ゴジラバラゴンダガーラ 怪獣大決戦

・第1話



<第1章 2003年7月・東京>

「呉爾羅伝説

 1954(昭和29)年。一匹の怪獣が東京に上陸し、戦後間もない東京を廃墟と化す、
と言う出来事が発生した。
 その怪獣は後に古生物学者の山根恭平博士によって「ゴジラ」と命名された。
 ゴジラに関しては現在においても様々な資料が残されているため、ここでそれを紹介す
るのは避けるが、実はゴジラに関してはある言い伝えが残されている。
 
 ゴジラが初めてその存在が確認されたのは伊豆諸島の大戸島だが、その大戸島には古く
から「呉爾羅伝説」と呼ばれている言い伝えがあるのだ。
 その伝説とは「呉爾羅は普段は海の底で静かに眠っているが、その眠りを妨げるものが
現れた時に出現して暴れる。その為、大戸島の人たちは島に呉爾羅神社というのを作り、
古くより御神体として呉爾羅を祀り、呉爾羅の眠りを妨げないように崇め奉ったのだ」と
いうものである。
 昭和29年に大戸島に出現した怪獣が島に伝わる伝説の怪獣と同一の個体だったのかは
定かではない。しかし、ゴジラが最初に目撃された場所である大戸島の伝説「呉爾羅伝説」
にちなみ、山根博士は怪獣をゴジラと名付けたのである。」

 西暦2003年、夏休みを間近に控えた東京の郊外にある高校の図書室。
 昼休みということもあってか、勉強をする者、雑談をする者など生徒達で賑わっていた。
 その片隅で一組の男女が向かい合って座っていた。

「…でも、何か信じられないなあ…。あくまでも伝説、ってのは言い伝えだし、中には到
底信じられない話って多いんじゃないの?」
 それまで「民間伝承と怪獣」と表紙が付いた本を読んでいた少女――春日野千秋が言っ
た。
「そうか? オレはそんなことあってもおかしくないと思うけどな」
 千秋と向かい合っていた少年が言う。
「それは確かに、昭和29年――あたしたちどころかお父さんやお母さんがまだ産まれる
前だけど――にゴジラが東京に出現して街を破壊した、ってのは知ってるけど、そんな怪
獣が昔からいたなんて…。大体ゴジラ、ってアレでしょ? その、昭和29年に南太平洋
のどこかで水爆実験をやった影響でそこにいた恐竜だか何か太古の生物が放射能を浴びた
影響で突然変異を起こして怪獣になった、と言われてるんでしょ?」
 千秋が本を置いて、少年――夏目冬彦に聞いた。
「…まあ、それ一般的に言われている事だけどな。だけどな千秋。ゴジラに関してはまだ
まだ解らない事が一杯あるんだぜ。その、お前が言ってた『南太平洋の水爆実験で多量の
放射能を浴びた恐竜の生き残りが突然変異を起こした』ってのは確かにゴジラが誕生した
有力な仮説のひとつではあるけど、もしそれが正しいとしてもだ、何故大量の放射能を浴
びたのに死ななかったのか、それより何より、6500万年前に絶滅したはずの恐竜が何
で20世紀半ばまで生き延びることが出来たのか、それに関しては決定的な結論がでてな
いんだぜ。それにだ…」
「それに?」
「南太平洋で放射能を浴びたはずなのに何故日本ばかりに上陸するのか、だって明確な理
由が見つからない。それから、昭和29年以来ゴジラの目撃例や上陸例はいくつか報告さ
れているが、それが同一の個体なのか、それとも別個体なのか、とにかくその生態や個体
数に関してだって全く解ってないんだ。まあ、一般的には昭和29年に現れたのとその後
に現れたのは別個体だと思われてるけどな」
「どういうこと?」
「昭和29年のゴジラ最初の上陸の時、ゴジラは東京湾である科学者が作ったオキシジェ
ン・デストロイヤーという兵器によって倒された、と言われてるんだぜ。但し、だ。その
オキシジェン・デストロイヤーが一体どのようなモノでどんな仕組みだったか、当時の関
係者は誰一人として話そうとはしなかったし、今ではその関係者が一人もいなくなってし
まった為に更に解らなくなってしまったんだぜ。…もう21世紀だってのにゴジラに関し
ては全く解らないことだらけなんだ」
「でも、この本にも書いてあったけど、ゴジラと伝説に残っている怪獣、って同一のもの
なのかなあ? 例えば大きな魚とか、鯨とか見間違えたんじゃないの?」
「そりゃオレも大戸島に伝わる呉爾羅と今のゴジラが同一個体だとは思ってねえよ。でも、
昔からそういった、常識の範囲を超えた生物がいたんじゃないか、オレはそう思ってるん
だ。例えば、その本見りゃ解ると思うけど、会津の方にも似たような伝説があるんだぜ」
「…そう言えば冬彦のお爺さんは会津若松出身だったっけ」
「そ、オレが小さい頃、爺さんがよく枕元で話してくれたのを覚えてるよ。…会津には『婆
羅護吽様の伝説』がある、ってな。…そもそもオレがこういった民間伝承に興味を覚える
ようになったのも爺さんの影響なんだよな」
「バラゴン様?」
「そ。ここを見てみろよ」
 そういうと冬彦は本のページをめくる。

「婆羅護吽伝説

 こういった『呉爾羅伝説』と同じような伝承話は全国に広まっている。
 例えば、福島県会津若松市には古くから会津の守護神伝説として婆羅護吽伝説というの
がある。
 以下、会津若松市に伝えられている伝説である。

西暦1868年8月23日、会津藩の飯盛山で白虎隊が自決したその日、薩長連合軍は一
気に鶴ヶ城を落とすべく、総攻撃を開始した。
しかしそのとき、どこからとも無く赤い身体の身の丈百尺はあろうかと思われる怪物が出
現し薩長連合軍の一部隊を全滅させてしまった。これ以上の犠牲は無意味と考えた薩長連
合軍は作戦を鶴ヶ城砲撃に変更。1ヶ月に及ぶ砲撃の末、ようやく会津藩は降伏をし、明
治時代が始まろうとしていた。
時の新政府はこの事実を抹消し、一切公式の歴史には残ってはいない。しかし、会津の人
たちは「会津が危機に陥ると会津を救うといわれている婆羅護吽様が現れたのだ」と親か
ら子、子から孫へとその話を伝えていった。それを示すかのように会津若松市に程近い猪
苗代湖にの畔には婆羅護吽様を眠っている、と言われる洞穴があり、近くには婆羅護吽様
を祀った、という神社がある。」

「…何だか信じられないなあ。怪獣が人を救ったなんて」
「かもな。でも、実際に猪苗代湖の畔にはその婆羅護吽様が眠っている、と言われている
神社があるんだぜ。実際オレは小学生の時行ったことあるし。…尤もその頃のことなんか
もう詳しい事は覚えてないけどな。…で、今度の夏休みにその会津若松に久しぶりに行こ
うと考えてる、とこういうわけだ。向こうの親類にはもう話してるんだ」

<第2章 2003年8月・猪苗代>

 東京から郡山まで東北新幹線で約1時間半。そこから特急「あいづ」で32分。快速電車
でも35〜40分、合計2時間ちょっとで猪苗代湖がある猪苗代に行く事が出来る。

 冬彦は千秋を連れて猪苗代駅を出た。
「…なんか、暑くない?」
 千秋が言う。
「だろうな。会津、って所は盆地に囲まれたところだからな。夏は結構暑いんだぜ」
「で、まずはその猪苗代に行く、ってわけ?」
「そ。その婆羅護吽様の眠っている、っていう神社を見ないとな」
 そういうと冬彦はタクシーに乗り込むと猪苗代湖へと向かった。

 猪苗代湖――夏休み、と言う事もあってか観光客が多く訪れているその湖から少し離れ
たところにその神社はあった。
 離れにあるせいか、観光客のいないひっそりとした神社だった。
 建物もそんなに派手ではないし、取り立てて目立つものでもなかったが、その神社のす
ぐ側に洞穴があった。
「立入禁止」の立て札とともに、しめ縄が貼ってあり、それ以上は入れないようだ。
「これは…?」
 千秋が「立入禁止」の立て札の隣にあるもうひとつの立て札を呼んでいる冬彦に聞いた。
「…なんでも、この洞穴の中に婆羅護吽様が眠っている、と言われているらしいな。」
 そういうと冬彦はしめ縄の外から洞穴の中を覗く。
 かなりの大きさのその洞穴はかなり深いようでとてもじゃないが何の準備も無しには入
れそうになかった。まあ、今回は別にそれが目的ではないし、その洞穴自体存在する事を
知らなかったから、何の準備もしてはいなかったが。

 神社の境内に一体の狛犬らしきものがあった。
「狛犬かしら?」
 千秋が近付く。しかし、それは狛犬にしては妙な点がいくつかあった。
 まず、狛犬と言ったら普通は白いものだが、その狛犬は赤、と言うより赤銅色に近く、
しかも眉間に小さな角が生えていたのだ。
「狛犬にしてはおかしいわね」
「…どうやら、これがその婆羅護吽様らしいな。見ろよ」
 と冬彦がその狛犬が乗っかっている台座を指差した。
 確かに「婆羅護吽様」と彫ってある。

「…そろそろ行くか」
 冬彦が階段を下りる。
「…どこへ行くの?」
「猪苗代行ったら『世界のガラス館』っておまえ言ってなかったか? 今から行くぞ」
「そう言えばそうだったわね」
 そう言うと千秋も階段を下りる。
 
 その時、不意に千秋が足を止めた。
「どうした?」
 冬彦が聞いた。
「何か今、洞穴の方から聞こえなかった?」
「いや、何も聞こえなかったぜ」
「そう? じゃあ、空耳だったのかな…」
 千秋は階段を下りていった。


第2話へ続く>>


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