八ヶ岳のカラス事件

 あれは、2001年の6月のことだった。自分はその頃、山好会という山の会に入っていた。その会は、静かな山登りを好む、40-50代が中心の山の会だった。はじめは、山経験者ということで、自分は過度の期待をされていたと思う。自分も静かな山を好む山の会で、「百名山に行ってみたい」などと馬鹿な発言をしていたし、自分の若さ(?)を過信して、ばてて醜態をさらすこともあった。
 その会で、八ヶ岳に縦走で登るという計画があり、縦走が好きだった自分は、それなら、参加したいと、参加申し込みをした。最初は自分を含めて、3人で行く予定だった。しかし、実際に、山行日に集合場所に行くと、一人の人は来なかった。もう一人のリーダーは、沢好きの猫タイプだった、自分は縦走好きの犬タイプ。沢好きのリーダーはちょっとぐらいの禁止区域ならば平気でテントを張ってしまう人、しかし、自分は少し位ごみごみしても、安全なほうを選ぶタイプ。2人しかいない山行なのに、二人の山の好みがまったく違っていた。しかし、行く前は、なんとかなると思っていた、リーダーは確かに悪い人ではなかった。
 当初、リーダーは登って、5時間15分くらいの、横岳近くのところにテントを張るつもりでいた、しかし、そこは、幕営禁止区域だったこともあり、また、かなり早くそこについたこともあり、自分はもう少し先の行者小屋のキャンプ場まで行きたいと主張した。たいした口論もなく、リーダーはそれを受け入れてくれた。自分としては、赤岳まで行き、阿弥陀岳は明日に回すつもりでいた。阿弥陀岳まで行くと、1日に9時間10分も歩くことになる。赤岳までなら7時間55分、大体、8時間を目安と教わっていたし、リーダーもそうすると勝手に思い込んでいた。



 しかし、リーダーは阿弥陀岳まで行くことを主張した、この日に阿弥陀岳を登っておけば、翌日は登りがなく、下りだけなのである。別の言い方をすれば、赤岳から行者小屋のキャンプ場に降りたら、その分翌日登り返さなければならないのであった。自分もなんとかがんばれそうなので、阿弥陀岳に行くことに同意した。
 赤岳から阿弥陀岳に行くのに、「ココ」と赤の矢印で示した地点から、往復になるため、荷物をそこに置き、必要なものだけを小さなザックにつめ、阿弥陀岳に向かった。登っている最中、自分は不思議なものを見た、荷物を置いた所は標高2500mくらいの所なのに、街にいるようなカラスが荷物の上に乗り何事かをしているのである。その時は「何をしているんだろう」とだけ考えて、自分は少し後れていたこともあって、リーダーに追いつこうとその後はカラスのことなど考えずに夢中で山に登った。ところが、阿弥陀岳から荷物を置いた地点へ戻ってみると…


なんと、荷物が散乱しているのである。しばらくは、呆然としていたが、散乱していたビニール袋につっつかれたような跡から、これはカラスの仕業に違いないと気がついた。カラスがザックのファスナーを自分で開け、中から物を取り出したのである。ザックの中にきちんと入れておいたのに、自分のおにぎりは一つなくなっていた。