【There is nothing permanent except change..】

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海堂は、朝練の前のランニングの為に家を出る。
外の天気は少し曇りがちで、それでも雨は降りそうにも無かったからいつものように彼は公園まで走りだす。朝練の為のランニングは中学1年の頃から始めたもので、海堂は誰に言われるまでもなく毎日走るのが習慣となっていた。

まだ、少し風が冷たいとも思ったが走っているうちに身体に熱が集まり、終わったときには丁度よくなる。いつも決まったランニングコースのゴール地点の公園に辿り着いた海堂は、いつもそこにいる筈の人影を探していた。

「やあ、海堂。時間通りだね」
「おはようございます」

公園のベンチにいつも座っている人影が海堂を見るなり声をかけた。

乾貞治。
中学時代からのテニス部の先輩であり、高校に入ってからとなっても先輩後輩としての付き合いを続けている。海堂の中学時代からの習慣のランニングは、最初は1人だったものの、中2のときに乾とダブルスを組んで以来、約束したわけでもないのに毎日こうして朝練の前のトレーニングを一緒にするようになっていた。海堂が、乾の隣にいるもう1人の存在に気がつかなかったら。

「アンタは…」
「おはよう、海堂君」

乾の隣に座っていたのは目の細い、整った前髪の海堂の良く見知った顔。

柳蓮二
乾先輩の幼馴染にして、神奈川の立海大付属高校3年テニス部レギュラー
かつて乾とジュニア時代にダブルスを組み、今はシングルスプレイヤーとしてもその名を轟かせている存在。何故、神奈川にいる筈の彼が東京に、しかも今海堂と乾の目の前にいるのだろうか。

「おはようございます」
「おはよう、きちんと挨拶ができるのはいいことだよ。なあ、貞治?」
「海堂は礼儀正しいからね」

動揺もそこそこに挨拶が出てくるのは無意識のうちに躾けられたものであり、それを褒められるのは何となく慣れないものだがそれよりも、どうしてここに柳がいるのか不思議で仕方がないのである。それに、この公園は今日まで乾とずっと練習してきた場所でありそ、自分と乾以外誰かがその練習に入ってくるのは今日が初めてであった。

「海堂が蓮二がここにいる理由を知りたがる確率100%」
「海堂君が俺がここにいる理由を知りたい確率100%」

図らずともデータテニスプレイヤー同士、普段でもこうしてシンクロしてしまうのだろうか。大体、そんな普段でもデータを取る人間など1人でも十分なのに、2人もいるのだから流石に海堂もどう反応していいのか戸惑ってしまう。
海堂のそんな反応を見て乾も柳も得意げだ。それが何故か海堂の中で何かを燻らせるようで落ち着かない。

「心配しなくてもいい、俺はたまたま用事があったので青春台の方に来て、ついでに朝練に走っていたらたまたま貞治と会っただけだ」
「たまたま、ですか」

余りにも都合のいい話に何処までが真実なのか、そうでないのか海堂には解らない。ただでさえ、柳という人は何度かテニスの大会であったことがあるが、乾が2人いるようで海堂は未だにどう接していいのか解らないときがある。乾の親友で、ライバルで、もしかしたらいつもこうして傍にいる海堂よりも乾に近い存在かもしれない柳という男が海堂にとっては、微妙な立場にいるのである。

「海堂君、今日の放課後何か用事はあるのかな?」
「いえ…今日は放課後部活も休みっスし、別に自主練するぐらいで…」
「おい、蓮二。海堂にそんなことを聞いてど・・・

柳に声を掛けた乾は、柳の一睨みでしおしおとなってしまう。

「貞治に聞いているのではない、俺は海堂君に聞いているんだよ。で、海堂君。今日の放課後もしあいているのなら俺に付き合ってくれないかな?」
「あ、別に構わないっスけど…」
「すまないね、助かるよ」

その穏やかな微笑みを海堂に向けながら、柳はしおしおと小さくなっている乾の方に視線を向けた。

「貞治、俺は海堂君と用事があるんだ。お前は絶対ついてくるな」
「な、なんだと…」

柳の一言で乾はまるで子犬のようにきゅんきゅんと柳と海堂の方に視線を向ける。
そんな乾に海堂は呆れたような溜息を吐き、柳は何を考えているのか解らない。乾は海堂に何か言いたげな視線を向けていたが、海堂は乾の方を見なかった。いやあまりの突然のことに乾に構う余裕が無かったのだ。


そして、奇妙な一日はこうして始まりを告げたのである。


04/05/11up
04/05/15 改題・改訂

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