「ヒートアイランド現象と対策雑感」 2004.7.22
先日(東京の最高気温が39.5℃を記録した日),東京都ヒートアイランド対策推進会議主催の
「ヒートアイランド対策シンポジウム〜熱汚染への挑戦にむけて〜」
を聞いてきた。
プログラムは下記の通りである(報告の概要は東京都環境局公式ウェブサイトに掲載されている)。
基調講演 「ヒートアイランド対策技術の現状と今後の展望」 神戸大学工学部建設工学科教授 森山 正和 調査研究報告 「屋上緑化技術のヒートアイランド現象緩和効果調査」 東京都環境局環境科学研究所基盤研究部研究員 山口 隆子 「壁面緑化技術のヒートアイランド現象緩和効果調査」 東京都産業労働局農業試験場園芸部研究員 渋谷 圭助 「高反射率塗料・保水性建材のヒートアイランド現象緩和効果調査」 東京都環境局都市地球環境部計画調整課主任 光本 和宏 「ヒートアイランド体感調査」 東京都建設局土木技術研究所地象部主任研究員 松本 真人 |
ヒートアイランドってなに?
都市部の気温が,郊外に比べて異常に高くなる現象。
都市の中心部は郊外と比較して常に気温が高いということは,100年以上も前から気付かれており,世界中の多くの都市でも確かめられている。この都市部と周辺部の気温分布を等温線として描いたとき,地形図の等高線のように都市上に閉曲線が描かれその形が島(アイランド)に似ていることからその名がつけられた。
ヒートアイランド現象は,人口が数100万の都市では5℃以上,数10万人の都市では3〜5
℃,数万人程度の都市では2〜3℃ほど郊外と比べ温度が高くなっていると言われている。東京等の大都市だけでなく,最近では長野や仙台など地方の中規模都市部でも発生している。
右の図は,2002年夏季の東京区部の30℃,25℃を越えた時間の割合を分布図にしたもの(東京都環境局)
30℃超過の図は昼間,25℃超過の図は夜間の状態を示していると考えられる。
昼間は東京湾からの海風の影響が顕著であるのに比して夜間は東京湾の海水温度と陸上の気温の差が小さくなって海風の効果が消えている。
ちなみにわたしの住居は左側の図で赤いゾーンの縁に(32%)位置している。つまり均して1日のうち1/3の時間が30℃以上だと言うこと。
右側の図では80%の線上に位置している。仮定を入れた計算ではあるが3日のうち2日は熱帯夜だったと言うことになる。
子供の頃は窓を開けて寝ていたのが,1980年代中ごろからは,窓を開けると熱風が吹き込んでくるので,やむを得ずエアコンを導入し,いまではエアコン無しの生活は考えられない生活環境となっている。
気象庁によると東京の年平均気温は,この100年で3℃も上昇したといわれている。 近年,二酸化炭素やメタンなどいわゆる温室効果ガスの増加による地球温暖化が問題となっているが,それに起因する気温上昇量は100年間で約0.6℃と考えられており東京の気温上昇がいかに著しいかがわかる。
この東京における平均気温の上昇量は,日本の他の大都市に比べても,もっとも大きい値になっている。
日本の大都市は,日最高気温に比べて日最低気温(年平均値)の上昇量が大きいことが注目される。(東京でも同様な傾向を示す)。
また大都市では,年々熱帯夜(最低気温が25℃以上の日)が増加している。1980年当時の東京では年20日間程度であったのが,近年では30日を超えている。
ヒ−トアイランド現象がその原因の一つと考えられる。
気温の上昇は年々加速し,30年後の東京は気温40度を越す日もめずらしくなくなると言われている。
どうして起きるの?原因はなんなの?
その原因は,
@ 緑地の減少により、水分の蒸発による気温低下が少ないこと。
A アスファルトやコンクリートで地表が覆われ,昼間太陽の熱射で深層まで高温となり,蓄積された熱が夜間に放出される。
B 都市への人口の集中により各種のエネルギーの使用量が増し,排熱量が増加する。(自動車の排気熱の増大,エアコンの大量使用など)
C 高層建物などの壁面で多重反射するため,都市の構造物が加熱され易くなる。
D 都市部にただよう細塵,大気汚染物質が空気を暖める(温室効果)
などがあげられる。
いまどんな対策が検討されているの?
ヒートアイランド現象を緩和するために,次のような対策が実施あるいは検討されている。
(1)人工排熱の低減化(省エネ,廃熱再利用)
車の排気ガスの排出抑制
工場で発生する排熱の回収
住宅建設における断熱材,高反射率塗料,保水建材の使用
太陽エネルギーの使用
風力発電システムの導入
ゴミ焼却排熱の利用など
(2)都市における緑や水辺の保全
緑地面積の回復
道路沿いの緑化
保水性舗装
建物の屋上緑化・壁面緑化
多自然型河川の造成
雨水の涵養と湧水の安定など
東京都がやっていることって矛盾あるんじゃないの!
ある報告によるとヒートアイランド対策としては
「建築物の高反射,屋上及び壁面の保水建材による冷房負荷の低減」
「自然植物被覆と緑地面積の拡大」
を評価ランクの最上位に挙げていた。
都のシンポでは,軽量屋上緑化,壁面緑化,高反射率塗料・保水性建材の効果実験がとり挙げられており,それぞれ上に示した評価ランク上位の対策に相当するものでそれはそれとして効果がありヒートアイランド対策として推進していくことが期待される。
しかしながらこれらの手法はどうも対症療法的(あるいは姑息な!と言っていいかもしれない)に思えてならない。
ヒートアイランド現象の原因は「都市への人口集中」であることは明白である。先に掲げた5つの原因すべてが「都市への人口集中」に起因している。
東京都がやろうとしている取り組みは以下のごとくである(東京都のヒートアイランド対策より)
東京都の具体的取組具体的取組I −東京都における率先行動− ★総合的な対策の推進 内容の充実、量的拡大、個別対策の集約化、効率化 ◆木陰さわやかな道へ
◆施工が進む涼しい舗装
◆街を冷やす緑
◆4地区でのモデル事業の実施(平成15年度重点事業)など |
いっぽう東京都政としては,人口集中化を止めようという態度は示してはいない,というか首都移転問題などには反対を表明しむしろ逆行している。
都市再開発の名のもとに,大規模空き地はほとんど大規模マンションと化している。わたしの住む地域に東京外語大学跡地があるが,公園化の構想が頓挫したままである。 汐留地域や品川駅海岸側地域は見事と言うほかはない高層ビル街に変身し,浜風が吹かなくなった新橋界隈はいま,輪をかけた熱帯夜が出現していると聞く。
東京への一極集中を是正する政策をとって欲しい。
大規模マンション・大規模オフィス街ではなく大規模緑地,大規模グリーンベルトこそが必要じゃないのか!
根本的原因に手をつけず,逆の傾向を助長しながら,片方で姑息な対策に終始するってのはおかしいとは思わないのかね!聡明なる石原さんよ!
ヒートアイランド現象は,都市に住む私たちに様々な影響を及ぼす。一例として熱帯夜の寝苦しさから逃れるために多くの家庭はエアコンを利用する。しかし,そのためにエネルギー消費量が増大し,それが都市の高温化を一層促進してしまう。
こうした悪循環を断ち切り,省エネでしかも快適な生活を取り戻すために,対症療法ではなく根本に立ち返った百年の計画を進めて欲しいものである。