帝国歌劇団対御神楽少女探偵団
Teikoku Kagekidan vs Mikagura Shoujo Tanteidan
最終話
〈其ノ九 大神と御神楽の推理〉
「失礼します」
帝劇の正面玄関で男の声がした。
「…御神楽さん、お待ちしておりました」
大神が時人と巴たち3人を出迎えた。
「…例の部屋は?」
「連絡があってから、開けてあります。花組や乙女組は勿論、米田支配人にあやめさん、
かすみくん、由里くん、椿ちゃんの3人にも来る様に伝えてあります」
「そうですか、有難うございます」
そして大神の案内で帝劇の中を進む4人。
「…あら、滋乃さん」
すみれがその中に滋乃を見つけた。
「あら、すみれさん、またお邪魔しておりますわ」
「本当にご苦労な事ですわね。…ところで、あなたどちら様ですの?」
すみれが丸眼鏡を掛けた男に話し掛ける。
「あなたが一度お会いしたがっていた、久御山君を雇っている探偵とやらですよ」
「え…。この方が…、ですの?」
「…それよりすみれくん」
「…わかっておりますわ。もう皆さんお揃いですわ」
*
大帝國劇場楽屋。
「…皆さん入りましたか?」
時人が大神に聞いた。
「我々の方は全員揃いましたが…」
大神が言う。
「そうですか。…まだ来てない人がいるみたいですが…」
その時だった。
「…先生、こんな所に呼び出して何の用だ?」
諸星警部と栗山刑事の二人が入ってきた。
「…お待ちしておりました。実は、今回の事件の真相をお話しようと思いましてね」
「真相だって?」
「はい。…ここでは一寸狭いかもしれませんが皆さん、暫く僕の話に付き合っていただけ
ないでしょうか?」
そう言うと時人は一同を見回す。
「…事件は今から10日程前の8月1日、高野紅葉さんという女優の卵がこの大帝國劇場
の舞台上で死んだことから始まりました。死因はシアン化カリウムを飲んだことによる中
毒死。そして、この事件の犯人とされる人物は同じく乙女組に所属する栗原小萩さん。…
不幸な事に彼女は一昨日、日本橋で水死体となって発見されましたが、彼女は紅葉さんの
あまりの我儘ぶりに手を焼き、遂には彼女に殺意を抱くまでになり、8月1日に彼女を殺
害。しかし、良心の呵責に耐え切れず自らの命を絶った…。これが今回の事件の警察の見
解ですね? 諸星警部」
「ああ。彼女の遺書も見つかった事だしな」
「…しかし、僕はこの話を聞いた時、どうも納得がいかなかったんですよ」
「納得がいかない、って?」
「…内容が薄っぺらなんですよ。自ら死を選ぶほどに追い詰められているならば、何で彼
女を殺してやりたいくらいに憎んだのか、とか彼女を殺すまでに至った経緯とか、何で舞
台上で殺そうなどと思ったのか、そういったことが詳しく書いてあってもよさそうなもの
じゃないですか」
「…そりゃあ、彼女がそこまで精神的に追い詰められていた、って事じゃないのか?」
「違いますね。もし精神的に追い詰められているならば、例えば『私は取り返しの付かな
いことをしてしまいました。死んでお詫びします』程度の短い文くらいしか書けないと思
いますよ。それに…」
「それに?」
「…栗原小萩が死体で発見された日、鹿瀬君たちが乙女組の合宿所でこんなものを見つけ
たんですよ」
と時人は日記帳を取り出した。
「この頁を見てください」
を日記を広げる。
「…鹿瀬君がこれを見て疑問に思ったそうですが、彼女は8月12日に上京してくる友達
と会う約束をしていたそうです。何でこれから自殺しようとする人が友達と会う約束など
するのでしょうか?」
「…一寸待てよ、先生。じゃあ、日本橋で発見された栗原小萩は犯人じゃねえ、ってこと
かよ?」
諸星警部が聞いた。
「…ええ。僕は彼女も真犯人によって自殺に見せ掛けて殺されたと思います」
「…じゃあ先生。その、先生の考える真犯人、ってのは誰なんだよ?」
「その前に警部。僕が高野紅葉のお姉さんと一緒に福島の郡山まで出かけていた時に、鹿
瀬君たちの前で犯人は高野紅葉のキャラメルに犯人が毒物を仕掛けた、と推理したそうで
すね」
「ああ。それがどうしたんだ?」
「実は僕は昨日、こちらの大神少…いえ、大神さんと話し合ったんですが、あれは不確実
なトリックなんですよ」
「不確実? どういうことだよ」
「その件に関しては僕より大神さんの方が詳しいと思いますよ。そうですよね? 大神さ
ん」
時人の問いに答えるように大神は、
「さて。諸星警部は以前、キャラメルを使ったトリックを口にしましたが、アレは明らか
に間違っています。何故なら、あのトリックは劇が時間どおりに進行する、という前提が
なければ成り立たないからです。自分もこの仕事をやるようになってからわかったんです
が、劇というのは一寸したことで進行が時間通りに行かないことが多いんです」
「時間通りにいかない?」
マリアが大神の言葉を補足するように、
「ええ。というより、時間通りに進むことの方が珍しいんです」
「ですから、あのトリックを使用した場合、進行が早まるならとにかく、進行が遅れてし
まった場合は、彼女が毒林檎を食べる演技に入る前に死んでしまう可能性があるんです。
ましてや計画を練りに練った人物がそんな杜撰なトリックを使うでしょうか?」
「杜撰なトリック?」
「ええ。あの場面を見たそちらの3人のお嬢さん方はわかると思いますが、『白雪姫』には
白雪姫を殺す場面が3回出てきます。最初は紐で胸を圧殺、その次が髪の毛を梳くと見せ
掛けて櫛で刺す、そして問題の毒林檎となるわけですが…。最初と二度目、二度目と
三度目の間には結構時間が開いています。白雪姫を殺す場面ならとにかく、それ以外の場
面で彼女が死んでしまったらいくら何でも不自然じゃありませんか?」
「うーん…」
「それともう一つ。実はあの日、マリアが彼女のキャラメルを一個食べていたんですよ」
「なんだと?」
「ええ。もし、そちらの警部さんの言うことが正しいとしたら、何分の一かの確率でマリ
アがその毒入りキャラメルを食べてしまう可能性があったわけです。もし犯人が高野くん
を毒殺するつもりでキャラメルに毒を仕込んでいたとしたら、まさかマリアにそれは毒入
りだから食べるな、とも言えないでしょう? …ですから、あの現場にあったキャラメル
の空き箱は一切関係ない、自分はそう思います」
「うーん…」
諸星警部は黙り込んでしまった。
ようやく口を開いたのは1分位してからだった。
「…じゃあ先生よお、先生の考える高野紅葉の毒殺トリックはなんなんだよ?」
「…そうですね、ここよりも舞台で説明したほうがいいかもしれませんね」
*
大帝國劇場の舞台に一同が連れて来られた。
「さて、キャラメルに仕込む方法は駄目、林檎からも毒が発見されない、となるといつ彼
女は毒を飲まされたのか、ということになりますけど、まだ方法がないわけじゃありませ
ん」
時人が口を開いた。
「方法がないわけじゃない?」
「…マリア・タチバナさん」
時人はいきなりマリアの方を向いた。
「は?」
「当日、高野紅葉さんはかなり緊張していたようですね」
「はい、紅葉に限らず、あの娘達は全員かなり緊張してました。…私も今でも緊張する事
がありますけど」
「…あの日、彼女たちは初舞台ということで物凄く緊張していた、人間、緊張すると咽喉
が渇いたり、手の平に汗をかいたりするものです。しない方がどうかしている。となると、
犯人はそれを利用した、と考えるのが自然のはずです」
「そういえば、紅葉が喉が渇いたと」
「…それはいつのことですか?」
「確か白雪姫が小人達の家に迷い込んだ場面だから…。まさか!」
マリアが何かに気付いたようだ。
「…そうです、犯人はその機会を待ってたんですよ。仮に一度や二度機会を逃したからと
いって、それで終わりにはならない。…犯人はとにかく、彼女が水を欲しがればよかった
んですよ。そしてその時が来たら、自分でシアン化カリウムの入った水を渡せばいい。幸
いな事に『白雪姫』では継母が白雪姫を三回『殺し』ます。だから一度目に殺す場面でも
二度目でもいい。三度目の場面ならばその後、白雪姫役の紅葉さんはその後に生き返る場
面までずっと死んだ演技のままだからもっと都合がいい。まさか観客は死んでいる演技を
している人物が既に死んでいた、何て思わないでしょう? …このことから考えると犯人
は、その場面で高野紅葉さんに水の入ったコップを渡した人物、すなわち村雨あおいさん、
あなたということです!」
全員が村雨あおいに視線を合わせた。
「…あおい、まさかあなたが…」
マリアが言う。
全員があおいの次の言葉を待っていた。
「…そうですよ、探偵さん。あたしが二人を殺したんですよ」
「…なんでそんなことしたの?」
「…どうしても、どうしてもあの子が許せなかった…。…あの子は、紅葉は人前ではいい
子ぶってたけど、自己中心的で、常に自分が陽の当たる所にいなきゃ我慢できない子だっ
た。自分の言い分が通らないと手を出す事も何度もあったわ。あたしは――いつの間にか
そうなってたけど――乙女組のリーダーとして何度も注意したんだけど、あの子は一度も
聞いた事がなくて…。何度も言い争いをしたことがあったし、酷い時にはあの子はあたし
たちを殴った事もあったのよ」
「…なぜ、あやめさんや私に相談しなかったの?」
マリアが聞いた。
「…何度も相談しようと思った。でも、紅葉はそういうそぶりを見せるとすぐに手を出す
のよ。…だから、あたしはこの披露公演が終わったら歌劇団を辞めよう、とまで思うよう
になったわ。でも…」
「でも?」
「…その披露公演の配役にまであの子は口を出したの。自分が白雪姫をやるんだ、って。
他の役だったら公演には出ない、とまで言ったのよ」
「…やれやれ、どっかの誰かみてーだな」
そう言うとカンナは横目ですみれを見た。
その視線を感じたすみれが睨み返す。
「…そう言えば、台本を書いた先生が言ってましたね。『白雪姫はあおいさんを考えていた
のに紅葉さんになって意外な気がした』って」
さくらが言う。
「そう。…他の4人はあたしがやるものだと思ってたし、あたしもそうだと思ってたのに、
紅葉が強引だったせいでああなったのよ。…あたしは仕方なく譲ってあげたわ。また面倒
起こすと大変、と思ってたから…。でも、ハラワタは煮えくり返る思いだった。もうあた
しが歌劇団を辞めるくらいではこの怒りが収まらなかった。…だから、披露公演の最中に
あの子を殺してやろう、って…。どうせ最後の舞台にするつもりだったから、これで思い
残す事はないだろう、って…。それに、紅葉だって舞台で死ねれば本望だろう、って…」
「…紅葉くんの事はそれでわかったけど、小萩くんは…」
大神が聞いた。
「…不思議よね。紅葉を殺した後、告白文を書いてから乙女組を辞めるつもりだったのに、
いざ実行したら辞めるのが惜しくなっちゃったのよ。こうなったら事件をうやむやにして
しまおうか、って考えるようにまでなって…。そうこうしている内に何処かで小萩があた
しを問い詰めるようになったのよ。『あおいが紅葉を殺したんじゃないのか』って。あたし
は最初知らん振りをしていた。でも、あの子があたしの机の中からこれを見つけた、って」
とあおいが何やら紙包みを取り出した。
「…それは?」
「…紅葉を殺すのに使った青酸カリよ。あたしの知り合いから貰ったの。決定的な証拠を
突きつけられたらどうしようもないもの。…それであたしはとっさに思いついたの。小萩
に全ての罪をなすり付けてしまおう、って。あの子だって何度も紅葉に殴られてたもの、
殺す動機は十分にあったから。あの日の夜に『自首するから一緒に警察に行って』って小
萩を誘い出して日本橋であの子を突き落としたわ。…勿論、あのこの仕業に見せかけるた
めに告白文も用意してね。それで終わるかと思ったけど、もうおしまいね…」
そう言うとあおいは舞台袖に向かって走り出した。
「あおい!」
マリアが叫ぶ。とあおいは一同のほうを振り向いて、
「来ないで! 一歩でも近付いたら、これを飲むわよ!」
あおいが紙包みを全員に見せた。
「あおい!」
「あおいさん!」
「あおい、馬鹿な事はやめなさい!」
周りの人間が口々に叫んだ。
時人は何とか彼女を思いとどまらせようと一歩前に進み出た。
…と、その時人をさえぎった人物がいた。
「大神さん…」
「御神楽さん、ここは任せてください」
「…しかし…」
「…大丈夫。何かあったら責任は取ります」
「…わかりました」
時人が大神に頷く。
大神はゆっくりとあおいに近付いていく。
「こないで、って言ってるでしょう!」
あおいはもう涙声だった。
「…もういいだろう。もういいだろう、あおいくん!」
「…」
「君が今死んでしまったら、君はあの世でまた紅葉くんや小萩くんに責められ、なじられ
るだけだぞ! 君はそれでいい、って言うのか!」
「…いいのよ、あたしなんか…こんな罪人なんか、死んだって悲しむ人なんかいないのよ」
「…そんなことないですよ!」
千鶴が叫んだ。
「…桧垣くん…」
時人がつぶやいた。
「…あなたはどう思うか知らないけど、紅葉ちゃんは私の親友だったんです。紅葉ちゃん
が舞台で死んだとき、私凄く悲しかった。…今でも元気だった頃の紅葉ちゃんの夢を見る
ことがあるし、あの子の事を考えると今でも胸が痛んで…」
「…そうだよ、この子の言った通りだよ。君にだって親友がいるだろ? 君が死んでしま
ったら、親や友達は悲しむと思うし、それに、これからずっと自殺した殺人犯が親友だっ
た、って世間から言われ続けるんだぞ」
「…」
「それに…、君が死んでしまったら、何の解決にもならないんじゃないのか? そうだろ
う? これから罪を償って生きていくより、死んでしまった方が楽かもしれない。…でも、
時にはその楽な選択をしてはいけない事だってあるんだ。あえて辛い選択をすることだっ
て必要なんだ。…いいじゃないか。君はそれだけのことが出来たんだ。もうなんだって出
来るはずだし、まだやり直しが出来る年齢じゃないか。…な、何年掛かってもいいから、
今からやり直そうじゃないか」
「う…」
あおいはその場に座り込み、嗚咽を始めた。
床が涙で濡れている。
大神はあおいの傍に近付くと、まずは彼女が持っていた青酸カリが入った紙包みを取り
上げ、あおいの肩に手を乗せる。
「…立てるね?」
あおいがこっくりと頷くと、ゆっくりと立ち上がった。
諸星警部があおいに近付こうとする。と時人が、
「…すみません、警部。手錠はかけないでください」
「え?」
「…いえ、何か彼女の手錠姿を見るのが忍びなくて…」
「…わかった。劇場の外でならいいだろう?」
「はい」
そしてあおいに近付く。
「…村雨あおい、高野紅葉及び栗原小萩殺人の容疑で逮捕する」
諸星警部と栗山刑事に連れられていったあおいを見守る一同。
「…なんか、泣けてきちゃったな…」
巴が目を拭った。
「…でも何となく、ホッとしましたわ」
滋乃が言った。
「…そうだね、これでよかったんだよね」
…こうして、大帝國劇場を舞台にした一連の事件は幕を閉じたのである。
〈おわりに それからの乙女組〉
2ヵ月というあっという間のような、それでいて随分と長い時が流れたような感じがす
る一九二三年十月。
紅葉、小萩、そしてあおいの三人を失った帝劇は、『野紅葉・栗原小萩追善公演』と題
し、残った三人と花組の六人、計九人で改めて披露公演を行なうことにした。
*
大帝國劇場の館内は少しずつ席が埋まってきていた。
開演までまだ時間があるからか、観客は思い思いに雑談をしている。
その中の最前列に時人と蘭丸が並んで腰掛けていた。
「…そういえば先生」
蘭丸が話し掛けてきた。
「何ですか?」
「あの…、あおいさんに青酸カリを渡した男の人が昨日捕まったそうですね」
「ええ。諸星警部から連絡がありました。なんでも彼女が上京してする以前からの知り合
いだったようで、今回の計画を聞いて、自分が勤めている工場から隙を見て、青酸カリを
盗んだそうなんです。その裏付けやら何やらで捜査に二ヵ月程かかったらしいんですが」
「じゃあ、あおいさんが飲もうとしていた青酸カリは…」
「ええ、その盗んだものの残りだったようですね」
「…これで、完全に事件が終わったんですね」
「そういうことになりますね。…そういえば蘭丸君」
「はい?」
「鹿瀬君がこれを君に渡してくれ、と言ってましたよ」
と時人が何やら袋を差し出した。
蘭丸は袋の中身を取り出す。
袋の中にはさくらのブロマイドが入っており、右上隅の開いたスペースには「蘭丸君へ」
と書かれてあり、下の方には「真宮寺さくら」と書かれた直筆サインがあったのだ。
「あ…、さくらさんのブロマイド。しかも直筆サイン入りだ」
蘭丸の顔がほころぶ。
「君がさくらさんのファンだと聞いて、鹿瀬君が彼女に頼んで書いてもらったらしいんで
すよ」
「先生、ありがとうございます。ボク、これ宝にします!」
「お礼は鹿瀬君に言ってください」
*
開演五分前には全部の席が埋まり、立ち見の客も何人かいるようだった。
「…いよいよですね」
蘭丸が時人に話し掛ける。
「ええ。何だか僕の方が緊張してきましたよ」
「先生が緊張してどうするんですか。皆さん台詞も少ししかないチョイ役なんですよ」
あの事件の後、マリアが特別に計らい、巴・千鶴・滋乃の三人にも舞台に挙がってもら
うことになったのだ。その為三人は時間が出来ると帝劇に通い、演技指導をそれぞれ受け
ていたのだ。とはいえ台詞も一言二言だし、そんなに重要な役でもないから、よく注意し
て見ないとわからないであろう。
「…お待たせいたしました。只今より開演いたします。…上演の前に花組より皆さんにご
挨拶があります」
場内アナウンスが終わると幕が挙がった。
壇上の面々を見て思わず目を丸くする時人。
「え? 鹿瀬君ですか?」
「…似てますけど、さくらさんですよ」
蘭丸が言う。
よくみると、確かに巴の服を着ているのは紛れもなくさくらだった。
そう、壇上の花組の面々は御神楽探偵事務所の面々が着ているのと同じ服を着ていたの
だ。
「…ということは、久御山君は…」
「すみれさんですね。…で、紅蘭が桧垣さんだ。え、アイリスがボクの服を着ている」
確かにアイリスはワイシャツに蝶ネクタイ、半ズボン姿だったのだ。
「…じゃあ、あの眼鏡の人は僕ですか? …僕あんなに格好よかったですかねえ」
「…演じてるのがマリアさんですからね。…っていうことはカンナさんは? …ああ、諸
星警部だ」
確かにマリアは時人と同じ格好をし、眼鏡をかけていたのだ。そしてカンナは諸星警部
と同じ背広を着ている。
「皆さん、本日は大帝國劇場にようこそお越しくださいました」
さくらが挨拶を始めた。それに続いてマリアが、
「…皆様ご存知の事と思いますが、2ヶ月前の8月1日、この大帝國劇場の舞台上で乙女
組の団員が殺害される、という事件が発生しました。その後の経過については新聞等で皆
様ご存知の事と思います。…今回、我々は追善公演の題材としてこの事件を選びました。
…今回の上演に関しては私どもの中からも題材としては不適切ではないかと意見が出て、
幾度となく討論を重ねました。結果、今回の事件に関してありのままを伝える事によって
皆さんに事件の全貌を知って欲しいということ、そして我々が演じる事が不幸にして今回
の事件で犠牲となった高野紅葉、栗原小萩両名にとって何よりの供養になるのではないか
と思い、今回の上演を決定いたしました。…今回の事件、若干の脚色はありますが、事実
は全て公表しております。…では、公演の前に御紹介したいと思います。…今回の事件の
解決に活躍してくださった、御神楽探偵事務所の所員、鹿瀬巴さん、久御山滋乃さん、桧
垣千鶴さんです」
マリアが紹介すると、スポットライトが舞台袖に当たり、巴たち3人が挨拶をする。
「…そして、今回の事件、この人がいなければ解決しなかったであろう、帝都一の名探偵、
御神楽時人氏と、その助手のランドルフ丸山君です!」
「え…」
いきなり紹介されて戸惑う時人にスポットライトが当たる。
とりあえず、時人は立ち上がると照れくさそうに挨拶をする。
「…これだったんですか…」
再び席に座ると時人は呟いた。
「…これ、って?」
「いや、鹿瀬君が『先生が驚く事があるから、是非来てくれ』って言ってたんですが、今
回の事件を題材にしたお芝居をやるだけかと思ったら…」
「…ですね、ボクもびっくりしちゃいましたよ」
幕が再び閉まった。
「…それでは只今より、帝國歌劇団高野紅葉・栗原小萩追善公演『帝國歌劇團殺人事件』
開演いたします。皆様、最後までごゆっくりご観覧ください」
(おわり)
〈参考資料・ゲームソフト〉
『サクラ大戦』セガサターン、ドリームキャスト用/セガ
『サクラ大戦GB 檄・花組入隊!』ゲームボーイカラー専用/メディアファクトリー
『御神楽少女探偵団』プレイステーション用/ヒューマン
『続・御神楽少女探偵団〜完結編〜』プレイステーション用/ヴィアール・ワン
〈参考文献・『サクラ大戦』関連〉
あかほりさとる『サクラ大戦』全四巻 富士見ファンタジア文庫/富士見書房
『サクラ大戦前夜』全三巻 電撃文庫/メディアワークス
講談社MOOK『サクラ大戦〜桜華絢爛〜蒸気キネマ画報』講談社
CB'sPROJECT
『サクラ大戦GB 檄・花組入隊! 最速合格指南』メディアファクトリー
『サクラ大戦GB 檄・花組入隊! 完全攻略指南』メディアファクトリー
セガ・エンタープライゼス
『サクラ大戦〜桜華絢爛〜OVAファンブック』全二巻 ソフトバンク
セガサターンマガジン編集部『花組対戦コラムスオフィシャルガイド』ソフトバンク
ファミ通編集部『サクラ大戦公式ガイド』全二巻 アスキー/アスペクト
〈参考文献・『御神楽少女探偵団』関連〉
大林憲司『御神楽少女探偵団』全三巻 アスキー/アスペクト
Game Fan Books
『御神楽少女探偵団・攻略ガイドブック』毎日コミュニケーションズ
ヒューマン株式会社『御神楽少女探偵団・最終帝都総説』アクセラ
ヒューマン株式会社『御神楽少女探偵団・探偵ノート』NTT出版
ナビブックシリーズ『御神楽少女探偵団・ビジュアル攻略ガイド』ローカス
覇王ゲームスペシャル『御神楽少女探偵団・完全推理読本』講談社
プレイステーション完璧攻略シリーズ『御神楽少女探偵団・必勝攻略法』双葉社
プレイステーション必勝法スペシャル
『御神楽少女探偵団』『続・御神楽少女探偵団〜完結編〜』勁文社
〈参考文献・その他〉
三浦佑之・監修『童話ってホントは残酷 グリム童話から日本昔話まで38話』二見文庫
桜澤麻伊『童話ってホントは残酷第2弾 グリム童話99の謎』二見文庫
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