HOME旅行先一覧

法 師 温 泉

2007.May.10~11

 3月,4月といろいろと忙しく,ちょっぴり骨休みをしようと,連休明けをねらって上越国境三国峠の麓にある法師温泉へ出かけた。
まだ30歳前後の頃のこと,三国峠を越後側に越えたところでの発電用ダム開発の調査やらその後の建設時代にも少々関係して,三国峠を越える国道17号線をしばしば行き来した。その折,秘湯「法師温泉」の存在を知り,かねてよりいつか訪ずれようと思っていた温泉である。

 ふと,思い立って一週間ほど前に,宿のウエブサイトを覗き,たまたま空部屋があったので即,予約して出かけた次第である。
 
 家を出たのが,12時少し前,新幹線と関越バス&みなかみ町営バスを乗り継いで宿に到着したのが15時10分。わずか3時間ばかりで新緑煙る山ふところで静かなたたずまいを見せる一軒宿に到着。
 折りしも,寒冷前線が近づいているとかで,雷が鳴り出しそのうち雨風も強くなり間一髪の差で濡れねずみにならずに済んだ。天候がよければ温泉宿周辺を散策するつもりであったが,それもならずさっそく湯に浸って,地酒と山菜料理に舌鼓をうつことにする。

■ 法師温泉
 新幹線「上毛高原」駅から路線バス(関越交通)で,猿ヶ京へ(乗客はわたしたちの他に一人だけ)。猿ヶ京からは村営バス(と言っているが一昨年の町村合併で現在はみなかみ町営)に乗り換えて法師温泉へ向かう。このバスは,一日4本のみ。でも車を利用しない人たちにとっては貴重な足である。

 三国峠へと登る国道17号から別れて,いまは寂れ果てた永井部落(20数戸)を通過する。 ここ永井は,かつては三国街道上州側最後の宿場町であった。三国峠を越えて越後からの米が永井宿に集まり,「陸の船着場」と呼ばれていた。宿の役目を終えるまでのおよそ200年間,大いに賑わったというがいまは,「永井宿資料館」があるのみで,その面影を見ることができない。

 法師川の沿ってしばらく走り,着いた所が,法師温泉一軒宿の「長寿館」
江戸時代,三国峠を往来した旅人や地元の人たちが温かい湯に身体をゆだね心を癒した歴史ある温泉だという。 今からおよそ1200年前、弘法大師が発見したと云われこの名がついたと言う。

 胃腸、火傷、動脈硬化などに効能があり、与謝野晶子,川端康成,中西悟堂など多くの文人墨客にも愛された温泉として名高い。 
                   
                     玄関脇にある郵便ポスト
 近ごろはめったに見られなくなった庇つき赤丸ポスト。
集配時刻表には朝10時,一日に一回だけの時刻しか記されていなかった。郵政公社の民営化で果たしていつまで生き延びれるか心配のPOSTである。
                     
                      法師の湯(大浴場)

 さっそく飛び込んだ「法師の湯」。洋風の窓から眩いばかりの新緑の陽と風が差し込む異色の鹿鳴館風の建物である。明治28年の建築で既に1世紀以上の歴史を刻む混浴風呂。
浴槽の底は,玉石と砂利が敷かれていて,時折,温泉とともに下から湧き上がってくる気泡が,肌をマッサージしてくれるようで気持ちがよい(足元湧出温泉といって全国でも指折り数えるほどしかない温泉のひとつ)。
 源泉は,無色透明のカルシウム・ナトリウム硫酸塩泉,泉源での温度42.7℃,毎分155.5ℓの自然湧出泉である。
 浴槽は,全部で4っ,それぞれ中央に丸太が差し渡されていて,これに頭を載せて身体を大きく伸ばして湯に浸かることができる。
 年配の方ならご存知,旧国鉄の「フルムーン」キャンペーンでお馴染みの高峰三枝子の入浴シーンはここで撮影されたとか。

 浴室は,このほかに婦人専用の「長寿の湯」と「玉城の湯」・「露天風呂」がある。後二者を除いて全て,加熱・加水・循環なし正真正銘の”源泉かけ流し湯”である。
 
 法師川を挟んで右手が本館(築明治8年)と左手が昭和53年に増築された薫山荘。       わたし達が泊まった別館
昭和15年の築で,本館・法師の湯浴室とともに国重要文化財に指定されている。
 各部屋は,八畳と4畳(京間サイズ)とベランダからなり床の間,欄間,壁,障子や調度品の茶箪笥・鏡台などすべて建築当時のまま,太い柱をふんだんに使って,質素ながら重厚な雰囲気を漂わせ,落ち着いた気分にしてくれる。
       法師の湯(中央)と長寿の湯(手前)
 総檜造り,屋根は杉皮葺きで苔むしてかすかな緑色を帯び,辺りの自然と見事に調和している。
 
別館の廊下
                           
                         夕食のメニュー


 食事は朝・夕食とも部屋まで運んでくれる。観光温泉宿の見かけばかりはよいが安っぽい料理と違って,派手さは無いがしっかりした食材で十分満足できる料理であった。

 :先付(竹の子木の芽和え,天豆・みずの実・なた豆),上州牛山菜鍋,酢の物(鯉洗い・コンニャクの梅ドレッシング),香の物
 : 焼き物(岩魚塩焼き・花かぶら),煮物(竹の子真丈・花人参・里芋・ふき・鳥そぼろ庵),揚げ物(姫ますゆかり揚・タラの芽フライ・小茄子),造り(鹿刺身・湯葉豆腐・芽ねぎ),すっぽん仕立て吸い物,茶碗蒸し,他にフルーツ

 冷蔵庫からビール一本と純米吟醸酒”秋月”(醸造元:群馬県川場村の土屋本店)を取り出し至福の晩餐!
 お米は魚沼産コシヒカリでこれまた美味しいご飯である。
妻は朝晩2回とも余ったご飯を,春慶塗お弁当箱にせっせと詰め込んでいた。しっかりしている!
 夜になって,風雨が更に強くなりる。ここは周りに何も無い山の中の一軒宿。温泉に浸かるのが最高の楽しみである,就寝前に今晩3回目の入浴。
 
 翌朝,9時ごろになってようやく雨が止んだ。
温泉発の町営バスは,9時50分。それまで,宿の周りをしばし散策する。
雨上がりの新緑が時折差し込む陽を受けて眩しいくらいに美しい。
宿の裏手に,旧三国街道の山道が17号国道方面へ登っていく道標がある,三国峠へ向かうハイキング道(往復3時間),四万温泉へのハイキング道(約6時間)もあるようだ。
次回は法師温泉を基点にして秋の山道を散策して見たいものだ。
■ たくみの里

 9時50分のバスで,猿ヶ京へ。このままバスを乗り換えて上毛高原駅へ向かうとお昼ごろには家へ着いてしまう。それでは勿体無い,天気も回復したことだし最近売り出し中の「たくみの里」に寄ってみることにした。

 ここでまた,毎度のことながら,妻が宿に忘れ物をしたと言う,帳場脇で買い込んだ土産の品である。電話で問い合わせるも玄関の辺りには無いという返事。法師温泉~猿ヶ京間のバスの中かもしれないと,役場の電話番号を教わりこちらにも問い合わせる。
 あった!あった!
だが,わたし達は既にたくみの里へ向かうバス(関越バス)に乗ってしまっているので,着払いで自宅に送って貰えないかと依頼すると,「たくみの里のバス停まで届けるので下車したらそこで待つように」とのこと。なんと何と親切なこと 感謝!感謝! 
 そうこうするうちにもうひとつ忘れ物があることに気がつく。携帯の充電器を4畳間のコンセントに差し込んだままだと言う。
土産品の忘れ物は,宿で忘れたのか,バスに忘れたのかも判然としない,毎度のことながら次第に自覚症状がなくなってきたみたいだ。そろそろボケの一歩手前かも?あきれ果てて物言う気もなし。
 充電器は宅配着払いで翌日,無事生還。

 閑話休題
 たくみの里は,木工・竹細工・そば打ち・和紙造り・陶芸・藍染め・ガラス工芸などの匠たちが寄り集まり体験学習させる場を提供したりするいわゆる村おこし運動の一環として造られた観光施設である。
 バスは国道17号湯宿温泉から右手に折れ急坂を登りつめた台地に出る。どういうわけかバス停は,たくみの里の集落から外れた何の変哲も無い場所にある。危うく乗り過ごすところであった。

 バス停から少し歩いたところ一帯がたくみの里,三国街道の宿場・須川宿跡である。(旧新治村,現水上町)
三国街道を上り下りする旅人も温泉の湧く「湯宿」のほうに足を向けるようになり更に明治以降,三国街道が湯宿経由となったため,すっかり寂れただの農村地帯となり,40年ほど前は宿場時代の景観がすっかり失われて雑草が生い茂る原っぱの中の淋しい集落であったと言う。須川宿が「村おこし」運動で再出発したのは,80年代になってから。現在は「たくみの里」として復活し,大型観光バスも数台停まっていて多くの観光客が訪れている様子であった。

 次の,上毛高原駅方面行バスの時間までのおよそ2時間,慌しく”道の駅”風の売り場で山菜類の買い物,宿場通りをざっと流し歩きして,須川宿資料館・和紙の家・急須の家などを瞥見。
戻って,たくさんあるそば屋のうち,余り大きな店構えでもなく,中身で勝負!と言った感じのお店で,十割そばと舞茸の天婦羅で昼食。
 たくみの里は,かなり広い範囲にお店や体験工房,野仏などが点在しており,レンタル自転車でゆっくり時間をかけて周らないと全容を摑むのは困難である。
 
      須川宿 宿場通り

 この通りは,歴史国道として500m区間が幅員の広い街道として復元されている。
 中山道の奈良井や妻籠宿とは異なる手法で宿場の復元がなされている。須川にはすでに宿場らしい家並は残っていなかったので,農家を改造し伝統的なもの造りの家並とした努力は見えるもののやはりなんとなく落ち着きさを感じることはできない。

 道の両脇や家々の庭に遅い春の花が咲き競っていた。
 石楠花,ハナミズキ,躑躅,八重桜,槿,芍薬,タンポポ,サクラソウ,パンジー,ドウダンツツジ,コブシ,山吹,ウツギ,イカリ草,苧環,チューリップ,ムスカリ,山桃,木蓮・・・・・・
               野 仏

 その昔,村人は,様々な願い事や不安や恐怖から逃れたいと思う気持ちを「野仏」に託していたと言う。たくみの里には数多くの野仏が,昔と変わらぬやさしい顔で村人達を見守っている。
 写真は,たくみの里入り口で見つけた道祖神と野球帽を被ったお地蔵さんと庚申供養塚。 
 
 道の駅ほかで買った山菜類:
 天然うど,ワラビ,コシアブラ,うるい,そば粉,和胡桃,小豆,えごま油,もみじ葉(しどけ),サンレモクイーン(苗木)・・・・・・・

 上毛高原駅近くのみなかみ町月夜野から,まだまだ雪の残る上越国境の美しい山並みを瞼に刻みつけて法師温泉一泊の旅を終える。

HOME旅行先一覧