ブックガイドA

「今この女性作家がおもしろい!」

 

 前回の分は書き始めてから仕上げるまでに1ヶ月近くかかってしまいました。武内先生から丁寧な

御礼状までいただき恐縮しております。今回はテーマがあらかじめ決まっているので割と

書きやすいかなあ…。

 

(1)泣く子も黙る?「宮部みゆき

この人を知らない人は図書室に通ったりしないと思います。私が初めて読んだ本は清水のサンクスで見つけた(笑)「レベル7」です。その後いろんな賞を総なめにし、いまや誰もが知るベストセラー作家になってしまいました。この人の作品は大きく3つに分けられます。

ミステリ」「超能力もの」「時代物」です。2冊を除いてすべて読んだ中から私のおすすめをあげてみましょう。

@「龍は眠る」(新潮文庫・743円)

A「鳩笛草」(光文社文庫・590円)

B「クロスファイア(上)(下)」(光文社・各819円)

C「蒲生邸事件」(文春文庫・829円)

D「魔術はささやく」(新潮文庫・590円)

E「火車」(新潮文庫・857円)

F「ステップファザー・ステップ」(講談社文庫・600円)

G「今夜は眠れない」(中公文庫・552円)

H「我らが隣人の犯罪」(文春文庫・448円)

I「地下街の雨」(集英社文庫・514円)

J「本所深川ふしぎ草紙」(新潮文庫・514円)

K「かまいたち」(新潮文庫・514円)

L「スナーク狩り」(光文社文庫・619円)

M「模倣犯(上)(下)」(小学館・各1700円)

N「ドリームバスター」(徳間書店・1600円)

  調子に乗ってたくさんあげすぎましたかねえ。でも彼女の著作はまだまだありますから、ほんの5分の1程度です(たぶん)。私が一番好きなのは@です。「超能力もの」の代表作でもありますが。ラストは泣けますよお。宮部さんは少年を描くのがうまい、という定評もありますが、その部分もしっかり味わえます。超能力といえば、ABもその仲間です。Aには3つの話が入ってますが、その中の「燔祭」という作品の後日譚を長編化したのがBです。Bは今売出し中の矢田亜希子主演で映画も製作されましたね(2年位前に)。Cは超能力とは違いますが、タイムスリップものです。なんと日本SF大賞を受賞してしまいました。DEは初期の名作。FGはほのぼの系とでも言いましょうか。特にFは大好きです。この続編をもう何年もの間心待ちにしています。双子の兄弟の会話が絶妙です。温かみのある話が好きな人におすすめ。HIは短編集です。JKは「時代物」です。だまされたと思って試しにどちらか読んでみて下さい。私も普段この手のジャンルは読まないのですが、宮部さんのは抵抗なく読めてしまいます。しかもおもしろい。「時代物」プラス「超能力もの」という作品もいくつかあるんですよ。Lはめずらしくサスペンスタッチ。一気に読みたくなります。Mは昨年のベストセラーです。SMAPの中居くん主演で映画が6月に公開されるようですが、中居くんの演じるキャラクターって主役だったのかなあ…。本を読んでいる時にはそう思わなかったのだけど。主役は老人と少年だと思ってました。上下巻合わせて1400ページもある大作ですので読む時にはそれなりの覚悟がいるかも。最後のNはファンタジーです。(一昔前は「SF」と言っていたはずですが)宮部さんは「模倣犯」で現実世界を描くことに少し疲れたらしく、しばらくファンタジーを書いていくつもりらしいです。Nはそのシリーズ第1作目ということで、これからどんな展開になっていくのか楽しみです。

 

(2)「乃南アサ」の短編を読め!

 この人もたくさんの本を書いています。武内先生の趣味で図書室に既に置いてあるという話なので、私などの出る幕ではないような気もしますが、ポイントをしぼって紹介してみましょう。前項の宮部みゆきもそうですが、この人も直木賞を受賞しています(宮部さんは「理由」、乃南アサは「凍える牙」で)。私の偏見かもしれませんが、直木賞をとった作品はそれほどでもなくて、それ以外に名作はたくさんある(宮部さんも乃南さんも)ような気がして

います。乃南アサの魅力は一言で言って「短編の切れ味」です。もちろん長編にもおもしろいものはありますが、私にしてみれば彼女は「短編の名手」です。ほとんど文庫化されているので、高校生でも入手しやすいですよね。

 @「トゥインクル・ボーイ」(新潮文庫・438円)

 A「家族趣味」(新潮文庫・476円)

 B「団欒」(新潮文庫・438円)

 C「花盗人」(新潮文庫・438円)

 D「氷雨心中」(幻冬舎文庫・553円)

 E「不発弾」(講談社文庫・495円)

もちろんこの他にも短編集はありますが、印象深いのはこのあたりです。実は乃南アサの作品でまだ読んでいないものも多いので、あまりえらそうなことも言えた立場ではないのですが、上にあげた作品は自信を持っておすすめします。ここではあまり多くを語りませんので、

まずは手にとってみてください。

 

(3)「山本文緒」の新作が早く読みたい!

   実はこの人も直木賞作家です。受賞は1年ほど前だったかな。3年くらい前に、私が愛

  読する「本の雑誌」の中で北上次郎氏が絶賛していたのに興味を覚えて、読むようになりま

  した。もともとジュニア小説といいますか(最近はティーンズノベルとか言うらしい)集英

  社のコバルト文庫で活躍していた人なんですよね。その時代の作品はほとんど読んでいませ

  ん。タイトルを変えて角川文庫で出した「チェリーブラッサム」と「ココナッツ」(この2

  作は続き物です)はなかなか良かったですが。この人の著作のほとんどは文庫化されていま

  す。今回の(1)(2)の2人はミステリ畑の人ですが、この人の場合は、「普通小説」も

  しくは「恋愛小説」ですね。5年くらい前まではこのジャンルには手を出さなかった私です

  が、最近は何人かのお気に入り作家ができました。

 @「パイナップルの彼方」(角川文庫・480円)

 A「眠れるラプンツェル」(幻冬舎文庫・533円)

 B「群青の夜の羽毛布」(幻冬舎文庫・571円)

 C「あなたには帰る家がある」(集英社文庫・724円)

 D「絶対泣かない」(角川文庫・438円)

 E「紙婚式」(角川文庫・533円)

 F「シュガーレス・ラヴ」(集英社文庫・457円)

 G「落下流水」(集英社・1400円)

 H「プラナリア」(文藝春秋・1333円)

私が最初に読んだのはTVドラマにもなった「恋愛中毒」だったと思います。前述の北上次郎氏がかなりプッシュしていたので、「彼がそこまで言うのなら…」と買ってみました。たしかにおもしろかったけど、そこまですばらしいものかなあという疑問も少し残りました。

というわけで上のリストからはあえて外してあります。まあ、文庫化されてから読んでも遅くはないかなあと思います。ちなみにドラマでは薬師丸ひろ子(関係ないけど、私と同い年)

が主演していましたが、ちょっと小説のイメージとは合わない気がします。室井滋あたりの方がしっくりくるような気がするのですが…。前置きが長くなり過ぎました。@〜Cは長編です。普段この手の小説に縁がない人でも、すんなり作品世界に入っていけるものばかりだと思います。手にとってみてフィーリングの合いそうなものから読んでみてください。私としては特にCが印象的でした。「結婚」というものについて深く考えさせられました。D〜Fは短編集。乃南アサとはまた違った味わいがあります。特にDがおすすめ。「15の職業をめぐる15人の女性を描いた作品群」ということです。長編を読むだけの時間もしくは気持ちの余裕がない人はDあたりから読み始めるのがいいかもしれませんね。きっと他の作品も読みたくなるはずですから。Fもテーマがなかなかおもしろい。”便秘“”アトピー性皮膚炎“”睡眠障害“など仕事や恋愛に悩む女性たちが抱える「ストレス性疾患」を各短編で取り上げています。Gは私の学校の図書室から借りて読みました。知名度を上げた「恋愛中毒」の次に出した作品です。私は「恋愛中毒」よりもこちらの方が好きですね。1人の女性を主人公にした連作短編集といったつくりになっているのですが、1章ごとに10年が経過していくというところがユニークです。7歳に始まり、67歳で終わっています。一風変わった長編といえないこともないかな。Hは直木賞受賞作ですね。これも実は短編集です。「働かない女性(いわゆる無職)」をテーマにしているようです。私としては一番最後に収録されている話が気に入っています。山本文緒にはめずらしく男性の視点で書かれているのが新鮮でした。ということで紹介してみましたが、彼女の新作がしばらく出ていません。直木賞受賞以来。受賞のプレッシャーもあるのかもしれませんが。雑誌に連載しているのはあるのですが、もう1年以上新刊は出ていないのです。いくらなんでも今年こそは1冊か2冊は出してくれるだろうと期待している今日この頃です。

 

(4)「恩田陸」のSFが好きです

   武内先生情報では、新得高校の図書室の常連さんには恩田陸の大ファンがいるそうですね。

  図書室に入った5冊の本が何だったのか私にも興味がありますが、私が彼女の作品に出会ったのは、まだ新得にいた頃のことです。出会いの本は「光の帝国」です。「幻魔大戦?」と連想した人は30代以上でしょう(笑)。何で知ったかというと、「SFマガジン」(という月刊誌が昔からあるのです)の年間ベスト10でいきなり2位にランクインしているのを見て、「これは読まねばなるまい」と思い、早速購入して読んでみたところ、泣きたくなるくらい素晴らしかった!ある地方出身の超能力者たちのさまざまな生き方を描いた連作短編集で、一つ目の話(「大きな引き出し」)なんて涙腺がかなり刺激されましたね。この中に入っている短編を長編化していくという構想があるというのがまた楽しみで。「青春と読書」という書籍のPR誌に「蒲公英草紙〜常野物語2」を少し前まで連載していましたので今年中には単行本化されることでしょう。非常に楽しみにしております。あと「光の帝国」の中の「オセロゲーム」という話も個人的には長編化を希望しています。それから、わりと最近NHKドラマにもなっていましたが、見た人の話では原作とはかなりかけ離れたものだったそうです。私はそんなことだろうと思って、最初から見ませんでした。テレビではうまく映像化しにくい世界だと思いますので。

   というわけで、私と恩田陸との出会いは「SF」でした。デビュー当時は「ホラー」という区分だったようですが、彼女の場合あまりジャンル分けにこだわっていないような気がします。ここ数年「SF」として売ると「売れない」という傾向があって(「SF冬の時代」なんて言葉もありました)、前述の「光の帝国」も「ファンタジー」として売っていましたが、私に言わせればあれは純然たるSFです。昔からSFを愛してきた人間として自信を持って断言できます。最近でこそメジャーになった(といっても宮部みゆきの知名度にはまだまだ及ばない)彼女ですが、私が読み始めた4年ほど前は、書店での扱いも小さく、なかなか手に入らない本もありました。新得にいた頃、出張で大分県に行く機会があって、自由時間に商店街を散策していた時、たまたま入った古本屋で、札幌の大きな書店では手に入らなかった恩田陸の本を見つけたというエピソードもあります。たしか「不安な童話」という本です。かなりあちこちの本屋(古本屋も含め)を回っても見つからなかった本だけに、心の中で「ラッキー!」と叫んだのを覚えています。デビュー作の「六番目の小夜子」が最初に出版されたのは今から10年前なのですが、しばらく絶版になっていてなかなか手に入りませんでした(これもたしかNHKでドラマ化されたけど見てないなあ)。「光の帝国」が出て1年後に、大幅に加筆修正された後に出版されたのを買って読みましたが、私はあまりピンときませんでした。それなりにおもしろかったけど、「光の帝国」のインパクトが強すぎて、「あの感動をもう一度…」という期待感に答えてくれるものではなかったのです。ファンの評価は高い作品ですけどね。そんな私が選んだおすすめ本は以下の通りです。

   @「光の帝国〜常野物語〜」(集英社文庫・495円)

   A「月の裏側」(幻冬舎・1800円)

   B「ネバーランド」(集英社・1500円)

   C「ドミノ」(角川書店・1400円)

   D「図書室の海」(新潮社・1400円)

  @についてはもういいですね。Aは恩田ファンの中ではあまり評価されていないような気もしますが、ホラーというよりはこれもSFなので私はその肌触りが好きです。九州のある都市に住む人たちが徐々に「人間もどき」にとってかわられてゆく、という話です。結末にやや物足りなさを感じますが、読み応えはありますよ。こんなことを言うと恩田ファンに怒られるかもしれませんが、彼女の長編には共通して「結末の物足りなさ」というのがあるような気がします。途中までは「どうなるんだろう」と思いながらわくわくして読むのに、最後

  になると「え?これで終わりなの?」という気持ちになってしまう…。私だけでしょうか?

  たぶん新得高校の図書室にもあるであろう「三月は深き紅の淵を」や「麦の海に沈む果実

  などのファンの評価が高い作品においてもそれを感じました。幻冬舎文庫で出ている「上と外」(全6巻)もそうでした。読者の期待感をあおるのはピカイチだと思うのですが。BとCはそんな物足りなさは感じなかった作品です。Bは昨年テレビドラマにもなりましたね。原作をどのくらい尊重していたのかは見ていないのでわかりません。Cは恩田さんの新境地とも言われたユーモアタッチの作品です。ちょっと戸梶圭太に通じるものもあるような気もします。Dはこれを書いている時点では最新作です(今年の2月に出版されています。でも4月中旬にまた新刊がでるらしい)。本の腰巻(帯とも言いますが)に書いてある文句が「恩田陸が罠をはり巡らせた10の迷宮」「恩田ワールドの玉手箱」というもの。小さな字でMystery/Horror/Science Fictionという言葉も印刷されています。いくつかのアンソロジーに収録されているものや書き下ろしを含む短編集です。私にとってはこの中の「イサオ・オサリヴァンを捜して」を読めただけで、この本を読んだ甲斐があったというものです。巻末の著者あとがきに書いてあるのですが、「大長編SF『グリーンスリーブス』の予告編として書いたもの」らしい。「光の帝国」ファンの私としては胸が高鳴ります。

  ・・・と前の文を書いてから早3ヶ月近く経ってしまいました。その後「劫尽童女」というSFが出ましたね。実は今読んでいるところです。キングの「ファイヤースターター」という小説を連想させるストーリーですね。(キングの方は実際に読んだことはないんですが)

  8月には「ロミオとロミオは永遠に」という本が早川書房から出ます。数年前にSFマガジンに連載された小説です。今年の恩田陸はSFよりかな?もしかしたら「常野物語2」の出版も冬くらいにはあるかな、と大いに期待している今日この頃です。

(5)「唯川恵」はいかがでしょう?

   この人の本のほとんどは今年になって初めて読みました。というよりも、3月に15冊ほど集中的に読みました(実はこの3月には本を30冊読んだのですが、そのうちの半分が唯川恵ということになります)。最初に読んだのは5年ほど前で、「ホラー短編集」という

  紹介に心魅かれた「めまい」という本です(作者は恋愛小説のつもりで書いたと述べていますが)。これはなかなか良かった。その翌年に出た「病む月」という短編集も読みました。それ以外の(そしてこの人の作品の大半を占める)恋愛小説はまったく読んできませんでした。山本文緒を読むようになってからは、唯川さんのもいろいろ読んでみようかと思って手にとってみたこともあるのですが、なんとなくまた棚に戻してしまう、という感じでした。

  そうこうしているうちに、昨年の秋に「肩ごしの恋人」(マガシンハウス・1400円)という本が出て、これを北上次郎氏が絶賛していました。その書評を見て、読んでみたくなり本屋で見るたびに買おうかどうしようか迷っていました。そんな中、今度はその「肩ごしの恋人」で直木賞を受賞してしまいました。こいつはやはり読んでみなくちゃと思い、2月の終わりになって文庫の新刊として出た「イブの憂鬱」という本を買いました。これが思ったよりおもしろくて、ほかの本も読んでみたくなり、手当たりしだいに15冊・・・というしだいです。買ったけどまだ読んでいないという本もまだいくつかあるのですが、今まで読んできた限りでは、山本文緒と同じような領域で勝負していながら、その肌触りはかなり違うかなあ、という印象を持ちました。長編については描かれている世界が類型的で、良くも悪くも「金太郎飴」ならぬ「唯川飴」という気がします。コバルト文庫が好きでたくさん読んできた人には違和感なく入っていけると思いますが。この人も山本文緒同様にかつてコバルト文庫で活躍していましたので。女性向けのエッセイもたくさん書いていますが、私としてはそちらは1冊読めば十分という気がしました。で、最近出た結論:「唯川恵には短編をどんどん書いてほしい!」ごく最近読んだ短編集「ため息の時間」で痛切に思いました。ということでまた前置きが長くなりましたが、おすすめをリストアップしてみましょう。

   @「イブの憂鬱」(集英社文庫・457円)

   A「めまい」(集英社文庫・476円)

   B「ため息の時間」(新潮社・1400円)

  厳選して3冊。その代わりどれもおもしろい。あえて直木賞受賞作は外しました。学生さんはお金がないので、自分で買うなら@Aだけにして、Bは図書室にでも入れてもらってください。@はこの人の長編の中にはよく出てくるシチュエーションなのですが、いろいろ読んだ中で、これが一番後味が良かった。前向きな気持ちになれます。Aは前述の通り、ホラー系短編集。つい最近文庫化されたばかりです。Bは昨年の夏に出た本ですが、なかなか本屋では手に入らなくて、実はヤフーオークションで入手しました。これは掘り出し物でしたねえ。「肩ごしの恋人」よりも好きです。ちょっとホラーめいた話もあり、コミカルな話もあり、しんみりした話もあり。この人には珍しく男性の視点で(すべての短編が)書かれているというのもなかなかいいのです。私などが言うのはおこがましいけれど、この人は長編よりも短編に才能があるのではないか、という気がします。長編に比べて短編集が少ないのが残念ですが。「なぜこの人が直木賞をとったのかわからない」と批判する人々も少なくないのですが、ここ5年以内の作品は一皮むけてきているようなので、今後、大化けする可能性もあるのではないかと思っています。

 

(6)「村山由佳」の今後にも期待できそう!

   この作家ともごく最近のつきあいです(まるで個人的な知り合いであるかのような書き方ですが)。山本文緒・唯川恵に続いてまた北上次郎氏の書評がきっかけでした。昨年の暮れに出版された「すべての雲は銀の・・・」を読んでみたところ、これが実におもしろかった!

  「本の雑誌」2002年1月号に掲載された北上次郎氏の紹介記事を引用すると、「主人公は大学3年生の祐介。失恋したばかりでまだ心の傷が癒えない。そこに、信州の宿に短期バイトに行かないと親友から誘いの電話がかかってくるのが物語の始まり。ようするに、そのアルバイト先でさまざまな人と知り合い、彼が成長していく青春小説」ということです。「人物造形が絶妙なのである。だから、よくある話と言ってしまえばそれまでのドラマであるのに、一つづつが胸にしみていく」とも書いています。「これほど素晴らしい小説を書く作家の作品を読んでこなかったことを深く反省する」とまで書かれてしまうと、読まずにはいられませんよね。で、今年の3月に読んだところ、予想以上に面白かった!これはほかの作品も読んでみようと、近所の古本屋で買いあさって7冊ほど読んでみましたが、この作品を超えるものにはめぐり合えませんでした。全作品を読んだわけではないのですけどね。ただ、「おいしいコーヒーの入れ方」というシリーズものは読みやすくておすすめです。6冊あるうちの3冊しか文庫化されていなくて入手しにくいのが難ですが。というわけで今回は以下の2冊を。

   @「すべての雲は銀の・・・」(講談社・1800円)

   A「キスまでの距離〜おいしいコーヒーの入れ方T」(集英社文庫・381円)

  @については上述の通りです。決して損はさせません!Aはかなり軽いタッチの学園ものですが、この先はどうなっていくのかなと、気になる話です。

 

 

(7)番外編

   第1回で紹介した乙一と石田衣良の新刊が非常に良かったので触れておきましょう。

    @「暗いところで待ち合わせ」(乙一・幻冬舎文庫・495円)

    A「スローグッドバイ」(石田衣良・集英社・1500円)

   @はこの人の最高傑作ではないかと私はひそかに思っております。盲目の女性(ひとり暮らし)の家に、殺人事件の容疑者が忍び込んで・・・という設定ですが、人と人とのつながりというものについて深く考えさせられましたねえ。ぜひ読んでみてください。Aはこの作家初めての短編集です。「池袋ウエストゲートパーク」シリーズも短編集ではありますが、

  あれは連作短編集ですからね。今回のはつながりのない短編集です。こういう本を直木賞候補にしてほしいなあと強く思います。

 

 

・・・ということで、今回はここまでです。すいません、「2ヶ月に1回」という依頼だったのですが、前回送ったのが3月の初め、今回は6月の末、ということで3ヶ月以上のブランクになってしまいました。書き始めたのは3月下旬で、今回の原稿の3分の2くらいは4月にはできていたのですが、あと少しあと少しと思っているうちに、ずるずるとこんな時期になってしまいました。ほんとはあと2人くらい書きたい人がいたんですが、それを書いているとまた来月になってしまいそうなので・・・。次回のテーマは未定です。「もっと多くの人に読んでもらいたい作家」というテーマもいいかなと。直木賞はとったけど、高校生にはあまり読まれてなさそうな重松清あたりを筆頭にして、佐藤正午とか荻原浩などについて

  書いてみようかなとぼんやり考えています。次回のお届けは、たぶん夏休み明けになるかと。

  ではまた。


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