愛するが故に

(エピローグ)



 事件から数日後、円谷家の居間。
 ハイビジョンテレビを前にコナンたち5人がソファに座っている。と、
「今日はこれを見ましょうよ」
 光彦が1枚のブルーレイディスクのケースを見せる。それは半年ほど前に劇場で公開さ
れたアニメ映画のディスクだった。
「…そう言えばこのアニメ、ヨーコちゃんが声で出てるんだよな?」
 元太が言う。
「そう言えばそうでしたね。『沖野ヨーコ声優初挑戦』ってことで話題になりましたよね」
 光彦が言う。
「ねえねえ、早く見よう」
 歩美が言うと光彦が、
「あ、ちょっと待っててくださいね」
 そして光彦はプレーヤーにディスクをセットすると、リモコンのボタンを押す。
    *
 映画が始まってしばらくの間、5人は画面を見ながら雑談を交わしていた。
 と、ちょうどヨーコが声を当てている場面になった。
「自分も子供の頃にアニメを見て育ったので声優を一度やってみたかった」と雑誌のイン
タビューで話していたヨーコだったが、やはり、と言うかなんというかタイミングや声の
出し方が、他のプロの声優と比べると若干浮いているように思える。
(…やっぱりプロの声優、ってのは違うんだな…)
 コナンがそんなことを考えていた時だった。
「…そう言えば…」
 歩美がつぶやく。
「どうしたの、吉田さん?」
 灰原が聞く。
「この間、ヨーコちゃんのコンサートで、彼女をライフルで撃とうとしたって事件、あっ
たでしょ?」
「ああ、そう言えばそんなのあったわね」
「…あれ、確かこの間光彦が話していた、アパートの住人の兄ちゃんが犯人だったんだ
ろ?」
「ええ、そのようですね。ボクもその話を聞いたとき、びっくりしましたよ」
「…でもその人、なんであんなことしたんだろう?」
「ヨーコちゃんが好きだったかららしいよ」
 コナンが言うと、思わず「え?」という顔をする元太たち。あの灰原ですら「ちょっと
意外」と言う顔である。
「ヨーコちゃんが…、好きだった?」
「どういうことですか?」
「その犯人の男は彼女が好きでしょうがなかったんだよ。それで、彼女を自分だけのもの
にしたい、って思っていたんだ」
「自分だけのものにしたい、って…」
「それで、彼女のブログなんかもまめにチェックしていたし、スケジュールも前もって調
べておいてコンサートなんかにもよく行っていたらしいんだ。でも、そうしているうちに
だんだんと気持ちに変化が出始めたらしいんだ」
「変化、ってなんですか?」
「彼女を自分の手にかけることで自分一人のものにできる、って思うようになったらしい
んだよ。彼女をもっとも愛しているのは自分だ、愛するが故に自分一人だけのものにした
い。それで、自分のものにするためには自分の手で殺してしまう、そう極端が考えになっ
てしまった、ってわけだよ。…ま、これはあくまでも本人が警察の取り調べで言っている
ことだから本当かどうかわからないけどな」
「…結局、彼女に対する歪んだ愛情がああいう結果を招いてしまったのね」
 灰原が言うと光彦が、
「そんな人にはなりたくないですね」
 その言葉に他の3人もうなずくのだった。
     *
 そしてコナンが事務所に戻ってしばらく経った時だった。
「…ごめん下さーい」
 家電量販店の作業着を着た二人の店員が、探偵事務所の上の小五郎たちの家に大きな段
ボールを持ってやってきた。
 蘭がドアを開けて出迎える。
「あ、ご苦労様です。こちらです」
 そう言うと蘭は店員を居間に案内する。
 そして店員は段ボールの中から大画面の液晶テレビを取り出すとセッティングを始めた。
 その様子を見ながらコナンは、
(…ああ、そう言えば今日だったか)
 そう、小五郎はヨーコの事件で貰った探偵料を使い、家用と事務所用の2台のテレビを
地デジ対応の液晶テレビに買い替え、それが今日届いた、と言うわけである。

 しばらく経って、店員がセッティングの状態を確認すると、
「それじゃ失礼します。…あ、今までのテレビは持って行きますので」
「ええ、お願いします。それじゃありがとうございました」
 蘭の言葉に送られて店員が出ていくと、ほどなく外の階段を昇ってくる音がし、小五郎
が現れた。
「…お、終わったか」
 そう、小五郎は今まで事務所の方のセッティングを確認したのだった。
 そして小五郎はテレビの前に座ると、
「それじゃ早速」
 そう言うと小五郎がテレビのリモコンのスイッチを入れた。
 ほどなく画面が映し出された。
「お〜、やっぱり大画面で見る地デジは違うな!」
 そう言いながら小五郎はリモコンの操作をしばらくしていたが、一通りそれを終えると
満足そうにスイッチを切る。
「そう言えば明日ヨーコちゃんが出演する番組があるんだよな。今から大画面でヨーコち
ゃんを見るのが楽しみだぜ」
(…ハハハ。今度はおっちゃんがあの事件の犯人みたくならなければいいけどな)

(おわり)



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