演劇ワークショップ


公開ワークショップに参加して
谷 賢一(劇作家・演出家)
2007年5月18日(金)開催

80年代に演劇集団アジア劇場で活躍し、その後伝統演劇や武道・ヨーガ など横断的にジャンルを超えて俳優訓練の方法を独自に模索して来た林 英樹氏が講師を務める。経歴を見てみるとえらいきらめいた方なのだ が、とりあえず目にしてみねば何もわからぬ、とあまり先入観を持たず 飛び込んでみたが。

身のこなしが大変きれい。美しい。説得力のある身体であった。百聞は 一見に如かず、言葉は人間をちょくちょく裏切るが、身体はあんまり裏 切らない(それでもたまに裏切る・笑)。おお、すげぇ、と素直に思っ た。

そんな林先生を囲んで二十余名でワークショップはスタート。テラ・ア ーツ・ファクトリーのメンバー、年間ワークショップ(シアターファク トリー会員)参加者、パントマイム役者など、まぁ幅広い参加者層であ った。

まずは又割りのように腰を落とし(「ハコ」と呼んでいた)、骨盤から 背骨・上半身を垂直に立て、そのまま左右に重心移動し、片足をもう片 足に引き寄せる。この時点で自分はもうできない。なぜ音もなくすっと 足が床を滑り重心が移動してるのか。

続いて今度はそれに腰から上半身をひねり、そのエネルギーの余波を両 手に伝えて身体を旋回させる、…ような運動。林先生も仰っていたが、 あまり他に類を見ない動き。「ファリファリ」と呼んでいるそうだが、 これがえらい難しい。

テラ・アーツ・ファクトリーの古参メンバーに話を聞くと、「イメージ と身体がぴったり重なる/実現できる、その瞬間にぶわっと風景が変わ る」みたいな。自分も昔武道を嗜んでいたことだし、バレエや歌舞伎が えらい好きなので、イメージは何となく想像できるし、できたら気持ち いいだろな、と思う。が、身体の歯車がギシギシギシギシ、不器用に軋 むばかり。観念的で宗教的な感じすら漂うが、二人組で「ファリファ リ」をやっている経験者の動きを見ていると、こういう丹田からの波動 だとか精神同士の交感だとかが可能なことはよくわかる。聞けば「週ニ で続けて、とりあえず一年くらいはわかんない」そうなので、まぁがっ かりしないことにした。

ここまではもちろん基礎の基礎。骨盤、背骨、そういうものからしっか り立たせる、つまり身体が持っているバランス感覚を掴む。講義では、 発声と腰・骨盤の関係性について触れられていたが、それに留まらずテ ラ・メンバーの間ではこれらの基礎訓練から発展した身体感覚を演技作 りの中枢に置いているのだろう。どういう演技がここから出て来るの か、大変興味がある。まだ多分全体の5%も見ていないんだろうな。






休憩を挟み、後半は「F空間」と呼ばれる集団で行う即興身体表現を行 う。七・八人で大き目の輪を作り、一人目がパッと思いつきで輪の中 心・場に立ち、任意の姿勢・ポーズを取る。動きが定まったな、と思っ たら二人目が入り、やはり任意の場に立ち任意の姿勢・ポーズを取る。 これをどんどん繰り返し、最後の一人が入ったら、最初の一人から順々 に輪を抜けて行く。最初はシンプルだったが、徐々に「場の中にいると き動作をしていても良い」「一人だけ歩いていても良い」「去るときは 順番じゃなくても良い」など自由度が増していき、さらにはある単語 (「壁」「爆撃」「農夫」などいろいろ)を林先生が提示し、それを照 準にして動いていく。

これは、もう、言葉では説明しきらんが、やってみると意外とスムーズ に入り込める。要は、俳優が自分自身を演出すること、あるいは空間や その状態・バランスを意識すること、などの感覚を泳がせながら鍛え る、みたいなことだと思う。が、理屈抜きに、わっと入って自分が場や 表現に参与し、空間が変わったり共演者の動きに影響を与えたり、それ まで場が持っていた意味性やニュアンスをあっさり覆してしまったり、 そういう空間上の交感力のようなものが大変面白かった。
                           


これにてワークショップは終了。時間的に発声や台詞について触れられ ないことを林先生は悔しがっていたが、確かに自分もそこは興味があっ た。WS最初の講義であった、「『会話』の演劇と『語り』の演劇」とい う話、そしてその『語り』にウェイトを置いて演劇を考えている、とい うようなところに強く共感・感心を持ったので、余計に。

三時間ほどのワークショップにちょろっと参加しただけなので、まだ何 もわかってないというのが正確な位置取りなのだろうが、今年七月に一 発公演を打つそうなので、是非それを観てみたいなと思った。話や理論 には頷くことしきりだったし、あの知識量・明晰さは一朝一夕で培える ものではない。それにあの動き。では果たしてどういうプロダクション を提示するのだろう?

参加者のほとんどは二十代前半の若い女性ばかりだったが、こういう観 念的で、気の長い、じっくりとした稽古を丹念に続けているというその 姿勢に驚いた。それに、アルトーやニーチェ、シェイクスピアやラシー ヌやギリシャ悲劇やらに強い関心を寄せている人というのは、いそうで なかなかいやしないので、演出・構成としての林英樹氏がどういう舞台 をやろうとしているのか、その理論はどういう結晶を持ち得るのか、と いうことにも大変興味がある。今んとこ、全貌が掴めていなさ過ぎなの で、またワークショップに足を運んだり、それに何より次回公演を拝見 して、片鱗を目にできればと思う。



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