福岡攻防戦! コナンvs怪盗キッド
〜CONAN IN FUKUOKA〜

第2話



「園子、どうしたの?」
 蘭がドアをノックする。
「あ、蘭? ドアは開いてるわよ」
 そして蘭たち3人が部屋の中に入ると、そこには鈴木一家の4人がそろっていた。
「いったいどうしたの、園子?」
「あ、蘭。これ見てよ。今、パパのケータイに入ったメールなんだけど…」
 そして園子が携帯電話を差し出す。
 それには、

「福岡市博物館で開催される秘宝展で展示される宝石『レッドサンライズ』戴きに参上い
たします。 詳細は明日。 怪盗キッド」

 と言う文章が書かれてあった。
「…これは…」
「そ、キッド様からのメールよ」

(…やっぱりな…)
 コナンは思った。
 この福岡で「秘宝展」が開催される、と園子から聞き、実際に福岡の地に降り立った時
から怪盗キッドの影がちらついていたのだが、やはりヤツはこの機会を狙っていたのだろ
うか?
 今回の秘宝展は全国紙の記事で、しかもコナンたちが住んでいる東京でも紹介されてい
たほどのニュースである。キッドが動き出してもおかしくはなかったのだが…。
「…それにしても、今度の怪盗キッドの目的はなんなのかしら…?」

「ねえ、ボクにも見せて」
 そう言うとコナンは園子の手から携帯電話をひったくった。
「あ、コナン君!」
 そしてコナンはそのメールを見る。
「…?」
 コナンはそのメールの文章が一番下までスクロールされていないのに気がついた。
 ということはまだ続きがあると言うのだろうか?
 コナンはその文章を下の方までスクロールさせると、こんな一文があった。

「P.S.…灯台下暗し、といいますが、福岡タワーの展望室からも入場するお客を見る事は
できませんね」

(…? 何だ、これは?)
 コナンは思った。いったい怪盗キッドはどんな意味を込めてこんな一文を付け足したの
だろうか?

「で、どうするの?」
 蘭が言う。
「どうする、って…。とりあえず福岡県警には連絡しないといかんだろ」
 小五郎が言う。
「それについてはさっき福岡県警の方に連絡は入れといたわ。すぐにそっちに伺う、って
言ってたそうよ」

 そして福岡県警から程なく署員たちがやってきた。
「先ほどそちらから連絡を戴いたのですが」
「あ、どうも済みません。…ここではなんですので、下のロビーで」
 そして史郎が立ち上がったとき、
「済みません。私も一緒にいいですか?」
 小五郎が聞いた。
「あ、毛利さんも一緒にお願いします」
 彼らに湖南も着いていこうか、と思った時だった。
「…コナン君、みんなの邪魔になっちゃいけないから、私たちは部屋に戻ろう」
 コナンの考えを悟ったか、蘭が言う。
「う…、うん」
 そしてコナンは部屋を出ようとして何気なくもう一度振り向いた時だった。
(…あれ?)
 コナンは部屋の中の全員の様子に違和感を感じたのだった。

 そして鈴木家の一同(&小五郎)と福岡県警の刑事たちが下のロビーに向かい、蘭たち
が部屋に戻った後の事だった。
 蘭はバスルームで入浴しており、コナンはTVを見ていた。
 と、小五郎が戻ってきた。
「…どうだったの?」
「いや、たいした話はしてねえ。今はまだ予告状を送りつけてきた、というだけでこれか
ら先どうなるかわかったものじゃないからな。明日が丁度初日だから、警戒は厳重にして、
福岡県警の刑事たちにもその宝石を見てもらおう、ってことになっただけだ。これから身
内だけで打ち合わせをするらしいから、途中で抜けてきた」
 そして小五郎がタバコを喫おうと思ったかタバコの包みを取り出す。
 しかし、その中身を見て、
「…ちっ、タバコが切れてる。一寸下へ買いに行って来るぞ」
「うん、わかったよ」
「ついでにビールでも買ってくるから。おまえらにもジュースか何か買ってきてやるぞ」
「ありがとう」
 そう言って小五郎が部屋を出て行ったその時だった。
 不意に部屋にある電話のベルが鳴った。
「…もしもし」
「あ。そちら、毛利様のお部屋ですか?」
 どうやらフロントからの電話のようだった。
「あ、そうですけど」
「外線がかかっておりますのでお繋ぎしますね」

「お父さん、戻って来たの?」
 家から持ってきたパジャマに着替え、バスタオルで髪を拭きながら蘭がバスルームから
出てきた。
「うん。でもすぐに、下にタバコ買いに行ったよ」
「そう。…それより、コナン君。誰かから電話、あった?」
「…ん? な、なんでもないよ」
「そう? なんか話している声が聞こえたんだけど」
「そ…、その…。阿笠博士からだよ。ボクが福岡に遊びに行く、って言ったから心配して
電話かけてきたんじゃないの?」
「そう」
 そう言うと蘭はベッドに腰掛けるとコナンと一緒にTVを見始めた。

(…やべえやべえ。まだ蘭には「あの事」は話さない方がいいな…)
    *
 翌朝。
「蘭、いる〜?」
 部屋の外で園子の声が聞こえた。
「あ、ちょっと待ってて」
 そして蘭が部屋のドアを開けると、そこに園子と綾子の二人が立っていた。
「なに?」
「ん? 今から博物館で秘宝展見て、ついでにヤフードームや福岡タワーの見物に行こう
と思ってるんだけど、行く?」
「分かったわ。支度してからいくから待ってて」

 そしてコナンたち3人と鈴木姉妹の5人は駐車場に泊まっている車(昨日コナンたちが
空港から乗ってきたワンボックスカーだった)に乗り込む。
 園子が言うところだと、まず、福岡市博物館で今日から開催される秘宝展を見物した後
にヤフードームや福岡タワーを見物してホテルに戻ってくる予定だ、ということだった。
 既に両親はオープニングセレモニーに出席するために博物館に行っている、ということ
だった。
    *
 昨日とはうって変わって福岡市博物館は大勢の入場者でにぎわっていた。
 やはり初日、と言う事もあるのだろうか、来場者のほとんどが2階の特別展示室の方に
入っていく。
 コナンたちもそれを見て特別展示室の方に入っていった。

 特別展示室の中はかなりの混雑で、さらには警備員の姿もあちこちで見られる事もあっ
てかゆっくりと立ち止まって見ている余裕は感じられなかった。
 とは言え、中に展示されている数々の展示物は「秘宝展」の名にふさわしく数々の見た
事のないような宝石や陶磁器が置かれていた。
「…日本にはまだまだこんなにお宝が残ってたんだな…」
 半ば感心したように小五郎がつぶやく。
「あ、お父さん、見て見て。アレよ」
 蘭が指差した方向は人だかりがしていた。
 そこに行くと、そこには「宝石『レッドサンライズ』 鈴木史郎氏所蔵」と言う説明文
と共に、大きなルビーの宝石が台座に乗っていた。
「レッドサンライズ」の名にふさわしく、太陽を思わせる赤色だった。

「…やあ、来てましたか」
 コナンたちの背後で声が聞こえた。
 コナンたちが振り返ると、昨日も会った宮城副館長がその場にいたのだった。
「ああ、これは宮城さん」
 小五郎が言うと、宮城副館長は、
「…済みません、ちょっとこちらへ」
 と、一同を離れた場所へと案内した。

「…お話は鈴木史郎様や福岡県警の方々にお聞きしました。怪盗キッドがここに展示して
ある鈴木様所蔵の宝石を狙っているそうですね」
「ええ。まだ詳しい予告とかは送っていないのですが、狙っているのは確実のようです」
 昨日の捜査会議に一緒に出ていた小五郎が言う。
「そうですか…。いや、我々も福岡県警から話を聞いて、警備員の人数を増やしたり、監
視カメラを増設したりで対応はしているんですが、何分怪盗キッドがどのように出てくる
か分からないままではこれ以上の警戒の仕様がなくて。…いや、お客様に余計な不安を与
えたくないためにこの事を知っているのは私や館長と一部の者だけなんですけどね」
 まあ、確かに催し物が催し物だから、例え怪盗キッドが相手でないにしろ、これだけの
警備も当然だろうが、やはり相手が相手だけに念を入れる、ということだろうか。
「…まあ、とにかく警備の方は厳重にする事ですな」
「解っております」
 そして特別展示室を一回りした一同は次の目的地である福岡タワーに向かった。
    *
 福岡タワーに昇って福岡市を一望した後、一同はヤフードームへと向かった。
 ヤフードームでは今日はプロ野球の試合も他のイベントもないのだが、見学ツアーが組
まれているのか結構人が来ていた。
 球場のあちこちには「FUKUOKA Soft Bank HAWKS」のフラッグが翻り、スピーカーからは、

♪いざゆけ 無敵の若鷹軍団 いざゆけ 炎の若鷹軍団
 我等の 我等の ソフトバンクホークス
 
 と、ここを本拠地とする福岡ソフトバンクホークスの応援歌「いざゆけ若鷹軍団」が聞
こえてくるのがホークスが福岡の球団だと言うのを感じさせる。

「…そういえばさ、園子」
 蘭が園子に話しかける。
「何?」
「ヤフードームって屋根が開閉式なのに、何で天気がいい日は屋根を開けて試合しないん
だろうね? TVで見たことあるけど、メジャーリーグの球場は天気がいい日は開ける事
が多いでしょ」
「…うん、昨日もホテルに行く途中で見たでしょ? ドームの近くに病院があって、それ
で騒音なんかの影響があるらしいわよ。それに…」
「それに?」
「1回屋根開閉するのに100万円かかる、って話だって」
「ふーん、それじゃそう開けられないわね。でもなんか勿体無いなあ…。これだけ立派な
建物なのに…」
「…でもよ、これだけのスタジアムで野球やコンサートが出来るなんて凄いものじゃねえ
のか?」
 小五郎が言う。こうして自分の目で見てみると、TVで見るのなどよりはるかに大きく、
ローマのコロッセオを思わせるような外観には圧倒されるものがある。
    *
 その夜。
 小五郎は鈴木史郎に誘われ、中州で史郎が見つけた、という飲み屋に出かけ、園子は「折
角博多に来たんだから名物のとんこつラーメンでも食べよう」と蘭とコナンを誘い、3人
で博多のあるラーメン店に入っていた。

「お待ちどうさまでした〜」
 3人の目の前に博多名物のとんこつラーメンが置かれた。
 もちろん、チャーシューや万能ネギ、紅生姜やゴマといった具がたっぷりと乗せられて
いる。
「…これが本場のとんこつラーメンか…。一度福岡で食べてみたかったのよね」
「そう、よかった。早速食べようか」
「うん。…いただきま〜す!」
 そして3人は食べ始めた。

「あ〜、おいしかった」
 園子が丼を置く。3人ともスープまで飲み干したか、丼の中はすっかり空となっていた。
「おいしかったね、コナン君」
「うん。東京なんかで食べるのとは全然違うね」
「そう、それはよかった。…あ、お金は私が払っとくから二人とも先に出てていいわよ」
 そして蘭とコナンが店を出た。
 園子がレジでお金を払っているのが外からでもわかる。
 そんな園子をコナンはじっと見ていた。
「…? どうしたの、コナン君?」
 コナンの様子を変だと思ったのか蘭が話し掛けた。
「ん? いや、なんでもないよ」
 やがて
「お待たせ〜」
 そう言いながら園子が店から出てきた。
「…これからどうする、蘭?」
「…そういえば、この近くにキャナルシティってショッピングモールあったわよね。そこ
で買い物したいんだけど」
「分かったわ。じゃ、一緒に行こう」
 そして3人は連れ立ってキャナルシティへと向かった。
    *
 そしてキャナルシティからホテルに戻った時の事だった。
 小五郎はまだ帰ってきてないようで、蘭とコナンは二人で部屋のテレビを見ていた。
 
「…君、コナン君!」
 蘭がコナンに話しかける。
「あ? な、何? 蘭ねーちゃん」
「さっきから何考えてるの?」
「え? べ、別に何も考えてないよ」
「…そお? もしかして、怪盗キッドのこと考えてたんじゃないの?」
「え?」
「隠さなくてもいいわよ。実は私も同じ事、考えてたんだから」
「そ、そう?」
「うん。…ねえ、コナン君。もう怪盗キッドも福岡に来ているのかしらね?」
「それはわからないよ。だって怪盗キッドは神出鬼没の怪盗なんでしょ?」
「それはそうなんだけど…」
 そう言うと蘭は窓辺に近づいた。
 窓の外には福岡の夜景が広がっている。
「この夜景のどこかに怪盗キッドは潜んでいるのかしら?」

 その時、蘭の部屋の電話のベルが鳴った。
 蘭が電話を取る。
「…もしもし、あ、園子? …え? うん、うん。すぐ行く」
 そして蘭は電話を切る。
「…どうしたの?」
「園子から電話があって、園子のお父さんの電話に怪盗キッドから予告のメールが届いた
らしいわ。お父さんにも見せたらしいんだけど、お父さん酔っ払ってて何がなんだかよく
わからないみたいで、園子のお父さんが園子のケータイに転送したらしいわ」
「じゃあ…」
「園子のお母さんが福岡県警の刑事さん呼んだらしいけど、園子が部屋に着て欲しい、っ
て言ってるから、行ってみよう」
「うん!」
 そう言うとコナンは蘭と共に部屋を出た。

(…いよいよ、勝負の始まりか。今度こそ逃がさねえぜ、怪盗キッド!)


<<第1話に戻る  第3話に続く>>


この作品の感想を書く

戻る