五竜・鹿島槍

2008年8月13日(前夜発)−15日

 毎年この時期に、単独行をしている。初めてが2000年で、今年で8回目となる。そう、完全に自分の中では最初から単独行をしに行っている。途中で仲の良い人を見つけて一緒にという考えは、全くない。人から刺激を受けないというのではなく、あくまでも自分は単独行者として、人に接するものだと思う。人と全く分かち合わないというのではなく、情報交換はしても単独行だと思う。
 と、8回目となる自分はこう思うが、一人で山に入っている人でも、その多くは積極的な単独行でなく、消極的な単独行で「途中で一緒に行く人を見つけたい」と思っている。考えてみれば当たり前だが、気がつけばもっともだが、はっきり自覚していなかったと思う。北アルプスという場所のせいもあるかもしれない。体力もあり、そこそこ技術もあるが「消極的な単独行者」がいた、普通の山ではそれほどいないのでかかわりあうことはない。「自分は情報交換までとしたい、あくまで単独行の時は一人で登りたい。」ということを自覚し、「消極的な単独行者」に丁寧に伝えられるようになりたい(年に数えるほどでは無理か…)。
 沢・山スキーでは単独で行かないが、人の行った道をたどる縦走では単独行をし自分に向き合いたい。単独行の時は、すれ違うことはあっても、人とは距離を置いて登りたい。それが単独行だと思う。単独行をしないと、自分の力がわからない。

今回のトラックログ
(1日目:黄、2日目:赤、2日目一部:手書き・赤、3日目:手書き黄)
2日目13時50分まで記録あり

8月12日
16:32 八王子駅発→18:34 松本駅着
 期待していた、車窓から見える風景は、(天気は悪くないですが)、山なみはかすんでいました。
19:08 松本駅発→20:04 信濃大町駅着
20:30頃 山岳旅館 いとう(素泊まり4725円)
 山岳旅館ってどんなとこだろうと期待していましたが、要は「昔は良かった鄙びた旅館」です。夜遅くつき、朝早く出発してしまったので、正確なところは言えませんが…。信濃大町駅はコンビニがあまりないので、「いとう」のすぐ近くに、コンビニがあるのは便利です。

8月13日
天気:晴れ時々曇り(曇り時々晴れ)
5:00 宿出発
5:15 信濃大町駅着
5:32 信濃大町駅発→6:00 白馬駅着

白馬駅前にて(こんな商売もあるのですね)

6:15 白馬駅発→6:20 八方(バス停)
6:40 ゴンドラ乗り場到着(八方のバス停から15分ほど)

ゴンドラ乗り場にて 乗車券

 ゴンドラ乗り場に到着すると、もうそこに人の列ができていました。乗車券を買うのに並んで、乗るのに並んで、そして荷物料金を取るというので荷物を測ったら12kg、乗車券とは別口で400円です。
7:10 ゴンドラ・リフトに乗る

リフトからの風景(1) リフトからの風景(2)

7:45 八方池山荘着
7:50        出発

八方池山荘から見た白馬三山(右から白馬(合成の切れ目)、杓子、鑓)

 リフトに乗っている最中から、白馬三山が雄大に見えてくれます。とりあえずは、「来て良かった」です。ここ周辺は高山植物も豊かです(このお盆という時期は、たいてい多くの高山植物がちょうど咲き終わっている時期です)。ハクサンシャジンと看板の説明文には書いてあったのですが、自分的にはツリガネニンジンだと思う。ここら辺は、登山者でなく、(見るからに軽装な)一般の観光客も多いです。
 だいぶガスが出てきました。休みたいが、休んでいるうちにガスが上がってきてしまうので、休むのを最小限にして、暑いけど上へ登る。

タカネマツムシソウとハクサンシャジン 雪渓
唐松岳へ向かう(1)
ガスがだいぶ出てきています。
不帰嶮 もう見えなくなってしまう

8:35 八方池
 この道は急ではないけど、登りが延々と続く感じです。

八方池(1) 八方池(2)
 この花を見に夏山に来ているかもしれない
 今年も会えた
 チングルマ
唐松岳へ向かう(2)
唐松岳へ向かう(3)
唐松岳へ向かう(4)
不帰嶮にガスがぶつかる

10:20 唐松岳頂上山荘着
 いよいよ、唐松岳頂上山荘到着です。ここから唐松岳までピストンです。この時はきちんとザックを背負って、唐松岳に行きました。ガスもだいぶ出てきていましたが、この頃までは、一面に覆われるほどでなく、剣・立山、そして五竜岳、唐松岳を眺めることができました。

唐松岳頂上山荘から
唐松岳
唐松岳頂上山荘から剣岳と立山
唐松岳に向かう途中で
唐松岳頂上山荘を臨む
明日に登る
 五竜岳

 頂上山荘から唐松岳を登っている途中、以前同じ山の会にいたY角さんに偶然出会った。初め気がつかなかったが、向こうから声をかけてくれて気がついた。しかし、名前はしばらく思い出せず、(まさか会うとは思っていないもん)「おー、おー」という言葉?で答えるしかなかった。登りで疲れのピークで…というのもある。
10:35 唐松岳着(2696.4m)

唐松岳山頂(1) 唐松岳山頂(2)
不帰嶮
唐松岳山頂(3)

10:42 唐松岳出発
11:00 唐松岳頂上山荘着(休憩・昼食)

唐松岳頂上山荘

11:20 唐松岳頂上山荘発
 ここからだいぶ鎖場が続きます。クサリがあることは知っていましたが、これほど規模の大きいものとは考えておらず、気持ちの準備ができていなかったので、だいぶ難渋しました。でも、ほとんどの鎖は、鎖を使わずに岩をつかむことで通過できました。

コマクサ 険しかった頂上山荘直下の道
ガスがどんどん出てくる もう少し時期が早ければもっときれいだろうお花畑
五竜山荘が見えた

13:55 五竜山荘

8月13日のトラックログ

 久しぶりに山小屋に泊まります。テントを持っていくか迷いましたが、「この期間北京オリンピックが開かれていて、山に来る人は例年より少なそう」という情報があり、「では、それほど混まないだろうから小屋に泊ってしまえ(最近残業が多くて小金ならあるし)」と。といいつつも、テントの代わりにツエルトを、ツエルトだけでは心細いのでシュラフとシュラフカバーをって、あまり軽量化になっていない気がする。ちなみに、素泊まりです(6300円)。それでも、雨にぬれてテントが重くなるということが避けられます。

五竜山荘 イメージのために、まだ人の入っていない部屋を
たまに、顔を見せてくれた、五竜山荘からの
 五竜岳

 さてさて、気になるのは明日の天気です。自分の携帯はつながりが悪くてどうも確認できません。小屋の天気予報はと、山小屋の掲示欄をみると「14日の天気 晴れのち一時雨」とあり一時は喜ぶが、「これいつの時点での天気予報だ?」と気になり小屋の人に確認すると、前日の17時30分とのこと。それに、風のうわさでどうも明日はよくない、と聞こえてくる。17時30分まで待って、掲示板を見ると「14日の天気 曇りまたは霧一時雨」に変わっていました。

8月14日
天気:曇り時々雨
 出発前に再びY角さんに会う。こんどはきちんと「おはようございます、Y角さん」を言う。Y角さんによると、この後通る予定である危険地帯の八峰キレットはたいしたことないらしい。
5:00 出発
 ウォーミングアップ、あせらずゆっくり行きました。
5:55 五竜岳着(2814.1m)

五竜岳ピーク写真

6:05 五竜岳発
 エアリア(地図)に危マークが付いているところを突破。急なガレ場であって、落石に気をつければ怖いところではないです。五竜岳から鹿島槍は岩場が多いですが、ものすごい怖いところはありません。ですが、危マーク以外に注意したほうが良いところはたくさんあり、危マークだけ用心すればよいというルートではありません。クサリ、ハシゴが何か所もあります。最初の危マークを通過したあたりで、何年ぶりでしょうか雷鳥に会えました。たぶん、会う時は無茶苦茶会ってしまうのでしょうが、会わない時は会わない、のだと思う。

雷鳥に会えました(1) 雷鳥に会えました(2)

7:45 北尾根ノ頭
 この頃からキレット小屋まで本格的な雨。石が雨で濡れていて滑りやすく、危マークでないところも結構怖い。

北尾根ノ頭を振りかえる わずかな間だけガスが晴れた

8:00 口ノ沢のコル
9:10 キレット小屋(休憩・昼食)

14日キレット小屋(昼食)までのトラックログ

 雨を避けるにはここしかないので、キレット小屋の中に入って休憩。コーヒー1杯250円であるが500円でも良い。それくらい、ここに小屋があって息を整えられるということはありがたい。昼食も雨の中ではしたくないので、ここでとってしまう。
9:45 キレット小屋出発
 大降りだった雨がほとんどやんでいる。キレット小屋で休んで正解だった。さあ、危マークである八峰キレットだ。その前に何かザックの上のほうがおかしいと思ったら、アマブタのバックルが開いていた。八峰を通過する前に気がついて良かった、きちんと装着。八峰キレットは整備されていなかったら難しいかもしれないが、鎖やハシゴ、足場に木と整備されているのでそれを使えば特に問題なく行けます。
11:10 鹿島槍(北峰)への分岐
 北峰には行くつもりはなかったですが、せっかく来たのでザックを置いて北峰に向かいました。
11:15 北峰(2842m)

北峰 タカネヤハズハハコ?とイワギキョウ?

 北峰には誰もおらず、何もなく、天気もこの時再び雨が降ってきて(分岐に戻る頃は止む)、ガスが晴れないので何も見えず、写真だけ撮って帰る。
11:25 鹿島槍(北峰)への分岐
 ガスで視界が悪かったとしても、ニセピークに引っ掛かりすぎ。エアリアは地形が読めない。北峰と南峰の標高差が47mなのにもっとあるように感じてしまう。北峰には苦もなく着いたのに…。
 あと少しで山頂というところで、落石が5m手前位に飛んで行った。「落石するのは仕方ないとしてもラク!ぐらい言えばいいのに」と思いながら、登っていくと、女性がうつぶせになっていた。「大丈夫ですか?」と声をかけると、「大丈夫です」とのこと。危険な場所ではないのに、油断したのだろうか?
12:00 鹿島槍(南峰)着(2889.1m)

鹿島槍(南峰)山頂
ちなみに左から2番目がY角さんですね
ピーク写真(自分)

12:15 鹿島槍(南峰)出発

再び会えた雷鳥

 危険地帯は終わった。さあ、後は下るだけだ(そんなことはない)、ということで加速したら40分かかるところを20分で行ってしまいました。
12:35 布引岳

冷池山荘

 五竜ー鹿島槍間に比べたら、鹿島槍ー冷池山荘間は安全地帯です。後になって考えればこの「鹿島槍ー冷池山荘間」があまりにも順調に(天気は良くなかったが)行き過ぎたと思う。冷池山荘に泊まるのが、本日の予定でしたが、翌日の天気も悪そうなので、「どうせ悪いのなら、種池山荘まで2時間20分なので、今日中に種池山荘まで行ってしまおう」と思うようになった。
13:10 冷池山荘
 冷池山荘に予約を入れておいたので、小屋の人に「種池山荘まで行くこと」を伝える。宿の人は「無線の連絡より先に種池山荘に到着してしまうかもしれないが種池山荘に連絡を入れます」とのこと。種池山荘と冷池山荘は同じ経営者なのか、宿泊先を変更することに何の問題もなく、むしろ歓迎ムードだった。何度か抜く抜かれるを繰り返している同年代(もう少し若いかも)の男性の人から、同じように種池山荘まで行くと言われる。

ガスが晴れて爺ヶ岳方面が見える 再び登りだ

 今回最も注意したのは、五竜ー鹿島槍間であり、冷池山荘から種池山荘など通過点としか考えていなかった。冷池山荘を出発して、案外登りがあることに改めて気が付く。

冷乗越 爺ヶ岳

 登って40分ぐらいしたところで遠雷がきこえるようになり、14時頃には何度も稲光が見え雷鳴が聞こえるようになり、雨も降ってきました。冷池山荘についたときは雷のカの字もなかったというのに…。雷がだいぶ鳴ってきたころ、先ほどの男性に追いつかれる。自分は雷が気になって仕方がなく、「身を伏せます?」(のようなことを)聞いたところ、「行ってしまいましょう」と言われ、「ただ山頂は行かずに巻きましょう」ということになった。14時30頃、爺ヶ岳の南峰を巻き終わったあたりで、後ろから衝撃を受け気がついたら地面にうつぶせになっていました(受けた地点はほぼ平らなところです)。雷という確証はないですが、雷以外考えられません。雷を受ける前、髪の毛が逆立つなど予兆は特にありませんでした。すぐ後ろを歩いていた先ほどの男性に声をかけ「大丈夫ですか」一度では反応せず、すぐさま声をかけた2度目では元気に返事がありました。二人とも無傷でした。後で聞いた話では、直撃ではなくて、枝分かれしたものが当たったのではないかという話です。その後二人とも何事もなく歩け、その後も雷鳴や稲光はありましたが、15時に種池山荘に着きました。
敗因(1)「鹿島槍ー冷池山荘間」があまりにも順調に行き過ぎて、爺ヶ岳を甘く見てしまった。
敗因(2)雷というものは主に、「午前中晴れで、午後になって入道雲のように上がってきて起こる」と思っていた。雷自体の認識不足。
敗因(3)2とも重なるけど、一般の天気予報は見ていたけど、専門的な天気予報は見ていなかった。2泊するときは途中で(天気が)変わってくる場合があるので、専門的な天気予報も見なければだめだと思う。その他、携帯で圏外になって情報が収集できなかったのも痛かった。
15:00 種池山荘(素泊まり5800円)

本日の昼食以降の記録:赤
13時50分以降は記録がないため手書き(黄)

 小屋に入り、「雷に遭いました」ことを伝える。「大変だ負傷者はどこだ」と小屋の人。「自分と彼です」と答える。明らかに「え?」という対応。雷に遭った人が、元気に話しているのだから当然か? 小屋にいた地元警察の人に簡単に状況を話す、そして千葉大の先生に、簡単に状況を話す。自分らが到着した後も、続々と小屋に人が入ってくるが、雷に遭ったのは自分たちだけだ。
 「雷に遭う」という普通では考えられない事態と、「特別な異常どこにもなし」というこれもまた普通では考えられない状況、全然冷静になれない。「あったかい飲み物でも飲もう」と小屋の受付へ、「ホットミルク」をたのむが、もう時間的に終了したとのこと。「コーヒーは体に悪そうでこういう時には飲みたくないんだ。雷受けたんだよー」と被害者ズラしたくなるが、口には出さずコーヒーをたのむ。もう一人雷を受けた人は、「たばこをすって、缶ビールを飲んでいた」いけない訳ではないが、こういう時にすることを自分は全く共感できなかった。後遺症が怖い、横になっていよう。
 雷を受けたということで、電気機器の確認、ウエストポーチの中に入れておいたデジカメ故障なし、アマブタの中に入れておいた携帯電話も故障なし、これもアマブタの中のGPSも故障なし、であるがGPSは電源を切っていないのに自然に電源がどこかで切れたようだ(後で確認すると13時50分まで記録あり)。とりあえず、すべてが壊れていないことにほっとする。そうか、その程度の電流しか受けていないか。それでも落ち着けず、夜はほとんど眠れなかった。
この日(14日)の気象データ

8月15日
天気:曇り時々雨
5:00 出発
 もう少し寝ているつもりでしたが、眠れないので、出発。でも歩みはゆっくりと。GPSに電源を入れても良かったが、そこまで気力が出ず、とにかく無事帰ろう。
 20分ほど降りたところは、道が崩壊していています、慎重に下りましょう。

6・40 ケルン
 眠れなかったにもかかわらず、特に問題なく行ける。最初は歩みをゆっくりにしていたが、行けそうなので少しスピードアップ。

特に問題なく行ける

7:20 車道に出る
7:40 扇沢バス停着
 無事到着。

扇沢

7:55 扇沢バス停発→8:30 信濃大町駅着
8:37 信濃大町駅発→9:40 松本駅着
               9:54 松本駅発→12:15 立川駅着

登り始めから、GPSの電源が切れる(14日13時50分)までの、通過した地形の断面図

その後は、特に後遺症もなく無事やっています。やけどもしていないし、本当に雷だったんだろうか? 衝撃波とかそういうもの? 9月6日、近くの図書館に調べに行ったが全然わからない。

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