週刊誌記者殺人事件
〜金田一少年VS名探偵コナン・第一の戦い〜

(第1話)


〈はじめに〉
 名探偵・金田一耕助を祖父に持ち、普段は冴えない少年だが、一度事件が起こると、天
才的な推理力を発揮する実は知能指数が180、というとてつもない頭脳を持つ少年であ
る「金田一耕助(ジッチャン)の名にかけて」金田一一。
 謎の組織によって体を小さくされたが、高校生の頭脳はそのままで、これまでもその頭
脳と数々の秘密兵器によって事件を解決してきた「小さな名探偵」の異名を持つ少年であ
る(?)「真実はいつも一つ」江戸川コナンこと工藤新一。
 この二人がある日どこかで顔を合わせた、なんてことはないだろうか? そしてこの二
人が推理合戦を展開したら? 二人の探偵はどんな判断を下すのか?
 想像の翼を広げるとどこまでも広がっていく。今回の話はその想像の翼から始まった話
だ。まず絶対ありえるとは思えない(ガンダムとエヴァンゲリオンが戦うようなものだか
らな…)二人の対決、じっくりとご覧あれ。

〈プロローグ〉
 ある夏の日のことだった。
 東京の郊外にあるマンションの一室で一人の少女の首吊り死体が発見された。
 外傷は特に無く、遺書等も発見されなかったことから、警察では彼女が発作的に自殺を
図ったものだという結論を出した。
 この大都会で1年の間にどれだけの自殺者が出るのかは定かではないが、この事件もそ
ういった事件の中の1件として次第に人々の心から忘れ去られていった。

 …それから1年の月日が流れた。

〈File・1 当世二代アイドル〉
 バブルがはじけた、とはいえ今でもどこかでイベント、というのは行なわれていて、そ
の何割かは「飢餓に苦しむアフリカの子供を救おう」とか「エイズ患者への募金を集めよ
う」といういわゆるチャリティ・イベントである。八月のその日も静岡県にある伊豆ベイ
サイドホールで「ストップ・ザ・エイズ・チャリティ・コンサート」というのが開催され
ることとなった。もちろん出演者はノーギャラで参加し、売り上げの何割かはそういう団
体へ寄付されることとなった。これだけだと、どこにでもあるようなイベントなのだが、
今回、このイベントが世間の注目を集めるきっかけ、となったのが当世の二大アイドル、
と言われている沖野ヨーコと速水玲香の二人が揃い踏みすることが決定したからである。
思えばこの二人が一緒に仕事をする、なんて言うのは年に二、三回あるかないかでこうい
う機会は滅多にないことから話題となったのだ。

「…私は今、伊豆ベイサイドホールの正面玄関にいます。ご覧ください、この行列。開演
は夜の六時だというのに、早くも開演を待ちわびている大勢のファンが詰め掛けています。
速水玲香、沖野ヨーコという二大アイドルが揃い踏みする今回のイベント、果たしてどう
なるのでありましょうか?」
 テレビカメラの前で芸能レポーター・北条アンヌが喋っている。本当はこういう仕事よ
りはタレントのスキャンダルを追っていたほうが楽しいのだが、自分が出演している番組
のディレクター直々の依頼とあっては断りきれない。それに正直言って、速水玲香、沖野
ヨーコという彼女が以前からマークしていたアイドルが出てくる、というのにも興味があ
ったし。
(…あの子も今日は来るのかしら?)
 アンヌはふと、『彼』のことを思い出した。彼女は別に今のところは公表するつもりはな
いのだが、玲香と『彼』の仲がなかなかいいのを知っていた。はたして彼は来るのだろう
か。
    *
『沖野ヨーコ様 控室』との紙が張ってある部屋の中。知り合い、という特権を利用し、
堂々と控室に入っている一団がいた。毛利探偵事務所の毛利小五郎、娘の毛利蘭、そして
江戸川コナンの三人である。
「ヨーコさん、どうしてこのイベントに参加しようと思ったんですか?」
 蘭がヨーコに聞く。
「んー、なんて言うのかなあ。前々からそういうチャリティとかに興味があったのよ。だ
から今回、お話があった時も一も二もなくOKしたのよ」
「ヨーコはこの業界でデビューしたときからこういうイベントには積極的に参加してるん
ですよ」
 ヨーコのマネージャーである山岸栄一が言う。
「でもヨーコさん、気になりませんか?」
 蘭が言う。
「何が?」
「今日のイベント、速水玲香さんも出てるんですよ。沖野ヨーコ最大のライバルといわれ
ている彼女も参加しているんですから…」

「ふふふ。バカなこと言わないでよ、金田一君」
『速水玲香様 控室』との紙が張ってある部屋の中。知り合い、という特権を利用し、堂々
と控室に入っている一団がいた。超天才高校生探偵・金田一一、幼なじみの七瀬美雪、そ
してどういうわけか彼らに付いてきた「佐木2号」こと佐木竜二の三人である。
「でも玲香ちゃん。沖野ヨーコって言ったら玲香ちゃん最大のライバル、って言われてる
んだぜ。アンヌさん、二人が反目しあってるから共演が少ない、って言ってたぜ」
 はじめが言う。
「そんなこと言ってるの? それは確かにお仕事を一緒にしたことは少ないけど、あたし
が芸能界デビューして間もない頃、ヨーコさんや池沢ゆう子さんがいろいろと世話を焼い
てくれたのよ。あたしにとってヨーコさんやゆう子さんは尊敬する先輩なの。反目しあっ
てるなんてとんでもないわ」
    *
「玲香ちゃん、いるかい?」
 不意に控室のドアが開き、一人の男が入ってきた。
「あ、いつきさん…」
 男はフリーライターのいつき陽介だった。
「なんだ、いつきさんも来てたの」
 はじめが言う。
「ああ。今日はいつき陽介、としてではなく樹村信介としてな」
 ちなみに樹村信介とはいつきの本名である。
「どういうこと?」
「玲香ちゃんの一ファンとして気になるじゃねえか、こーゆーことはよ。だから今回はあ
くまでもプライベートで来たんだぜ」
「へえ、いつきさんも玲香ちゃんのファンだったの」
「まあな。…そういえばな金田一」
「どうしたの?」
「今、沖野ヨーコの控室見てきたけど、気になるヤツが一人いたぜ」
「気になるヤツ?」
「毛利小五郎だよ」
「毛利…小五郎?」
 不意にはじめの顔色が変わった。
「はじめちゃん、知ってるの?」
「ああ。話は何度か聞いたことあるぜ。美雪、米花美術館のオーナー殺人事件や月影島の
連続殺人事件、って知ってるか?」
「新聞にも大きく取り上げられてたわね。覚えてるわよ」
「アレを解決したのがその毛利小五郎だ。ま、オレだったらあんな事件、簡単に解いてみ
せるけどな」
    *
 沖野ヨーコ控室。
「そういえば…さっきフリーライターのいつきさんがここに来てね」
「いつきさん?」
 おそらくいつき陽介、という男のことだろう。小五郎が読んでいる週刊誌でその男の名
前を何度かコナンは見たことがある。
「それでちょっとお話したんだけど……玲香ちゃん、ちょっと気になる探偵の彼氏がいる
らしいのよ」
「探偵?」
「うん。…確かカネダだか、キンダだか…」
「ひょっとして、金田一一?」
 コナンが言う。
「そうよ、確かそんな名前だったわ」
「金田一一だとお?」
 小五郎が絶叫した。
「お父さん、知ってるの?」
 蘭が言う。
「ああ。蘭だって知ってるだろう? オペラ座館殺人事件とか雪夜叉伝説殺人事件、と名
付けられた事件を」
「そういえば、その事件を解決したのって、その金田一、っていう高校生探偵だったわよ
ね。確か金田一耕助のお孫さんなんでしょ?」
 金田一一ならコナンだって知っている。工藤新一時代、「東の工藤、西の服部」と言われ
たのと同様「金田一か、工藤か」としょっちゅう比較された男だ。彼自身、新一時代もコ
ナンの今も金田一に会ったことはなかったが、それでも「オペラ座館殺人事件」や「雪夜
叉伝説殺人事件」には探偵として血が騒いだものである。その金田一一が速水玲香の知り
合いだったとは……。
    *
「玲香ちゃん、そろそろリハーサル始めるよ」
 控室のドアが開き、アシスタントディレクターが玲香に言う。
「あ、黒須さん、わかりました。…じゃね、金田一君」
 玲香は控室のドアを開ける、と目の前をヨーコが通り過ぎていった。
「あ…」
 玲香はヨーコに軽く会釈をする。ヨーコも一瞬、会釈を返したようだ。
(…なるほどね。芸能界、ってのは結構先輩後輩の関係が厳しいんだ)
 はじめは思った。
 どう見ても十代としか思えない沖野ヨーコはあれで21歳のはずである。玲香より4歳
年上だから当然といえば当然だが。
「あ、そうだ。言い忘れていたけど佐木君」
「は、何ですか?」
 佐木竜二が聞く。
「リハーサル中並びに本番中は、ビデオや写真の撮影は絶対禁止ですからね。覚えといて
ちょうだい。もしそれを破ったら、あたしがすごい迷惑を被るんですからね」
「…わかりましたよ、玲香さん」
 そういうと佐木は自慢のビデオカメラをバッグのなかにしまった。

〈File・2 開演前〜事件の始まり〉
「悪ィ。ちょっと飲み物買ってくるわ」
 リハーサルが着々と進む場内。客席に座って美雪や佐木とその様子を見ていたはじめが
席を立った。
「センパイ、場内は飲食禁止ですよ」
「わかってるよ。ロビーで飲むからよ」

 自動販売機が置いてあるロビー。
「おや?」
 いつき陽介と北条アンヌが煙草を喫いながら何やら話をしていた。
「アンヌさん……」
「やっぱり来てたのね、金田一君」
「アンヌさんっていつきさんと知り合いだったのか?」
「って言うか、結構顔合わせることが多いのよ。今も情報交換をやってたのよ」
「…おいおいいつきさん。今日は樹村信介として来たんじゃねえのか?」
「ハハハ、この際カタイこと言うな。オレの職業病みたいなもんなんだからよ」
 はじめは缶コーヒーを買うとプルタブを開け、それを飲む。
 いつきはアンヌに、
「…で今日はどっちが目的で来たんだ? 沖野ヨーコか? 速水玲香か?」
「そう言いたいんだけどね。番組のディレクターの頼みでリポートなのよ。ギャラ弾むと
言われちゃ受けるしかないでしょ」
「そりゃそうだな」
 いつまでも業界内での内輪話に付き合って入られない、はじめはそう思った。
「…じゃ、いつきさん。オレ行くからよ」
「おう。ところで開演は何時だ?」
「午後六時半だからまだ二時間くらいあるよ」
 はじめはそう言うと側にあった屑篭に空缶を放りこみ、場内に戻った。

 それと入れ違うかのようにコナンがロビーにやってきた。彼もまた喉の渇きを覚え、飲
み物を買いにやってきたのだ。
(あれ、あのふたり…)
 コナンはロビーに座って煙草を喫っている男女を見た。
(確か、あれはフリーライターのいつき陽介と…女の方は確か北条アンヌとか言う芸能レ
ポーターじゃなかったか?)
 コナンは横目で二人の様子を見ながら自動販売機に硬貨を入れようと手をのばす。が、
あと少しというところで届かない。
(…ダメだ。背が小せえと届かねえぜ)
 今更ながら外見が小学生という自分の身体が恨めしい。
「…あら、ボクどうしたの?」
 不意にコナンの後で声がした。
 コナンが後を振り向くとアンヌがいたのだ。
「あ、その、ジュース買おうとしたんだけど届かなくて…」
「お姉さんが押してあげるわ。どれが欲しいの?」
 アンヌはコナンから硬貨を受け取るとそれを入れる。

「ねえ、ボク誰かの知り合い? 今はここ、関係者以外立入禁止なのよ」
 アンヌは彼女の隣に座ってジュースを飲んでいるコナンに聞く。と、いつきが、
「そういえばコイツ、沖野ヨーコの控室に入っていくの見たぜ」
「じゃあ、彼女の知り合いかしら?」
「まあね。おじさんと蘭ねえちゃんと一緒に来たんだ」
「おじさん?」
「おいボウズ。おじさんって毛利小五郎のことか?」
「うん」
「やっぱりそうだったか…。いやな、毛利小五郎がこのボウズと娘ひとり連れて沖野ヨ
ーコの控室入ったの見たからそうじゃねえかとは思ってたんだが…」

 コナンがロビーを立ち去った。それを見送ったアンヌが、
「…ねえ、どう思う?」
「どう思う、って?」
「あの毛利小五郎って探偵よ」
「ああ、あいつか。オレはそれほどの探偵に思えねえんだけどな」
「金田一君がいるから?」
「いや、そういうワケじゃなくてさ。どっちかというとオレはヤツよりは工藤新一のほう
を買ってるんだ。工藤なら金田一とやらせてもいい勝負になると思ってるからな」
「そういえばその工藤新一って今行方不明なんですってね」
「ああ。それでちょっと気になることがあってな」
「気になること?」
「毛利小五郎が急に注目浴びるようになったのは、その工藤がいなくなってからなんだ。
工藤がいなくなるのと入れ替わるように毛利小五郎が注目を浴びる……何かあると思わね
えか?」
「あら、何か掴んでるみたいな言い方ね」
「いや、正直言って全然わからねえさ。ひょっとしたらオレの見込み違いでヤツは相当の
実力を持ってる探偵かも知れねえしな」

(…たりめーだ。これまでのおっちゃんの推理と思われてんのは、ほとんどオレが推理し
たことなんだからよ)
 物陰でコナンが二人の会話を聞いていた。毛利小五郎という名前が出てきたから何かと
思って立ち聞きしていたのだ。
(にしても…金田一一か。一度会ってみてえとは思ってたんだよ)
 金田一耕助の活躍ならコナンこと新一だって知っている。おそらく明智小五郎と並ぶ日
本を代表する探偵のひとりだろう。その金田一耕助の孫という高校生がこれまで数々の事
件を解決してきたというのだから興味を惹かれないわけはない。そして彼が『帝丹の工藤
か、不動の金田一か』と噂されるほどの男か確かめてみたかったのだ。
 もしかしたら今日、その金田一に会えるかもしれない。
 コナンはそういう予感がした。
    *
 午後5時30分。開演まで1時間前。
 会場のドアが開き大勢の観客が入って来た。

 10分としないうちに会場は席がほぼ埋まっていた。会場は冷房が入っているはずなのだが、
さすがにこれだけの人間がいるとあまり効き目もないようだ。
「…ずいぶん入ったなあ…」
 はじめが呟いた。
「…この分だと、競争率凄かったんだろうなあ…」
「なーに言ってるのよ。招待券もらって来た人が。しかも3枚も貰ったくせに」
「ハハハ、固いこと言うなよ。おかげでコンサートがいい席で見られたからいいじゃねえ
かよ」
    *
 開演予定時刻の午後6時30分になった。
 しかし、ステージに下りた幕が上がらない。
 5分たっても10分たっても上がらなかった。
 その内、周りからざわめきがおこりだした。
「…どうしたんだ、いったい?」
 小五郎が呟く。
「…本当よね。もう20分も経ってるのに…」
 その時だった。
「…毛利小五郎様…ですよね」
 関係者らしい男が小五郎の座っている座席に近付き、小声で話しかける。
「…そうですが」
「…沖野ヨーコさんのマネージャーの山岸さんがお呼びです」
「…山岸さんが? …わかりました。すぐ行くと伝えてください」
「はい」

「…わかったぜ。玲香ちゃんがそう言うなら…」
 はじめが席から立ち上がった。
「美雪、佐木、行くぞ!」
「ちょ、ちょっと、はじめちゃん!」
「どうしたんですか、センパイ?」
「よくわからねえが…事件かもしれないぜ」
「事件ですって?」

「誠に申し訳ありません。都合により、本日のコンサートは中止とさせていただきます。
…尚、入場料の払い戻しは正面玄関で行います。又、コンサートのほうも後日、日を改め
て行ないますので、その辺ご了承ください。詳細は後日、新聞等で発表いたします。繰り
返しお知らせします…」
はじめたちの背後で場内アナウンスが聞こえた。


第2話へ続く>>

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