本書は、1983915日に都市文化社から出版した本ですが、その後、絶版になって
いるので、内容を現在2009.8.15の法律・税制に適合するように改め、ホームページで公開することにしました。
全部を一度に掲載する時間の余裕が無いので,順次掲載していく予定です。
 
 目次
第1部
円満に相続するための法律知識
1 相続とは
2 だれが,どれだけ相続するのか
3 法定相続分はどのようにきめられているか
4 どういう人が相続人になれるのか
5 いっしょに財産を築き守った相続人には 特別の寄与分
6 被相続人も自由にならない遺留分
7 借金しか残りそうもないときは 相続の放棄か限定承認
8 遺産を分割するための手続きは
 
 
第2部
税金を安くする法
1 一般大衆も相続税に無関心ではいられなくなった
2 どれだけの遺産があれば相続税は課税されるか
3相続税はどのようにして計算するのか
4 配偶者には特別の軽減措置
5        未成年者や障害者には特別の控除
6 10年以内に引き続いて相続が生じたときは特別の控除
今回は、ここまで 2009.8.21
7 毎年の贈与で相続税を安くする方法・
8 贈与税の配偶者控除を利用して相続税を安くする方法
9 相続人以外の人が遺贈などを受けたときの相続税は割増し
10 相続税の対象となる財産の範囲と評価
11 土地の評価が相続税のポイント
12 控除される債務と葬式費用の範囲
13 事業をしていた人の相続財産の評価
14 相続税をおさめるにあたって

T. 相続とは

 

1.相続は死亡したときにはじまる

 

 相続というのは,死者の財産を相続人が受け継ぐことです。

 戦前には,「家督相続jといって,戸主が生きているうちに

隠居して,戸主という身分上の地位と一切の財産を長男など

特定の人に受け継がせる制度がありましたが,戦後になって

この制度は廃止され,被相続人の死亡によってのみ,相続が

おこるようになりました。

 

2.財産上の一切の権利・義務を引き継ぐのが相続

 

 私たちは,なにげなく「相続する」とか「相続した」とか

いう言葉を使っていますが,いったい,なにを相続するので

しょうか。

 それは,死亡した人(被相続人)の財産に属していた一切

の権利と義務です。

 死亡した人の財産というと,目に見える物としては,現金,

家財道具,家屋,土地などがあります。また,目に見える物

に姿を借りているものとして,預貯金,債券,株式,電話加

入権などもあります。また,物品を買って代金を支払ったが,

まだその品物を受け取っていない場合には,その品物を引き

渡せと請求する権利もあります。

 こういうものが,被相続人の財産に属していた一切の権利

です。

 これと裏腹に,被相続人が借金をしている場合もあります。

月賦の未払い残金があることもあります。また,貸家をして

いて,借家契約期間中,その家屋を貸さなければならない義

務を負っていることもあります。

 こういうものが,被相続人の財産に属していた一切の義務

 にあたります。

  相続するということは・被相続人が死亡した瞬間に,相続

 人が,これらの一切の財産上の権利と義務とを,ひとまとめ

 にして引き継ぐことなのです。相続とは,被相続人の財産上

 の地位を相続人がセットにして引き継ぐことだといわれてし、

 ます。

 

3.死亡した者の一身に専属するものは相続されない

 

  しかし,こういう財産上の権利・義務でも,被相続人の

一身専属的なものは,相続されないことになっています。

 民法では,親子,祖父母,孫などの直系血族や兄弟姉妹は,

互いに扶養する義務があると定めています。これによって,

生活能力のない妹を兄が扶養していて,妹が死亡したとき,

その相続人である妹の娘は,その扶養を受ける権利を相続す

るものではありません。扶養を受ける権利は,その人一身に

属するものだからです。

 このことは,同様に,扶養する義務も相続されないという

ことです。扶養する義務も一身専属的なものだからです。

 また,身元保証」というようなものがあります。会社で社

員を採用するとき,身元保証人をたてさせることが,いまで

も多く行なわれています。その社員が使い込みをしたような

とき,身元保証人に弁済させるという制度です。銀行の女子

行員のあの有名なつまみ食い事件でも,身元保証人になって

いた伯父が,銀行に対して弁済しています。

 身元保証人というのは,このように,保証された人間が,

将来,予想もつかないようなことをしでかしたことまで責任

をもつという性質のものです。そこまでの責任をもつという

ことは,保証する者と保証される者との間の・個人的な深い

信頼関係があって,はじめて成り立つもので丸

保証人が死亡して相続人となった者と保証される者との間

,それほどの信頼関係がないのがふつうでしょう。こうい

うものも,一身専属的なもの,相続の対象にはなりません。

 なお,戦前の家督相続の時代には,家督相続人は,前戸主

の財産を相続するとともに,戸主という身分上の地位も相続

していました。たとえば,戸主という地位にもとづいて・家

族の一人ひとりの居所を指定する権利などです。

 現在では,こういう戸主というものはなくなっていますの

,相続によって相続されるものは,被相続人の一身専属的

なものを除く,財産上の一切の権利・義務だけということにな

ります。

4.先祖の祭祀は相続とは別

 

 ところで,相続から除かれるものに,系譜,祭具および墳

墓というものがあります。

 先祖の名を伝え,先祖を祭ろうという意識は,戦後かなり

薄れてきましたが, 先祖を祭るということは,ある意味では,

人間の根元的な欲求とみられないこともありません。

 ある人類学者の報告によれば,エジプトのナイル河上流地

域の遊牧民の間で,幽霊婚(ゴースト・マリッジ)という慣

習があるそうです。ある男が相続人を残さずに死んだ場合,

その男を祭ってくれたり思い起こしてくれたりする人がいな

くなるので,その男の父や兄弟が,その男に代わって,その

男の名前で正式な婚礼の式をあげ,嫁をもらいます。そして,

その間に生まれた子供は,その男の相続人となり,その男を

親として祭るということです。これは女の場合も同様です。,

 それはともかく,戦前の家督相続の時代には,家督を相続

する者が,先祖の祭妃を引き継ぐということになっていまし

た。しかし,現在では,この祭祀は,相続とは切り離されて

います。

 したがって,これに関する系図,祭祀のための道具,墓石

や墓地などは,相続人でなくても,祭祀を引き続いて主宰す

ると定められた者が承継することになっています。

 祭祀を主宰する者は,まず,被相続人の指定で定まり,

その指定がなければ,その地方の慣習により,その慣習も明ら

かでないときは,家庭裁判所がきめることになっています。

 被相続人が事業や農業などをしていたときには,その事業

や農業などの後継者などが,祭祀の主宰者となる例が多いよ

うです。

 墓地なども,最近ではかなり値上りしていますレ,また,

祭具などにも相当高価なものがありますが,これらは相続財産

とは別のものですから,相続人の一人が祭祀の主宰者となって

これらを承継した場合でも,これらを相続財産から除外

した残りを相続の対象として分割することになります。

 また,先祖の祭祀をするためには,物心両面でかなりの負担が

かかるわけですから,被相続人がそれに関して特別の遺贈をする

ことも認められています。しかし一般には,被相続人の死後,

相続人が協議して祭祀の主宰者をきめることになるでしょう。

そういう場合に・その主宰者になる相続人に、それ相当の遺産を,

他の人よりも多く分割するということも,将来の親族関係を円滑

にするためには,必要なことでしょう

 

2. だれが、どれだけ、相続するか

1.遺留分を除いては,死亡した人の自由

 現在の日本の民法では,自分の財産は自分で自由に処分で

きるようになっています。一代で財産を築きあげたあと,

大尽遊びをして,その全部を浪費してしまっても,だれも文句

をいえません。これは,自分で稼いだ金だけでなく,先祖か

ら受け継いだ財産でも同じで,これを勝手に使いはたしてし

まってもかまわないということです。

 そして,相続についても,まず相続をされる被相続人が,

一応は,だれにどれだけ相続させるかをきめることができる

ようになっています。

 しかし,相続についてだけは,財産をもっていた被相続人

の処分の仕方に,法律が口を出すようになっています。

民法では,法定相続人」というのを定め,被相続人が死亡

したとき,どういう人が法定相続人として残されているかと

いうような状態と関連させて,法定相続人が要求できる最低

の取り分をきめています。これが「遺留分」といわれているも

ので、この遺留分を除いては・被相続人が・だれにどれだ

け遺産を譲ろうが自由です。

 とはいっても,被相続人が,自分が死んだ後で相続人を集

めて指図するわけにはいきませんので,死ぬ前に「遺言(

ごん,一般には,ゆいごん)で指示しておくか,生前に贈与

しておくか,どちらかの方法がとられます。

2.遺言もなく,相続人の協議もまとまらないときは

 しかし,生前の贈与には多額の贈与税が課せられますので

,生前贈与があったとしても,それは財産の一部にすぎないのが

一般です。

 また,現在の日本では,遺言が残されている例も,なぜか

あまり見受けられません。そういう場合には,相続人が協議

して遺産を分けて相続することになりますが,その協議がと

とのはないときのために,法律で「法定相続分」というのを                                      

定めています。

 

3.相続分どのようにきめられているか

 では,法定相続人が法定相続分で相続するときの各人の取

り分はどのようになるのでしょうか。

これについては,

鵜野和夫のホームページの

[相続税路線価の閲覧とその計算方法と相続税の解説]

で図表で示して説明してありますので読んでださい。

.どういう人が相続人になれるか
 

 相続人になれるのは

 相続人になれるのは、上記で説明してきましたように、配偶者・子・親などの

直系尊属と兄弟姉妹,それから子が死亡などしている場合に代襲相続人となる

直系卑族(,ひ孫など)と兄弟姉妹の代襲相続人となるその子(おい・めい)です。

 しかし,たとえば「子」といっても,実子あり,養子あり,連れ子あり,里子ありなどと,

家庭によってはなかなかと複雑なものです。

 

 ここでは,どういう人が相続人になれるのかを,もう少し、くわしく見てゆくことにします。

 

 婚姻届を出していなければ配偶者ではない

 配偶者は,つねに相続人になるということを説明してきました。

では,どういう人を配偶者というのでしょうか。

 それは,婚姻届を提出している関係にある夫または妻のことです。

 神前で結婚式をあげ,一流ホテルで親類縁者を招いて華燭の典をもよおし

、家庭を築いて子までなし,近所の人から,"奥さん"``だんなさん"と呼ばれ,

永年連れ添い,世間の人はだれ一人として夫婦であることを疑わないような

夫婦関係を続けてきても,婚姻届が出されていなければ配偶者ではありませんから,

相手の遺産を相続する権利はないということになります。

まして,世にいう愛人関係,妾関係で相続権がないのは,いうまでもないことです。

 また,これと同じ理由から,離婚訴訟中に一方が死亡すれば,その相手方は,

まだ配偶者であるわけですから,配偶者として相続できるということになります。

 

 実子には嫡出子と嫡出でない子とがある

 相続人となれる子というのには,法律上の親子関係にある

者が、すべて含まれます。

 まず,実子があります。実子というのは,親から生まれた,

肉体的なつながりをもった子のことです。実子であれば,

に行っていても,他に養子に行っていても,実子として相続

することができます。

 ただ,母親とその腹から生まれた子との関係は,それが事

実であれば,だれも否定のしょうがないのですが,父親と子

の関係となると,それがはたしてその父親のタネであったの

かどうか断定できない場合もあります。それで,民法では,

妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定することにしてい

ます。

 もちろん,"推定する"というだけのことですから,夫がそ

うでないということを証明すれば,これを否認することもで

きます。そうなれば,その子は実子でもなんでもありません

から,'母の夫である人の遺産相続とは,まったく関係がなし、

ということになります。しかし,こういうことはごく珍い、

例といえるでしょう。

 これと反対に,婚姻関係のない男女の間で子が生まれるこ

とも,よくあることです。そして,その子を父親が認知すれ

,その子は父親の実子ということになります。しかし,

の子は「嫡出でない子」として,その相続分は嫡出子の2分の1

にななります。

 なお,子は,父または母が死亡してから3年までの間なら,

いつでも,父親に対して認知をするよう請求できるようにな

っています。父親が死亡しているときは,その相続人に対し

て認知を求めることになります。

 

養子に行くと養父母,実父母両方の遺産を相続できる

 養子,実子とまったく同じ権利で相続人となることがで

きます。したがって,その者は,養子として養父母の遺産を

相続できると同時に,実父母の遺産も,その実子として相続

できることになります。

 なお,実父母と実子との関係は,生涯これを切ることので

きない関係ですから,相続人となる権利についてもかわるこ

とはありませんが,養父母との関係は,離縁すれば他人の関

係にもどりますから,その後は相続には関係しないというこ

とになります。

 

「わらの上からの養子」は実子でも養子でもない

 

 養子に似ているものに,俗に「わら(藁)の上からの養子」とい

うのがあります。これは,出生後間もない子を養子とするとき,戸籍

に養子と記載されたくないため,養父母が生んだ実子として届出て,

戸籍にもそのように記載されている者です。

 こういう場合,まさに"わが子同様に可愛がって育ててきたので

しょうが,実際は実子でもなく,また,法的な手続きをとっていない

ので養子でもありません。したがって,法律上の相続権はまったく

ありません。

 事実上の養父母に「わらの上からの養子」のほかに子がな

,被相続人に兄弟姉妹がいるような場合,その養父母の死

,兄弟姉妹のいずれかから,その実子関係が虚偽であると

否定されますと,その「わらの上からの養子」はなにも相続

できず,その相続分はそっくり被相続人の兄弟姉妹にとら.

てしまうということになってしまいます。

 こういう事態をあらかじめ避けようとすれば,「わらの上か

らの養子」とは親子関係が存在しないという訴えを起こして,

戸籍を訂正したうえで,あらためて養子縁組をしておく必要

があります。

 

実父母も養父母も同じ資格で子を相続

 「子」とはどういう者をいうかを,以上でくわしく説明し

てきました。一方,父母,すなわち親というのは,以上で説

明した「親子関係」にある者のことです。

 したがって,子が養子に行っている場合,養父母も実父母

もともに「父母」であり,その子に子のないときは,養父母

と実父母は,同じ資格で子の相続人となります。養父母と実

父母がともに生存していないときは,両方の祖父母で生存し

ている者が相続人になります。

 直系尊属の場合には,代襲相続というのはありません。し

たがって,被相続人に子がなく,そして被相続人の養父母が

死亡しており,養父母側の祖父が生存しており,また,実母が

生存しているというときに子が死亡すると,養父母側の祖父が

養父母の相続分を代襲相続するということはありませんので,

遺産の全部を実母が相続することになります。

 また,養父母にその養子のほかに実子がいても,この実子

が養父母の相続分を代襲相続するということもありません。

この実子は,養子の養父母系の直系尊属または実父母系の直

系尊属がだれも生存していない場合に,兄弟として相続する

ことになります。

 

どこまでが兄弟姉妹か

 

 本人に子も,その代襲相続人もなく,また父母などの直系

尊属もいない場合は,兄弟姉妹が相続人となります。本人に

配偶者がいれば,その配偶者とともに相続人となります。

 兄弟姉妹というのは,本人の父または母の子です。父と母

とが同じ場合もあれば,父か母のどちらかだけ同じという場

合もあります。父と母というのは,養父や養母も含まれてい

ます。

 したがって,本人の父が後妻をもらって,父が後妻の連れ

子と養子縁組をすれば,本人と父の後妻の連れ子とは,兄弟

姉妹ということになります。

 また,養子に行ったとき,養父母に実子やほかの養子がい

れば,その実子やほかの養子とは兄弟姉妹になります。

 なお,父母の一方だけが同じ兄弟姉妹の相続分は`父母の双

方を同じくしている兄弟姉妹の相続分の2分の1となっています。

 

胎児も一人前の相続人

 

 ある人が死亡して相続が開始されたとき,まだ母親の胎内

にいて,この世に出ていない胎児が存在していることがあります。

 その胎児が,被相続人の子やその代襲相続人となる孫にあたる場合,

兄弟姉妹になる場合,あるいは,おい・めいにあたる場合が考えられ

ますが,いずれの場合も,胎児が生まれてきたら,相続がすっかり済ん

でいて,その子の取り分がまったくなくなっていたというのでは納得

できかねるということで,相続については胎児も一人前にあつかい,

上記のいずれの場合も,すでに生まれた者として処理することに

なっています。

 なお,死産したときは,もともといなかったということになります。

 

X。いっしょに財産を築き守った相続人には

  特別の寄与分

 

財産を守った子も,知らん顔の子も遺産は平等?

 

 戦前の家督相続の時代では,被相続人の子のうちの一人が

ほとんど全部の財産を相続し,ほかの子たちは,なにがしか

の生計の資をわけてもらってその家を去り,よそに生計の道

を求め・家督を相続した者が家にとどまり,家業を引き継ぐ

ということが一般に行なわれていました。

 また,このような慣習があったので,親は家督相続を予定

している子を,家にとどめて早くから家業を手伝わせ,次代

をまかせるに足るよう育てたものです。一方,その他の子に

は学資を出して専門教育を受けさせて独立の生計が立てられ

るようにし,あるいは分家する資金を分け与えて独立させ,

また,娘には嫁入りするときにそれなりの財産分けをしてい

ました。

 それが,戦後の民法(相続法)の改正によって,家督相続

制が廃止され,どの子も平等に相続する制度に変わりました。

 しかし,制度は変わったものの,この制度の転換があまり

にも大きく,急激であったため,被相続人になる親や相続人

になる子の意識や感覚が制度についていけない面がありまし

た。とくに,親と家業を引き継ぐ予定の子とは,遺言なり死

因贈与なりの積極的な法的準備をしないまま,親の死亡によって

相続の開始をむかえるということが,まだまだ一般的なようです。

 家業を継ぐ予定で親に協力し,親の財産を増やしたり,

なくとも,親の財産を減らすことのないように寄与してきた

子は,多分ほかの相続人もそれを認めて,自分が家業を承継

していくための遺産は譲ってくれるだろうと期待しているの

ですが,家を離れた子たちの意識は新民法の条文になじんで

いて,法律どおり平等に遺産を分けることを主張し,遺産分

割をめぐる争いも多くなってきていました。

 

特別の寄与をした子には寄与分が

 

 こういう場合でも,戦後の新民法施行直後から昭和30年代

くらいまでは,裁判所も平等相続を認める姿勢をとっていま

したが,昭和30年代の後半くらいから,遺産分割にあたり,

親に協力して家業の手助けをしていた子の寄与分を加味して

判断する判決が増え,昭和50年ごろには,寄与分を認める判

決が大勢を占めるようになりました。

 そういう社会の変化を背景として,昭和55年の改正で,寄与分

という制度が民法で規定され,被相続人の財産の維持や増加について

特別の寄与をした相続人に対して,遺産分割にあたって,通常の

法定相続分のほかに,この寄与分を加えてあげることになり,

昭和5611日以後に被相続人が死亡したものから,適用されています。

 

「特別の寄与」とは

 

 さて,一般の相続分のほかにこの寄与分を加えてもらうた

めには,被相続人の財産の維持や増加について特別の寄与を

した相続人でなければなりません。

 この「特別の寄与」というのは,ある相続人が,

 @ 被相続人の営んでいる事業に関して,労務を提供した

  り,財産上の給付を行なったりし

 Aまたは,病気にかかった被相続人の療養看護などをし

 Bあるいは,その他の方法によって

被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした場合のこと

をさしています。

 その相続人が,こういう寄与をしていなかったら,被相続

人の財産が現状より減っていたり,また,現状ほど増えてい

なかったであろうという場合に,こうした特別の寄与をした

相続人も,ぜんぜん知らんふりをしていた相続人も平等に相

続するというのでは,いかにも悪平等であり,実質的には不

平等です。そこで,特別の寄与をしなかった相続人の相続分

をけずって,特別の寄与をした相続人に加えてあげようとい

う制度です。

 

【労務提供・財産上の給付】

 

 個人企業などで,妻が被相続人である夫を助けていっしょ

に働き,売上げを伸ばして財産を増やし,その財産をすべて

夫名義にしておいたということがよくありますが,こういう

場合は,被相続人の財産の増加に特別の寄与をしたといえる

でしょう。

 もっとも,夫婦は相互に協力する義務がありますので,

の義務の範囲で,家事を切り盛りしながら,店の手伝いをし

ていたという程度では,特別の寄与とまではいえないでしょ

う。やはり,夫婦相互協力義務の範囲をこえて,積極的に働

いていなければならないでしょう。

 また,農家などで,年老いた親を助けて,相続人の一人が

農作業の大半を受けもち,そのおかげで農地を維持すること

ができたというような場合も,被相続人の事業に関して労務

を提供して,被相続人の財産の維持に特別の寄与をしたとい

うことになるでしょう。こういうことは,個人の中小企業の

場合にもよくあることです。

 もっとも,労務を提供しても,それ相当の対価一世間並み

の給料を親からもらっていたというのであれば,それはそ

れで清算されていますから,ここでいう「特別の寄与」とい

うのにはあたりません。

また,家業が傾きかけたとき,相続人の一人が自分の金銭

を提供して,家業をなんとか維持してきたような場合も、

被相続人の財産の維持について特別の寄与をしたということに

なります。

 

【療養看護】

 

病気の被相続人の療養看護について特別の貢献をし、その

ため付添人の費用など助かったというような場合なども

特別の寄与にあたりますが,夫婦の場合などは・相互の扶助

義務の範囲内ということで,特別の寄与にはあたららないことが

多いでしょう。

子の妻などが,自分の家庭生活をある程度犠牲にして、特別に

療養看護にあたった場合などが・この例にあたることになる

でしょう。

*       *       *

以上、いくつかの例をあげましたが、決してこれらに限定

されるものではなく,ともかく被相続人の財産の維持や増加

に特別に寄与したのであればその相続人に寄与分があたえ

られるということです。

 

寄与分が認められるのは相続人だけ,しかし……

 

 この寄与分が認められるのは,相続人に限られています。

内縁の妻は相続人ではありませんので,いくら特別の寄与を

していたからといっても,相続上の寄与分が認められること

はありません。

 しかし,その特別の寄与によって被相続人の財産が増加し

ているということであれば,その内の一部を自分の持分であ

ると主張して分割を求めるとか,相続人が原因なくして利益

を受けたことになるので,その不当利得の返還を請求するこ

ともできます。

 ただ,この場合それがどこまで認められるか,微妙な問題

が生じることも多く,往々にしてこの点が紛争の種になりま

すので,生前に遺言で遺贈してもらうなど,できるだけはっきり

させておくようにしておいてください。

 また,相続人の妻は相続人ではありませんが,その妻が

いっしょに農業に専念していたとかいう特別の寄与などがあれ

,これはその妻の夫である相続人の特別の寄与として,

与分を算定するようになっています。

 

寄与分はどのように算定するのか

 

 寄与分は,相続人が協議して定めることになっていますが,

その協議がととなわないときは,寄与をした者の請求によっ

,寄与の時期,方法およびその程度,相続財産の額,その

他一切の事情を考慮して,家庭裁判所が,これを定めること

になっています。

 では,具体的にどのようにして算定するのかということに

なりますと,いろいろな面を考慮しなければならず,一律に

こうだとはいえないところがあります。しかし,一応つぎの

ような考え方を基礎として算定していいでしょう。

 

寄与分のある場合の各相続人の遺産の算出の仕方は

 

  さて,法定相続分によって,遺産を分割するときには,

相続人が死亡したときの財産価額から,特定の相続人の寄与

分をまず控除し,その残りを相続財産とみなして,これを各

相続人の相続分に応じて分割することになっています。

 たとえば、相続人が妻と長男と次男との3人で,相続財産

の価額が25,000万円,次男の寄与分が5,000万円であるとする

,「みなし相続財産」は,

    (相続財産)   (寄与分)   (みなし相続財産)

   250,000,000円一50,000,000= 200,000,000

となり,これを法定相続分によって分割すると,

       (みなし相続財産)(相続分)

   妻       200,000,000円×1/2         =100,000,000

   長男     200,000,000円×1/4         = 50,000,000

   次男     200,000,000円×1/4         = 50,000,000

となり,次男の相続分は,この5,000万円に寄与分の5,000

円を加えた1億円円となります。

 

【労務提供をしていた場合】

 

 個人企業で,特定の相続人が労務を提供して,その事業に

協力していた場合は,

 ○その年齢,職務内容に応ずる一般の従業員を雇用してい

  たら,どれだけの給与を支給しただろうか

 ○その相続人が経営に関与していれば,それに役員として

  の報酬を加え

 ○これから,生計を一にしていたら,その生活費を控除し

   (給与を支給されていればその給与も控除します)

 

6.被相続人も自由にならない遺留

 

相続のきめ方は国や時代によって異なる

 

 遺産の分け方についての法制は,国によって,また,時代

によってさまざまです。被相続人の意思を全面的に認めて,

その意思どおりに相続させて,国がまったく介入できない制

度をとっていれ場合もあれば,被相続人の意思をまったく認

めず・国の認めた者のみに相続させる制度をとってる場合

もあります。

 

 たとえば,中世の英国の封建領土というのは,国王に対す

る軍役の義務を負担できる能力のある者を,国王が指定して

相続させる制度をとっていました。このような制度のもとで

は、被相続人が末子を可愛がっており,その末子に相続させ

たいと願っていても,その末子が幼年で軍役を負担する能力

がなければ・相続することを国王は認めませんでした。

 

 これに反して,鎌倉時代の日本では,相続のような家の中

問題には,政府(幕府)は介入しないという制度をとって

いました。

  「貞永式目」という武家の成文法を初めて制定した北条泰

時の時代に,ある御家人があり,その兄は,父が質入れした

土地をしばしば父のために買い戻すなどして,財産を維持し

てきたにもかかわらず,父は弟を溺愛し,その財産全部を弟

に譲ってしまいました。さすがにその兄もたまりがねて幕府

に訴えたのですが,相続のような家の内の問題に幕府は介入

できないとして,弟に相続を認めたうえで,その兄が幕府に

対する奉公が優れていたということで,執権泰時は,別の知

行地を兄に与えたという話が残っています。

 

兄弟姉妹以外の相続人には遺留分がある

 

 どのような相続の仕方を国が認めるかは,このように,

により,また,時代によってもさまざまですが,現在の日本

では,まず,被相続人が遺言なり生前贈与なりで,その財産

を自由に相続人やその他の者に譲ることを認めながらも,

定相続人に対する「遺留分」という制度をもうけ,この遺留分

だけは,被相続人の意思だけでは自由に譲れないようにしています。

 この遺留分というのは,被相続人の兄弟姉妹に対しては認められ

ていませんが,

@親などの直系尊属だけが相続人である場合は,

被相続人の財産の  1/3

Aその他の場合は,

被相続人の財産の  1/2

ときめられています。

 各相続人の法定相続分に上記の係数を乗じた分だけ遺留分となります。

 例えば、子だけ3人が相続人の場合には、各自、

  1/3×1/2=1/6

 が遺留分となります。

 

遺留分を侵す遺贈や贈与は減殺

 

 遺言による相続分の指定や遺贈によって・自分の遺留分が

侵害されているときは,減殺(げんさい)の請求」という手続き

をとって,自分の相続分を確保することになりますが,この場合の

遺留分の侵害の原因になるものに,このほか,死因贈与や一定の

生前贈与も含まれています。

 

 @ 被相続人は,遺言で,各相続人の相続分を,法定相続

  分と異なる割合で定めることができます。

 A被相続人は,遺言で,特定の相続人や相続人以外の特

  定の人や法人に,財産を「遺贈(いそう,または,いぞ

  う)することができます。この場合に,"どこそこの家と

  土地をだれに遺贈する"というのを「特定遺贈」といい,

   "財産の何分の一をだれに遺贈する"というのを

「包括遺贈」といっています。

 B被相続人は,生前の贈与契約で,``自分が死んだら,この

  家を贈与する"という契約をすることができます。

これを「死因贈与」といっています。

 C被相続人は,生きている間に,その財産を相続人や相

  続人以外の人や法人に自由に贈与することができます。

 

    これを「生前贈与」といっています。さらに,生前贈与

   のなかには,

   (ア):相続人が婚姻に際して財産分けの意味で贈与された

    もの,あるいは,独立して生計をたてるための資本と

    して贈与されたもの(これを「特別受益財産」といっ

    ています)

   (イ): 被相続人と特定の相続人とが,この財産を贈与すれ

    ばほかの相続人の権利に損害を与えることを知ってい

    て行なった贈与,または,贈与という形でなくとも,

    被相続人と相続人との間で,売買などの形で行なった

    取引で,その対価が不相当であって,実質的には上記

    の贈与と同じ性質のもの

   (ウ):(ア)と(イ)のどちらにも該当しないが,相続開始前(

    亡前)1年以内の間になされた贈与

   (エ):(ア)(イ)(ウ)のいずれにも該当しない贈与

   があります。

  以上のなかで,@AとBの(ア)(イ)(ウ)に該当するものを,相続

 財産に加えたうえで,@AとBの(ア)(イ)(ウ)によって,各相続人

 の遺留分が侵害されていないかどうかの判定をすることになっています。

 

遺留分の具体的な算定の仕方

 

 被相続人の死亡したときの積極財産が2億円,消極財産が

8,000万円あったとします。「積極財産」というのは,現金,

預貯金,家や土地,貸付金などのプラスの財産のことです。

また,消極財産」というのは,借金とか未払金とかいう債務

のことで,いわばマイナスの財産です。

 相続人として配偶者と長男と長女がいたとします。そして,

長女が結婚するときに4,000万円贈与していて,残りの全財産を長男

に遺贈すると遺言したとします。

 

 この場合の配偶者と長女とが侵害された遺留分を求めてみ

ると,つぎのようになります。

 まず,

(積極財産)(長女へ生前贈与)(消極財産)

200,000,000円十40,000,000円一80,000,000=160,000,000

をもとにして,

配偶者の遺留分を計算すると,

     (遺留分)(相続分)(配偶者の遺留分)

160,000,000円×1/2× 1/2 =40,000,000

 となり,配偶者の侵害された遺留分は4,000万円となります。

一方,長女の遺留分は,

       (遺留分)(相続分)  (長女の遺留分)

 160,000,000円×1/2×1/2×1/2  =20,000,000

となり,長女はすでに4,000万円の贈与を受けているので,

「長女の遺留分は侵害されていない」ということになります。

 

 つぎに,配偶者の遺留分を,長男の遺贈と長女の生前贈与

のどちらから減殺するか,ということになりますが,まず,

遺贈から減殺します。そして,それでも足りないときに,

前贈与から減殺することになうています。

 

 また,生前贈与が二つ以上あるときは,新しい生前贈与か

ら減殺され,生前贈与がなく,遺贈を受けた人が2人以上い

るときは,遺贈の価額に応じて減殺されることになります。

 なお,被相続人の債務などの消極財産については,法定相

続分に応じて負担することになっています。前記の例でいえ

ば配偶者は消極財産8,000万円の1/2,すなわち4,000万円を

負担しなければならないので,積極財産を8,000万円相続しな

ければ,遺留分は確保できないことになります。

 長女の場合の負担分はτ,2,000万円ですから,現状でも遺

留分は確保できるということになります。

 

減殺請求には時効がある

 

 減殺請求をする権利は,遺留分の権利者が相続の開始およ

び減殺すべき贈与なり遺贈があったことを知ったときから

1年以内に行なわないと,時効によって消滅し,また,遺留分

の侵害があったことを知っていても知らなくても,相続の開

始から10年たてば,その権利は消滅してしまいます。

 この請求は,口頭でしても有効ですが,ことがもめてきま

すと,裁判所の世話になることになり,結局,上記の期間内

に請求したかどうかが問題になりますので・配達証明付の内

容証明郵便で請求しておくのがいいでしょう。もっとも,

こまでコジレルようですと,なかなか素人の手にはおえない

ものですから,弁護士に相談することをおすすめします。

 

どうしても全財産を1人に相続させたいときは

 

 このように遺留分という制度があって,遺言によっても,

生前贈与によっても,全財産を1人の後継者に譲ることを保

証するのは,むずかしくなっています。また,生前の相続放

棄という制度もありません。

 しかし,どうしてもということで,他の相続人が同意して

くれる場合には,遺留分の放棄」という制度があります。

 被相続人の生前に相続人が遺留分を放棄するのは,当事者

間の申し合わせや私文書に記載していただけでは,効力は生

じません。

 かならず家庭裁判所に申し立てて,その許可を受けておか

なければなりません。裁判所は,その申し立てが相続人の真

意であるか,現行の相続法の理念からみて相当であるかなど

の見地から判断したうえで,許可を与えます。

 なお,この裁判所の許可を得ただけでは,なんの意味もあ

りません。特定の人に全財産を与えるむねの遺言をしておい

,はじめてこの許可が生きてくるのです。

 また,最近,配偶者が相続財産の1/2を取得すると,相続税

が大幅に節税できるため(2部参照),父親が亡くなった

段階で,長男に全財産を相続させる合意が全相続人の間で成

り立っている場合でも,父親の配偶者である母親に,遺産の

1/2をとりあえず取得させ,母親が亡くなったとき,その全部

を長男に相続させることも行なわれています。

 こういう場合に,将来のことを確実にするため,この段階

,他の相続人が遺留分の放棄の手続きをとっておくことも,

一つの方法でしょう。

               

7.借金しか残りそうもないときは

  相続の放棄か限定承認

 

借金だらけのときは相続を放棄

 生きているときは,かなりの財産もあり,裕福な暮しをし

ていたようにみえた人でも,死んだ後,財産をよく調べてみ

たら,実は借金だらけで,財産の全部を処分しても,まだ山

のような借金が残っていたという話も,けっして珍しいもの

ではありません。

 相続というものは,相続人が,被相続人の現金や家や土地

などの積極財産だけでなく,借金などの消極財産も包括的に

引き継ぐことですから,"家や土地は相続するが,借金は相続

しないよ"というわけにはいきません。

 しかし,被相続人の多額の借金を,なにがなんでも相続人

に引き継がせるのは,それはあまりにも残酷な話です。そこ

,「相続の放棄」という制度をもうけて,相続したくないと

いう法定相続人が,積極財産と消極財産とをセットにして,

相続を放棄すれば,その人は,はじめから相続人とならなか

ったものとみなされますから,この相続にはまったく無関係

ということになります。被相続人の債権者が借金の取り立て

に来ても,"私は知らないよ",涼しい顔をしていればよい

ことになります。

 相続人が何人かいるとき,1人だけ相続の放棄をすること

もできますし,また,全員が放棄してしまってもかまいませ

ん。全員が放棄してしまいますと,相続人がだれもいないと

いう状態になりますので,債権者などの利害関係人や検察官

の請求によって,家庭裁判所が相続財産管理人を選任し,

の管理人が相続財産を競売して,その代金を債権者に分配す

るなどして,借金の清算をすることになっています。

どうしたら放棄できるか

 さて,相続の放棄をするには,自分が相続人になったこと

を知った日(通常は,被相続人が死亡した日)から3か月以

内に,被相続人の住所地の家庭裁判所に,そのむねの申述書

を提出しなければなりません。

 また,それ以前に,その相続人が,被相続人の財産の一部でも

処分してしまったときは,その相続人は,単純に相続を

承認したとみなされて,以後,相続の放棄をすることができ

なくなります。さらに,相続財産を隠していたときも,単純

承認をしたものとされます。

財産と借金,どちらが多いか不明のときは限定承認

 被相続人の借金がかなりありそうだが,いくらあるかはっ

きりせず,また,積極財産もかなりあり,貸金や売掛金も残

っているようだが,それもきちんと返してもらえるかどうか

わからない。財産を引き継いでよく調査し,また,貸金の催

足などしてみないと,債務超過になるのか,借金を返しても

なお積極財産がかなり残るのか,いずれになるかはっきりわ

からない場合もあります。

 こういう場合には,「限定承認」という制度があって,積極

財産と消極財産あ調査をし,債務超過であれば,相続財産の

範囲内で債権者に弁済し,債務を弁済した後で財産が残れば・

それを受け継ぐ,一という方法がとれます。

限定承認の手続き

 限定承認をするためには,自分が相続人になったことを知

った日から3か月以内に,相続人全員が共同で,被相続人の

住所地の家庭裁判所に,被相続人の財産目録等を添付して,

限定承認をするむねの申述書を提出しなければなりません。

 これは,相続の放棄とちがって,かならず相続人全員でし

なければなりません。相続人のうち1人でも単純承認をした

いという者がいれば,ほかの相続人だけで限定承認をすると

いうわけにはゆきません。そういうとき,被相続人の借金を

負担したくないという人がいれば,その人は「相続の放棄」

をするしか道はありません。

 なお,相続人の1人が相続の放棄をした場合には,ほかの相

続人全員で限定承認の手続きをとればよいことになります。

 さて,限定承認を家庭裁判所が受理すると,家庭裁判所が

相続人のうちから相続財産管理人を選任して,清算にあたら

せることになります。

 このような手続きをするとなると,弁護士にゆだねなけれ

ばならなくなると思いますので,これ以上のくわしい手続き

の説明は省略します。

 

8.遺産を分割するためのてつずきは

 

遺産は,まず,相続人の共有に
 
 これまでは,だれがどれだけの遺産を相続する権利がある
かということを説明してきました。
                    、
 では,具体的に,どのような手続きで遺産を分けたらよい
かについて,これから説明していくことにします。
 さて,被相続人が死亡すると,その瞬間に相続が開始され
ることになります。そして,被相続人の財産は,相続人全員
で共有しているという状態に,まずなります。
 なにを共有するのかを,もう一度おさらいしてみましょう。
各相続人は,その相続人の相続分に応じて,被相続人のすべ
ての権利と義務を承継します。被相続人の残した現金も預貯
金も家や土地も,全相続人が相続分に応じて共有することに
なります。貸金などの債権を取り立てて取得する権利も共有
しますが,借金などの債務があれば,これを返済する義務も,
全相続人がそれぞれの相続分に応じて共有することになりま
す。
 また,被相続人が土地を売る契約をしていて,代金の一部
をもらっているが,土地をまだ引き渡していない段階で死亡
すれば,相続人は,その相続分に応じて土地を相続するとと
もに,残金を受け取る権利とその土地を相手に引き渡す義務
とを承継することになります。反対に土地を買う契約をして
いれば,相続分に応じて残金を支払う義務と土地の引き渡し
を受ける権利を承継することになります。
 ただし,被相続人がしていた身元保証とか扶養の義務とい
うような,被相続人の一身に専属する権利や義務は,相続の
対象からはずされます。
 
相続人全員が合意すれば自由に分割できる
 
 まず,相続人全員が協議して,どのように遺産を分割する
かを決定することになります。
 それは,被相続人の全遺産を,各相続人のそれぞれの相続
分に応じて,だれは現金でいくら,だれにはこの家と土地と
いうように,具体的に財産を分けて相続させるという性質の
ものです。

 

 
  ですから源則としては、その遺産の種類や性質,各相続
 人の年齢・職業・心身の状態や生活の状況など、その他一切
 の事情を考慮して,相続分に応じて分割することになります
が、相続人全員が合意すればこの原則にこだわることなく,
 極端なことをいえば,相続人の1人に財産の全部を相続させ
 ることも可能です。
  また,遺言がある場合でも,相続人の全員が(相続人以外
の受遺者があるときは,その受遺者も)合意すれば,遺言と
異なった形で遺産を分割することもできます。
 
だが,負債の分割には債権者の承認が必要
 
遺産分割に際しては,被相続人の借金などの債務も,だれ
が負担するかをきめますが,これはあくまで相続人の間の内
部的な取り決めであって,それだけでは債権者に対しては効
力は生じません。
 遺産がどのように分割されていようが,被相続人の債権者
,各相続人に対して,それぞれの法定相続分に応じて,
被相続人の借金などの返済を求めることができます。したがっ
,遺産分割協議できめた負担分のとおりにしようとすれば,
債権者の承認をとっておく必要があります。
 
分割協議でもらわないのと「相続の放棄」とは別
 
 遺産分割協議の結果として,遺産はまったくいらないとい
う人がでてくることもあります。このような場合にも,よく
「相続を放棄した」といっていますが,これは,法律でいう
「相続の放棄」とはちがいます。
 法律上の「相続の放棄」というのは,[7]で説明しました
ように,相続人になったことを知った日から3か月以内に,
家庭裁判所に申述書を提出していなければ,効力を生じません。
 こういう法的な手続きをとって相続の放棄をした場合には,
被相続人の積極財産を相続しないかわりに,消極財産である
借金なども負担しなくてよいことになりますが,"遺産分割の
協議でなにももらわないことにした"というだけでは,相続
人であることに変わりはありません。ですから,被相続人の・
借金などの負債は,財産をもらった他の相続人と同様に,
の法定相続分に応じて弁済する義務だけが残ることになりま
す。
 それがイやなら,法律上の手続きをとって相続の放棄をす
るか,前項で述べたように,特定の相続人が債務を負担する
ことについての債権者の承認を取っておかなければなりません。

 

相続人が未成年者のときは特別代理人

 相続人が妻と子という場合で,子の1人がまだ未成年者で
あるという場合があります。こういう場合,その子の母(
相続人の妻),子と同じく相続人であり,自分の利益と子
の利益が相反しますので,その母が子を代理することはでき
ません。家庭裁判所に請求して,相続人以外の者を子のため
の「特別代理人」として選任してもらって,その特別代理人
と他の相続人が協議することになります。
 子の中に未成年者が2人いるときは,それぞれの子につい
て別の代理人を選任しなければなりません。また,胎児がい
るときは,胎児が生まれるのをまって,特別代理人を選任し
,協議することになります。

協議がまとまったら,遺産分割協議書を

 このようにして,遺産の分割の協議が成立したとき,特別
に文書を作成しなくてもその協議は有効ですが,後日のトラ
ブルを避けるためにも,また,預金の引出しや土地・建物の
登記のときのためにも,「遺産分割協議書」を作成しておいた
ほうがいいでしょう。
 これには特別の様式はありませんが・その例を下掲の図表に示
しておきました。氏名は必ず本人が自筆で署名するとともに,
実印を押印して,印鑑証明書を添付しておくのがよいでしょ
う。

 
図表 遺産分割協議書の例
 
 
       遺産分割協議書
 
 平成X×年41日 財尾残志太の死亡により,共同相続人財尾為子,
財尾継男および別所嫁子は,被相続人の遺産について,次のとおり分割
することに合意する。
 
1 財尾為子は,次の遺産を取得する。
 (1凍京都××区××町××番  宅地 200平方メートル
 (2)同所同番所在 家屋番号××番  木造瓦葺2階建居宅 1
           145平方メートル 230平方メートル
2 財尾継男は,次の遺産を取得する6
 (1)東京都○○区○○町○○番  宅地(賃借権)15平方メートル
    (土地所有者 東京都○○区○○町××番 地所甲子太)
 (2)同所同番所在 家屋番号○○番  木造亜鉛鉄板葺店舗兼居宅1
           1100平方メートル 280平方メートル
 (3)○○銀行の定期預金債権   '       ,   1
 C財尾殖産株式会社の株式 100,000
 (5)○○銀行の借入金債務
3 財尾継男は,別所嫁子に対し2,500万円を贈与することを約した。
 
 以上本協議が真正に成立することを証するため,この協議書3通を
作成して署名押印し,各自1通ずつ保有する。
 
平成××年730
 
   東京都××区××町××番××号  相続人 財尾為子 印
   東京都○○区○○町○○番○○号  相続人財尾継男 印
   埼玉匙△市△△町△△番地 ・相続人別所嫁子 印
 
遺言のある場合は  
 
 遺言があって,その遺言どおりの遺産分割をするよう協議
できめれば,そのように分割すればよいことになります。
遺言どおり分割することに反対する相続人がいても,その遺言
[6]で説明したその相続人の遺留分を侵害していなければ,
遺言どおり分割することになります。
遺言の執行は,遺言によって指定された「遺言執行人」が
これにあたりますが,遺言執行人が指定されていない場合は,
家庭裁判所に遺言執行人を選任してもらって,遺言を執行し
てもらうことになります。
 
遺言もなく,相続人の協議もまとまらないときは
 
 遺言がなく,相続人全員の協議がまとまらない場合は,
家庭裁判所に「調停」を申し立て,調停によって,具体的な
分割の話し合いに入ります。
 調停も不成立のときは,「審判」という手続きに移り,これ
によって分割方法を定め,法定相続分どおりの分割を命じる
ことになります。
 
分割までに生じた収益や費用は
 
  いずれの方法によって分割しても,遺産が分割されると,
 それぞれの財産は,相続が開始されたときにさかのぼって,
 分割を受けた人が取得していたことになります。
  したがうて,預貯金であればその間の利子,貸家であれば
 その間の家賃は,その預貯金なり貸家の分割を受けた人が収
入することになるという考えもできますが,これら遺産分割まで
の間の共有状態から生じたものであるから,法定相続 分に応じて
収入すべきだという考え方もあります。
  遺産分割までの期間が長いときは,利子や家賃も相当の金
 額になっていますので,遺産分割の際に,これらを含めて分,
 割するのがよいでしょう。
  また,遺産にかかる固定資産税,修理費などの管理費用も,
 遺産分割の際に清算することになります。これが上記の収入
 に関連するものであるときは,この収入から相殺するのも
合理的な方法でしょう。
  なお,被相続人が死亡したときに未収であった家賃や,未払い
であった固定資産税などは,本来の相続財産(債務)に含まれる
 ものですから,上記とは別の問題です。
 
葬式費用や香典は
 
 葬式等の費用や香典はどう処理するか,という問題もあります。
 葬式等の費用は,相続財産の中から支払われるという考え,
相続人全員で負担すべきだという考え方,
喪主が負担するという考え方などがありますが,
通常は,香典を葬式費用等にあてて,不足分があれば,
これを上記のいずれかの方法によって支払うことになります。
 相続人の1人が遺産の大部分を相続するような場合はその人が,
また,平等に相続する場合は平等に負担するという方法が,一般に
多く行なわれているようです。

1. 一般大衆も相続税に無関心では

    いられなくなった

すこし前までは金持だけの悩み

 昔は,といってもついバブルの時代前までは,相続税について

頭を悩ましていたのは,大金持かせいぜい小金持くらいのこ

とで,われわれ"一般大衆"にとっては,相続税など縁のない

存在でした。

 しかし、バブルの頃から,地価が高騰したり,インフレの結果とし

,預貯金などの名目的な残高が増加したりしているにもか

かわらず,相続税の基礎控除の引上げなどの政策による調整がこれに

ともなわなかったため,ごくありふれた一般の家庭―マイホームを

持っていて、多少の退職金が残っていたぐらいでも,相続税の心配を

しなければならない世の中になってしまいました。

 その後、基礎控除の引き上げや、居住用家屋の敷地・事業用土地の

評価減の措置があり、また、バブルの崩壊による地価下落もあって、

マイホームと少々の預貯金程度なら、相続税の心配はしないでいいよう

になっています。

 しかし、その他に、ある程度の財産があると、やはり、心配になって

きます。

相続税の歴史をみると

 そもそも,相続税というものは,なぜとられなければなら

ないのでしょうか。

 中世の封建時代のイギリスでは,領主が死亡したとき,

の領土と領主権をだれが相続するかは,国王が,軍役の義務

をはたす能力があり,かつ自分に忠誠をつくすであろう者を,

その子供たちや縁者の中から選んで相続させたことは第1

で述べたとおりですが,実際には,相続人側の申請によって,

適当と認めれば承認を与えひたようです。そして・その承

認を与える見返りとして課税したのが,イギリスの相続税の

起源であるといわれています。

 日本でも,江戸時代のおわりまで,大名などの相続には,

そのつど将軍の承認を必要としてきましたが、その際、御側

用人とか老中とか,将軍をとりまく役人の主な者へ,賄賂を

贈ることが慣例であったようです。しかし、公の税金として・

幕府が相続税を課税することは行なわれていなかったようで

す。

 

 日本では日露戦争がきっかけ

  相続税が日本にはじめて導入されたのは,日露開戦の翌年,

明治38年で、この戦争の戦費調達を目的として導入されまし

た。しかし、戦争が終わっても恒久的な制度として残され,

今次大戦後の相続法の大転換などに対応しながら,幾度かの

変遷をへて,現在にいたっています。

 新しい税金がつくられると、その直接の目的が解消しても,

税金だけは残るものです。新しい税金がつくられるときは,

よほど用心しなければならないようですね。

相続税はなぜ課税されるのか

  相続税を課税する理由として,富が偏在するのを防ぐため

 とか,不労所得だからとかいろいろな理由がいわれています.

が、"そこに取れる財源があり、相続人が直接に汗を流レて稼いだ

ものではないから,さほどの抵抗もなく,しかもまとまった

金額を収入できるからだ''という趣旨のことを、相続時の創設の時に議会

で説明していますが、そのとおりでしょう。

相続税にはどう対処するか

 遺族の住む家と土地,多少の預貯金や株式やある程度の財産ぐらいの

ものには,相続税はかからないような税制にしてもらいたいものです。

というより,納税者のほうでそういう要求をして,政治に反映させる

べきでしょう。

 しかし,相続というものは突然に訪れることが多く,一生

に何度もあるものでもないので,納税者をまとめて国民運動

にすることもむずかしく,また,相続税制を緩めることは金

持に対する優遇だという錯覚した意識が根強く残っているた

,まだまだ,厳しい相続税制が続いていくと思われます。

 現在では,納税者一人ひとりが,相続税の知識を身につけ

,自分で自分の相続財産を守っていくほかないようです。

2部は,そういう覚悟で読んでください。

 

2 どれだけの遺産があれば相続税は課税されるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相続人3人で8,000万以下なら心配はない

 どれくらいの遺産を相続すると相続税が課税されるのか,

とりあえず,ざっとみてみましょう。

 相続税には,「基礎控除」という制度があって,相続の対象

となる遺産の課税価格がこの基礎控除額以下であれば

,相続税は課税されないようになっています。 

では,8,000万円の遺産というのは,どの程度のものになる

 かをみてみましょう。

 

どの程度の財産なら基礎控除以下か

相続税の課税価格は,被相続人が死亡したときの時価で評価

すると定められていますが,それでも実務の運用面では,

ある程度の手心が加えられており,とくに土地や建物などの

場合には,いわゆる「時価」よりもかなり低いものとなって

います。

 

 いま,東京の世田谷区あたりで,200u(60)の敷地の

上に,100u(30)の住宅を残して死亡したとします。`

 

 このあたりの一般の住宅地の土地の相続税評価額は,1u

当りで40万円から50万円ぐらいですから,その平均の45万円

としてみてみますと,

(土地の面積)  (単価)             (土地の評価額)

 200u ×450,000=90,000,000

となります。

 なお,居住用の土地で,その面積が200uまでの部分は,

記のようにして求めた金額の50%を割り引いてくれることに

 

なっていますので,この土地の課税上の価額は,

(土地の評価額)    (減額率) (土地の課税価格)

   90,000,O00円×0.5==45,000,000

となり,この土地だけでは,相続税の基礎控除以下です。

 つぎに住宅用の家屋ですが,これは建築した年によって評

価額がちがってきますが,かなり前に建てられたもので,

まかりに1u当り10万円だったとしますと,

   (建物の面積)(単価)(建物の評価額)

    100u ×100,000=10,000,000

となります。(注)

 これに土地の評価額の4,500万円を加えると,5,500万円と

なり,基礎控除の9,000万円以下ですから,まだ相続税の心配

はありません。.

 しかし,一般の家庭でしたら,このほかに現金や預貯金,

株式などの有価証券などがあるでしょう。これらをあわせて

4,000万円あったとしますと,課税対象となる遺産の価額は

9,500万円となり,基礎控除の9,000万円を超えて,相続税が

課税されることになります。

 

(注)被相続人の居住していた家屋の敷地を、配偶者または同居の親族が

   取得した場合などの減価率は80%になり、上記の例では、土地の

課税課税は1,800万円、家屋と併せて2,800万円となりますので、

その他の財産が6,200万円までなら課税されないことになります。

詳しくは 11 土地の評価が相続税のポイント  参照

 

 

債務や葬式費用は控除される

  もっとも,以上で説明したのは,プラスの遺産だけです。

 被相続人の残した借金などの債務があれば,これを差し引き

 ますし,葬式費用も引きます。

  上記の例で,債務が100万円あって,葬式費用が200万円で

 あったとしますと,課税価格は,

(取得財産)   (債務)     (葬式費用)   (純資産価額)

95,000,000-1,000,000-2,000,000=92,000,000

 となり,これから基礎控除の9,00万円を引いた残りの200

円が,課税される遺産の総額ということになります。(注)

 

(注)配偶者が取得した純資産価額のうち法定相続税分まで、16,000万円まで

  の相続税は控除されるようになっています。

 詳しくは 4 配偶者には特別の優遇措置 参照

 

墓地や仏壇などの祭具は非課説

  なお,被相続人の残した墓地や墓石,あるいは仏壇,位牌,

仏像などの祭具で,日常の礼拝の用に供しているものは,

課税財産といって,相続税の課税の対象からはずされます。

  もっとも,こういうものが非課税であることに目をつけて,

黄金の仏像などを何本もつくって,相続税を免れようと計っ

ている人もいるようですが,度がすぎると,これらの祭具も,

骨董品として評価され,少なくとも貴金属(金細工物)とし

て課税の対象となるように取り扱われています。

 非課税となるのは,その人の社会的地位や日頃の信心など

からみて,常識的なものでなければなりません。

 相続税は

どのようにして計算するのか

 

 

 

 

 

 

相続した財産と債務などをまとめて評価する

 

どうしたら相続税が安くなるかを考える前に,相続税という

ものは,そもそもどのようにして計算していくのかという

ことから説明していくことにします。

まず,相続人は子供だけ3人で,相続した遺産の取得価額

が2億6千万円,債務が2,800万円あって,葬式費用が

200万円かかったとします。

相続した遺産というと,現金や預金,居住していた建物と

土地,貸家や貸地,株式などの有価証券や電話加入権,書画

骨董やその他の家具,貸付金など,さまざまのものがありま

す。個人で営業していれば,店舗や商品あるいは売掛金など

もあるでしょう。また,生命保険金や死亡退職金なども,

定額を超えると,相続税の課税対象となります。

債務というのは,銀行や知人からの借金のほかに,固定資

産税などの公租公課の未納分や病院への未払金なども含まれ

ます。個人で営業していれば,買掛金などもあるでしょう。

これらの遺産や債務の範囲と評価の仕方,葬式費用の範囲や香典

との関係などは,後でくわしく説明します。

 

まず,債務や葬式費用を控除して課税価格を

 

さて,まず,相続によって取得した財産の価額から,債務

と葬式費用とを控除して,「純資産価額」を求めます。

 上記の例ですと

(取得財産の価額)(債務)        (葬式費用)   (純資産価額)

260,000,000円一(28,000,000円十2,000,O00)=230,000,000

 となります。

そして,相続の開始の前3年以内に,被相続人から贈与を

受けていた人がいれば,その財産の価額を,この純資産価額

に加えることになりますが,ここではそういう贈与がなかった

ものとします。

そうすると,上記のようにして求めた230,000,000円が課税価格と

なります。

法定相続人の数にによって基礎控除額を求める

 

 つぎに、「遺産に係る基礎控除額」を求めます。

これは次の式で求めます。

 5,000万円+,000万円×(法定相続人の数)

相続を放棄した人があっても、放棄がなかったものとして

法定相続人の数を計算します。

 養子も相続人になりますが、法定相続人の数を計算するときは

実子がいるときは、1人まで、

実子がいないときは、2人まで、

となっています。

なお,遺言などで法定相続人以外の人に遺贈がなされていても,

その人は上記の人数には関係ありません。

この例の場合の法定相続人が,子が3人としますと,

「遺産に係る基礎控除額」は,

  50,000,000+10,000,000円×3人=80,000,000

となります。

 

基礎控除を引いてから相続税の総額を求める

 

そして,課税価格の合計額から,遺産に係る基礎控除額を

差し引いて,「課税遺産総額」を求めます。

この例の場合には,

(課税価格の合計額)(基礎控除額)(課税遺産総額)

230,000,000円一80,000,000=150,000,000

となります。

つぎに,この課税遺産総額を各法定相続人の相続分に応じ

て分けて,法定相続人ごとの相続税額を計算し,これを合計

したものを「相続税の総額」とします。

この例の場合は,子が3人ですので,それぞれの法定相続分は

3分の1になり、したがって,各人の「法定相続分に応ずる取得金額」は,

それぞれ

  150,000,000円×1/350,000,000

となります。

 

となり,これをもとにして,「相続税の速算表」によって,

各人ごとに「相続税の総額の基となる税額」を計算する

ことになります。この例の場合は,

各人の「相続税の総額の基となる税額」は,

 

50,000,000円×0.20-2,000,000=8,000,000

となります。

そして,この3人分を合計した金額,すなわち24,000,000円が,

この相続についてかかる「相続税の総額」になります。

ここまでの段階では,相続人が実際にどのように財産を分

けたかということは関係してきません。すなわち,遺産をど

のように分けようとも,相続税の総額は変わらないというこ

とです。

配偶者や未成年者などがいる場合には,配偶者などがどれ

だけ遺産を取得するかによって,この次の段階で「税額控除」

というものがあって,実際に納付する税金が変わってくるこ

とになりますが,その場合でも,この相続税の総額を算出す

るまでの計算は,影響を受けません。

 

各人の具体的な税額を算出して納付

 

つぎに,このように求めた相続税の総額を・各相続人が実

際に取得した財産の価額と負担した債務と葬式費用によって

区分して,各人の納付する税額を求めて・各人が納税すること

になります。

 

この例の場合で,各人の取得した財産と負担した債務と負債とが,

つぎの割合であったとします。

 長男 10分の5、次男 10分の4、長女 10分の1

各人の納める税額は、下記のようになります。

 長男 24,000,000円×5/1012,000,000

次男 24,000,000円×4/109,6000,000

長女 24,000,000円×1/102,4000,000

 

そして,配偶者の税額軽減額とか,未成年者控除とか,障害者控除

などの「税額控除」があれば,その金額を各人の算出税額から差し

引きます。

これらの税額控除がなければ,算出税額がそのまま

「差引税額(納付すべき税額)

となり,この金額を各人が納付することになります。

なお,相続税の申告と納付の期限は被相続人が死亡したときから

6か月以内ですが,このときまでに各人の取得する財産や負担する

債務・葬式費用がきまらな場合には、各人が法定相続分どおり

財産を取得し、また債務や葬式費用を負担したものとして,

各人の税額を算出して納付することになります。

 

相続税の計算は、

鵜野和夫のホームページの「税金の計算サービス」の

「相続税の計算」の表に、

遺産、債務、相続人の関係、人数などを入れると

簡単に算出できるようになっています。

 

4.配偶者には特別の軽減措置

 

配偶者は取得した遺産が16千万円以下か1/2なら無税

 配偶者には特別の軽減措置がもうけられていて、配偶者が遺産のうち

取得した純財産(債務等控除後)が16千満円までなら、

配偶者の相続税の全額が控除され、配偶者には相続税がかからない

ようになっています。

 また、16千万円以上でも、遺産の総額の法定相続分

(相続人が配偶者と子だけのときは1/2)までなら課税されません。

配偶者の軽減措置の計算の仕方

 相続人が、配偶者と子2人で、遺産が3億円、債務等が4千満円、

差引き純資産が2億6千万円であったとします。

 上記の「相続税の計算」の表で計算すると、

基礎控除は、50,000,000円×3=80,000,000

 課税価格は差し引き 180,000,000円 となります。

 これを、法定相続分で分割したとして、前項で説明した計算方法で計算

すると、

          相続分  課税価格    税額

 配偶者分 1/2    90,000,000  20,000,000

 1分    1/4    45,000,000  7,000,000

2分    1/4    45,000,000  7,000,000

 合計                    34,000,000

 

となりますが、配偶者が1/2を取得すれば、配偶者分は控除されるので、

家族で収める税金は子の2人分の14,000,000円となります。

 また、次のように取得したとすると、

           各人の取得した財産     各人の納める税金

配偶者分     160,000,000                  0

 1分        10,000,000          1,888,800

2分        10,000,000          1,888,800

配偶者は1億6千万円なので無税となり、家族で収める税金は子の2人分の

3,777,600円となります。

 

 また、次のように取得したとすると、

           各人の取得した財産     各人の納める税金

配偶者分     170,000,000          1,783,900

 1分        5,000,000            944,400

2分        5,000,000            944,400

配偶者は1億6千万円以上なので課税が生じり、家族で収める税金は

3,672,700円となります。

 

配偶者が死亡すれば再び相続税

 

 このように、配偶者の税額軽減措置を受ければ、相続人全員の納める税額は

軽減されます。

 しかし、この措置で軽減されるのは、配偶者が実際に取得した遺産分だけです。

 その配偶者が死亡したときに、その遺産に相続税が課税されます。そのときは、

相続人の数も一人減っているので遺産に係る基礎控除額も減り、また、今度は

配偶者の軽減措置もありませんので、税率も高くなっています。

 長期的な節税という面から見れば、次の相続のときの税額も試算しておく必要が

あります。

 上記の「相続税の計算」の表でいろいろと計算してみて、今回は配偶者がどれだけ

しすれば、長期的に有利になるか判断してください。

 なお、この場合、家屋の評価額は年々低くなります。土地の評価額は大都市圏内で

高くなる傾向にあります。現金・預金の評価額は変わりません。このことも、考慮しておく

必要があります。

 

配偶者の軽減措置を受けるには

 

この配偶者の軽減措置が受けられるのは,戸籍上の配偶者に限られています。

内縁関係では,まったく認められません。

つぎに,相続税の申告期限(被相続人の死亡の日から6か月以内)までに,

配偶者についての遺産分割が済んでいなければなりません。要するに,

配偶者が実際に取得した財産についてだけ,軽減措置が受けられるということです。

そして,相続税の申告書に

@戸籍騰本(相続開始後10日以上経過してから作成されたもの)

A遺産分割協議書(66ページ参照)など,配偶者が遺産を取得したことを証明するもの

を添付して提出しなければなりません。

 

申告期限までに遺産分割がきまらないときは

 


遺産分割についての協議がまとまらず,相続税の申告期限までに配偶者の取得する財産

がきまっていない場合は,とりあえず,配偶者の軽減措置を受けないものとして申告・納付

,その後,申告期限から3年以内に配偶者の取得財産が決まったら,その日から4か月以内に

「更正の請求」という手続きをとって,軽減分の税金を還付してもらうようになっています。

この場合は,相続税の申告書に,将来,配偶者の軽減措置を受けること,

未分割の事情と分割の予定などを記載した書類を添付しておきます。

 


申告後3年たっても分割がきまらないときは

 


遺産分割をめぐる争いがあって訴訟になっているなど,やむを得ない事情があって,

申告期限から3年を経過しても遺産分割がきまらない場合は,「申告期限後3年を

経過する日の翌日から1月を経過する日までに」,やむ得ない事情を記載した申請書に,

そういう事情のあることを証する書類を添付して,税務署長の承認を受けておけば,

遺産分割が確定した日から4か月以内に,同様に「更正の請求」の手続きをとって,

軽減分の税金を還付してもらうことができます。

「やむを得ない事情」の種類によって,つぎに記載してある日から4か月以内に

手続きをとるようになっています。

@相続に関する訴えがなされている場合……判決の確定や訴えの取下げなど訴訟の完結した日

A相続に関する調停や審判などの申立てがなされている場合……調停の成立,審判の確定や

申立ての取下げなど事件の終了した日

B遺言などによって分割が禁止されている場合……その禁止期間が経過した日

Cその他税務署長がやむを得ない事情があると認めた場合……その事情の消滅した日

 


未成年者や障害者には

特別の控除

 


未成年者には満20歳になるまで年6万円の控除が

 


相続人のうち,未成年者については,「未成年者控除」といって,その未成年者が満20歳に達するまで

の年数に6万円を乗じた金額を,その算出税額から控除することになっています。

この年数に1年未満の年があるときは,1年として計算します。すなわち,42か月で満20歳に達するときは,

5年とし,これに6万円を乗じた30万円が控除されます。

また,その未成年者の算出額が未成年者控除額より少ないときは,引きされない金額を,

扶養義務者が協議して,扶養義務者の算出税額から控除することになっています。

なお,未成年者が成年に達するまでに2回相続があった場合,たとえば,父親が死亡し,

その後母親が死亡したというような場合には,1回目の相続で,本人や扶養義務者の算出税額から

引きされなかった残額があった場合にだけ,その残額を控除できるようになっています。

 


障害者は70歳まで年6万円,特別障害者は12万円

 の控除

 


相続人が障害者である場合には,その人が満70歳に達するまでの年数に6万円を乗じた金額を,

特別障害者である場合には12万円を乗じた金額を,その人の算出税額から控除する

ことになっています。1年未満の端数は1年として計算します。

その人の算出税額が控除額より少ない場合は,引きされない残額が,扶養義務者の算出税額から

控除されます。

障害者控除を受ける人が,前回の相続で同じ控除を受けていた場合は,

1回目で本人や扶養義務者の算出税額から引きされなかった金額についてだけ,

控除できることになっています。

障害者,特別障害者というのは,所定の手続きをとって一定の認定等を受けている人をいいますが,

くわしくは税務署に問い合わせてください。

 

「特別障害者扶養信託契約」

 


なお,特別障害者については,この障害者控除のほかに,

被相続人が生前に信託銀行と「特別障害者扶養信託契約」というのを締結し,

財産を信託銀行に信託し,所定の手続きをとれば,信託した財産のうち,

6,000万円までは贈与税が課税されないようになっています。

この方法を利用したいときは,信託銀行と相談してください。


 

 

「相次相続控除」

 

不幸というものは,引き続いて起こることがままあるものです。

祖父が死亡して,葬儀も済まし,相続税も納めてほっと、一息

ついたころ,父親がなくなるということも,たまたま見う

けられます。そして,再び相続税で頭を悩ますことになります。

そういう場合に,通常どおりの相続税を課するのは,あまりにも

気の毒だということで,最初の相続から10年以内にその遺産を

相続した人が亡くなって,相い次いで相続が生じたときには,

「相次相続控除」という特別の控除をするようになっています。

 

控除される額の計算は

 

相次相続控除というのは,2回目の相続(「第2次相続」と

いいます)の被相続人が,その前10年以内に開始した相続に

よって財産を取得したことがある場合には,その間の年数に

応じて,つぎの式によって計算した金額を,前回の相続(「第

1次相続」といいます)で納めた相続税から控除してくれる

というものです。

 

《相次相続控除額の計算式》

A=今回死亡した被相続人が,前回の相続で課税された相続税額

B=今回の被相続人が,前回の相続で取得した財産の価額

C=今回の相続人の全員が取得した財産の価額

D=今回の相続でその相続人が取得した財産の価額

E=前回の被相続人の死亡の時から,今回の被相続人の死亡

の時までの年数(1年未満は切捨て)

    B,C,Dの価額は,いずれも債務控除後の金額。また,

  A

の相続税額には延滞税,利子税,加算税は含まれない。

 

 

例をあげて計算すると

 

かなり複雑な計算式になっていますので,例をあげて説明

することにします。

今回死亡した父(被相続人),前回に祖父が死亡したと

,相続によって4,000万円の財産を取得していたとします

これが上記の式のBになります。

そして,そのときの相続税額が1,000万円であったとします

これがAになります。

その後,2,000万円だけ財産が増えて,遺産が6,000万円に

なっていたとします。

今回,父が死亡して,相続人が長男と次男だけだとして,

長男が3,600万円,次男が2,400万円の財産を相続によって取得した

とします一一この合計の6,000万円がCになります。

そして,長男について計算するときは,3,600万円が,

次男について計算するときには2,400万円が一それぞれDにな

ります。

祖父が死亡した時と父が死亡した時との間が69か月で

あったとしますと,1年未満は切り捨てますから一E6

年になります。

 

 

 

 

 

               

7.借金しか残りそうもないときは