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「”ゆっくり地震” ”ゆっくり滑り”って何?              2006.5.17

 先日の新聞記事に「東海地震想定域付近の”ゆっくり滑り”ほぼ終わる」という記事が出ていた。
以前,当時現役の研究者が「東海地震はもしかしたら,いま想定されているような規模では起こらないかも知れない」と言っていた。”ゆっくり滑り&地震”という言葉を,その時始めて聞いた。以来その現象が気になっていたのだが上記の記事をきっかけに調べてみた。
 近ごろスローライフといってのんびり暮らすことがはやっているが,地震にも断層面がじわじわとのんびり滑り,揺れがあまり大きくないものがあるらしい。そういう地震ばかりなら大歓迎なんだがそうもいかないらしい。


 ゆっくり地震,ゆっくり滑りとは

 1994年に発生した三陸はるか沖地震(M7.5)の際,GPSによる岩手県久慈観測点における変位の時間変化から,地震の発生と同時に約1mの東方向への変位を示したのち,1年以上にわたってだらだらとした同じ向きの動きが続いていたことが分かった。
 これは,地震時の高速すべりに続いて,断層面上でゆっくりとしたすべりが継続し,本震とほぼ同じくらいの地震エネルギーを地震後に解放したものと解釈されている。

 このように,ゆっくりとした破壊が震源で進行する現象を,総称して「ゆっくり地震」と呼び,このような地震を起こす断層面の滑りを「ゆっくり滑り(スロースリップ)と呼ばれている。
 この奇妙な現象は,普通の地震に比べて数段もゆっくりと断層面のすべり領域が拡大する破壊現象であり,
    ・ 普通の地震を伴わないサイレント地震(沈黙地震)
    ・ 普通の地震とサイレント地震が相伴って起こるスロー地震
    ・ 普通の急激な地震の後にゆっくり生じる余効すべり(上記の三陸はるか沖地震で見つかった現象)
と呼ばれるものがある

 「ゆっくり地震」,「ゆっくり滑り」は,その性質がまだ十分に解明されていないが,地震テクトニクスや地震発生予測の観点からは,重大な意味をもっていると言われている。

 この現象が見出された当初はゆっくり滑りが大地震の前兆ではないかと心配されたが,最近の研究では,海溝型の巨大地震を起こすプレート境界面は場所によってゆっくり動いたり,急激な動きをする部分がありそれぞれの住み分けがあって直ちに大地震に直結しないという考え方が大勢を占めているという。

 東海地震想定域付近の「ゆっくり滑り」
 
 今,切迫性が指摘されている東海地震想定域でも,この「ゆっくり滑り」現象が2000年後半から始まり注目されている。
 
 東海地震を起こす震源断層面はフィリッピン海プレートとユーラシア大陸プレートの境界面であり,この面は一様な面ではなく,割れ目が多く水を含んで滑りやすく,ゆっくり滑りを起こしやすい部分や岩盤が強く,動きにくい部分もある。この動きにくい部分をアスペリティという。(アスペリティは大きなエネルギーを蓄えなければ動かない。したがってずれが生じた時には放出するエネルギーが大きく巨大地震となる)
 
 国土地理院のGPS(Global Positioning System)観測網によって,静岡県御前崎から名古屋付近を中心に陸側のプレートがゆっくり滑りをおこしていることが分かった(2002年)。
 この地域は,フィリピン海プレートにひきずり込まれて、北西ないし西の方向へ移動すべき陸側のプレート上にあるが,このところ,普段と逆方向の東南東へゆっくり動いている。この1年間にプレート境界面で15cmのずれになり,一度にずれたら,マグニチュード 6.7の地震に相当するという。
 新聞記事によればこの「ゆっくり滑り」が今年初めに終わり,この5年間のゆっくり滑りによって,全体でマグニチュード7.1の地震に相当するエネルギーを開放したことになる。このことは,心配されている東海地震のエネルギーがそれだけ減少したということになり,切迫性を和らげるとも言われている。
 冒頭に記した友人の話はこのことを言っていたのであった。

 しかし,アスペリティには,依然としてひずエネルギーが蓄積し続けられていることを考えれば,東海地震がいつ起きてもおかしくない切迫性は変わらないと思う。
 ゆっくり滑り(ゆっくり地震)と普通の地震の機構的関係もまだよく解明されていないようだし,自然現象は複雑怪奇,まだまだ人知の及ばざるところがたくさんあることを銘記すべきであろう。
 



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