仙台七夕祭り殺人事件
〜CONAN IN SENDAI〜

(後編)



 コナンたちからの連絡があって間もなく、仙台警察署のパトカー数台が事件現場に到着
した。
 そして警官たちが現場を整理すると現場検証が始まった。

 そんな現場検証をしていた中で一人の刑事がコナンたちのほうを向くと「?」という表
情をして、彼らのもとに近づいてきた。
「失礼ですが」
「私…、ですか?」
 いきなり刑事に話しかけられて小五郎が言う。
「もしかして探偵の、毛利小五郎さんじゃありませんか?」」
「あ、私のことをご存じなんですか?」
「ええ、お噂は聞いておりますよ。いやあ、まさかこんなところで御目にかかるとはなあ。
…ところで、なぜ仙台に?」
「…まあ七夕祭りの見物ということで。それにしても、この時期は大変でしょう?」
「ええ、七夕祭りという事で全国から観光客が来ますからねえ。署のほうでも警官が何人
もパトロールに出ているんですよ。それでもこれほどの事件が起こるなんてことはまずあ
りませんなあ」
「…ところで、被害者の身元とかは分かったんですか?」
「今、調べさせていますが。ところで毛利さん、何かお気づきになった点とかありません
か?」
「お気づきになったと言われても…」
 そう言うと小五郎は死体を発見するまでの間の行動を刑事に話す。
「…というわけで我々も詳しいことはわからんのですよ」
「…まあ確かに、本来の目的が七夕祭り見物ですからねえ…」
「それにしても、一体犯人は何が目的で被害者をあんな高さから吊り下げたんでしょうな」
「…いえ、被害者をあの高さから吊るすのはそれほど難しいことではないと思いますよ」
「難しいことではない、と言いますと?」
「毛利さんのお話だと死体を発見する前に立ち入り禁止になっていたそうですね?」
「ええ。確かになっていましたが」
「それにあれを見てください」
 そういうとその刑事は死体が発見された場所を指さす。
「あそこにサッシがあるでしょう」
「…ああ、確かにね。我々が死体を発見したすぐそばの位置になりますから吊り下げるこ
と自体は容易ですな」
 そう、刑事や小五郎の言うとおり、確かにその位置にあるサッシを開ければ、被害者を
つり下ろすことはそれほどの重労働にはならないであろう。
「…となると、あの時立ち入り禁止の掲示がされていたのにも作為を感じますな」
「ええ。私もそう思います。おそらくそうすることによって現場付近に誰も近づけないよ
うにしたのかもしれませんね」
 
 と、その時だった。
「あ、ちょっとよろしいでしょうか?」
 小五郎と話をしていた刑事のもとに別の刑事がやってきた。
「…何かわかったのか?」
「ええ。被害者の身元がわかりました。胸ポケットを調べてみたら免許証が出てきたんで
すがね」
 そう言いながら刑事は小五郎に免許証を見せる。
「竹村雅夫…、ですか」
「それが、それで死体発見現場の周辺で話を聞いてみたんですが、その竹村と言う被害者
この商店街の役員らしいんですよ」
「商店街の役員? といいますと…」
「ええ。今回の七夕祭りでもこの商店街の竹飾りを飾る際の中心となった人物です」
「そうなんですか…」
「それからもうひとつ、妙なことがわかりまして」
「妙なこと?」
「はい。死体を詳しく調べてみたんですが、どうも首に巻きついていたロープの後の他に
首を絞められた跡があるんですよ」
「どういうことだ?」
「いえ、おそらく被害者は一度首を絞められて殺害されたのちに吊るされたのではないか、
という事なんですが」
 と、それを聞いた小五郎が、
「だとしたら妙ですなあ。犯人は何であんな風に死体を吊るしたんですか?」
「…でも吊るされても仕方がない人物だったかもしれませんね」
 やってきた刑事が言う。
「どういうことですか?」
「いえ、現場付近の聞き込みをしたんですが、どうもガイシャに関してはあまりいい評判
は聞きませんなあ」
「と言いますと?」
「かなり自分勝手なところがあったようで、それで商店会の皆さんともあまり仲良くやっ
ていなかったようなんですよ」
「となると、動機はあるという事ですね」
「そういう事になりますな」

 その様子を聞きながらコナンは、
(…確かにあの刑事やおっちゃんの考え通り、あそこから死体を吊るすのはそう難しいこ
とではないだろうな。しかし犯人の目的はなんなんだ?)
 そんなことを考えていると小五郎たちのもとに先ほどやってきた刑事が。
「それで、関係者に来てもらっているのですが…」
「わかった。話を聞いてみよう。毛利さんもいかがでしょうか?」
「あ、お願いします」
 そして一行は別の場所に移った。

 その場所には3人の男がいた。
「…この方たちがそうですか?」
 小五郎が聞くと、
「はい。左か清水さん、伊藤さん、中野さんだそうです」
 警官が3人の男を紹介する。
「…それで、あなた方は被害者の方と同じ商店会の人たちなんですね?」
 刑事が聞く。
「はい。実はあの現場も竹村さんの店で、責任者という事で我々もよく集まってあそこで
話をしていたんですよ」
「となると、現場への出入りは自由という事になりますか?」
「ええ。そういう事になりますが」
 と、小五郎が、
「それで、私はこの辺のことに関してはあまり詳しくないのですが、一体被害者の竹村さ
んと言うのはどういう方だったのですか?」
「どういうと言われても…。一言では難しいのですが、ちょっと敵が多かった人ですよね」
「敵が多かった?」
「ええ。竹村さんはちょっと自分勝手なところがありましてねえ」
 清水と呼ばれた男が答える。
「ああ、それは聞きましたよ、それで具体的にはどうだったんですか?」
「例えば今回の竹飾りに関してもいろいろともめていた部分があって、少しでも自分の気
に入らないところがあるとすぐに怒鳴りつけて…。おかげでかなりギリギリで作ったんで
すよ」
「…ほほお」
「ほかにも商店会でもいろいろと問題を起こしていたんですよね」
「問題と言いますと?」
 刑事がそう言うと清水が、
「自分の店だけならとにかく、私らの店の販売方針にまですぐに口を出してくる人でして
…。実は店の中でお客さんの見ている前で私と竹村さんで口論になったこともあるんです
よ」
「それで伊藤さんは?」
「私も同じですね。ですから商店街の人の中には竹村さんをよく言う人なんていませんで
したよ。でも、だからと言って竹村さんの首を絞めて吊り下げる、なんて大胆なことまで
は考えませんよ」
 すると中野も、
「まあ確かに竹村さんのせいで我々の商店街もかなりバラバラになっていたのは間違いが
ありませんからねえ。竹飾りを作っていたときだって何度も喧嘩になりかけましたよ」
「…いずれにせよ、あなた方3人には十分に竹村さんを殺す動機はある、という事ですな」
「…ちょ、ちょっと待ってくださいよ。確かに我々3人には動機があるかもしれないです
けれど、そんな大胆なことまで考えるような奴はいませんよ」

 と、その時だった。
(…?)
 そう、コナンは今までの話で何か腑に落ちない部分を感じたのだった。
(…いま、誰か変なことを言わなかったか?)
 そして今までの会話を頭の中で反復する。
(…そうか、そういう事か。わかったぞ!)
 そしてコナンは腕時計型麻酔銃を小五郎に向ける。

 不意にガタッ、と音がした。
「…どうしたんですか、毛利さん?」
「わかったんですよ。今回の事件の犯人が」
「本当ですか?」
「ええ。私は皆さんの証言を聞いていて一人不用意な発言をしたことに気が付いたんです
よ」
「不用意な発言?」
「そうですよ。それはおいおい話していくつもりですが…。まず、我々が死体を発見した
時の状況ですが、被害者は確かに我々が発見したときは七夕の竹飾りのように吊るされて
いましたよね?」
「…それがどうかしましたか?」
「普通だったら被害者はまだ生きているうちにあのような形で吊るされて、結局絶命した、
と考えますよね? しかし、被害者は前もって絞殺され、それから吊るされていた…。し
かし、警察はもちろん、我々の中には誰一人として被害者が前もって殺害されてから、あ
のような形で吊るされた、とは言っていませんが」
「とすると、まさか…」
 そう、その言葉を聞いて刑事も誰が犯人なのかを理解したようだった。
「そうですよ。確かこんなことを言った人がいましたよね? 『竹村さんの首を絞めて吊
り下げたの』と。どうして我々が一言も言っていないのに、それを知っていたのですか、
伊藤さん?」
 その言葉にその場にいた全員が伊藤のほうを向く。
「…伊藤さん、あなたまさか」
「…そうですよ、私があの男を殺したんですよ」
「それにしてもどうしてこんなことを」
「…許せなかったんですよ、あの男が」
「許せなかった? …店のことで、ですか?」
「それもありますけれど、もっと他にもあったんですよ」
「もっと他に?」
「ええ。実は竹村さんは私から借金をしていたんですよ」
「借金を?」
「ええ。あの人はああ見えて、あちらこちらで借金を作っていて私からも借金をしていた
んですよ」
「…そう言えば思い出した。前に商店会の集まりでも竹村さんがお金に困っている、と言
ったような噂を聞いたことがありますよ」
 中野が言う。
「それは本当なんですか?」
「ええ。まさかそんなことはないだろうと思っていたんですが…」
「…それで、なんで竹村さんを殺そうとしたんですか?」
 刑事が先を促すと、
「実はもうすでにハラは決めていたんですよ。勿論、あんなふうに吊り下げてやろう、っ
てこともね」
「…すでに決めていた?」
「ええ。ちょうど今朝のことでしたよ。また私に借金を申し込んできて。でももう私にだ
って人に貸すほどの金はもうないんですよ。それなのにあの男は聞く耳も持たなくて」
「それで首を絞めた、と言うわけか。それにしてもなんで死体を吊るしたんだ?」
「あんな風に吊り下げておけば、犯人はそういった猟奇的な趣味を持った人物なのではな
いか、と考えるだろうと思って捜査の攪乱を図ったんですがね。まさか、探偵も毛利小五
郎が来ていたとは思いませんでしたよ…」
    *
 夕方6時近くの仙台駅構内。
「…いや、すまなかったな、阿笠君。とんでもないことになってしまって」
 これから東京に帰る一行を見送りに来た野上が言う。
「いやいや、気にしてなくてもいいんじゃ。無事事件も解決できたんじゃし。それに七夕
祭りは子供たちも喜んでおったし、御土産までもらって…」
 そう、彼らの手には仙台銘菓の『萩の月』がひと箱ずつあったのだった。
「そうだな、毛利探偵がいなければどうなっていたか」
(…ハハハ、本当はオレが解決したんだけどな)
 コナンは思った。
「…とにかく、今度時間があったら遊びに来んか? 野上君だったらいつでも歓迎するよ」
「そうだな。その時にはよろしく頼むぞ。…お、そろそろ来るんじゃないのか?」
「お、そうじゃったそうじゃった」
 ほどなく、駅のホームに新幹線が滑り込むように入ってきた。
 そしてコナンたちが乗り込むのを確認すると阿笠博士は野上に向かって、
「それじゃあな」
「ああ、元気で」
 そして阿笠博士が乗り込むと同時にドアが閉まり、発車のメロディとともに新幹線が走
りだした。
 そして一行は東京へと戻っていった。

(終わり)

この作品を2005年、若くしてこの世を去った仙台生まれの友人Sに捧ぐ。

そして、東北は必ず甦ると信じている。



作者注・この作品で使用している画像は全て作者である「ともゆき」が
現地で撮影したものです。



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