時計じかけの華撃團

・エピローグ〜太正12年9月15日〜


 帝都・東京を震撼させた連続爆破事件から1週間が過ぎ、事件そのものも人々の話題か
に余り上らなくなってきた9月15日、帝都日報社のある部屋。
 そこには既に大勢の人間が押しかけており、授賞式の瞬間をいまや遅しと待ち構えてい
た。
 その中に大神と紅蘭の二人がいた。「折角やから大神はんについてきて欲しい」と紅蘭が
大神に頼み込み、今回二人で帝都日報社にやってきた、という訳である、

「…お待たせいたしました。只今より帝都日報社主催、発明コンテストの表彰式を行ない
たいと思いますが、その前に社長より一言挨拶が御座います」
 司会の男が言うと、一人の男が壇上に上がった。
 どうやらこの男が社長らしい。
「…えー、皆様ご存じの通り、今回のコンテストの審査員の知人が貞とないのか口で爆発
事件を起こすと言う時間が発生いたしました。今回の事件に関し、帝都日報社としても被
害に遭われた皆さまに心からお見舞い申し上げたいと思います。我々としても今回の事件
の影響を考えて、一時はコンテストの開催中止も検討いたしましたが、読者の皆さまから
の激励のお言葉や、審査員の中からもコンテストの続行を求める声が多く、我々としても
皆様の声に支えられ、どうにか無事開催までこぎつけられましたことを厚くお礼申し上げ
ます」
 そして社長はこの後コンテスト開催の意義だの、今回のコンテストがきっかけとなって
新しい才能が出てきて欲しい、と言ったことを述べると壇上から降りた。

「それでは表彰式に移らせていただきます。今回の発明コンテストで一等となりました李
紅蘭嬢です」
 大勢のストロボの中、紅蘭が壇上に上がる。
「やあやあやあ。どうもどうも」
 紅蘭が手を振ってそれに応える。
 主催者から紅蘭に賞状が渡されると、その賞状を紅蘭は高々と掲げる。
 そして、「金壱阡円」と大書された小切手が彼女に手渡されたとき、一際大きな歓声が挙
がった。

「…皆さまご存知の通り、李紅蘭嬢は帝国華撃団・花組の隊員であり、普段は舞台で活躍す
る女優でもあります。そして今回の発明コンテストで一等を獲得する、と正に才女と言う
言葉がぴったりの女性であります」
 その言葉に思わず苦笑する紅蘭。
「それでは紅蘭嬢より何か一言」
 そう言われて紅蘭が壇上に立つ。
「えー、皆はんこんにちは」
 紅蘭が挨拶をすると控えめな拍手が起こる。
「…ウチが今回の発明コンテストに応募したのは、ウチの実力がものか試してみたくてや
ったもんなんで、まさか一等になるとは思わへんかったのでうれしいやら恥ずかしいやら
で複雑な気持ちですわ。まあ、人を喜ばせるのはお芝居も発明も同じや思うとりますので
これからも精進して行きたいと思うとります」
 再び控えめな拍手が起こる。
「あ、どうもどうも。…それともうひとつ。今回賞金の千円の使い道をウチ、色々と考え
たんですけど…。全額帝都日報社に寄付したい思うとります」
 その言葉にその場にいた全員が「え?」と言う顔をする。
「ウチも今回の連続爆破事件について被害に遭われた方の事を考えると心が痛みまして…。
ですのでそういった被害に遭われた方たちのお見舞いや建物の再建の足しにして欲しい、
思いまして。これが一番賞金の有高位な使い方や思うんですけど、皆さんどう思います?」
 紅蘭の言葉にあちこちから大きな白紙が起こる。
「…どうやら決まりのようやな。では社長はん。このお金、全額寄付させていただきます」
 そして紅蘭は帝都日報社社長に今貰ったばかりの小切手を渡した。
    *
 帰り道。
「…紅蘭、本当によかったのかい? あんなこと言っちゃって。研究資金がなくなったん
だぞ」
 大神が紅蘭に話しかける。
「ええんや。そらウチかて研究資金が欲しくない、言うたら嘘になるわ。でも今回の事件、
もしウチがあのコンテストに応募してなかったら、と思うとな…。ある意味、原因はウチ
にもあるわ」
「原因、って…、気にすることないだろ」
「そらそうやけど…。まあ、ええんや。ほんのちょっとかもしれないけれど、帝都復興の
足しになってくれればええんや思うし。それに、ウチはこれがあれば満足や」
 と、紅蘭は賞状の入った筒を見せる。
「そうか」
「なあ、大神はん。ウチ、今回の事件でひとつわかったことがあったわ」
「…なんだい?」
「発明や科学言うのは、人の役に立ってこそ初めて役に立つものや、ってな。例えどんな
に優れた発明でも、どんなに頭がよくてもそれを悪いことに使ったら、そんなのは本物の
発明とは言えへんし、本物の科学やないで」
「…そうだな。紅蘭の言うとおりだ。どんな事だって一歩道を踏み外したら駄目だって事
さ」
「そうやな。よし、ウチはこれからもみんなの役に立つような発明を心がけるで!」
「爆発だけはよしてくれよ」
 大神のその言葉に思わず苦笑いをする紅蘭だった。

(おわり)


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