「新・御神楽少女探偵団」感想文
〜「新・御神楽少女探偵団」を巡って・PART2〜



遅ればせながら私(ともゆき)も「新・御神楽少女探偵団」を入手しました。
今回それの感想を述べてみたいと思います。

(はじめに)
まずパッケージを開けてみて、小冊子を見たんですが、その第1印象が「…?」
何せ全48ページあって、肝心のマニュアルが10ページ、あとは書き下ろしイラストが
12ページに原画集が22ページ、袋とじが4ページの割合ですよ。
しかもそのマニュアル、表紙と目次を除いた残り8ページのうち動作環境やらインストー
ル方法で4ページ割いてるんですから、実質上ゲームの遊び方等について書かれてるのは
わずか4ページと言うことになるんですよね。
「イラストや原画集掲載する暇があったらストーリーとかキャラクター紹介とか載せんか
い!」と言うのが私が真っ先に思ったことです。折角DVD−ROM使ってるんですから
イラストなんかはDVDに収録した方がよかったと思いますが…。
それはとにかくインストール終了。いよいよゲームプレイと相成ったわけです。

…が、その前に一言。
話が変わって申し訳ありませんが、1980年代後半から90年代初めにかけて「マイコ
ンBASICマガジン」(電波新聞社・2003年4月休刊)等で数々の人気連載を持って
いて、当時ゲームファンの間ではカリスマ的存在となっていたゲーム評論家の山下章氏
(現・スタジオベントスタッフ代表)が著書の中でこう語ってます。

「マニア諸君の中には、著名な人がなにかをすると、はじめから偏見を持って「××が作
ったんじゃダメだね」などと、さも偉そうに論じる人がいる。しかし、それでは絶対に正
当な評価はできない。だから僕は『マザー』については、糸井氏が関わっているというこ
とを頭から除いて、単に一つのRPGと捕らえてプレイしてみた。」(山下章・著『電脳遊
戯考』1990年発行/電波新聞社・P.71〜72より引用。原文ママ)

少々補足説明をしておくと、ご存知の方も多いと思いますが、『マザー』というのは198
9年にファミリーコンピュータ用ソフトとして発売されたロールプレイングゲームのこと
で、コピーライターの糸井重里氏がゲームデザインとシナリオを担当したことで話題にな
った作品です。現在は1994年にスーパーファミコン用として発売された「2」とカッ
プリングされた「MOTHER1+2」がゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売さ
れています。

さて今回、「新・御神楽」を「エルフだから…」「18禁ゲーだから…」と言うことで色眼
鏡をかけて見ている人もいると思います。もし私もそういう態度をとったとしたら、この
ゲームに関して冷静な評価が下せないのではないだろうか…、そんな心配がありましたの
で私も山下氏に倣って「新・御神楽」をエルフの18禁ゲー、と言うことを頭から除いて
一つの推理アドベンチャーゲームとしてまずはプレイすることを心がけました。
それでは感想に参りましょう。
尚、感想文中に3作のネタバレを多量に含んでいます。3作中どれか、もしくは全作未プ
レイの方はまずプレイしてから以下の文章を見てください。



(感想)
と言うわけで感想なわけですが…。正直に言って「新・御神楽」は1本の推理ADVとし
て見ても満足の行く出来ではなかったですね。
以下、私が思いつくまま気になった点を挙げると…。

・プロローグが説明不足
ゲームは最初、元守山ビルから始まるわけですが…。今回が御神楽初プレイ、と言う人も
いるはずですから前作のラスト(山形の山荘のシーン)から始めてもよかったような気が
するんですが…。
それと、時人は何故失踪し、満州(現在の中国東北部)まで行ったのか、と言うのがはっ
きりしないですね。一応守山美和の死が時人の心理に何らかの影響を与えて失踪した、と
言うことになってるようですが…。
それと、前もって「御前様」こと遠峰久住に蘭丸の生活費を振り込むように手配したり、
といった準備をしてから失踪したようですが…。「発つ鳥跡を濁さず」と言いますけど、そ
のくらいの用意をするなら失踪するな! と言う気がしますが(笑)。
それとオープニング。無駄なポリゴンはやめて、純粋にアニメで勝負してもよかったんじ
ゃないでしょうかね?

・新登場のキャラクターの魅力がない
まず初登場の久御山滋乃の兄・静斗なんですが…「コイツ『金田一少年の事件簿』にでも
出てきそうなキャラだな(笑)」が第一印象でした。
それから森松警部補は目暮警部からひげを取った、としか思えませんが。声も一緒だし(エ
ロゲーは基本的に声優名は伏せてるけど、どー考えたって声は「あの人」だろ。ま。「あの
人」に限らずエロゲーは「え? あの人が?」という声優が演じていることが多いらしい)
で、何といっても一番ぶっ飛んだのは玉月福春。…どー見ても氷川きよしにしか見えん(笑)。
以上のことから、どうも印象に残るキャラクターがいないんですよね。
それと、梓さんや林琴次郎、早隅と言ったキャラクターをあっさりと殺してるし、「おまけ
シナリオ」に出てくる野中五十鈴はとにかく、倉元あかねや定吉、(続にも出てきた)野上
糸なんかは一体あのあとどうなったんでしょうか? その辺のフォローも欲しかったです
ね。

・旧キャラに対する扱いがちょっと…
上でも書いてますが、「新」には「続」から野上糸と「あの」常盤省吾が出てきます。とは
いえ糸はなんだかゲストキャラ的扱いだし、常盤省吾なんか何のために出てきたのかわか
らんし(一応最後に理由らしいのは出てくるがあまりにも唐突で取って付けた様な印象が
ある)。
それに巴と千鶴の過去話が出てきますが。いや、倉元あかねに巴が感情移入してしまう理
由として巴の子供の頃の話が必要だったのかもしれませんが、千鶴に至っては「いくらな
んでもそりゃねえだろう」という感じでしたね。
それから「殺サレルベキ男」で時々巴が美和のことを思い出すシーンがありますが、それ
も話が進むうちにどこか行っちゃって…。旧作のキャラに対する扱いがちょっと悪いよう
な気がしますが。

・気になる言葉遣い
登場人物が時人のことを呼ぶ際に「御神楽」の「か」にアクセントを置いてるみたいです
ね。それが何だか違和感があって…。
それとアリバイのことを「現場不在証明」、ロシアやイギリス、ドイツのことを「露国」「英
国」「独逸」と言ってるのに「ミステリアス」「リスト」「ライター」「コンプレックス」な
どと言った単語が出てくるのはどうか、と…。「妖艶」「一覧」「記者」「劣等感」と言った
風に言い換えられなかったのでしょうか? 個人的な話で恐縮ですが、私が「サクラ大戦」
や「御神楽」の小説書く際に最も気をつけるのがそういった言葉遣いなのに…。
それからもう一つ気になったことを。時人が助手を「巴君」「滋乃君」「千鶴君」と呼ぶの
には違和感があって…。やっぱり時人が助手を呼ぶときは「鹿瀬君」「久御山君」「桧垣君」
でないと…。

・大連が舞台なのはどうして?
今回の作品は帝都・東京を離れて大連が舞台なわけですが、当時大連は日本が占領政策を
とっていたこともあってか、出てくるキャラのほとんどが日本人、と言うのはどうか、と
思うのですが…。折角異国が舞台なんですから、もっと中国人の主要キャラを出すとか外
国人が事件に巻き込まれる、とかいったように「異国情緒」を全面的に押し出してもよか
ったのではないでしょうか? あるいは東京で起きた事件の容疑者を追って諸星警部と栗
山刑事が大連にやってくる。そこで時人と再会。そして森松・川場両警部補と協力して事
件を解決する、といったストーリーを作ってもよかったのでは? これじゃ横浜中華街を
舞台にしても大して変わりませんよ(笑)。

・ひねりのないストーリー展開
ストーリーの方ですけど…。最初の頃はいつもの「御神楽」だったんですが、話が進むに
つれ、今までの作品からでは想像も出来ない、何というかドロドロとした展開になって…。
特に巴の過去が語られるシーンでは「…え? こんなことがあったの?」と言うのに驚き
ました。いや、前作や小説からでは全く想像も出来ないほどでしたから…。
とはいえ、ストーリー展開にヒネリがない、と言うか…。「コイツどう考えても怪しいぞ」
と言うヤツが犯人だったのはストレートすぎましたね。例を挙げれば笹山医師とか野上糸
が犯人だった、と言ったような意外な展開があればもっとよかったのですが…。

・印象に残らないスト−リー
ストーリーでもう一つ。今回の収録作品は「殺サレルベキ男」「呪香」「百舌」の全3話。「続」
で一度企画されたものの容量の関係でカットされたフルヴォイスが実現した代わりにスト
ーリーが少なくなってしまいました(ちなみに第1作は5話、「続」は前作にも収録された
「猟奇同盟」を含めて6話。尚、PC移植版では「猟奇同盟」は「続」にのみ収録) 。その分、
内容を充実させたのかもしれませんが、何だか1話あたりの時間が少々長く感じられ、
ダラダラとやっている印象がありました。それに何だかストーリーそのものが印象に残らな
くて…。前2作の「蘇る夢男」「さ・よ・な・ら」みたくラストが強烈で印象に残るストーリーが
一つ欲しかったです。折角DVD-ROMを使ってるんですから個人的には前2作の移植版と
「新」をそれぞれ1枚のDVDに入れて2枚組で出して欲しかったですね(そうすると9800円
くらいになってしまうかもしれないけど…)。そうすればもう1、2話くらい入れられそうな気が
するんですが…。

・滑りまくってるギャグ
扱ってる事件が猟奇殺人だし、Hシーンもあることからか必要以上に深刻になることを避
けよう、とでも言うように所々ギャグシーンを入れてますが、はっきり言って全部滑って
ます。

・本当にエロは必要だったのか?
「エロゲーということを頭から除いて1本の推理ADVとしてプレイした」と書きました
が、どうしてもこれだけは言っておきたいので。それは「本当にこのゲームにエロは必要
だったのか?」と言うことです。
確かに河野一二三氏は「エロも事件解決に必要な要素」と言ってたようですが、1回プレ
イして「別になくてもよかったんじゃないの?」と言うのが素直な感想です。
例えば寝間寅蔵が倉元あかねや美作すえを低賃金でこき使っていて、さらに自分の相手も
させていたことから二人が殺意を抱き、寝間を殺害に至った…、とでもいう話だったらま
だわかるんですが(そうすれば不自然無くシーンを挿入できる)単なる話の繋ぎにHシー
ンを使っていたような気がします。
それに「後日談」としてその後の時人と三人娘が描かれてますがそれもなんか余計なよう
な…。後日談すっ飛ばしてそのままエピローグに行ってもよかったのでは無いでしょう
か? エルフで出てますから「そういったシーンも入れないといけないな」とスタッフは
思ったのかもしれませんが、「御神楽」は推理ADVであり、恋愛SLGではないんですか
ら。

・システムそのものに対する不満
ストーリーとは直接関係ないんですがシステムで気になったことを2つほど。まずは「御神
楽」のウリである「推理トリガー」ですけど、今回は画面上に「推理トリガー」と出てその部
分をクリックすることになってましたが、クリックできる範囲が少し狭かったような…。その
せいか「あれ? クリックしたのに反応しないぞ」と思うことがしばしばありました。それと
今回初めて採用された「簡易保存」ですけど、何だかゲームから緊張感を奪っているよ
うな…。これを駆使すれば誰でもSランククリアが簡単に出来てしまう(会話の前に簡易
保存→怪しいと思った会話で推理トリガー→再起動→今度は推理トリガーで反応した部
分のみクリック、を繰り返す)から、結果的には「推理トリガー」を無限に使えるのと一緒
ではないでしょうか?



(以上のことから)
以上のことから私が「新・御神楽」を一言で言い表すとすれば「中途半端」これに尽きま
す。推理ADVとしてみればエロは余計だし、エロゲーとしてみればADV部分は余計。
お互いが相乗効果を挙げてるか、と言われれば、そうとは思えず全く違う2本の話を読ん
でいるような気がしました。結局はどっち付かずの中途半端な作品になってしまったよう
な気がします。
「もしかしたら河野氏はこんな御神楽は作りたくなかったのではないか、エルフのスタッ
フが単に御神楽キャラを使った18禁ゲーを作りたかっただけじゃないのか?」とすら思
えるくらいで…。「御神楽少女探偵団」を名乗る以上、もっとシナリオ部分を練りこんで作
って欲しかった、と言うのが正直な感想ですね。
「新」だけ見ればよく出来たゲームかもしれませんが、前2作からのファンとしてみると
名前負けしている作品だと思いました。

以上、かなり厳しいことを言ったかもしれませんが、4年ぶりに出た新作、と言うことで
私がそれだけ「新・御神楽」に期待していた(そして同じ位だけ不安があった)というこ
とであり、そしてその分だけかなり厳しい見方になってしまった、と言うことを理解して
下さい。
最後に。続編やコンシューマ移植が実現したとしたらもう少し時間をかけてじっくりと制
作して欲しいと思います。ま、「殺サレルベキ男」はシナリオや描写そのものを見直さない
と移植は無理だと思いますが(笑)。



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