こんなかんじで張ってます。この張り方が個人的に現段階のベストだと思っていますが、よりベターを求めて予告なしに張り方は小さな変更を随時行っています。 | ||
全 体 的 な 流 れ (一般的なフレームで1本張りの場合) |
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1 | お客様からお預かり | グロメットの劣化状況、フレームにクラックなどがないか確認して汚れを落とします。 初めてのお客様の場合は、現在のセッティングの感想、使用環境などお聞きして、こちらからもセッティングを提案させていただきます。 |
2 | マシンにセット | プロファイルアームとビリヤードの6点で固定します。 きつく絞めることはありません。意外と軽い力で固定しています。 |
3 | 縦糸から張っていきます | ご指定がないかぎり1本張りです。センターから均等に左右に張っていきます。 |
4 | 横糸に移ります | テンションロスが発生しないように作業します。ストリングに傷がつかないように注意。 |
5 | タイオフ | 上のノットを作ったあとに残りの横糸を張り、下のノットを作ります。 |
6 | 最終仕上げ | オウルでストリングの目をきれいに揃えます。 |
7 | テンションラベルを貼ります | 日時、ストリングの品名、テンションを記載したテンションラベルを貼ります。 |
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1、お客様からお預かり お預かりする際にフレームの状態を確認します。 フレームにクラックが入っていないか、グロメットが割れてストリングがフレームに食い込んでいないかなど確認します。 ゴム系の素材が一部に使用されているグロメットは経年劣化で、作業中に破損したり、とれてしまうこともあるので、その旨をお知らせして事前に了承していただくこともあります。 |
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グロメットは4時、8時周辺のストリングの角度がついている箇所が破損しやすく、ストリングがフレームに直接食い込んだ状態になっていることもあります。そのような場合はナイロンチューブなどを使って補修します。チューブが入らないところはグロメットを加工させていただきピングロメットを挿入します。 | |
ピングロメットとチューブ グロメットグラインダー |
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ラケットの先端を軽く手でたたいて、異音がでるならバットキャップのトラブルの可能性か内部のカーボンのバリがとれていることが多いのでチェックします。バットキャップのフタが外せる構造のときは異物を取り除きます。フタが外せない構造のときはグロメットのサイドを少し抜いてそこから取り除きます。 それからバンパーガードに小石や砂が挟まっているときはオウルで取り除きます。 よく絞ったタオルで清掃します。落ちにくい汚れはアルコールを使って艶が落ちない程度に汚れを落とします。 それからノットを作るグロメットの穴が広がりすぎていないかチェック。広がりすぎている場合は、ノットを作る際にひと工夫します。 一部の伸びやすいストリングの場合はマシンでプレストレッチの設定をします。 たとえば5%の設定だと、50lbs.の場合+5%の52.5lbs.に到達するまで張力をかけ、すぐに50lbs.に下がるというものです。これをやっておくと初期緩みが抑えられテンション維持が伸びて快適に使える期間が続きます。 |
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道具は主に以下の道具を使います。 ・スターティングクランプ・・・2本あったほうがよいです ・ニッパー・・・コンパクトで切れ味のよいもの。 ・シザース・・・フレームに張ってあるストリングをスピーディに切ります。これは便利。 ・セッティングオフオウル・・・仕上げに使います。滑り止めにオーバーグリップを巻いています。 ・リペアプライヤー・・・ノットを作ったりストリングを引くときに使います。てこの原理を利用した本来の使用方法をする人はほとんどいないと思います。 ・カーブドプライヤー・・・穴に通しにくいときに使用。便利です。 ・90mmオウル・・・グロメットの穴を少し拡げるときに。 ・ストリングメーター・・・張り上げたラケットの1本1本のテンションを測定します。テンションが測定出来るわけではありません。測定値は相対的な数値として捉えるしかないので、正確性を確認するために1本のラケットの中のストリング1本1本のデータをとるときに使用したり、まったく同じ条件で張り上げた複数のラケットの比較に使いますがめったに使いません。ストリングにダメージが入るのでこれをお客様のラケットに使用することはありません。 ・キャリブレーター・・・マシンが正確にテンションを出しているか定期的にチェックします。 ・マイクロメーター・・・ストリングの直径を測定します。ロットで変わったりもするので。 ・歯ブラシ・・・主にクランプの清掃に。 ※たまたまBABOLATの工具が多いですが、GOSENの工具も性能がよく安価でおすすめです。YONEXもけっこうこだわって工具を作っていますね。ホームセンターや工具専門店でも納得のいくものが手に入ります。 |
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2、マシンにセット よい仕上がりを実現するために心がけていることは、作業はゆっくりと行い集中力をキープすることだと思います。忙しい時でも作業のペースは変えないようにしています。 BABOLATのストリンギングマシン「SENSOR」はラケットをプロファイルアームとビリヤードの6点で固定するようになっています。このマシンはラケットの固定の精度が高く安心して作業できますが、ラケットはストリングを張ると必ず変形するので、固定する際は締め過ぎないよう調整には気を使います。 閉めすぎるとラケットの横幅が縮み、スウィートスポットが狭く感じたりするので圧力に気を使いながら固定します。フレームのトップには必ず保護のためアタッチメントを追加します。 ちなみにこのマシンの最大の特徴は、ストリングにテンションをかけた際に生じるロスを検知するセンサーがひじょうに優秀で、常に高精度なテンションで張り上げれることです。といっても作業の半分以上は人間の知識、テクニックで差が出るので、高性能なマシンだからといって初心者でも正確な張り上げが出来るとは限りません。 あと、すべてやっているわけではありませんが、張り上げ前後のラケットの縦横の長さを計測してデータとして残し、参考にするようにしています。忙しいときはやっていませんが。 セットが終わったら、ストリングをパッケージから出して、もつれないようクルクルまわしながら解きます。その後、必要な長さだけ計測して不要な部分をカットします。 必要最小限の長さで作業することでクロスストリングを編み込んでいくときにメインストリングにかかるダメージを軽減できます。 それから、冬場の話ですが作業を始める前に室温を確認したほうがいいでしょう。 室温が低く、ストリング自体の温度が低いとテンションロスが発生しやすく目標テンションに到達しにくいです。冬場はエアコンのタイマーで開店の1時間前から室温を上げておきます。 |
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3、縦糸(メインストリング)から張っていきます まず最初に。この張り方はBABOLATのマシン 「SENSOR」を使用した場合の張り方です。バネ式、分銅式、低価格の電動式マシンでは、細部にわたり異なる張り方をします。また、細かい作業や工夫については省略してしております。いちおう企業秘密ということでm(_ _)m スタート時のマシンクランプとスターティングクランプは通常は写真の位置です。 まずメインストリングをセンターから左右へ均等に張り上げていきます。 最初にストリングをフレームの4+3/4〜5.5本分ぐらいの長さ(ラケットの種類により変わります)だけ計り、スタート地点にセットします。短いほうをショートサイド、逆をロングサイドと呼びます。 ショートサイドはメインの半分とクロスストリングの下から2〜4本分(ラケットの種類により変わります)になり、ロングサイドは同じくメインの半分とクロスの残りになります。 メインのセンター8本分の作業は、とくにゆっくり慎重に行いしっかりテンションをかけるようにしています。 クランプで固定と開放を繰り返して縦糸を張っていくわけですが、固定する場所は常にフレームの直近です。グロメットにかるくさわるぐらい。常にフレームに近いところで固定したほうが誤差を抑えられ、指定のテンションに近づけます。 メイン作業時でもっとも気を使うのがクランプの滑りです。 プリングヘッドでストリングを挟んで引き、クランプでストリングを固定したあとに張力を開放していくわけですが、このときクランプで挟んだストリングが1ミリずれるだけでテンションが大きく緩んでしまいます。 挟む力が強すぎると、その部分が切れてしまう可能性がかなり高まります。なので絶対に滑らないギリギリの力で挟むことが重要です。これはいろんなストリングを何百本も張って経験を積むしかありません。 やわらかいマルチフィラメントや滑りやすいコーティングのストリング、高いテンションのときは要注意です。 毎日マシンを清掃しますが、こういうストリングのとき再度クランプをアルコールで清掃してから作業をはじめることもあります。 マシンと道具は毎日、クリーニングします。クランプの根元をロックするクランプホルダーが滑らないようにターンテーブルもアルコールで清掃します。重要な作業です。 ポリは角切れしやすいのでトップ部周辺のストリング固定と圧力調整はとくに慎重に行います。 縦糸はダイレクトに張力がかかっているので最後まで慎重に張っていきます。(横糸で気を抜いているわけではありません) 縦糸は指定したテンションが簡単に出せると思われるかもしれませんが、私はメインはすごく難しいと思っています。 どんなマシンでもクランプのレール部の構造上の特性で、かならず決まったパターンの張力の僅かなばらつきが発生します。そしてラケットの種類によってメインストリング16本の中のロスのばらつきが違います。これらの状況を理解して解消することが必要です。 いくら高価なマシンを使用しても、各ラケットの構造とマシンのクセを理解しておかないと目標のテンションには近づけないでしょう。 また、メインストリングはテンションロスが少ないと思われがちですが、グロメットを岐点に約180度の角度でテンションをかけるのでグロメットとの摩擦で指定のテンションに到達していません。 とくに、フレームからプリングヘッドまで角度をつけて張力をかける場合は明らかにロスがでています。こういう部分は指でかるく圧力をかけて指定のテンションに近づけてやります。こうする事で張り上がり後、大きくストリングが緩むことを防げます。 圧力が強すぎるとその部分だけ高くなってしまうので、こればかりは何度も練習してデータをとりながらマスターするしかないですね。 新しいラケットはこの角度がある部分のグロメットが抜けやすいのでしっかり指で押さえながらテンションをかけます。グロメットが抜けるとストリングが直接フレームに当たってしまい、フレームの陥没やストリングの切断につながります。 新品のラケットはグロメットがしっかり奥まで入っていないことがよくあります。張る前にオウルなどを使ってしっかりと押し込んでおくとトラブルが防げます。新品グロメットに換装後は馴染んでからの緩みを想定して0.5lbsアップで張ります。 縦糸のいちばん端のテンションは横糸に移る際に緩みが発生するので、うちでは約10%アップしています。テンション、ガットの種類で数値は変更します。 ロングサイドを横糸に移す前にショートサイドはいったんスターティングクランプで留めておきます。 ストリングガイドがあるラケットはガイドを使うことでストリングの負荷を減らします。見た目もきれいですね。塞がれたホールにナチュラル、ナイロンマルチを通すときは慎重にゆっくり通します。 |
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4、横糸(クロスストリング)に移ります 横糸にテンションをかけているときにオウルで圧力と振動を加えてやり(ストレッチ)、摩擦抵抗によるロスを取り除きます。 1本ずつ出来るだけストリングが直線になるように揃えながら張り上げます。こうする事で張り上がり後にストリングが緩むことを防げます。コンスタントプル方式の電動マシンの性能が発揮できるポイントです。 このときストリングの交差する部分の負荷を少なくするためオウルの角度はほぼ直角に軽く侵入させ、手の力の大半は横方向に加えます。 ストリングの種類、ゲージなどにより力加減の調整をしますが必要以上のストレッチをかけると指定したテンションより硬くなってしまったり、フェイスの横幅が変形して打球感が変わってしまうこともあるので、ここは経験が必要です。 また横糸が緩いと振動の原因にもなるので、これをしっかりやっておくとクリアな打球感になります。太目のストリング、摩擦抵抗の大きいストリングはここをより丁寧に時間をかけたほうがいいでしょう。 多角形ポリストリングを通していくときは、ダメージが入らないようゆっくり通して圧力が強いポイントは工程を分けて通していくようにします。 横糸を通していく際にはプレレーシングといって、テンションをかける糸の次の糸を先に通しておきます。ストリング同士の摩擦を抑え、ストリング内部やコーティングにかかる負荷を軽減します。 ちなみにご指定がないかぎり横糸のテンションは縦と同じ(デュアルテンション)です。 個人的な見解ですが、横糸を落とすと変形を防げて、よく飛ぶようになると考えておられる方が多いですが、最近の剛性の高いラケットは変形はあまり気にしなくてよいと考えます。 軽量のデカラケは注意が必要ですが、よいマシンはラケットを固定するアームもよくできているので、最初の固定をちゃんとやっておけば問題ありません。 2000年以前ぐらいのヨネックスのラケットやデカラケは横糸を2,3lbs落とさないと、フレームの横幅が若干狭くなり、スウィートスポットが狭く感じることがありましたが、最近のヨネックスは変形に強くなっているので縦横同一テンションで張上げています。 上側の横糸が残り5,6本となったところで再度必要な長さを計測して余丁分を切ります。わずかですがスポット上部のメインストリングに与える摩擦の負荷を軽減することが出来ます。 |
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5、タイオフ ノットを作る前の横糸の張力は必ず大幅に緩むので、ノットポイントはストリングの種類、ラケットの構造を考えて3〜7lbsぐらいテンションを上げています。 ノットを作る穴に通してから1度テンションをかけるなどの工夫をしてもいいと思います。ポリ系ストリングではしっかりやらないと確実に緩みます。ノットを作るときの手で引く力加減も注意して下さい。硬めのストリングは破断してしまうこともありますし、柔らかいストリングは緩みが発生してしまうこともあります。 ノットを締めながらクランプを開放してグロメット内部に食い込むのを防止します。カットするときは先端が尖らないようにカットしつつニッパーの先端で塗装を傷つけないように。 余談ですが、ラケットによってはクロスストリングの最後のホールからノットポイントまで不自然に離れていることがよくあります。緩んでロスの原因になりますし、なぜ改善しないのか不思議でなりません。個人的に気になるラケットはけっこうあります。 通常のシンセティックに使用するエイトノットです。 パーネルノットもグロメットへのダメージが少ないのでどちらでもいいと思いますが個人的には、エイトノットのほうがしっかり締まっている印象があるので、エイトノットを使用しています。 グロメットホールが大きくなっていてノットが入り込んでしまいそうなときはナチュラルストリングの切れ端を挟んでいます。結び方の種類を変更するよりこのほうが緩み、ダメージも少ないと考えています。 他にナチュラルに使うダブルノット、極細ストリングに使うフィッシャーマンズノットがあります。ポリは、短めにカットします。ナチュラルのダブルノットにはほつれ防止のために、BABOLATの専用接着剤を塗ってフィニッシュします。 |
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6、最終仕上げ これで張り終わったわけですが格子状のストリングは少し歪んでいます。 オウルを使ってまっすぐにしてやります。張り上げ直後にやらないときれいになりません。柔らかいストリングは作業の途中でクセがついてしまうので作業途中で直しながらストリングの動きを予測しながらクランプを固定していきます。 |
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7、おわり ラケットをマシンから外し、ストリングがまっすぐになっているかチェック。スウィートスポットとその周辺を手でたたいて異音チェック。 そのあとにスロートの内側にテンションラベルを貼ります。これで完成です。 意外と思われるかもしれませんがけっこう肉体労働なんです。 張り替えが多い日は疲れが全身に、とくに目にきます。 ナチュラルストリングの場合は撚りがもどらないように各工程を慎重に行うので通常のシンセティックストリングより少し時間がかかります。1つの工程を2段階に分けて行うなどの工夫が必要です。マシン設定変更と張力をかける時間を長めにしています。 ポリ系ストリングもキンク(折れ目)ができないように注意しながら張っていき、マシンでプレストレッチの設定もすることもあります。目が細かいラケットにポリを張るのは時間がかかります。横糸がきちんと張れてるか確認しながら進めていきます。 |
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『通常の1本張り以外の張り方』 ZIP'Sではご指定がないかぎり1本張りです。メインの最後がボトムにくれば横糸のスタートはボトムから、ヘッドで終わればヘッドからスタートします。その他では、 アラウンド・ザ・ワールド(何種類かあります) これは変形に弱いラケットに使用します。1本張りで縦糸の最後1本づつを残し最後に残りの糸を1周させるという手法です。横糸を上から下に向けて張っていきます。横糸のテンションを少しずつ落としてやるのが主流のようですが、ストリンガーにより微妙に工程が違いますね。 うちで行うときはBABOLATのオフィシャルが使用する張り方とほぼ同じです。作業時の変形量が少なくフレームに対する負荷を軽減する効果もありますが現代の高性能ラケットにはほとんど必要ないかなと思っています。2本の同じラケットを普通の張り方と、この張り方で張り、変形の過程や打球感の違いなどを何度かテストしましたが、違いはほぼありません。 うちでこれを使用するラケットはごく一部です。スウィートスポットがやや上にできるのも特徴ですが、かなり敏感な人でないとわからないと思います。少しだけ手間がかかりますが、フレームへの負荷がわずかに少ないのは間違いないです。 2本張り 最近はハイブリッドタイプが多く、よく使います。横糸は上から張ります。まったく同じ条件で下から張ったラケットと打ち比べましたが、ほとんどの人がその打球感の差はわからないので負荷が少ないと思われる上から張っています。 緩みの原因になる結び目が4ケ所できるので、縦糸の結びはとくに緩みが出ないよう慎重な作業と工夫する必要があります。 最近では、J’sボックスという張り方も公表されています。ツアーでも使用されてますね。 数回やってみましたが、あまりメリットはないような。。。これは保留です。 |
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