福岡攻防戦! コナンvs怪盗キッド
〜CONAN IN FUKUOKA〜

最終話その2(ヤフードームバージョン)



 どのくらい走っただろうか、目の前に福岡タワーが見えてきた。
 暗闇の中でサーチライトに明るく照らされた福岡タワーが目立っている。
 と、不意に怪盗キッドの足が止まった。
「…やれやれ、やっと二人になれたか」
 キッドが呟く。
「…じゃあ、オメー…」
「ああ。お前なら必ず着いてくると思ったからな」
 そう、福岡タワーの周辺にはキッドとコナンの二人しかいなかった。
 そしてキッドはいつの間にか来ていた服を着替え、白のタキシードにマント、シルクハ
ットにモノクル(片眼鏡)といういつもの姿に戻っていた。
「…それにしても、まさかオメーが園子に変装してオレたちと一緒に行動していたとはな」
「ああ。鈴木財閥が福岡市で開かれる展覧会に宝石を展示する、と言う話は聞いていたか
らな。実際にどのようなものか見てみたかったんでね」
「だからって園子に変装する事はねーだろ」
「関係者に紛れ込んだほうがかえって安全だと言うものだぜ。まさか紅生姜で正体がバレ
るとは思わなかったがな」
「…探偵ってのはそういうもんだぜ。それにしてもあんなことするとはよっぽど自信があ
ったんだね」
「あんなこと?」
「オメーが最初にあのメールを送りつけたときだよ。オメーが園子に変装してるんじゃな
いか、って思ったとき、ようやくあのメールの意味がわかったぜ」
「送りつけたメール?」
「『灯台下暗し、といいますが、福岡タワーの展望室からも入場するお客を見る事はできま
せんね』ってヤツだよ。灯台下暗し、つまり誰も自分の足元には気づかないってヤツさ。
オメーもオレたちと一緒になって行動する事で自分に疑いがかからないようにした、って
訳さ」
「一応ヒントをやったつもりだったんだがな。ま、あとはオメーの考え通りだ。まだ宝石
はあのショーケースの中にあるから、中森警部にオメーから言っておけ。『騒がせて悪かっ
た、とキッドが言ってた』とな」
「…それにしても、オメーも今回は随分と回りくどいことしたんだな」
「…まあな。こっちにも色々と事情があってね」
 そういうと怪盗キッドはいきなり方角を変えて走り出した。
「待て、怪盗キッド!」
 コナンが叫んで追いかける。

「…やべえ、見失った」
 そして回りも見回すコナン。
 と、園子が呼んだのだろう、警官隊がコナンの立っているところまでやって来た。
 勿論先頭は中森警部である。
「怪盗キッドはどうしたんだ?」
 中森警部が言う。
「…ここまで追いかけたんだけど、見失って…」

 そのときだった。
 一人の警官が持っていた無線機が発信音を奏でた。
「どうした?」
「…怪盗キッドがヤフードームに現れました!」
「何ッ?」
 その声を聞いた警官隊は急いでヤフードームへと向かっていった。
    *
 ヤフードーム。
 一応のために、という事でドーム内の照明が明るくグラウンドを照らし出している。
 その中で警官隊が次々とヤフードームのグラウンドに現れた。
 勿論、その後からコナンたちもついて来ている。
 野球の試合などで観客が大勢入っているときとは違い、観客が全くいないドーム球場と
言うのは恐ろしいくらいの静寂である。
 ホームベースの付近で辺りを見回す警官隊。
「ええい、キッドはどこにいるんだ!」
 中森警部が叫ぶ。
「警部、あそこです!」
 一人の警官が指をさした。
 見るとバックスクリーンの真ん中に怪盗キッドが立っていた。
 それを見た中森警部たちは一斉にキッドに向かって走り出した。

「…おやおや、中森警部。こんなところでお会いするとはね」
 バックスクリーンに仁王立ちになっているキッドが、警官隊の中に中森警部の姿を見つ
けて言った。
「当たり前だ! お前を捕まえるためならワシは例え地球の果てでも駆けつけるぞ!」
「…ご苦労な事ですね。しかしちゃんと捕まえることが出来ますか?」
「そう来ると思ったわい。暗闇に紛れて逃げようとするつもりだろうがな、この辺の主要
な建物には全てサーチライトを用意してある。暗闇に紛れようったってそうは行かんぞ」
「…でもまだひとつ、当てられないところがあるでしょう」
「…なんだと?」
「上ですよ」
そう言うとキッドはパチン、と指を鳴らした。
「…なにっ!」
次の瞬間、キッドの傍らに一本のロープが垂れ下がって来た。
 キッドはそれに捕まると上へと上がっていった。
「な、何でドームの中で…」
「…中森警部、あれ!」
 コナンが指をさした方向を見る一同。
 そう、いつの間にかヤフードームの天井が開いており、その開かれた天井に向かってキ
ッドが上昇して行ったのだ。
「…しまった! ヤフードームの天井が開けられる事をすっかり忘れておった!」
 中森警部が言う。
「…天井の操作をしている部屋に向かうんだ! 仲間がいるかもしれん!」
 そして何人かの警官がグラウンドから操作盤室の方に向かっていった。

 やがてキッドが暗闇に消えて行ったと同時にドームの屋根も閉じてしまった。
「キッドが逃げたぞ! 捜せ! 捜すんだ!」
 中森警部が叫ぶが、既にキッドはかなり遠くまで逃げ去っているであろう。
「…また、逃げられちまったか…」
 思わず舌打ちをひとつするコナン。
 そしてじっとヤフードームの天井を見上げていた。
 操作盤室に乗り込んだ警官隊たちの報告によると、操作盤室は既にもぬけの殻だったと
いう。
 おそらく、そこに仲間がいて、ドームの天井の開閉を操作していたのであろう。怪盗キ
ッドのことだから、仲間を関係者に変装させて操作盤室に潜り込ませるくらいは簡単なは
ずである。
    *
 程なく福岡市博物館から、宝石が消えたと思われたショーケースの中から見つかった、
との連絡があった。
 今回も宝石を守る事はできた。しかし…
「まだまだオメーとの決着は先の話になる、ってことか…」

(おわり)

作者注・この作品で使用している画像は全て作者である「ともゆき」が
現地で撮影したものです。



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