此れや君は夜の細顎 (これやきみはよのほそあぎと) (1) R-18性描写有り 閲覧注意 海近くの、交易で栄えた賑やかな町。働く人々や暮らす人々で賑々しい中、夜を迎えて一層の華やかさを振りまくのは、酒や美女を取り揃えた遊郭の並ぶ花街だ。 だが賑やかで華やかはずの花街で、大通りからは外れた場所にあるその一角は、宵闇に紛れ込んでしまうのか、行き交う人影も不自然なほどに見当たらない。 ほんの少し足を伸ばした先の明るさと喧騒が嘘のように、ひどく静かで薄暗い置屋(おきや/売春宿)のその一部屋で、女を腕に抱きながら酒杯を傾け、男達の会話は低く昏く続けられる。 「――……じゃあ、荷が港に着くのは明朝か」 四十も幾らか過ぎているだろうに、よく鍛えられて固く締まった背を軽快に揺らして嗤うその男の声は、音は低く抑えながらも隠しきれない笑みを含み、愉悦の響きに満ちている。 「そうです、明日。脅して急かした甲斐があった」 薄暗い部屋の中で対峙したもう一人の男も、隠そうともせずに喜色を表し、全身で喜びを見せている。こちらの男は上座に腰を据えた先程の男よりもまだ随分と若そうだったが、声音にも表情にも、堅気とは言い難いような色味が染み出てきていた。 「山奥からわざわざ海端まで出てきて正解だったな、これなら受け渡しも思ってたよりずっと手早く済みそうだ」 酒膳を前にしてほくそ笑み合う男二人の横顔を、古びた部屋の古びた行灯が薄々と照らす。酌婦として若い女が一人侍らされていたが、男二人が会話する以外、声を発するものは無い。少し離れた他の部屋からはそれなりに物音がしていたが、酒や女を求めてやってきた客が織りなす騒々しさとは少々異なる。 他の店は賑やかであるのに、不思議とこの店は静まり返っていた。 「なあ御頭、その後はどうするんです? いっそ、この町に新しく住処(すみか)を構えませんか。俺ァここが気に入りましたよ、人目を避けて山奥ばかりに引き籠るのはもううんざりだ」 「ああ、それも悪くないな」 傍らの娘に杯を突き出し酌をさせ、酒杯を大きく煽って男が楽しそうに頷く。 「仕方がないとは言え、お前らみたいな若いもんはあんな山ん中を隠れ住むのは耐えられんだろう」 酒杯を空にした男の視線が娘に向き、その顔が嗜虐に満ちた笑みに彩られる。 「この町は上玉揃いだから、知ってしまった後では尚更な」 言って、怯えた目で酌をしていた女を強く掻き寄せた。突如乱暴に扱われ、その女が恐怖に震えた叫びを小さくあげる。 女と言っても、か細いその身体は大人の成熟とは程遠い若さだ。女と呼ばわるよりも娘、少女と形容した方がまだしっくりとくる。そんな小娘の必死の抵抗すら愉しみながら、男は更に続ける。 「金が手に入ったら、鄙(ひな)の山中に引っ込んだ暮らしともおさらばだ。この国はどこに行っても窮屈で、こんな狭い中を逃げ隠れするのももう疲れたからな、俺は呂宋(ルソン)に行こうと思ってる」 るそん、と怪訝そうな表情で呟いた若者に、男は年長者らしく鷹揚に頷いてみせた。日に良く焼けて浅黒い頬がにやりと歪む。 「今、あっちの国じゃあ戦乱に乗じて色んな人間が出入りしてるらしい。ここでは肩身が狭い俺たちでも、遠い異国なら誰にも顔を知られていない。先の大将……白尸(しろかばね)の大将と付き合いのあった堺の商人に、小金を握らせて話は付けてあるんだ。俺は南へ行く」 そう大言を語りながらも、娘を嬲る男の手は止まらない。着衣の上から乳房を乱暴に揉みしだき、細腰を撫で回しながら尻肉をつかみ、いやですやめてと涙にかすれた声で制止を懇願する娘の声は一切無視をして、必死で身を捩って逃げようともがく身体中をまさぐりながら、男は更に言葉を続ける。 「全ては明日、荷を受け取ってからだ。何にせよ、どこに行くにも準備は要るし、それまではここを拠点にすると言うのもいいかもしれんな。――……俺はこの店が気に入った」 この娘は、男達が今いる店の孫娘のようだった。少なくとも、身体を売った事はまだ無いように見える。狼藉を働く男を見上げるその目には絶えず涙が浮かんでおり、男達の一挙一動に初々しく怯える様は、生娘のそれだ。掌中の珠の如く、店には出さずに大事に育てていたに違いない。 港町の賑々しい宿場に店の門を構えるにも関わらず、静かで人目に余りつかない場所にあるこの店に、自分たちの隠れ蓑として使えないかと前々から目星は付けていた。少々若すぎるとは言え、まさかこんな上玉の娘がこの店にいたとは望外の喜びである。 娘の震える頬を伝う珠の涙を舌で舐め取り、男が笑う。 「抵抗するなよ。お前さえ大人しくしていれば、店の爺婆共には手出ししない」 その言葉に、着物の裾から無遠慮に入り込み、内腿を這いまわる手に爪を立ててまでして逃げようとしていた娘の抵抗が止まる。その様子を眺め、若い男はおかしそうに肩を揺らし、男は満足げに短く息を吐いた。 「昔の話だからお前みたいな小娘は知らないだろうが、こう見えても俺たちはそれなりに名前が売れていてな。大人しくしておいた方が身の為だぞ」 そう言いながら柔肌に忍び込んで動き始めた男の指に、娘の背がびくりと震えた。叫び声を上げかけた娘の口元を大きな掌で覆い隠し、熱い耳朶に唇を付けて尚も続ける。 「――……百舌(もず)党を、知っているか」 囁かれた言葉に、娘が目を大きく見開いた。 「……百舌党」 「そうだ」 かすれた音で呟かれた声を合図に、男が、娘の着物を乱暴に引き剥いだ。 流行り柄の帯を取られ、明るい色の小袖を剥がされ、冷たい板の間に娘の身体が荒々しく押し倒される。 剥き出しにされた両の乳房を、太い舌が穢していく。未だ幼げな双丘に赤々とした吸い痕と歯型をいくつも付けながら、愛らしい薄紅色に勃った乳首を指の腹で捏ねまわす。男の舌はそのままなめらかな腹を滑り下り、今度は臍(へそ)の辺りを執拗に責めはじめた。 くぼみを舌が這い、零れたぬるい唾液が娘の下腹部を伝う。ぬめった熱い塊が時折歯を立てながらも柔肌を舐(ねぶ)り上げていく感触に、娘の喉からは堪えきれないか細い悲鳴が絶え間ない。 「もうやめて……、いや……許して」 涙ながらの懇願も、何の意味も成さない。 帯を抜かれ、男の手から身を捩って逃げようとした拍子に大きく乱れてしまった裾からは、白い尻はもちろんのこと、腿の付け根や薄生えの柔らかな茂みすら露わとなってしまっている。 両脚の間に身体をずいと割り入れてくる男のせいで、娘は脚を閉じることもそれらを隠す事も出来ない。逃げたくとも、手際よく己の着衣を脱いだ男の良く鍛えられて熱い筋肉が、娘の汗ばんだ柔肌のあちこちにぴたりと吸い付いて離れない。 娘の臍を弄っていた男の太い舌が、腹の輪郭を伝って更に下へとゆっくりくだる。そして娘のかたちのよい太腿の付け根、薄い和毛(にこげ)に覆われた秘所に、男が浅黒く焼けた顔を押し付けた。途端にびくりと跳ねた娘の腰をしっかりと抱え込み、香りと味を楽しむように鼻先と舌とをそこへ深く潜らせて、一層の激しい責め苦を秘肉に与える。 「んぅ、……く、ぁう」 すすり泣くか細い声に混じり、とうとう時折喘ぎ声が漏れ始めた。 「やっ、あ、ああ」 逃げようと娘が悶えるたび、男は更に深くを舌で犯す。女の蜜を味わい尽くそうと動くその舌は、獣欲の権化のような下卑た音を立てて娘の肌の奥を苛む。 乱暴に無理矢理与えられる快楽の中、娘は喘ぎを漏らす自らを恥じる様子で必死で唇を噛み、喉から染み出る声を封じようと堪えているようだが、その健気な姿が男の嗜虐を一層煽った。 「良い声を出せるじゃないか」 言いながら男は舌を再度上へ滑らせて、慎ましやかにもツンと勃った両の乳首を乱暴に吸い上げて舌でねぶり上げた。赤く腫れるほどしつこく吸って舐めて唾液を絡めてからようやく離れ、娘の首筋や胸元の至る所に噛み痕を残し、分厚い舌であちこちに唾液を塗りつける。 身体中を苛む責め苦のその都度、娘の身体は男が望む通りの愛らしい反応を幾度も見せた。 「やぁ……っ、んっ、あ」 娘の吐息に艶と熱が乗る。 その熱に推される様に、自身の固く勃った男根を娘の柔らかな腹や内腿に幾度もこすりつけ、獣欲の権化から逃げようともがく娘の腰を押さえつけて、そして男は娘の耳元でささやいた。 「……そろそろ良くなってきたか?」 痴態を傍で眺めさせられているだけの若い男に見せつけるように、娘の脚を大きく開かせる。 すかさず、薄い茂みに覆われた花弁を背後から指でこねあげるように弄(まさぐ)ると、そこからは確かに淫靡な水音がした。 男が動かす指に合わせて聞こえるそれは、男がそこに残した唾液だけでは決してない。娘が身体の最奥からとろけさせた蜜の音だ。 「なんだこいつ、いやいや言ってる割にはしっかり悦んでやがる」 歓喜の声を漏らした若い男がさも嬉しそうに身を乗り出して覗き込み、弄られるたびに濡れた音を立てるそこへ鼻先が届きそうなくらい顔を近づけた。秘所へしゃぶりついてきそうな近さへ寄って来た顔に息を吹きかけられて、未だ執拗に花弁を苛まれながらも娘が身を捩る。 「きゃあっ、いやっ」 「いやじゃないんだろ、嘘をつけ」 薄暗い部屋のほのかな灯りに照らされた肌は、上気して薄紅にほんのりと浮かび上がっている。無理矢理な快楽を乱暴に与えられて、浅い息を吐きながら涙をこぼす娘の姿に、男たちの熱を帯びた嘲笑が薄暗い部屋に無慈悲に響いた。 「なあ御頭、俺も」 「ああいいぞ、他の奴らも愉しんでる最中だろうから、お前も早く行ってこい」 容赦なく責められて、泣きながら柔肌を晒して喘ぐ娘の姿に、とうとう辛抱できなくなったのだろう。股間を腫らしながらも大人しく二人の痴態を眺めてそわそわとしていた若い男が、矢も楯もたまらずと言った風情で立ち上がった。 着衣を散々に乱され、熱い涙で頬を濡らした娘と、それを今正に犯そうとする男の姿に羨ましげな視線を流して、そして慌ただしく部屋から走り去る。 板間の廊下を大仰な足音が去って行くと、部屋の中には裸体を晒した二人だけが残された。 「向こうの部屋でも、今頃やりたい放題だろうな」 喉を鳴らして男が笑う。 「この店は女の数が少ないから、奪い合いになってるかもしれんが」 花街の中ではあるが、僻地とも言える場所の店である。置いている女郎の数が少ないのは仕方がない。明日の荷物引き渡しまで、安全に身を潜めるためにこの店を選んだのだ。女が足りずとも他所の店に行くわけにはいかない。 客がまだいない時間帯――それは大胆不敵にも白昼堂々だった――を狙って入(い)り込んだこの店は、港町で荒くれ者も多いこの界隈には珍しく、店に用心棒の類を置いていない。ただ身を潜めるだけではなく、ここ数年は山奥で隠れ住む羽目になっている部下たちの鬱憤をも晴らせるように、百舌党頭領を謳うこの男は、好き放題の狼藉を働ける場所を選んだのだ。 入り込んだ、と言えば聞こえだけはいいが、その実それは押し込み強盗と変わりなかった。徒党を組んで押し入って、店主であるらしき老夫婦を脅し上げ、行き掛けの駄賃とばかりに目ぼしい金品をも集めさせ、店に居た女郎や下働きの全員を一つ部屋に集める。 男が店に引き連れてきた部下は、一昔前はかなりの広範囲を荒らしまわった夜盗の一派だ。大きな争いや味方うちでのいざこざがあって数は往時の半分以下と随分減ってしまったが、その生き残りの精鋭だ。狼藉を好む、血気盛んな乱暴者が揃っている。 白刃をきらめかせて脅しつけたその時に見かけた女郎たちは、数は少なかったが皆上玉揃いの顔付きと腰つきだった。到底足りない相方の美女を巡り、獲りあい奪い合いになっていてもおかしくはないだろう。 「明日の士気に関わらないように、あとでお前はあぶれた奴らに貸し出してやらんとな」 獲物を最初に品定めするのは、一党を率いる頭目の特権だ。 頭領だからこそ、まずは独り占めも許される。 店主の老夫婦と手を握り合って怯えていた娘はその場のどの女よりも若く、少々若すぎるきらいもあった。だが、急に押し込んで来たどこの者とも知れぬ賊に、日々慈しんできたであろう掌中の珠を穢される事を悟った老夫婦の顔は眺めていて大層楽しいものであったし、娘の顔付きは愛らしく、しゃぶるに充分な肉も細腰ではあったがそれなりに付いている。 俺はこの娘を連れていくぞと皆に宣言した際、不平を漏らした配下の者たちの声も多かった。一人だけで楽しんでいては、相方を得られなかった者たちが怒りだすに違いない。 若い身体を骨の髄まで愉しみ尽くした後は、配下の男達に下げ渡すとして―― 「――……まずは俺を悦ばせてみろ」 獣の如き酷薄な笑みが、男の頬をゆったりと染める。 |