<朝日新聞>
(ニュースに迫る)情報保護・利便性、見えず 住基ネット開始から4年余り【名古屋】
2006.12.17 名古屋朝刊 33頁 3社会 写図有 (全1,820字) 

 住民基本台帳ネットワークが02年8月に運用を始めて4年余り。住民らが訴えた裁判では2件違憲判決が出た。当初から心配されていたプライバシーの侵害はないのか。住基ネットはいま、どう利用されているのか。(大塚晶)

 ○提供記録保存されず

 「住基ネットで自分の情報はどう使われているのか」

 愛知県瀬戸市の加藤徳太郎市議(57)がこう思い、県と市に情報の開示請求をしようとしたのは今年7月のことだ。

 住基ネットは氏名や住所、住民票コードなど6項目の本人確認情報を国などに提供している。だが、どこにいつ、どんな目的で提供したのか、住民には見えない。そこで03年10月、行政機関が自分の情報を利用したアクセスログ(記録)を都道府県が保存し、本人が開示請求できる仕組みが始まった。04年4月には、市町村のサーバーのログも開示できるようシステムが整えられた。

 ところが、加藤さんは、開示請求しようとして、市の話に耳を疑う。

 全国民のデータを一元管理している地方自治情報センターから全国の市町村に対し、ログの保存・開示について連絡がきたのは03年12月。市は翌春から開示しようと思っていたが、担当者が実施直前に設定を忘れ、ログが保存されない状態になっていた。加藤さんの指摘で市はあわててログ保存の設定をし、結局、わずか9日間分の記録しか得られなかった。

 市は「市民には申し訳ないと言うしかない」というが、加藤さんは「システムができても、きちんと運用しなければプライバシーは守られない」とあきれる。

 ○番号化拡大、どこまで

 住基ネットに対しては当初から、すべての情報を番号で管理する「国民総背番号制」の危険が指摘されていた。

 ある人の情報を集約する名寄せや様々な情報を結合させるデータマッチングも容易となる。

 国はこれに対し、「法律で本人確認情報を提供できる事務は限られるから心配ない」と説明してきた。だが、法律は何度も改正され、提供事務の数は4年前の93から293に増え続けている。

 今年11月に「拒否している人まで強制的にネットに参加させるのは違憲」との判決を下した大阪高裁は、「法律や条例によって、利用できる事務の範囲を将来的に無制限に拡大できる」と述べた。

 事務の数が増えれば増えるほど、データマッチングされた場合のプライバシー侵害は取り返しのつかないものとなる。

 ただ、現状では住民票コード、年金番号、免許証番号など様々な番号が存在する。これが一つになったらどうなるか。

 今年5月の経済財政諮問会議。「年金」「医療保険」「介護」「雇用保険」「生活保護」の各番号を統一し、新たに社会保障番号を設けるべきだとの意見が出た。

 当時の竹中平蔵総務相はこのとき、「住民基本台帳も使えるのか使えないのか、省庁を超えて勉強するのは重要だ」と語った。住民票コードを使う手もある、という趣旨の発言だ。

 政府税調が今月1日にまとめた07年度の税制改正に関する答申。住民票コードや社会保障番号の活用を検討しながら、納税者番号の導入に向けて「積極的な取り組みが必要」と述べた。

 住民票コードが付いた個人情報の拡大と番号の統一化が、「背番号社会」に向けてじわじわと進んでいる。

 ◆住民票広域交付、利用は1%未満 名古屋市など

 住基ネットを流れる本人確認情報は国などの293事務に提供すると法律で定めているが、今年8月までの1年間で実際に使われたのは、地方公務員の年金受給者が現況届を出さなくても済むことなど34にとどまる。

 総務省が運用開始前、「こんなに便利になる」とPRした住民票の広域交付にいたっては、想定とかけ離れた状況だ。試算では、全国の域外通勤通学者を3070万人、広域交付による住民票の発行を年間1千万件以上と見込んでいた。

 総務省は広域交付の発行実績を公表していないが、仙台市では、市外から来る通勤通学者は13万1千人(00年の国勢調査)で、広域交付は昨年度で533件。名古屋市では54万6千人に対して1422件。いずれも100人に1人も利用していない計算になる。発行実績の評価については「申し上げづらい」(仙台市)「何とも評価し難い」(名古屋市)と重い口ぶりだ。

 最近は「自治体の公的個人認証サービスに活用され、電子政府・自治体の基盤になる」をうたい文句にしている。しかし、国税庁の電子申告・納税システムをみても、昨年度の利用件数は23万7千件。全体の申請件数に比べて1%にも満たないなど、電子政府自体が進んでいない。

朝日新聞社


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