【There is nothing permanent except change.】

<15>

海堂が乾に視線を向ける。
先ほどまでと違い、海堂の射抜くような視線が乾に向けられていた。

「何だ?」

海堂にそんな視線を向けて、乾は余裕のあるふりを取り繕うのが精一杯だ。

「俺・・・この3週間ずっと考えてました」

海堂の言葉は途切れ途切れで、それでも海堂が自分なりに言葉を選んでいるのが乾には感じられた。多分、海堂はあの時の答えを今告げるのだろう、そしてその結果は分からないが乾にはもう逃げ道はないのだろうと。そんな予感が漠然と乾を支配し始めた。

「先輩に・・・その・・・好きだって・・・言われてから。俺はどうすればいいんだろうって」

乾は相槌を打つのをやめた。
代わりに海堂の言葉を聞き逃さないように耳を済ませる。

「俺、まだ好きだとか、嫌いだとかはっきりした答えは出せねえ」
「・・・・・・」
「けど・・・」

海堂が大きく息を吸った。

「先輩と練習できねえこの3週間。いつも先輩のことを考えてた。練習の時も、それ以外の時も・・・」

乾は海堂の言葉と表情を交互に比べる。
頬を少しだけ朱に染めて、それでも意思の込められた眼と唇は強く。海堂がゆっくりと息を吐き出すその仕草まで見逃さないようにした。

「好きっていう気持ちがどういうもんか、まだ実際にはわかんねえ。けれども、俺は先輩とこれからも一緒に練習して、テニスが強くなって・・・けどそれ以外にも先輩といろんなことを一緒にやっていきたい・・・そう思ってます」
「海堂・・・」

馬鹿の一つ覚えのように、乾は海堂の名を繰り返し呼ぶことしか出来ない。そんな自分を我ながら単純な思考回路だと乾は自嘲した。

「これが、俺の答えっス」

返事を乾に告げた海堂の瞳にはもう、先程までの迷いも不安の影も少し消えていた。恐らくこの3週間、海堂はずっと考えていてくれたのだ。そして、乾の気持ちを悟った上で、それでも海堂は乾の気持ちを受け入れようとしてくれている。

ふと、乾の視界に海堂のバンダナが入った。
それは乾が海堂の誕生日に渡したものだった。よく見れば、靴紐も同様だった。昨日まで全く使っていなかったのだから、今、この瞬間の為に海堂が敢えて身に着けてくれたのだろう。それが海堂の答えだと納得していいのだろう。

「ありがとう・・・海堂。本当に・・・ありがとう」

乾はそうして海堂の右手を愛しむように自分の両手で包み込んだ。掴まれた場所から伝わってくる乾の手の温もりに海堂は、乾のことを子供みたいだと思いながらそれでもその温もりが心地よく感じていた。






この瞬間、乾と海堂の間は先輩後輩から、友達以上恋人未満まで変化する。
でも、多分その関係もいつかはまた別のものに変わっていくのであろう。
それはその時考えればいい、ただ、その変化は二人にとっては拒否するものではなく受け入れるべきものだったということだ。

人も、年月も、何もかも変わり続ける。
永遠も、いつかは終わる幻想だ。
けれども、変わり続けるというその事実だけは永久で。

いつかはまた変わり続ける関係だけれども、
それでもこの瞬間の喜びは、いくつになっても思い出せるだろう。




奇しくも、それは乾の誕生日当日の朝の出来事であった。




(完)

04/06/03uo

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後書

最初は海堂誕生日祝いだった筈の短編が、何を何処でどう考えたのか、乾海誕生日記念連載となってしまいました。最初の所、柳と海堂が仲良くしているのに妬いた乾の話というのがあったのですが、どうにもしまりが悪くそうこうしている内に乾海告白話となってしまいました。
設定が高校生・・・の割には中学生日記のような恋話ですが(汗)
でも柳は書いていて楽しかったです。こう柳を絡ませると話が進むのは一体なんだろうか?2人とも奥手だからですかね?
何はともあれ無事終わりまして良かったです。ここまで読んで頂きありがとうございました。

04/05/11〜04/06/03
美月(たらすじ)拝

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