深くて強い表現
T.SAKAI(45歳、男性)
ファクトリー活動記録        
活動形態:演劇ワークショップ グループA
活動日:2002年12月26日(木)
会場:新宿村第7スタジオ
参加者:17名

(*FはFメソッドの基本用語、自在性と自由性を指す)

活動内容
1. F基本身体訓練
「手の振りよりも腰のねじりから動きが生まれるように」という林さんの言 葉を手がかりに腰のひねりを上半身に伝えることを意識して、ゆっくりやっ たり、はやくやったり身体の内側が変わることに注意を向けている。急にス トップををかけても、少し流れる感じが残るので、丹田の部分で支えきれて いない。また、動きが速くなると、腰をひねる時重心の位置が微妙に変化す るので上半身が傾く。どっと構えることにできる自分がほしい。

2. Fメソッド基礎T
久しぶりに藤井さんと組む。気を送りながら受けながら自然と流れるよう に、心地よい。

3. Fサークル(基本テクストによる)
木曜日のクラスでは久しくやっていない。この円形バージョンは間の取り 方、構成の仕方は観ているだけでも参考になる。終わった後、林さんが語っ た「演じる自分だけでなく、もう一人、輪の外から観ている演出者としての 自分がいなければ、構成はおもしろくならない。」自分も入るとき外側の視 点は意識しているが、構成を考えるとき、視点がもっと上空(部屋の天井あ たり)からの視点が必要に思えた。

4. 交叉型(Fメソッド基礎T)
松山さんと組んで行った。近寄っていって、2人の間に圧をつくり、それが 壊れないようにもどる。ちょっと集中を欠くと、「あっ、今 力がぬけた」 と感じるときがある。できた圧をこわさないよう特に、戻るときの一瞬一瞬 を大事にしたい。

2回目は、テンションが高くなった時、まいこさんがテクスト・モノローグ 「ああ、口づけを拒んだわねヨカナーン・・・」部分をはじめる。「すばら しいわ・・・」を繰り返すうち、相手がもう「ああ、口つげを拒んだわね、 ヨカナーン」へ入りたいのを感じるがその呼吸に合わせて場をつくれないこ とをもどかしく思う。こういうときは、自分の足りなさにぐっと落ち込む。
  
5. シテ型(マスクをつけて)
MAIKOさんが桑原さんの声を受けて体を変えていく。林さんの合図で私 の声で根岸さんが声を受けて体を変えていく。自分の声の出だしに「そうい う声ではない。抑えて」と林さんの声が飛ぶ。なかなかうまくいかない。3 回目にOKが出る。言われなくても感覚的に体がわかる状態を見いだした い。

【感想】
今回は2002年の最終回ということで火曜日のクラスと木曜日のクラスの 合同。人数の多い分、また火曜日と木曜日で取り組んできたことが多少異な るので物足りなく終わる気がする。

前々回後のワークの先に「身体を動かさず、身体の中は変えて、動き出そう とする身体の内側から逆に圧をかけていく」レッスンが見えた。どうして も、身体が動いてしまいうまくはいかなかったが、身震いした。それは、こ のワークの奥深さを改めて感じたからだ。このレッスンが林さんのよく言う 「深くて強い表現、それでいて広がりをもつ」ことに通じることだと直感し た。

私たちが舞台に立てるよいうになるにはまだ、4段階ぐらいレベルアップし ないとだめだとすると、このワークは一体どこまで奥の深いことを追求して いくのか、底が知れない。それゆえ、やりがいがある。

5回のうち4回自分の表現力のなさに落ち込むと通う足も重くなるが、今い えることはとにかく続けること。徐々にレベルアップするというより、ぴょ んと自分でもつかめるときがくる。ただ、1度ぐらいつかめたからといって 次回そのまま生かされるほど生易しい世界ではない。ただ、立川のワークシ ョップに通っていたあの3年よりも、今回の8ヶ月間は自分の中で、確かに 何かが変わってきている。

ファクトリー活動記録        
活動形態:演劇ワークショップ グループA
活動日:2003年7月24日(木)
参加者:上田、酒井、MAIKO、野津、根岸、佐々木
会場:新宿

【活動内容】
1.F基礎U

 軽く、体をほぐした後、すぐ四人組で入った。

 林氏曰く「ワーク(F基礎U)の目的(の一つ)は、言葉とじかに出会う こと。言葉と自分との間に主観を置かない。[今、ここ]で起きている具体、 具象を感じ、生きることにある。それが、リアルと言うこと。

 新劇が使う「リアル」ではない。新劇が使うリアルは、観念の世界で作ら れるリアルで、実際の「いま、ここ」が欠如している。」

 二人ずつ抜けながら、新たに二人が加わるやり方で、言葉だけではなく、 体も動かしていく。

 見ているものに感想を問う。世阿弥が目指した一つに観るものの目を高め る事があった。質の高い観衆がいい役者を育てることになる。これからは、 ワークショップの記録でも何を見ていたのか、何を感じていたのか、を問う ていく。「底が浅いと突き返すこともあるから・・・」と。

 MAIKOさんの動きを注視していたが、他の者が言っているわずかの間 に、一度体を崩して新しい動きを生み出している。自分の前の動きの延長や ストップモーションから動いていない。一度崩すことで新しい動きが生ま れ、その多様さに驚いた。

 林氏曰く「普段の生活では、身体は[頭の植民地]になっているからまず身 体(感覚)を機能させる。身体と脳が対等の関係を保つようにすること。そ れには、一度身体を日常(の状態、制度化された状態からもっと自由な状態 へ)から解き放す必要がある。身体(ばっかり)でも、頭(ばっかり)でも そのどちらでもいけない。絶えず身体の末端まで機能している(神経が通っ ている、感覚のセンサーのスウィッチが入っている)状態を通して頭と身体 がバランスを対等に取りあえる、ようにすることが大事。」


2.Fサークル(基本テクストによる)

 WAクラスでは久しくやっていない。はじめは、六人。次に五人で行っ た。

 六人の時は順番通りに入る。

 五人の時、はじめは順番に従うが、後からは、順番は解除し、自分が[こ こだ]と思ったときに入る。退場せずそのままアクティングエリアに残って 継続してゆく。


 終わった後、林さんが語った「MAIKOさんがいいぞという感じで入っ ている時に酒井さんが入って[食って]しまう。もっと(全体、他者の状態) を感じなければ。がんばりすぎると他が見えてこない。(肩の力を抜いて) 気配を消して、[ここだ]という時に入る。(自分の中に)中に入るのではな く、どこかに冷静な自分を持っていないといけない。そういう点、酒井さん はきちんと(全体、他者を)観ていない。」


【感想】
 すでに、何度もやっているワークだし、この手の話もきっと何度も聞いて いるはずだが、頭と身体の対等の関係の話は、頭と身体の境界線上に立つと 考えていた(春頃まで)

 自分には改めてすとんと落ちる話だった。(できるかどうかは別にして)
 今回、前回に続きだめ押しを喰らった。きっと、言われていることは同じ なのだと思う。

 自分が「おい、おまえ・・・」(*Fエチュード:別役実の『正午の伝 説』の傷病兵の対話を使用しての即興)で入った時も、「冒険していこう」 という気持ちであったが、まさに[この時]、[ここしかない時]ではなかっ た。「人を食っている」時も同じだったと思う。「離見の見」を意識しつつ も、やっているうちに目が自分の体(意識)の中に戻ってきてしまう。冷静 さが求められるのだと思う。

 この状況を打開する上で、舞台(*演技者のクオリティーの高さを持った舞台 のこと)を観る事を薦められた。自分としては、観てきていると思っている ので、きっとそれ以上に林さんの言うところの志が求められているのだと思 う。
 自分の表現の幅を広げるとか、そんな次元で満足していないで、自分にと って演る事の意味を問われている。もっと、高い志を持てと。

 自分にとって、何が目的でやっているのかを改めて問うていきたい。

ファクトリー活動記録        
活動形態:演劇ワークショップ グループA
活動日:2004年4月26日(月)
会場:新宿

【活動内容】
 4月からの新しいメンバーも加わったので、林式演技基礎訓練(ファリフ ァリ)を丹念に行なった。

◎Fメソッド基本身体運動
 「気=エネルギーの流れを自分の身体の中から巻き起こすように」という 林さんの言葉を手がかりに腰の回転運動を上半身に伝えつなげることを意識 して行う。速度をスローに抑制するときは動いているのかわからないよう に、しかし、一定の速さを維持するよう行う。身体の内側から起こるエネル ギーが変わらないよう意識を向ける。指先からエネルギーが放出されるよう な感じと呼吸が合う感じを同時に捕まえることが増えることを目指して行っ ている。

◎次に発語(基本テクスト)
 「割り身」の姿勢をとった時、それを支えられる筋力を普段から訓練して おく必要性を説かれる。電車の中でも腰をかがめ、太ももの内側の筋肉がつ くよう生活の中にそうした時間を組み込ませる工夫を求められる。自分も忙 しさにかまけてなまけるので、自戒。ファリファリから生まれる動きのやわ らかさだけでなく、力強さを生み、上半身の力が抜ける上でもきつい姿勢を 支えられる下半身の筋力をつけていきたい。

◎Fメソッド・サークル
 発声とつながることだが、林さんが最近特に言う「音声空間と言語空間の 双方を成立させること!!」

 奥の深い言葉。今までは、比較的、音声の方を優先させてきたが、意味言 語としても成り立たせることは、聞かせる相手の観客を意識することであ る。間の取り方、語の構成の仕方だけでなく、サークルに入る際の声の高 さ、強さ、だけでなく意味言語としても成立させるには、どんな要素が入る のだろう。感情(だけ)に頼らず、身体の内側の筋肉をより多様に使った声 の高さ、強さ。基本テクストを発語する間に変わる声音や動きの構成。

 悪い例として、動き(や気分)に流され、声も流れることを林さんは指摘 した。Fサークルの時、自分も一度止められた。タイミングではなく、第一 声の入り方が安易だったためだ。よく言われる「この時、ここしかない入り 方」に程遠かった。Fサークルのメンバーの声を体で受けつつ頭の中で瞬時 にそして緻密に構成して入っていく。それが「この時、ここしかない」テク ストとの出会い方なのだろう。一期一会ではないけれども、一瞬一瞬を出会 っていく出会い方。

 『OHSHIO』でもそうだが、テクストとのそうした出会い方を追求し ていきたい。その上で、今の自分に一番かけていることは対比(コントラス ト)の力だ。前の人の構成や流れを受けつつ、あえてそれを壊し、作り変え ていく力。今の自分にその力を備えたい。それには、もっと聞く。受ける。 まずは、そこに意識の焦点をあてて取り組む。



[感想]
 ここ半年以上、自分がなかなか次のステップに進めない苛立ちやもどかし さを感じていたが、2月の末、F基礎Uの時、MAIKOさんや根岸さんの 動きを見ていたら、自分の動きを変化させる前、ふっと息を抜いてから次の 動きに移っていることに気がついた。(姿勢を変化させない場合もある)そ の呼吸を自分の中に取り入れたところ、動きが非常に楽になった。抜けると ころで力を抜くことができ、変化をつけやすくなった。相手の気を受けつ つ、自分の動きに移るほんの一瞬。時間すれば、きっと0.5秒もないのだ ろう。その呼吸のコントロールで多様な変化をつけやすくなった。このこと は、大きな発見だった。それ以来、「すばらしわ・・・」で起点に指名され ることがこわくなくなった。きょうはストップがかけられずにどこまでいけ るかが楽しめるようになった。
 すると不思議なことに、この発見があれほど苦手だった「壁」にも応用で きることがわかってきた。それほど、「壁」は最近やっていないのだが、力 を入れたままだと、変化がつけにくいことでは共通があるのだ。一度得た感 覚は次の週には失ってしまうことが多いのだが、この感覚だけは自分の中に 残った。次に自分の中で、何が変わっていくのか、期待しながら続けていき たい。


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