[HOME] [My Column 目次へ] 

雷から身を守るために     2006.8.11

 先日,東京板橋区の男性会社員(63)が落雷に遭い死亡した。
大木の枝の陰で雨宿りをしていたと推測されているが,この木に雷が落ちたという。
 まことに,残念なことである。ちょっとした知識を持っていればこんな悲惨な事故に遭わずに済んだものを。
 只今夏真っ盛り,雷雲発生のシーズンである。そこで,雷から身を守るために日常生活で役に立つ知識をあれこれを調べ上げた。
 わたし自身も,常識の間違いに気がつき大いに勉強になった。
いざというとき,自分を守るのは自分自身である。


(1) 雷,落雷とは

 大気中に上昇気流が発生すると雲の中で雹やあられなどの粒が相互作用し,雲の上方にプラス電荷,下方にマイナス電荷がたまる。
 雲の発達にともない その電荷が増大し,各々の電荷はそのままの状態では存在できなくなり プラス電荷マイナス電荷が引き合い空中放電(ショート)がおこる。 これが雷である。
 雲の中で発生するものが雲放電,雲と地上の間に発生するものがいわゆる落雷である。 雷が発生する時,一瞬にしてエネルギーが放出されるので,激しい光(稲妻)と音(雷鳴)をともなう。

(2) 雷,落雷から身を守るための常識17
● 雷が発生している場所はどこか?
 AMのラジオに「ガリガリ」という雑音が入ったら50kmくらい,「ゴロゴロ」と雷鳴が聞こえたら10kmくらいのところに雷が来ている。稲光と雷鳴の聞こえる間隔が3秒で,落雷地点までの距離が1kmである。
 雷雲の移動速度は時速10km〜40km程度にも達し,かなり離れていると判断しても,すぐ近づいて来るものと思って早めに避難すること。
● 雷は,どこに落ちやすいか?
 どこにでも落ちると思っていた方がよい,高いところに落ちやすい性質あり。
● 人が雷に打たれたら,どうなるか?
 約80%の人は即死,残り20%の人は助かる。
 雷の電流が呼吸と心臓の鼓動を止め,これが4〜5分継続すると死にいたる。助かった人はやけどをしたり,耳の鼓膜が破れたりするが,後遺症はなく回復する。
 日本では年平均19人が死亡している(昨年1年間では,6人が死亡,26人が怪我をしている)。
● 軒先で雨宿りは危険!
 常識的には,安易に雨宿りを軒先でしがちであるが,一般に雷(電流)は,物体の中を流れるとき表面の方を多く流れ,中心部を流れる電流は少なくなるという表皮効果がある。このために家屋の外側すなわち軒先は危険なのである。
● 建物の中は安全 でも柱や壁側は危険!
 屋外にいるよりずっと安全である。でも前項と同じ理由(表皮効果)で,柱や壁際は避けるべきである。また建物に落雷があると電線類を伝わって雷の電気が侵入してくることもあるのでTVなどの電気器具や天井・壁から1m以上はなれること。
 「雷が鳴ったら蚊帳の中に入れ!」と昔から言われているが,蚊帳に入れば必然的に部屋の中央部に移動することになるので,理にかなった言い伝えである。
● 樹木のそばは,危険!
 高い木には当然落雷しやすい。
木に落ちた雷は幹や枝を伝わって,その下にいる人間にすぐ伝わる(人間の方が電気を通しやすい)。まして幹に寄りかかって雨宿りするなどは論外である。 表皮効果のため木の幹のそばは,大変危険である,2m以上離れること。
 木の下で雨宿りをしていた人が落雷を受けて死亡する例は毎年のようにある。
● 金属を身につけていると危険か?
 めがね,時計,ネックレス,ブレスレットなど小さな金属物を身につけていても,つけていなくても落雷の危険性は変わらない。
 金属が身体から上に出っ張っていない限り,無関係であることが実験的に証明されている。たとえ絶縁されたプラスチックの柄でも人が二人並び片方が傘をさしているとそちらに落雷する。
 
 落雷の死亡原因は心肺停止であり火傷ではない。雷の火傷は2か月程度で治るそうだ。
 背中にジッパーの付いたシャツを着ていた女性が落雷を受けたが,死亡に至らなかった。雷が頭・ 足を通り心臓や肺を通らずに済んだのだ。
 自転車に乗ってヘッドフォンステレオを聞いていた子が落雷を受けたが,これも雷が頭→自転車を通り雷を体外に誘導した。
 雷が来たからといって,金属製品をはずすのは意味がない。金属か絶縁物かに関係なく高いものに落雷しやすいということを認識すべきである。
● ゴム靴やビニールのレインコート等を身に着けていれば安全か?
 そんなことはない。
雷雲と地表の間には3億ボルトという電圧がかかっている。レインコートやゴム靴の絶縁性などてんで歯が立たない。事実,落雷を受けた人のレインコートがぼろぼろになっているのが見つかっている。
● 海や山で雷に遭ったら
 海水浴中に雷に出遭ったらすぐに陸に上がり建物など安全なところに非難する。
 山で雷に出会ったら,山頂や尾根など高い所から離れて山小屋などに避難する。
でも,実際はそんな悠長なことは出来ないくらい切迫した状況となる筈だ,尾根筋は最も危険な場所である。高い木などから離れて,できるだけ低いところ(窪地など)で姿勢を低くしてやり過ごすしか手はない。闇雲に動き回るのは危険である,雷が収まってから安全な場所に移動するしかない最悪の事態と心得るべきである。雷の発生が予報されている時は,出かけないことが賢明だ。
● 自転車やオートバイに乗っていて雷に遭ったら
 すぐに降りて安全な場所に避難する。
● 車を運転中に雷に遭ったら
 車の中は安全である。
しかし運転中に落雷すると電子回路の部品が壊れ,誤操作を起こす可能性がある。また,閃光と大音響のため運転を誤る可能性もあるので必ず安全な場所に停車してエンジンを切り 雷が通りすぎるのを待つこと。
● 広い野原や河原・ゴルフ場などで雷に遭ったら
 雷は,高い物をねらって落ちてくる。
野原や海などでは,人間が最も高い物になる。周囲に建物や車など何もないような場所では,低い場所を探してしゃがみこむなどできるだけ姿勢を低くして様子を見る。
 農作業をしていた人やスポーツをしていた人が落雷に遭う例が多い。田畑やグランド・ゴルフ場は,極めて危険な場所であることを認識しておくこと。
● 入浴,炊事,洗濯している時,雷に遭ったら
 近くに雷が落ちた場合に,水道管や排水管などを伝わって,雷の高電圧が侵入してくるケースもある。感電事故を防ぐために,入浴中ならお風呂から出る,炊事や洗濯も一時ストップした方が安全。
● 近くに落雷があったときに,地面にひれ伏しているのは安全?
 地面にひれ伏していると落雷は受け難くなるが,落雷位置によっては,手から足に雷電流が流れ,危険な場合もある。かといって,そうするしかない場面もありうる,闇雲に動き回るのも危険!判断に迷うところだ!  
● 飛行機に雷は落ちるか?
 飛行機にも落雷する。(被雷とか雷撃という言葉を使っている) 自動車と同じく乗客に対しては安全である。ただし,落雷した場合,機体が損傷することはありえる,雷の衝撃で通信機器や計器類の一部が損傷することもよくあるという。
 わたしも紀伊半島上空付近で,雷撃を経験したことがある,”ど〜ん”という音がして,余り気持ちよいものではない。危険はないと言っても,やはり雷には遭わないに越したことはない。パイロットは,あらかじめ,当日の天気図を細かく検討して,できるだけ雷雲を避けて飛ぶことを心がけているそうである。
● 避雷針は万全ではない!
 避雷針による保護範囲は,建物の高さによって異なる。
高さが30m以下の場合:避雷針の先端との仰角が45°以内,つまり建物の高さと同じ半径円内が保護範囲となる。
高さが30m(6,7階建て)以上の場合:半径30m以内の範囲を目安とする。
● 家電製品やコンピュータを雷から守るにはどうする?
 家電製品やコンピュータなどには,ICなど電子回路が組み込まれている。
雷の電流が電話線や電源線,アンテナ,地面など様々な経路から入り込み電子回路に過電流や過電圧を発生させ,冷蔵庫やパソコン,電話機などを壊すことが問題となっている(誘導雷)。
 現段階で被害を抑えるには,とりあえず電話線や電源をコンセントから抜くこと。またはコンセントに差し込むだけでよい雷保護部品も商品化されているのでそれらを設置するという方法もある。
参考ウエブサイト: 日本大気電気学会「雷対策マニュアル2001年改訂版」