福岡攻防戦! コナンvs怪盗キッド
〜CONAN IN FUKUOKA〜
最終話その1
一瞬の停電の後、怪盗キッドに宝石を盗まれた、と言うこともあって福岡市博物館内は
あっという間にパニックに陥ってしまった。
福岡県警の刑事達の指示で直ちに福岡市内に非常線が張られ、ヤフードームや福岡タワ
ーに詰めていた警官達にも次々と指示が与えられていく。
そして程なく、全ての配置が終了した、との連絡を受けた中森警部をはじめとする刑事
達はそこにいた刑事や警官たちに後を任せると再び特別展示室に入っていった。
そのあとを鈴木一家とコナンたちが付いていく。
特別展示室の前には変わらずに二人の警官が立っていた。
「…だれも通してないか?」
「はい、誰も通していません」
そしてそこにいた一同が特別展示室に入っていくと、既に何人もの警官たちが現場検証
をしていた。
「…何か異常は?」
中森刑事が近くにいた警官に聞いた。
「いえ、今のところ何も異常は見当たりません」
「そうか。…ん?」
中森刑事は今しがた自分達が入ってきた特別展示室のドアを見る。
何が起きたのか、といつの間にか常設展示室にいた博物館員が集まってきていて、特別
展示室の中を覗いていた。
「…君達は持ち場にもどれ!」
宮城副館長が言うと、あたふたと博物館員は常設展示室に戻っていった。
そんな中、一人の長髪の女性博物館員がいつまでもじっと中を見ていた。
「君も戻れ!」
宮城副館長が言うと、ようやくその女性もその場を立ち去った。
一同は宝石が入っていたショーケースの周りに立っていた。
中をよく見ようと中森警部が近づこうとするが、
「…あ、赤外線センサーがあったんですな」
「いえ、大丈夫です。もう電源は切ってありますから」
それを聞いて安心したか、中森警部はショーケースに近づいた。
ショーケースの中はつい今まであったはずの宝石が跡形も無く消え去っていた。
「…いったいどうやって盗んだんでしょうか?」
宮城副館長がショーケースを見て言う。
「…本当にセンサーは作動してたんだろうな?」
中森警部が警備員室から着いてきていた警官に聞いた。
「…はい。間違いなく作動していました」
「停電が起きたときに赤外線センサーも落ちた、と言うことは?」
「いえ、そのときは非常用電源が作動するようになっていますから、センサーが落ちる、
と言うことはありません。ただ…」
「ただ?」
「丁度電気が消えたとき、非常用電源に切り替わっていなかったんですよ」
「切り替わっていない?」
「ええ、ですからあの停電は何者かが一時的に電源を切ったのではないか、と思われるの
ですが」
「…となると、ヤツの仕業か…」
中森警部がつぶやいた。
*
そんな中、コナンは一人ショーケースを見ていた。
(…一瞬の内に宝石が煙のように消えてしまうなんてことあるはずがない。…きっとこれ
は何らかの形でトリックがあるはずなんだ!)
コナンはそう思いながらショーケースを隅々まで眺める。
(ヤツが…、怪盗キッドがもし何らかの形で宝石を盗んだとすれば、これまでのやり方で
もわかるとおり、何らかの細工を加えているはずだ。その細工の跡が見つかればいいんだ
が…)
そしてコナンが何気なく宝石のあった台を見たときだった。
(…これは?)
よく見ると宝石が置いてあった台の周りになにやら四角い切り込みのようなものが見え
た。
(…なんだ、これは?)
コナンはじっとそれを見ていた。
そのとき、彼の脳裏にある閃きが走った。
(…そうか、わかったぜ。何でこんな単純なことがわからなかったんだ…)
そして回りを見回す。
(あとは…、と)
「…園子ねーちゃん、ちょっと」
そう言いながらコナンは警察の現場検証の模様を見ていた園子に近づいた。
「…? どうしたの、コナン君」
「ちょっと話があるんだ」
「…なに? 私に話、って?」
「…ここじゃちょっと…、外に出てくれないかな?」
「…蘭に言っておこうか?」
「…あ、いや、その、蘭ねーちゃんには内緒の話なんだ」
「ふーん、…わかったわよ」
そう言うとコナンと園子はそっと博物館を出た。
「…あれ? コナン君は?」
蘭が辺りを見回して言う。
そう、さっきまでいたコナンがいつの間にかいなくなっていたのだ。
「…そういえば園子もいないわね」
周りを見回して綾子が言う。
「…どこ行ったんだろう、あの二人」
*
福岡市博物館を出た二人は、福岡タワーの方に向かって歩いていった。
「…ねえ、コナン君。こんなところまで来て話、って何よ?」
そう、博物館を出てから、コナンは何も園子に話をしなかったのだ。
「ん? 宝石がどこにあるかわかったんだ」
「え? 宝石は怪盗キッドが持って行ったんじゃないの?」
「いや、正確に言うと怪盗キッドはまだ宝石を持ってっていないよ」
「持ってっていない? どういうこと?」
「言ったとおりだよ。まだあそこに宝石があるってことなんだ」
「まだある、って…、どういうこと?」
「なあに、簡単な事だよ。あのショーケースの中にキッドはちょっとした細工を施しただ
けなんだ」
「…その細工、って何?」
「簡単さ。あのケースにあらかじめ宝石がある周りの部分だけ裏返るようになってたんだ。
そして怪盗キッドは予告した時間になって停電を起こして、そのショーケースの装置のス
イッチを入れてその部分が裏返したんだ。停電を起こしたのはみんなの気をそらすため。
仕掛けがばれないようにするためでもあったんだよね」
「…じゃあ、あのショーケースを調べればまだ宝石がある、ってことね」
「そういうことだね。でも、それより大切なことがあるんだ」
「大切なこと?」
「ああ。怪盗キッドは既にあの中に――福岡市博物館の中に変装していたんだよ」
「じゃあコナン君は…」
「ああ、もう誰がキッドの変装かもわかったんだ」
「…それじゃあ、何で私に話したの? 警察の人に言えばいいじゃないの?」
「…一番初めに話したかったんだよ、園子ねーちゃん。…いや、怪盗キッドさんよ」
「ちょ、ちょっとコナン君、冗談はやめてよ。コナン君、いつからそんな冗談が好きな子
になったの?」
「冗談じゃねーよ。オメーは最初からオレたちと一緒にいたんだよ。でも、オレたちが気
づかなかっただけさ。ある時点まではな」
「ある時点?」
「ああ。オレたちが福岡に到着した日の夜の事だった。園子から電話がかかってきたんだ
よ。『誰かに襲われて飛行機のチケットを盗られた。もしかしたら怪盗キッドかもしれない
から気をつけろ。自分は新幹線に乗ってようやく博多駅に来たところだ』ってな。…勿論、
それを聞いたときはオレも信じられなかったさ。園子が何らかの形でオレたちを担いでる
んじゃないか、とも思ったんだ。でもな、あるきっかけがオメーを偽者の園子だと確信さ
せたんだよ」
「…その、確信、ってなんなの?」
「オレと蘭とオメーでとんこつラーメン食いに行ったときだよ。あの時オメーはスープ一
滴残さずに全部食っただろ?」
「それがどうかしたの?」
「オメーは知らねーと思うが、園子は紅生姜が嫌いなんだぜ。福岡に来る前に蘭と園子の
ショッピングにつき合わされたオレは、昼飯を食うために入ったデパートのファーストフ
ード店で園子が焼きそばに乗っていた紅生姜を蘭に全部やったのを見てたんだ。…わかっ
たか? あの時のとんこつラーメンには紅生姜がたっぷりと乗っかってたんだぜ。本物の
園子だったら残すか、蘭に紅生姜をやっていたはずさ」
「え…」
「…そうだろう? どんなに変装した相手になりきったところで食べ物の好き嫌いまで変
わるはずがない。オメーが園子が紅生姜が嫌いだ、と言う事を知らなかったばっかりに墓
穴を掘る結果になっちまったんだよ」
「…じゃ、じゃあ、コナン君。コナン君の言うとおり、私が怪盗キッドだとしてもよ。そ
の、コナン君の言う『本物の鈴木園子』がどこにいるの?」
「そこにいるよ」
「え?」
そして辺りを見回すと、そこには一人の女性が立っていた。
よく見ると「福岡市博物館」のネームプレートを胸にしている。
「何言ってるの、コナン君。博物館の人しかいないじゃない。大体なんで博物館員がここ
にいるの?」
「…もういいよ、園子ねーちゃん」
「え?」
「…全く、キッド様がよりによって私に変装するなんて」
いきなりその女性博物館員が園子の声で話した。
「そ、その声は…?」
その女性博物館員はいきなり頭に手をやると、いきなり髪の毛を団体で抜いた。
そう、そこにはいつもどおりに髪の毛をヘアバンドでまとめた園子が立っていたのだ。
そして彼女が持っているのはかつらだった。
「く…」
「びっくりしたよ、園子ねーちゃんから電話がかかってきた時」
「そう、空港の職員らしき人に声掛けられたと思ったらいきなり何かかがされるんだもん。
気がついたときは車の中に閉じ込められてさ。航空券も何も全部取られちゃって。みんな
飛行機の中だから電話もできないし…。幸い、車の中に小銭が残ってたから、それでタク
シー呼んでひとまず家に戻って、お金を用意して、飛行機のチケット取れなかったから新
幹線で来たんだけど…。久しぶりだったわ、新幹線で博多まで来たの、って。で、とにか
く蘭に知らせよう、と思ってホテルにかけたら、コナン君が出てきたんだよね」
「うん。それを聞いて、もしかしたら怪盗キッドが園子ねーちゃんに変装して紛れ込んで
るんじゃないかな、と思ってさ。園子ねーちゃんと相談してこのことは二人だけの秘密に
して園子ねーちゃんに来てもらったんだ」
「そ。コナン君ったら『このことは誰にも話すな』って言うんだもん。おかげで蘭にも話
せなかったし、パパやママにも話せなかったし…」
「それは園子ねーちゃんには悪かったと思うよ。でも、怪盗キッドを捕まえるためだもん。
仕方なかったさ」
「…さすがだな。よくそこまで見破ったぜ」
いきなりコナンのすぐそばにいる園子の声が男の、怪盗キッドの声に変わった。
「…やっぱりな…」
「でも、ここで捕まるわけにはいかねーんだ」
そう言うといきなりキッドは背を向けて福岡タワーに向かって走り出した。
「…やべえ! 園子ねーちゃん、ボクはヤツを追いかけるから、園子ねーちゃんは警察呼
んできて!」
「わかったわ!」
そして園子は博物館の方面に、コナンは福岡タワーに向かって走り出した。
怪盗キッドを追って…
→福岡タワーに向かう
→ヤフードームに向かう
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