくなる。
深町課長(佐藤慶)は不在だが、深町軍団の暴力団逮捕優先の姿勢が、また人を不幸にしたという話。
脚本:大津皓一
(1976年3月)

第13話「再会」
再会

★★★
大阪の暴力団員・山岡(石橋蓮司)が東京で殺人事件を起こし、大阪府警の三沢刑事(藤岡琢也)が東京にやってくる。三沢刑事は、黒岩刑事(渡哲也)の奈良時代の上司で、恵子(仁科明子)が暴力団に暴行された事件で、黒岩を見守った人でもある。
しかし、深町課長(佐藤慶)は自分たちの手で山岡を逮捕するため、三沢に情報を流さないよう指示。黒岩は上司の指示と三沢に対する恩との間で葛藤する。それを察知した滝川キャップ(石原裕次郎)も両刑事を追って大阪に飛ぶ。
最後は、お互いに心を開きあう場面もあり、少しホッとする終わり方になる。滝川もそれを見届ける。
なお、石橋蓮司は第1話でも犯人役で出演しているが、もちろん、役柄上は別人。
脚本:永原秀一
(1976年3月)

第14話「もう一人の女」
もう一人の女


覚せい剤を密造中に爆発事件が起き、逃走した男を捕まえるため、黒岩刑事(渡哲也)と丸山刑事(高品格)が男の家族が住む神戸に飛ぶ。
また、東洋新聞の日高(寺尾聡)は現場に残されていた粉が麻薬の原料になることを掴むなど、他社をリードする。
脚本:大津皓一、永原秀一
(1976年4月)

第15話「前科者」
前科者

★★★★
前科者に対し、世の中がいかに冷たく、いかに本人や近親者が苦労するのか。
この問題を、前科のある津山(室田日出男)の妻の口から、或いは黒岩刑事(渡哲也)の口から語らせる。
物語は、東南アジア帰りの男から天然痘が持ち込まれ、その男の家から密輸拳銃が発見されるという事件をベースに、津山と男との接触の有無が鍵になるというストーリー。
残念ながら、前科者のレッテルから逃れることに疲れ果てた津山は、妻らの期待を裏切る結果となる。
なお、この回から黒岩刑事(渡哲也)が短髪になり、ハンチングもかぶらなくなる。この先、大都会PartUやPartV、さらには西部警察に続くイメージの基本がここで作られた。
それから、「大安」で刺された毎朝新聞の大久保(平泉征)がこの回で復帰する。暴力団の舎弟に2度刺しされ、死んだとばかり思っていたが、早すぎる復帰だった。
脚本:倉本聡
(1976年4月)

第16話「私生活」
私生活

★★★
殺人事件の被害者に関係していたがために、私生活を晒されるということがあってもいいのか。警察もマスコミも、正義という旗を振りかざして、人の人生を踏みにじる。
この回で深町課長(佐藤慶)は、事件は暴力団関係と決め打ちしながらも、マスコミの目を、被害者を訪問した女教師(いしだあゆみ)に向けさせる。東洋新聞以外はそれに乗せられ、女教師を容疑者であるかのように報道する。
女教師は、この件で教師という職を追われるばかりでなく、プライベートを晒された傷を負う。彼女の最後の台詞「あなた方はいつも正しいんですね」は重い。
しかし、この作品、いしだあゆみの強烈すぎる表情や繰り返し流される挿入歌のインパクトが強すぎて、優れたストーリーが埋もれてしまっているように思える。
脚本:斉藤憐
(1976年4月)

第17話「約束」
約束

★★★★★
亀田興業から借金で脅されている飲み屋に現われた「関西・潮会の若衆頭」と名乗る前島(高橋悦史)をメインにした話で、弱い人間から土地を奪うヤクザとそれに刃向う男を描く。
しかし、しょっぱなから滝川キャップ(石原裕次郎)がヤクザを叩きのめして留置場に入れられたり、前島も結局は虚言癖のある男で、任侠映画のパロディのような立ち回りを演じたり、ユーモア溢れる展開が繰り広げられる。そして、ほろりとさせる結末を迎えるところなど、「大都会−闘いの日々−」では異色の回。
前島を追い続けた九条記者(神田正輝)は、どうして嘘をついたのか疑問を持つが、滝川は「これは男の夢だ」と解説する。
脚本:斉藤憐
(1976年4月)

第18話「少年」
少年

★★★★★
中学生の少年が公園で恵子(仁科明子)の帰りを待ち構えて、自分の詩を読んでほしいと告げる。
この物語をテレビで見たときに同学年だった私にとって、近所にこんな綺麗なお姉さんがいたら、同じようにお近づきになりたいな、などと同一性を感じてしまった好作品。
一方、黒岩刑事(渡哲也)は名門中学校の教師が自殺した事件の裏に、裏口入学を斡旋する暴力団があることを掴む。
この二つの出来事が、実はつながっていて、少年は自分の実力を信じない親に反発し、それを表現した詩を携えていたのであった。
捜査四課が担当する組織暴力の事件の幅の広さと、様々な人間模様の物語を組み合わせる倉本聡の見事な脚本と言うしかない。
脚本:倉本聡
(1976年5月)

第19話「受難」
受難

★★
銀行のコンピューターのミスから不渡りを出した玩具製作所をダシに、銀行をゆする経営コンサルタントを名乗るやくざ。それを匿名で警察に密告した支店長秘書(丘みつ子)。
深町課長(佐藤慶)は、秘書本人に記者会見をさせるよう指示する。
結果的に、事件にかかわった人間はみな不幸になり、後味の悪さだけが残る。
なお、やくざの手下を苅谷俊介が演じているが、彼は最後に玩具製作所の息子に殺される。苅谷はこの後もチンピラ役で出てくるが、ここで殺されているので別人。そして、「大都会PartU」では刑事としてレギュラーになるが、当然ながらこれも別人。そして丘みつ子も「大都会PartU」ではレギュラーになるが、当然別人。
脚本:永原秀一
(1976年5月)

第20話「週末」
週末

★★★
直子(篠ヒロコ)を映したブルーフィルムが熱海の温泉で使われているとの情報を受けて、黒岩刑事(渡哲也)と丸山刑事(高品格)が課長の制止を振り切り、有休を取って熱海に向かう。
城西署記者クラブの慰安旅行と鉢合わせたり、熱海駅で毎朝新聞の松川キャップ(宍戸錠)が女を連れているのを目撃したり、客引き(伴淳三郎)が取り調べを受けて「人間みんなスケベです」などと心の内を吐露したり、温泉街を巡るおふざけを含むサスペンス的色合いもある。
骨格となるこのストーリーは面白いのだが、黒岩と直子が二人で熱海に行くと思い込んでいる恵子(仁科明子)を黒岩が平手打ちしたり、直子が熱海に行っていないことを知った恵子がやたら嬉しそうに買物をしていたり、意味不明な場面もある。さらに最後に、平原刑事(粟津號)の妹が二人の前に現われ、意味深なストップモーションの表現になるのも意味不明。
なお、この回から、サントラの2枚目に収められた音楽の使用が始まる。
脚本:倉本聡
(1976年5月)

第21話「スクープ」
スクープ


「スクープ」という題名から、記者クラブの新聞記者たちが、手に汗を握るスクープ合戦を繰り広げる社会派作品だと期待したが、100%裏切られた。
組から足を洗おうと考えていた幹部(睦五郎)が鉄砲玉の男に撃たれて重傷を負うが、先に東洋新聞が察知し、日高記者(寺尾聡)のアパートにかくまう。スクープというのは、かくまう代償として暴力団の内幕を記事にするという点。
これだけでも非現実的な話だが、最後に男は婚約者の女と逃亡を図り、埋立地のように狙撃されやすい場所にわざわざ逃げて行って、撃たれて死ぬ。安上がりなサスペンスドラマを見るようで、がっかりした。
脚本:永原秀一、峯尾基三
(1976年5月)

第22話「スター」
スター

★★
女性DJで初めての12時間マラソンDJに選抜されたユキ(佐野厚子)には、自分のせいでやくざの世界に足を踏み入れてしまった兄(高橋長英)がいた。そして、兄が組から横領した金で、DJに選抜されたという秘密を持っていた。
ユキと兄の密会を記事にする九条記者(神田正輝)や、ユキを利用して組をゆさぶろうとする深町軍団との間で、二人を救おうとする滝川キャップ(石原裕次郎)の想いは叶わない。
これ以降、クライマックスの場面で多用される「砂漠の落日」と「通り雨」の2曲を効果的に使ったラストには引き込まれる。
脚本:柏原寛司
(1976年6月)

第23話「山谷ブルース」
山谷ブルース

★★
岡林信康の「山谷ブルース」をモチーフに、山谷の安宿で死んだチンピラの遺体引き取りや葬式を巡る暴力団の諍いを描く。死んだ男をかつて殺人の身代わりに仕立てた若衆頭の秋葉(志賀勝)を中心に話は進む。
なぜか秋葉は、自分から遺体を引き取ると申し出るが、葬式を開いて資金源にしようとする組と対峙し、香典をチンピラの母親に届けようと命を張る。
悪役俳優の志賀勝が、信念をもって行動し、瀕死の重傷を負いながら、最後までその意思を完遂するところは、好き嫌いが別れる点かも知れない。私としては、どちらかといえば非現実的な設定なので、不満。
なお、「受難」で殺された役の苅谷俊介が南友会のチンピラとして再出演している。檀喧太も「約束」で亀田興業のチンピラを演じていたか。
脚本:倉本聡
(1976年6月)

第24話「急行十和田2号」
急行十和田2号

★★★★★
家出少女を食い物にした少女売春が暴力団の資金源になっていることを知った九条記者(神田正輝)は、スケコマシのイナケン(川谷拓三)を直接取材する。
イナケンは、早朝に上野駅に着く青森発「急行十和田2号」と相性がいいという。実際に面倒を見ている女性に取材させてほしいという九条に、イナケンは水沢初代(坂口良子)を紹介する。
取材に対し「ビジネスに徹する」と言っていたイナケンは、結局、伊香保温泉に売るつもりだった初代を、高崎駅で逃がしてしまう。もちろん、その代償は自ら払わざるを得なくなる。分かってはいるけれど、悲しい結末。
脚本:金子成人
(1976年6月)

第25話「アバンチュール」
アバンチュール

★★★
滝川キャップ(石原裕次郎)が主役となる異色回。
羽田空港に運び屋が現われるとの情報を得た捜査四課は、急きょ日曜日に空港に張り込むが、家族でモノレールに乗っていた滝川がそれを目撃、運び屋の女(木の実ナナ)を尾行することに成功する。その後、滝川は女が再び運び屋に会うと読んで、一般人を装って、女をドライブに誘う。
「アバンチュール」というのは、女が勤めていたクラブの名前でもあり、滝川と女との逃避行のことでもある。
この回では、滝川の娘2人を含む4人家族が顔を揃える。家ではよきマイホームパパを演じる。その後の非人間的な医者や捜査課長を演じる続編では見られない人間味のある役柄。
脚本:斉藤憐
(1976年6月)

第26話「顔」
顔

★★★
平原刑事(粟津號)の主役回。
自分を脅していたやくざを殺したという女(内藤杏子)の証言と、徐々に判明していく事実との相違点。
女は嘘をついている顔ではないと信じていた平原刑事は、突きつけられた事実を知り、女というものが分からなくなる。「悲しくなくても泣ける。嬉しくなくても笑える」と女は言う。
平原は同郷の女性(四方正美)との結婚を考えていたが、彼女の顔なら信じられると、相手の両親に会うことを決意する。
脚本:永原秀一、峯尾基三
(1976年6月)

第27話「雨だれ」
雨だれ

★★★★
暴力団3人を射殺した組員(柴田p彦)がショットガンを持ったまま団地に逃げ込む。広大な団地を舞台に、警察が機動隊を動員しながら大規模な捜索活動を行うというスケールの大きい話で、地味なシリーズの中ではちょっと珍しい展開。しかしこれはあくまでも物語のとった「スタイル」に過ぎない。
事件の背景には、服役中に妹を売られた組員の怒りがあり、これが黒岩刑事(渡哲也)の妹の過去と重なる。
また、人質となった女性が元夫に昔決めた合図で危機を知らせるところや、ストックホルム症候群など、話の奥は深い。
なので、過去の回想場面で黒岩が今の短髪姿なのはどうしてかなどの揚げ足取りはしないようにしたい。
そういえば、オープニングの黒岩と滝川(石原裕次郎)のカットが一部変更になり、特に裕次郎は「太陽にほえろ」を連想するカッコいいショットになってしまった。
タイトルの「雨だれ」は背景にも流れ続けているが、ショパン作曲の前奏曲。
脚本:倉本聡
(1976年7月)

第28話「不法侵入」
不法侵入

★★★
丸山刑事(高品格)が取り調べる身代わり出頭のチンピラ山崎(大門正明)の事件と、黒岩刑事(渡哲也)が取り調べる麻薬中毒の女(伊佐山ひろ子)の事件とが、並行して別々に進行する。
よくある刑事ドラマでは、ベテラン刑事というのは尊敬される役目を果たすが、このドラマで丸山は「いつから浪花節になったんだろう」「そのために定年というものがあるんだ」などと嘲笑されるところが現実的。それでも本人の口から「人間ってやつは、追い詰めちゃいけないんだ」などと重い言葉が出てくる。
結局、深町課長(佐藤慶)の指示で、丸山が山崎の両親を呼び出したことから、父親(下條正巳)が自殺し、事件は暗転する。
深町課長の冷酷な判断で人が不幸になるという「大都会−闘いの日々−」らしい話なのだが、最後に山崎がライフルを持って城西署に乗り込んできて立て籠もるというところは、後のPartU以降をイメージする派手な展開で、違和感を感じてしまった。
脚本:斉藤憐
(1976年7月)

第29話「恵子」
恵子

★★★★
最終回3部作とでも言おうか、黒岩刑事(渡哲也)の妹・恵子(仁科明子)と九条記者(神田正輝)との別れを描く回。
九条記者はいいところの坊ちゃんなので、恵子と結婚した後はどうしてもマンションに住みたいらしい。そんな九条の母親は、興信所に依頼し、恵子の過去を調査する。その結果、九条は、恵子が過去に暴力団に乱暴されたことを知ってしまう。
滝川キャップ(石原裕次郎)に、それを知ったことを恵子に話してはいけない、と言われていたにもかかわらず、九条は「何でも知ってるよ」と口走ってしまう。
翌朝、恵子は公衆電話で九条に別れを告げる。
脚本:倉本聡
(1976年7月)

第30話「縁談」
縁談

★★★★★
黒岩刑事(渡哲也)は、事務員の英子(新井春美)から好意を寄せられており、丸山刑事(高品格)を通じ、縁談を持ちかけられる。
直子(篠ヒロコ)に想いを寄せる黒岩は、飲んだ帰り道で直子に結婚を申し込む。エレベーターの中で「結婚してくれ。あんたしかいないんだ」と言った後、ドアが閉まる直前に出て行くプロポーズは、当時中学生だった私に大きな影響を与えた。しばらくの間、エレベーターを降りるときは、自分で「閉」ボタンを押してさっと出て行く「カッコいい行動」を実践したのも想い出・・・というか今でも時々やっている・・・。
一方、直子は自分が撮られた8mmフィルムを、大物フィクサー桂木俊二郎(山内明)を通じて取り戻すことができ、改めて彼らとの関係を絶ち、黒岩との結婚に向けて舵を切る。
ラストで、ホテルを張り込んでいた黒岩は、桂木が定期的に会っている情婦が直子であることを知ってしまう。
脚本:倉本聡
(1976年7月)

第31話「別れ」
別れ

★★★★★
最終回。直子(篠ヒロコ)の結末。
桂木(山内明)との関係を絶ち、黒岩(渡哲也)との結婚に舵を切った直子だった。
しかし、深町課長(佐藤慶)が・・・。
結局、直子は桂木との関係を続けざるを得なくなる。そのことが、黒岩との関係をも引き裂くことになる。
羽田空港の公衆電話で直子は最後の別れを黒岩に告げる。「さっきまで」黒岩と幸せに暮らすはずだった。それをぶち壊したのは、深町課長なのか。それとも、知らぬふりを貫けなかった黒岩自身なのか。やりきれない最終回になってしまった。
最後にたばこを吸いながら振り返る黒岩の姿に、また、何か新しい物語が始まる期待をもたせながら、半年間の物語は幕を下ろす。
脚本:倉本聡
(1976年8月)

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