制作プロセス U


このページではプロセスTのアルトクラリネットの制作と同時進行の「クラリネットのある静物」制作のプロセスを掲載しています。


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プロセスT同様このクラリネットも生徒さんの持ち物でかなり高価(ン十万円)な楽器で、ふだんから使用頻度が高く取り扱いも難しそうなので実物を前に描けるのは3時間程度ということでデッサンさせていただきながらデジカメ写真に頼っての描写となりました。
30号変形キャンバスに譜面、ガマ、ホーローのポットと組み合わせて構図を作りました。
楽譜は直接定規を当てて線を引くようなことはしない方がいいでしょう。できるだけフリーハンドに近い形で5線を引きます。私の場合は腕鎮を使用し線を引きます。以後、絵の具で線を引きくのもこの方法で行います。


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先にバックバーントシェンナ・白・モノクロームウォーム・ジョンブリアンを塗り、続いてクラリネットの管体(筒の部分)バーントアンバーを塗ります。最後に楽譜の5線を腕鎮に頼りながら引いていきます。
数日乾燥させます。


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バックに光の筋を入れます。使用する色は茶色と青(ウルトラマリン)。茶色はバーントアンバーとローシェンナでキャンバス上で混色しながらテレピンで「おつゆ描き(溶き油を多めに)」。その上から一部にウルトラマリンを塗り深みのある緑色を出しました。
その後数日乾燥させます。



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バックの光の筋をはっきりさせるためにモノクロームウォームと白、ジョンブリアンを薄く塗り拡げます。その際バックとモティーフが同じ空間にあることを意識しながらモティーフにもバックの色を少し乗せます。こうしないとバックからモティーフだけが不自然に浮き上がってしまい、一つの空間にまとまらなくなってしまいます。
これをやっておくのとやらないのとでは後々大きな影響が出てきてしまうのではないかと思います。のちの作業でもこのことを意識し続けることが大切だと思います。


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6 の乾燥後キーなどの金属部分を塗っていきます。非常に細かい作業なので腕鎮のお世話になります。クラリネットなどの木管楽器の機能美に魅せられる部分なので慎重に描いていきたいところです。しかし写真のように描く必要はありません。とりあえず2色。白とインディゴだけで3段階の明暗だけで描いていきます。簡単にいえば白、灰色、黒の3段階で塗り分けていけばいいと思います。
難しいのは灰色の明暗の微妙な段階ですが、実物(私の場合は写真でしたが)の微妙な反射の具合にとらわれると明暗の段階が全く分からなくなってしまうので少し遠めに見て黒く反射した部分と白く反射した部分以外は中間の灰色を一段階だけ作っておく(今回は白とインディゴで灰色を作りましたが)ことで金属的な輝きをある程度表現できるのではないかと思います。塗る対象が大きなものであればもっと細かくする必要もあるかもしれませんが、これだけ細かい構造のものが対象となるといくつもの段階の灰色を塗り分けるのは大変です。とりあえず灰色は一段階で十分だと思います。
余った白をおつゆ描きで白いポットに塗り重ねておきます。そうすることでポットとクラリネットの空間関係を近いものに保っておくことができます。

7・8・9まで

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塗り終わったら数日乾燥させます。

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管体の部分に2度目の塗り重ねを行います。10   
バックの影の部分は一旦明るい色で塗り重ね、後(仕上がりに近くなった段階で)再び陰影を薄く塗り重ねていきます。陰影は茶色や青を塗り重ね深みのある色にしたいと思っています。11
このあと一日以上乾燥させます

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楽譜の部分をマスキングをしながら壁の部分より少し明るい色で塗り広げます。12
ホーローのポットを形が分かるように薄く塗り拡げます。13

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 7 で塗った金属部分の反射した部分を薄い白で塗り足します。14
蒲の形が消えかけていたので形が分かる程度に少し塗り足します。全体的にこれくらいの調子でいいかなと思うところで一旦乾燥させます。15

遠目に見るとクラリネットがかなり仕上がってきているように見えますが、まだ、何度か塗り重ねが必要です。
大体この段階で3分の1くらいの仕上がりといえるかもしれません。気が変わらなければの話ですが・・・ 15

これ以降はスタンドオイルとテレピンを混ぜた溶き油で塗り重ねを繰り返していく作業が増えていきます。

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細かい部分の塗り重ね作業。いっぺんに仕上げることができない性格なのか少しずつ塗り重ねを繰り返します。今回は楽譜の五線と音符、ポットの陰影、クラリネットの金属部分、ガマの茎を塗り重ねます。16,17,18,19 ちなみに17の画像は無くてもよかったのですが・・・

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18部分画像 19全体画像
五線譜とポットの陰影はインディゴとモノクロームウォームを混ぜた物を塗っています。五線譜は少し濃いめにポットの陰影は同じ色を溶き油で薄く溶いて塗り拡げます。また、クラリネットの金属部分にも同じ色を少し塗り重ねながら陰影をつけます。こうすることで同じ空間に存在するモティーフの関係性を保てるのではないかと思います。
なお、ポットの陰影は薄く塗り拡げながらグラデーションをかけるためにウェスで拭き取ったりの「塗っては拭き取り」を繰り返すことも時には必要になります。

全体的に画面が落ち着いてきたような気がします。
これで、再び乾燥を待つことにします。
約4時間

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22

20.21,22
ポットの明部と蒲に色を塗り重ねる作業を行いました。時間の関係で今回はこの作業だけを行い終了。

約3時間

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23,24
ポットの部分の明暗を塗り重ねました。左側の明部を白で、中心部をジョンブリアンで薄く塗り重ね、影の部分までグラデーションをかけるような感じで塗り重ねました。今の段階でポットの質感をどうするべきか迷っているところです。バックの楽譜に陰影をつけたかったので多少紙の質感が出てしまうのではないかと思い、ポットの質感をどうするかが考えどころ。この絵はクラリネットを見せたいために描いたものなので他の物の存在感をあまり強めたくないという思いがあります。
蒲の穂も形と陰影だけで処理することを考えてポットの質感もあまり出す必要はないのではないかと思っています。今後バックをはじめ楽譜、蒲の穂、ポットと段階的にバックの色を少しずつ塗り重ねていく予定。
再度クラリネットの細部を描きこみました。写真では分かりにくいかもしれませんが、クラリネットの管体(木質部)に薄く紫を塗り重ね、一晩乾燥を待ち、金属部分の細部を塗り重ねました。
クラリネットの金属部分は細かいために塗り重ねの進み具合が写真で見た感じでは画像11とあまり変わらないように見えますが、少しずつ変化してきています。
制作プロセスTのアルトクラリネットの金属部分はどちらかというと冷たい色合いですが、制作プロセスUのこのクラリネットの金属部分には少し暖色(ジョンブリアンやローシェンナを塗り、暖かい色合いにしてあります。これは仕上げまでこの暖かさを保っていくつもり。

約4時間

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バックの処理を行っています。壁の影の部分と光のあたっている部分の明暗をもう少しはっきりさせるつもりで。これにより譜面と蒲、ポットをもう一度塗りなおさなければならなくなりました。

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引き続きバックの処理。さんざん迷いましたが、バックはこんな感じで行こうと思います。影の部分にはオリーブグリーン。光のあたっている壁の部分には白とモノクロームウォームを基調にオレンジやローズ、青などをわずかに加え微妙な色の変化を出しています(画像では分かりにくい)。キャンバス地の処理をもう少しきちんとしておけばよかったと少し後悔しているところです。

ペインティングオイルを混ぜた絵の具を筆で塗ったり、ウェスでたたいたり、時間がかかります。
できるだけ筆の跡は残さないように注意を払いました。

約4時間

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26の乾燥を待って細部を描きこみました。チマチマとほぼ一日かけて細かい作業でした。バックに始まり楽譜、ガマ、ポット、クラリネットとほぼすべての仕上げ段階に入っています。楽譜は壁に溶け込むような感じにしてあります。蒲の存在感もあまり出過ぎないよう明暗だけで処理し、ポットの白さを浮き立たせた上で主役のクラリネットを前面に押し出そうと思います。
約5時間

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細部の調子を整える。クラリネット下部の明部が飛び出し過ぎている部分やポットの陰の部分にオリーブグリーンを薄く重ね調子を整えます。また、ガマの穂を少しだけはっきりとした形に。
約1時間