※文中の「資料」は省略してありますのでご了承ください。

                               平成15年11月2日

環境大臣 小池 百合子 様

                            海上の森を守る会 大薮勇機

 2005年日本国際博覧会に係わる環境影響評価追跡調査(モニタリング調査)報告書(平成14年度)について

   みだしの件について意見書を提出致します

「2005年日本国際博覧会に係わる環境影響評価追跡調査(モニタリング調査)報告書(平成14年度)」に対する市民意見書

 尚、上記調査をモニタリング調査、及び同報告書と略します。

1.ムササビに関するモニタリング調査報告書に関して

@ムササビは愛知県のレッドデーターブックにおいて準絶滅危惧種に指定されており、いわゆる「万博アセス」においても「注目すべき動物種」にピック、アップされ保護保全の対象となっています。

しかしながら、ムササビに関するモニタリング調査は圧倒的に不充分であり、従って同報告書の「評価」についても重大な欠陥があると言わなければなりません。

 世界の趨勢は貴重な動植物の生息と生存に対して、持続可能性を確保する為に「緑の回廊」を作って復元の努力を始めてきました。

ムササビの調査が不充分であるならば、その予測・評価が「本事業による環境への著しい影響はみられず、環境保全のための監視目標はおおむね達成されている」(同報告書p176)と判断されるはずがありません。

Aモニタリング調査が不充分なものであることを示すために、まず「海上の森を守る会」を中心とする市民運動が実施したムササビ調査の結果を提示します。(資料1)

・ 固体が視認されたムササビ、5頭。ムササビA・B・C・E.G又はA、又はE.

・ 鳴き声だけが確認されたもの2頭。ムササビBの子どもF・G、又はA、又はE.

・ フンが確認されたもの。ムササビBとF。

尚、食痕や皮ハギ跡は略します。

2.同報告書の調査目的と「評価」は不可解

@万博会場内におけるモニタリング調査は市民が主導したものでした。

市民のムササビ調査とモニタリング調査の関係を示せば次の通りです。

イ. ムササビAと命名した固体。吉田川に新しく作られる万博用の橋やスリットダムの北側の森に巣穴を持つムササビで、平成14年のいわゆる修正アセス評価書に記載されています。ムササビAは万博会場外を主たる生息域としています。

ロ. ムササビBと命名した固体。吉田川から愛知工業大学に至る小さな沢−ホトケ沢−の東側の森に巣穴を持つムササビで、モニタリング調査によって新たに確認されました。ムササビBは、平成14年10月12日に初めて「海上の森を守る会」によって固体と巣穴が確認され同17日にも同じ場所で視認されたので、万博協会に情報通知を行った結果、その後モニタリング調査が行われました。

ムササビBは万博会場内を生息域としています。

ハ. ムササビCと命名した固体。万博会場内から直接吉田川に流れ込むもう1本の小さな沢−ムササビ沢-を中心に樹上巣を持つムササビで、同報告書の公表以後10月10日に至り、生息情報を市民団体との意見交換会の中で明らかにしました。

ムササビCは平成14年11月23日に初めて「海上の森を守る会」によって固体と鳴き声と滑空が視認され、同28日に皮ハギ音が聞かれ、12月3日には交尾日特有の鳴き声を発するオスの固体と滑空が視認されたので、顕著な皮ハギ跡と共に万博協会に情報通知を行った結果、その後にモニタリング調査が行われました。

ムササビは主として万博会場内を生息域としています。

A同報告書を見るとモニタリング調査と「評価」は不可解な内容となっています。

イ. 修正アセス評価書が求めるモニタリング調査とは。

 モニタリング調査の目的は、いわゆる修正アセス評価書に記載されています。モニタリング調査が必要とされたのは以下の理由なので、関連する部分を抜き書きしてみます。

・ 「会場(海上地区)ではムササビの巣は確認されていない」(p0753)

・ 「会場(海上地区)では繁殖に関わる情報はない」(p0754)

・ 「会場(海上地区)では…ムササビの目撃に関する情報はなく、ムササビの主要生息域とは考えられない」(同上)

以上の調査結果から、次のように「予測」されます。

・ 「ムササビの利用が確認されている巣及び目撃点が集中するエリアの直接改変は回避されている」(p0798)

・ ムササビAについては「直接改変により対岸に生息しているムササビの行動圏を分断、孤立化させるものではないと予測された」(同上)

・ ムササビAの行動圏に対する「直接改変域の面積は約0.7ヘクタールである」(同上)

  このような予測を基に次の「評価」が行われます。

・ 「ムササビの主な生息域への直接改変が回避されていることから…影響は回避又は低減されているものと判断した」(p0808)

・ ただし、ムササビの主な生息域が万博会場に隣接しており「予測の不確実性を考慮して…追跡調査にしたがってモニタリング調査を実施することにした。」(同上)

抜き書きから明らかになることは、万博会場内にはムササビの巣や繁殖情報はおろか、目撃情報もなく、会場の対岸にムササビAが生息しているものの事業の直接改変域ではなく、「影響は回避又は低減されている」と評価されました。

従ってモニタリング調査は、万博会場外のムササビを対象とするもので「予測の不確実性」を解決する目的を与えられたのでした。

 ところですでにお気づきのように、万博会場内を生息域とするムササビ2頭が見つかりましたから(もちろん、万博協会の認識です。他に数頭のムササビが居ることはすでに指摘しました。)修正アセス評価書の予測、評価はやり直し、もしくは追加が必要となります。又、モニタリング調査の目的も新たな予測、評価を受けて、会場内外のムササビを対象とする新たな目的が与えられるはずです。

ロ. モニタリング調査と同報告書のネジレ

 同報告書が公表された段階のモニタリング調査では、新たに発見されたムササビは万博会場外ではなく会場内のムササビBです。(尚、私の知り得た範囲では、今年の7月に万博協会がムササビCを確認していると伝わっていました。モニタリング調査は今年3月までですが、同報告書は今年9月付)

この事実を受けて、同報告書はムササビ調査をどのように扱っているのか抜き書きしてみます。

・ 調査の概要は「瀬戸会場及びその周辺におけるムササビの生息状況を把握」「調査対象地域は瀬戸会場及びその周辺」(p82)に改められました。

しかしこれは「海上の森を守る会」からの情報を得て、事実としてモニタリング調査の対象地域が万博会場内に拡げられたということで、いかなる予測、評価に基づいてどのような条件でどのような調査を行うべきか(例えば、工事を全面的に中断して行うとか、1部関連工事を中断して行うとか)を全く明らかにせず、会場外のムササビ追跡調査の方法を踏襲しているに過ぎません。記録を見ると調査日を増やしたこと、巣箱を増設したことのようです。

そのことは同報告書の「評価」を見るとより一層分かることですが、会場内の改変工事中の会場内ムササビ調査になる訳ですから、「万博アセス評価会」の全般的な検討の上でムササビ調査の会場内への拡大が決定され、従って「予測、評価」が行われる必要があったと思います。早速、同報告書の「評価」を抜き書きしてみます。

・ 「ムササビの環境保全のための監視目標は『瀬戸会場周辺において、生息が継続的に確認されること』である。平成14年9月工事着手前後においても、瀬戸会場及びその周辺でのムササビの生息が継続的に確認されていることから、監視目標は達成されたものと判断した。」(p86)一読して明らかなように、ここには幾つかの摺替えがあります。

 第1に、モニタリング調査の目的についてです。元々モニタリング調査の必要性は会場外の「ムササビの行動圏が十分把握されていないことから」「不確実性を考慮して」(前p0808)行われたものです。突然「監視目標」なるものが持ち出されてきた訳ですが、それ自体、目的の1部であっても目的ではありません。「監視目標」なるものが目的にスリ変わっています。

 第2に、監視目標は「瀬戸会場周辺」地域だったものが、何の脈絡もなく「瀬戸会場」地域に拡がっていることです。

 第3に、モニタリング調査の対象であった「瀬戸会場周辺」のムササビと、会場内のムササビが同列に扱われて(と言うのも会場外のムササビの生息域は直接改変の0.7ヘクタールを除きまぬがれている)いることです。

 事実、ムササビBの生息域にはグリンロードから万博会場に通ずる県道が予定されています。「里山遊歩広場」からホトケ沢に降りる歩道もあります。又、ムササビBの巣穴から約50mの所にはホトケ沢の地道に沿って歩道を作る計画があります。

更に重要なことは同巣穴の上流部約60mの所に「展望広場」が予定され、それが「里山遊歩広場」と歩道で結ぶ計画があることです。

ムササビBに見る修正アセス評価書と同報告書のネジレ、同報告書とモニタリング調査のネジレは、ムササビCに当てはめるともっとはっきりします。

ムササビCは(生息の可能性のある子どもGも)いまや完全に分断、孤立化して、いつまで生存できるか分からない状況に追いやられています。それでも万博終了まで「生息が継続的に確認されること」があれば、モニタリング調査は成功し監視目標は達成されたと「評価」するのでしょうか。

3.これまでのまとめ

 万博会場内で新たに確認されたムササビBとCについて、会場の改変工事に関わる新たな予測・評価の必要性は言うに及びませんが、共用時における予測・評価も重要です。修正アセス評価書はムササビの「環境保全措置」を「主要生息域に対する直接改変等を回避・低減する」「主要生息域の孤立、分断を回避又は低減する」(p1318)と定め、共用時の予測・評価項目を「人の入り込み」「農薬、肥料の使用」「騒音の発生」「夜間照明」(p0810〜0812)として、それぞれ予測・評価しています。

もちろん「会場内での確認情報はなく」(夜間照明の項目内容)という前提です。

ムササビBで指摘したように、ここでは主要生息域に展望広場や里山遊歩広場、県道が作られ、人の入り込み、自動車の乗り入れはもちろん、それに伴う照明、トイレ、電光掲示板その他造営物が作られることでしょう。

ムササビCになるともっと凄まじい事になります。生息域の隣(文字通り隣)に愛知県の施設が作られ、交流広場、協会施設、瀬戸市道の南北道路も作られます。その隣にはゴンドラの乗場や政府施設が予定されています。ですから会場内でムササビが見つかったのだから全般的な検討を行い、予測・評価をやり直せ、という意見は共用時に生ずる事態からも必要最低限の要求です。

 環境アセスはアセス調査が正確で十分に実行されない限り、「環境アセス」制度への裏切りとなり「環境万博」の名に反することを肝に命じておかなければなりません。

従って、以下万博会場内で市民が調査した他のムササビ情報を示していきます。

4.万博会場内の他のムササビ情報

@ムササビFについて

イ. ムササビBに子どもFが生息していることに気づいたのは2月8日に日本自然保護協会の吉田さん達が調査に来られた時でした。

ムササビBの巣穴の近くでフンとヤブツバキの食痕を採取した後、巣穴から10m程のスギの下でムササビ会の会長である岡崎さん(東久留米在住)が子どものフンを発見されました。3mm程のフンが分解もされず残っていたのは、前年の6月に交尾に成功し晩秋から冬に育った固体だからだと思います。(資料2の丸印が子どものフン)

尚、当日調査に同行した者は前記吉田さん、岡崎さん、同会員の女性、「海上の森を守る会」代表加藤さん、大薮です。

ロ. 1月5日、「海上の森を守る会」がムササビの鳴き声調査を行った際、ムササビBの巣穴の近くで(30m程東の斜面)調査を行われた会員の舟橋さんから調査報告がありました。ニホンリスの鳴き声が間に入っているとは言え、長い時間の間に聞こえた鳴き声は典型的な親子の鳴き交わしです。(資料3、尚、調査記録の中で「修正版」とあるのは、当初鳴き声の方向を「左、右」と書いてあったものを「東西南北」に改めたからです)他にムササビBの特異な行動もありましたが略します。

AムササビGと関連するムササビについて

イ. ムササビCに子どもGがいるのではないかと思っているのは次の理由です。

去年の11月23日にムササビCを視認した後の12月3日、樹上巣の至近のスギで8分間もムササビが鳴き声を響かせました。これは研究者の報告から考えると、交尾日の1週間程前から起きる特有の行動に合致します。又、この鳴き声の17分後にオス同士のケンカの鳴き声もしました。これらは「交尾さわぎ」と呼ばれる現象です。(資料4記録は同日夜「海上の森を守る会」代表にFAXされたものです)

ロ. オス同士のケンカの鳴き声が聞こえたのですから、この日、ムササビには最低2頭のオスが居たのです。

当時の地理条件から見ると(現在では不可能ですが)ムササビAが吉田川沿いの樹木を介してムササビCの生息するC地区に来た可能性が高いと思います。又、もう1頭はムササビE(後で述べます)が、C地区の南側の樹木を介して来た可能性が高いと思います。(現在では万博会場となり不可能)更に、C地区には他に3つの樹洞をもつ木、2つの樹洞をもつ木があり、それぞれアカゲラかオオアカゲラ(C地区で視認)があけた穴を拡げたムササビの巣穴らしきものがあります。

ムササビDと命名しています。オスの1頭がムササビDの可能性もあると思いますが、生息の確証を持っていません。

ハ. ムササビCの生息するC地区は、万博改変工事ばかりか市道の南北道路の計画と相まって孤立、分断されると同時に今後近親交配で死滅する可能性が高いと考えられます。

BムササビEについて

イ. 最初に鳴き声を聞いたのは1月11日でした。続いて1月22日にほぼ同じ場所で鳴き声を確認しました。万博用に作られる県道と市道南北道路に囲まれた南西の尾根の1画です。その後5月29日に巣箱NO59の近くで鳴き声を聞き、6月5日に同じ場所で交尾期特有のオスの鳴き声を3分間に渡り聞き、録音にも成功しました。

この鳴き声の録音によって、ムササビEがメスであるムササビBと子どもFとは異なる固体であることが確認できました。その結果、ムササビEはムササビBの生息域に入り込んで生きていることが分かりました。ムササビEがムササビBの縄張りの1部を生息域としているのは、1年間を通した食べ物の分析からも必然的です。

尚、食痕については略します。

ロ. ムササビEの生息域は、1方で2つの道路計画によって真2つに分断されます。又、1方は里山遊歩広場や県道によって大きく侵害されてしまいます。

県道計画はすでに樹木が伐採され重機が投入されています。ムササビEの生存も危機的です。

5.その他の情報

@キツネの繁殖用巣穴とアナグマの巣穴

イ. 修正アセス評価書によれば、万博会場内に中型哺乳動物の巣穴は無いことになっています。しかしキツネとアナグマの巣穴がムササビCの生息するC地区にあります。

キツネの巣穴は8つの穴を持ち1月22日に巣穴の前で石膏フンが見つかりました。この時同行されたのはWWFに所属する写真家です。

アナグマの巣穴は4つの穴を持ち、去年12月13日には巣穴から南西約30mの斜面で、アナグマ特有の表土を少し掘り、2つのフンがしてある「タメフン」が見つかりました。同行し写真撮影をしたのは「海上の森を守る会」会員の長沢さんです。(資料5、尚、ムササビの巣穴の写真も含みます)

ロ. キツネの巣穴の上には市道南北道路が計画されています。現在、樹木が伐採され重機が入り絶望的になっています。

  アナグマの巣穴は周囲が道路計画と万博造成で完全に孤立しました。ここも絶望的です。

以上

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