「阪神・淡路大震災10周年地震工学シンポジュウムの要旨 2005.01.17
戦後災害史上未曾有の大震災から10年,まだまだまだら模様ではあるが神戸の町は徐々に復興されつつあると言われている。
いっぽう何時起きても不思議ではないといわれている首都圏直下地震に対して,過去の大震災から何を学び,どのように備えてきたか。過去の教訓は十分に生かされているかなどを検証しようというシンポジュウムを聴いてきたのでその要旨・感想などを記す。
於:早稲田大学国際会議場井深大記念ホール
期日:2005.1.11
主催:日本地震工学会,日本地震学会,土木学会,地盤工学会,日本建築学会,日本機械学会,震災予防協会
後援:内閣府,文部科学省,国土交通省,消防庁,気象庁,東京都,兵庫県
特別講演
1.「震災による人間再発見」 藤本義一
独特の語り口で,ご自身の体験を50分間にわたって話された。そのうちの示唆に富む話をまとめて以下に記す。
人と人のふれあいが大切である。とくに家族が一緒にいるっていうことは有難い。 | |
生と死とは隣り合わせ!一瞬の判断,数秒の差,数センチの差で天国と地獄に分かれる。 | |
マンション住まいでは,地震の際は先ずドアーを解放することが肝要。出られなくなる,下の階で火災が発生したらどうなるか考えてみただけで恐ろしい。 | |
震災当日は午前3時ごろまで原稿書きをやって寝入って3時間ほどの時であったが,最初の縦ユレでは身体がベッドから50cmも跳び上がるくらいの突き上げであった。皆さん信じられないだろうが本当の話だ。 | |
動物が地震を予知すると言うのは信じられる。(野良犬が10頭ほど連なって東の方向に逃げていった。飼い犬が大の字になって寝そべりながら唸るなどの異常行動があった) | |
「震災10周年」というのはおかしい 周年という語は人間が行ったことに対する言葉で自然現象に用いるのは馴染まない。 (わたしのコメント:わたしも「なんか変だぞ!」と,ちょっとひっかかる感じがしていたんだが,やっぱりそうなんだ。周年という言葉には”なにかを祝う”と言うニューアンスがある,災害に使うのは当を得ていないよまったく。頭のよい学者先生達,一本とられたね!) |
2.「危機に備える」 東京都危機管理監 中村 正彦
首都直下地震の被害想定と東京都防災計画の説明
防災計画として
@ 地震に強い都市造り
防災ネットワーク,木造密集地域の安全化
A 構造物の安全化
ライフライン,建築物の耐震不燃化
B 災害に強い社会造り
などの説明がなされた。(わたしのコメント:いずれもお題目だけ具体的には零に等しい)
パネルディスカッション
テーマ:首都圏直下地震に対する備え
昨年12月に発表された内閣府中央防災会議による「首都直下地震の被害想定」の概要(全文は首都直下地震対策専門調査会(第13回)事務局説明資料参照)が司会者より説明され,これをたたき台として地震・地震動,建築,火災,ライフライン,情報の専門家によって,
○ 巨大地震が首都を襲った時に何が起きるのか? | |
○ 備えはどの程度できているのか? | |
○ 阪神・淡路大震災や新潟中越地震の教訓が生かされているか? | |
○ 首都圏直下地震特有の被害はどういうものか? | |
○ 残された課題はなにか? |
などについて意見が述べられ議論された。
注目すべき主な意見などをまとめると
被害想定は最悪条件(風速15mの北風が吹く冬の午後6時,東京新宿の地下で,マグニチュード6.9)での想定であるが,仮定条件は適切である。ただし時間帯による影響が大きい。また火災に対する考え方が甘い。 | ||
被害は環七と環六に挟まれた木造密集地域に集中する。 | ||
被害想定は不確実性が大きい。 | ||
阪神では早朝にも拘らず多数の火災が発生した。 原因:古いガス管→破断→ガス漏洩→電力回復時の通電火災。 通電時のスパーク現象は技術的に避けられない。 |
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震度6強より7の方が火事の延焼が少なくなる。ペシャンコに潰れてしまったほうが火の手が回りにくい。 (わたしのコメント:内閣府の被害想定とは異なった見解だが,こちらの方が真実に近いのかもしれない) |
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ライフラインの復旧は電気(通信)→ 水道 →ガスの順(水道は水漏れ覚悟で通水できるがガスはガス漏れ箇所を完全に止めてからでない送れない) |
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ライフラインが何故被害を受けやすいか | ||
管路→1kmの延長中継ぎ目が250箇所,1箇所の破壊確率pが1%とすると全体の破壊確率は 1−(1−p)250=0.919 すなわち92%の確率で破壊する。1箇所でも破損すれば全体が破壊したことになる。 | ||
不適格住宅の耐震改修について | ||
☆ 首都圏には81年6月以前に建てられた旧耐震基準の住宅が560万戸ある。 | ||
☆ 耐震改修は年に1%しか進んでいない,現状ではあと40年かかる,その間に新たに老朽化が進む戸数も増える。 (わたしのコメント:1%/年という値は,自然建て替え率と大差無いんじゃないのか,ということは意識的耐震改修は殆どなされていないと言うことになる) |
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☆ 住民にインセンティブを与える施策が必要。(税法上,地震保険上の免責・・・・) | ||
☆ 対象建物にマッチしない耐震補強工法を薦める業者もいる。 (わたしのコメント:そんなこと素人には分からないじゃないか!もっと啓蒙すべきじゃないの) |
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東京湾での津波被害は考えられていない。高さ5mの防潮堤あり,ただし耐震性には疑問あり。地震動で破壊された後に津波が来襲したらどうなるの? | ||
予想外の事態(進化する災害,新しい災害) | ||
☆ ヘリコプターが数百機飛び交う→管制システム無し,報道ヘリの低空飛行→救助活動に障害,二次災害発生の恐れ大。 * 公的機関で撮った映像は,すべて提供するので報道ヘリは自粛して欲しいと申し入れているが「報道規制だ!」と言って合意してくれていない。 |
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☆ 中高層マンション火災 | ||
☆ 地下街火災 | ||
☆ 危険物施設(石油タンク,LNGタンクなど)の火災 | ||
☆ 超高層,巨大吊橋の被害,免震構造ビル(長周期震動共振) | ||
防災対策 | ||
自助,共助,公助 | ||
ひとり一人が当事者意識を持つ 自分を救う→社会を救う |
わたしの感想:
とくに新しい知見はなかった。
首都直下地震が起きたら,神戸をはるかに超える大災害となるだろう。
被害予想は阪神大震災を教訓として格段に進んだが肝心の対策はほとんどできていないと言っても過言ではない。
後日,新聞記事で見たのだが
地域の防災拠点の6割を占める学校施設(公立の小中学校の校舎・体育館など約13万棟)ですら,阪神大震災級の大地震に耐えられない建物が約半数もあるという。建物の耐震化改修が進んでいない事態には唖然とする。
わが家は木造住宅密集地域,消防車が入れないような狭い道路がごまんとある地域の一角に建っている,おまけに隣地には火災の延焼を勢づかせるガソリンタンクをかかえた車がいっぱいの駐車場。いくら自分の所だけ地盤補強もした耐震性の高いコンクリート住宅であっても自助努力だけでは限界である。
地震発生が,被害の小さくなる季節・時間・気象条件の時であるよう”天佑”に期待するのみ!
また, 「住宅は個人の資産,資産回復に個人補償は出来ない」とする国の一貫した姿勢にも大いに疑問を感じる。
『参考資料』
(1)首都直下地震の被害想定(2004.12.15 内閣府中央防災会議発表)の概要
(毎日新聞 2004年12月15日 より)
◆阪神大震災より被害甚大 緊急対策迫られる
最悪で死者約1万2000人、全壊約85万棟−−。国が初めてまとめた首都直下地震の被害想定は近い将来、首都圏が阪神大震災をはるかに上回る甚大な被害に見舞われる危険性を示した。特に、老朽化した木造住宅の密集地で建物倒壊、火災が多発して被害を拡大すると予測される。首都直下の地震は切迫性が指摘されており、緊急に対策を迫られそうだ。【中村牧生、仲村隆】
◆老朽住宅密集地で倒壊、火災が多発
「国費を出してでも、老朽化した木造住宅の建て替えや改修を促進しない限り、甚大な被害は避けられない」。
会見した「首都直下地震対策専門調査会」座長の伊藤滋・東京大名誉教授(都市防災論)は、被害を減らすために国が本腰で対策に入る必要性を強調した。建物の不燃化のほか、住民による初期消火の徹底や逃げ遅れとなりやすい高齢者などの救助体制の充実が求められるという。
焼失棟数が最大になる東京湾北部を震源とするM7.3の地震。冬の午後6時に15メートルの風が吹く中で発生すると、老朽化した木造住宅が密集する環状6号線(山手通り)と環状7号線の間の杉並、世田谷、中野区を中心に被害が集中する。東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県では計2500件の火災が発生するが、1300件は消火できず延焼し、約65万棟が焼失すると予測される。
東京23区内は防火水槽が多数設置され、東京消防庁のポンプ車は534台あるが、道路が寸断されれば出火元にたどり着けない。消防隊員が持ち運べる「可搬ポンプ」410台も用意しているが、相田紀夫・消防司令長は「想定される火災は数が多く、消火できる数には限界がある」と語る。
火災の被害を小さくするには耐震化が大きなカギを握る。国土交通省が実施した調査では、住宅が倒壊しない場合の
出火率は倒壊した場合の3分の1に抑えられる。倒壊した家屋は火事の延焼路にもなり、消防隊の進入も阻む。
さらに、倒壊した家屋の下敷きになる自力脱出困難者は4万3000人発生し、うち800人が救出されずに焼死してしまうと推定される。住宅が倒壊しなければ逃げ出すことが可能で、耐震化の重要性を印象づけた。
一方、地盤の悪い23区東部(墨田、江東)などでは、特に強い揺れが予想され、建物の倒壊率が都心西部(杉並、中野、世田谷区)に比べ、はるかに高くなるとの結果も出た。
関東大震災では、利根川、荒川が大量の土砂を堆積させて三角州を作った都心東部や旧河道だった神田地区で家屋倒壊が多発した。溜め池だった赤坂の溜池、沼地だった麻布一の橋付近も他の地域より全壊家屋が多い。
今回の被害想定でも同様の傾向が見られる。
関東大震災など過去の地震被害について研究する鹿島建設・小堀研究室の武村雅之次長は「時代が変わっても地盤は
変わらない。地表の揺れは地盤の影響を強く受け、どの地震でも被害が集中する結果となる」と指摘する。
◆M7級 10年内に30%
関東地方の地下は、陸が乗る「北米プレート」の下に、南側から「フィリピン海プレート」、東側から「太平洋プレート」が沈み込む複雑な構造で、何度も大地震に襲われてきた。その地震は震源が浅い順に
(1)地殻の浅い部分
(2)北米、フィリピン海両プレートの境界
(3)フィリピン海プレート内
(4)フィリピン海、太平洋両プレートの境界
(5)太平洋プレート内−−の5種類に分類される。
関東大震災(1923年、M7.9)のようなM8級の地震は(2)で起きる。だが発生間隔が200〜400年で、今後100年以内に起きる可能性はほとんどなく、今回は想定から外した。
ただ、関東大震災前の100年ほどの間に、1855年の安政江戸地震(M6.9)や1894年の明治東京地震(M7.0)などM7級の地震が何回も起きた。このため、今後(1)〜(5)のいずれかで同様の地震が起きる可能性があるとされる。
想定は、震源が浅く最も被害が大きい(1)や(2)で、同様の地震が起きる場合を検討した。
想定した地震の発生確率はどの程度なのか。
(1)の部分に存在する活断層による地震の30年以内の発生確率は、国の地震調査委員会によると、
▽立川断層帯(東京都立川市、青梅市など)=0.5〜2% |
▽伊勢原断層帯(神奈川県伊勢原市、厚木市など)=ほぼ0〜0.002% |
▽神縄・国府津−松田断層帯(同県松田町、大井町など)=3.6% |
▽三浦半島断層群(同県)=ほぼ0〜3%。 |
関東平野北西縁断層帯(埼玉県深谷市など)は予測が発表されていない。
活断層が認められていない場所に想定したM6.9の地震は、現在の技術では予測困難だ。
確率は低いようにみえるが、阪神大震災を引き起こした「野島断層」について、同じ方法で地震発生直前の状態を検討すると、発生確率が0.4〜8%になる。
(2)〜(5)の部分でM7程度の地震が起きる確率についても、地震調査委員会が予測している。対象範囲は東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城にまたがるが、10年以内が30%、30年以内が70%、50年以内が90%程度という。
(2)首都直下地震の発生間隔
1603年の江戸開府以来、江戸―東京を襲った地震は約40回を数える。
このうち巨大地震といえるのは、次の5つである。
@ 1649年 慶安地震 M7.0 |
A 1703年 元禄関東地震 M7.9〜8.2 |
B 1855年 安政江戸地震 M6.9 |
C 1894年 明治東京地震 M7.0 |
D 1923年 大正関東地震 M7.9 |
このうち、AとDはプレートの境界で起こるタイプに地震であり、これはおおむね150年程度の間隔を置いて発生する習性がある。
前回発生したのは、約80年前の大正関東地震であるから、このタイプの地震の心配はまだないと考えられている。
問題は、@BCの地震で、これは東京の直下に震源がある活断層によって引き起こされるタイプの地震である。
その発生間隔をみると、@とBは206年、BとCは39年しか間隔が空いておらず、ほとんど規則性がないといってよい。
したがって予測は困難だが、前回の明治東京地震から100年以上が経過しているので、油断ならないとみられている。
これが被害想定に用いられている地震で規模はマグニチュード7.2、震度6強と推定されている。