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同潤会「上野下アパートメント」

 近代日本で最初期の鉄筋コンクリート集合住宅

  関東大震災(1923(大正12)9.1)後の復興事業で建てられた同潤会アパートのうち唯一現存する「上野下アパート」が、関東大震災90年にあたる、この5月にも取り壊されると聞いて、平成25年2月3日節分の日、寒気がひと休みしてこの時期としてうららかな日和に誘われて訪れた。
 同潤会とは
 関東大震災の翌年、内務省(当時)が設立した財団法人で、勤労者のための鉄筋コンクリート造りの「同潤会アパート」を東京・横浜の16ヶ所に建てた。戦後に居住者らに払い下げられ、80年代以降建て替えが本格化。都が所有した「大塚女子アパート」が2003年に解体された際には、保存運動から訴訟も起きたという。「青山アパート」は2006年、「表参道ヒルズ」に、「渋谷アパート」は2000年、「超高層ビル代官山アドレス」に変身している。ちなみに16ヶ所のアパートは下記の通りである。
  1.中之郷アパート-本所区向島中之郷町(現・墨田区押上二丁目)
  2.青山アパート-豊玉郡千駄ヶ谷町隠田(現・渋谷区神宮前四丁目)
  3.柳島アパート-本所区(現・墨田区)
  4.渋谷アパート-豊玉郡渋谷町大字下渋谷渋谷字代官山(現・渋谷区代官山町)
  5.猿江裏町共同住宅-深川区(現・江東区)
  6.東大工アパート-深川区(現・江東区)
  7.山下町アパート-横浜市中区山下町
  8.平沼町アパート-横浜市神奈川区平沼町(現・西区平沼)
  9.三ノ輪アパート-北豊島郡日暮里町大字日暮里(現・荒川区東日暮里二丁目)
 10.三田アパート-芝区豊岡町(現・港区)
 11.日暮里アパート-北豊島郡日暮里町大字日暮里(現・荒川区東日暮里五丁目)
 12.上野下アパート-下谷区(現・台東区)
 13.虎の門アパート-麹町区(現・千代田区)
 14.大塚女子アパート-小石川区(現・文京区)
 15.東町アパート-深川区東町(現・江東区住吉一丁目)
 16.江戸川アパート-牛込区(現・新宿区)

 太平洋戦争後に住宅営団が解散すると、都内の同潤会アパートは東京都に引き継がれ、それらの大部分は後に居住者に払下げられたが、大塚女子アパートは都営住宅として存続した。

 上野下アパート
 JR上野駅から東へ約400m、東京メトロ稲荷町駅から徒歩1分とかからない交通至便な場所に建つ。浅草通りと清洲橋通りの交差点を清洲橋通りを北へ一つ目の信号左角から東の路地に同潤会アパートの特色ある黄土色の外壁を見せて佇んでいる、まるで時計の針が止まったかのような錯覚にとらわれる。
 上野下アパートは1929(昭和4年)に完成した。四階建ての西棟に家族用と単身者用、店舗用の東棟に合わせて75戸と集会所がある(総延べ床面積は2093.99平方メートル)。老朽化が進み、いま実際に暮らしているのは十人に満たないという。

同潤会アパートのうち唯一現存する上野下アパート西棟
 当時は珍しかった水洗トイレが各戸に設置され、屋上には共同の洗濯場がある。西棟の1〜3階は家族世帯向け、4階は単身世帯向けだそうだ。4階のみ廊下が左右に通っていて、オーバーハングしているのが特徴的。
 5月に取り壊される予定。アパートが姿を消した跡地には2015年3月には、大手不動産会社(三菱地所か?)が建設する14階建てのマンションが完成する予定だ。。
  

 同潤会アパートは、取り壊しの度に保存運動が起こっっているが、いずれも補修や耐震化費用の問題が大きく立ちはだかった。
 竣工当時は、先進的だった建物も、戦後の日本の住宅の変化の中で結果的に取り残されてしまい、電気や給排水設備も現在のものに較べるとかなり見劣りするし、大地震の時の安全性などの不安もあって、取り壊し・建て替えが進むのはやむを得ないことではあるが、日本の集合住宅の草分け的存在で、文化的意義も大きな同潤会アパートとしては最後の一つとなった上野下アパートが、外観だけでもいいから残すという方法が考えられないものかと思いつつ記憶に残したいとシャッターを切り続けた。
 
 建て替え後は、1棟、地上14階・地下1階、総戸数は128戸。店舗区画を4区画設け、総延べ床面積は8415.84平方メートル、エレベーター2基、27台を収納する駐車場などを設置するほか、制震構造の採用、防災備蓄倉庫、太陽光発電システムの導入なども予定されているという。。
西棟東角部分

 西棟は両端が少し南側に張り出している。三面に窓があり日当たりや風通しが比較的よさそうだ。壁面から出っ張っている四角柱のようなものは、”ダストシュート”か?
東棟、1階店舗が営業中

 清洲橋通りに面した東棟の1階部分では、理容店、クリーニング店、居酒屋2軒の計4店舗がそれぞれに改装してお店を開いている。角の部分の1,2階だけは修復のためか塗り直されているが、外観上改変されているところはさほど多くなく、昔ながらの状態を良く残している。理容店「巴里バーバー」は、60年前から営業を続けており、建て替え中は仮店舗に移りマンション完成後に、再びここで開店するそうだ。
歳月を経た表札

 敷地入り口部分の門柱・塀にはスクラッチタイルが使われている。