(プロローグ)
――水はなく、生き物の気配はない。
黄色みの、どす黒い雲が空を覆い、闇もどきの暗さだ。
大気は毒ガスに満たされ、気温は500度に届きそうである。
やっと恵みの雨が降ってきた、と思ったら
それは硫酸の雨だった――
まさに、地獄としか言えない場所ですが、
ここは地球のお隣り”金星”の様子です。
かつて、”金星は地球の未来の姿だ”と言った人がいた。
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ここ最近、いろいろな事件が目立ったためか、
”警戒しなければならない”
というのをよく耳にする。
特に子どもに対してであるが。
「知らない人についていかない」
「怪しい人がいたら、すぐ大人に知らせる」
「話しかけられたら、すぐ逃げる」
もちろん、注意することは何よりも大事であろう。
防犯の意識が高まることもすばらしい。
が、同時にえも言われぬ戦慄を感じてるのも事実。
多くの人が、警戒心をどんどん高めていけば、
一時的には犯罪は減ると思う。
が、すぐにそれは増加に転じ、
しまいに過去にないほどの数に達する、
と憶測してみた。
なにより、「悪い人に警戒しなさい」のみを強調しすぎて、
「大多数はよい人だ」ということが
忘れ去られているのが忌々しい。
子どもたちも、
――人は疑わなければならない。
この社会は、魑魅魍魎が蠢く百鬼夜行の世界だ――
と思い込むようになるだろう。
(↑なんか不気味な漢字ばっかり連続してしまったぞ(笑))
そうしていつかは――、
道を聞こうと声をかければ、
誘拐と思われて逮捕されるかも知れない。
誘拐するつもりでなかったことを証明しなければ、
懲役だと言われる。
子ども好きの主婦が、子どもたちに笑いかけたら
不審者として、石を投げられるかもしれぬ。
川に落ちそうな子どもを引っ張り上げたら、
未成年者略取未遂、さらには
川に落とそうとしたのではないか、
という疑惑までかけられる――
こういうことが一般的になると、
誰も他人に声をかけなくなる。
危険に瀕してる人がいても、
決して助けない風潮が加速する。
その結果、却って犯罪が増える……
ところで、
「『遅すぎる』なんて物はない。気づいたときに直せばいい」
とよく言われる。
たしかにそのとおりだと思う。
99.9%の物事については、いつでも何回でもやり直せるだろう。
しかし、残り0.1%も現実にある――
毒性や爆発性もなく、夢の発明として使われてきたフロンガス。
じつは……
――オゾン層を破壊していて、
しまいにはオゾン層に穴があける。
有害な紫外線、さらに猛毒の放射線や宇宙線が
地球にダイレクトに降り注ぎ、
全ての生き物を死に追いやる――
ことに気づくのがもうちょっと遅れてたら………………
また、戦後徹底的に退治しつづけ、
ほぼ絶滅に成功した、サナダムシ等の寄生虫。
じつは、寄生虫が花粉症や凶悪なアレルギー症を防いでいた、
ということが最近わかった。
が、もう遅い。
話を戻すと、
疑心暗鬼とわがままばかりを育て続け、
万人が互いに争うようになってしまえば、
ここが金星のようになる日も、遠くはないに違いない。
現代の脅威は、核兵器や新型ウイルスよりも
人の心理そのもののように思える。
でも――今ならまだ間に合うかもしれない。
2005.2.26.Sat
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