T am you.
〜テーマパーク殺人事件〜

(プロローグ)



 7月上旬のある日のこと。
 まだまだ梅雨は明ける気配すら見せず、その日も朝からどんよりとした天気で昨夜から
降った雨は止む気配すら見せない。

「それじゃ、お父さん行ってくるわね」
「じゃ、おじさん行ってくるね」
 毛利探偵事務所のドアの前に毛利蘭と江戸川コナンの二人が立っていた。
 これから二人は登校するのだ。
「…まったく、こう毎日雨ばっかりだと嫌になっちゃうわね」
「仕方ないよ。さっきTVでも梅雨明けはもうしばらく先だ、って行ってたでしょ?」
「そうだけどね…。私、雨って一番嫌い。何だかこっちも気分が滅入ってくる気がしてさ」
 そして蘭は一歩踏み出した。
 そのとき、昨夜からの雨で濡れていたからだろうか、蘭がコンクリートで滑り、バラン
スを崩した。
「蘭ねーちゃん、危ない!」
 慌ててコナンが蘭を抱きとめようとした。
 しかし、思った以上に勢いがあり、かつ体格の差もあったのだろうか、コナンも足を滑
らせてしまった。
「うわーっ!」
「キャーッ!」
 派手な音を立てて二人が階段を転がり落ちていく。

 ガツーン!

 そして下まで落ちていった二人はお互いに頭をぶつけ、そのまま気を失った。
    *
「…う、ううん…」
「…気がついたようです。もう大丈夫ですよ」
 医者の声がする。
(…ここは、どこだ…?)
 コナンは自分が病室のベッドに寝ている、と気がつくのには少し時間がかかった。

「…よかった、気がついたようだ」
「…本当ね、一時はどうなるかと思ったわ」
 コナンは目を開ける。
 見ると自分の顔を心配そうに見ている毛利小五郎とその妻で今は小五郎と別居している
妃英理がいた。
(…あれ、何でおっちゃんとおばさんが?)
「…大丈夫か?」
「…大丈夫、蘭?」
(…蘭だって?)
 慌てて上体を起こすコナン。
    *
 それと同じ頃。
「う…ううん…」
 蘭も意識がはっきりしてきた。
「…どうやら気がついたようね」
 聞き覚えがない声がする。
(…あれ? 誰だろう)
 蘭はあたりを見回す。
(…あれ? 元太君に光彦君、歩美ちゃんまで…。何でこんなところにいるの?)
 そう、自分が寝ているベッドを小嶋元太、円谷光彦、吉田歩美の3人が見ていたのだ。
「…よかった。気がついたようですね」
「大丈夫、コナン君?」
「コナン君?」
 それを聞いた蘭は思わず起き上がった。
    *
「おじさん、おばさん。何でここにいるの」
「おじさん、おばさん、って…。蘭、お前まだ寝ぼけてるのか?」
「そうよ。自分の親の顔も忘れたの?」
「自分の親、って何なんだよ。だからオレは…」
 ここまで言いかけたとき、コナンは周りを見るのに違和感を覚えた。
 そう、本来の自分の身長を考えると低いはずの目線が普段よりも高い位置にあるのだ。
(…どうしたんだ、一体?)

 何気なくコナンは自分の寝ているベッドの横に置いてある鏡を覗き込んだ。
「…!」
 思わず自分の目を疑うコナン。
 そう、ベッドに寝ている自分の姿は紛れもなく蘭の姿だったのだ。
     *
「コナン君、って…。冗談やめてよ」
 蘭が言う。
「冗談、って…。コナン君、どうしたんですか?」
「…そうよ、コナン君。まだ頭を打ったショックが残ってるんじゃないの?」
「そうだよな。探偵事務所の前でコナンと蘭ねーちゃんと頭から血を流して倒れてる、っ
て聞いてオレたちびっくりしたんだぜ。死んだのかと思ったぜ」
 元太たちが何の違和感もなく自分のことを「コナン君」と呼ぶのに蘭は戸惑っていた。
(…どういうこと?)
 その時だった。
「…痛っ…」
 蘭は自分の頭にズキッ、と来る痛みを感じた。
 慌てて傷口のあたりを押さえる蘭。
(…え?)
 蘭の右手が眼鏡のフレームに触れた。
(…なんで私、眼鏡なんかしてるの?)
「大丈夫、コナン君?」
(…だからなんでコナンなの?)
 蘭は辺りを見回す。
 と、窓ガラスにベッドに横になっている自分の姿が映った。
「え…」
 思わず絶句する蘭。
 そう、窓ガラスに映った自分の姿は毛利蘭の姿ではなく、江戸川コナンの姿だったのだ。
    *
「…ねえ、おじ…じゃなかったお父さん。ら…じゃない、コナン君は?」
「…コナン君なら隣の病室にいるわよ」
 恵理が答えると“蘭”はベッドを抜け出し、隣の病室に向かった。
「おい蘭、ちょっと待て!」
 背中で小五郎の声がする。

 隣の病室を覗くと元太や光彦、歩美と言ったクラスメイトとコナンの学校の担任である、
という小林澄子教諭の姿が見えた。
「…蘭おねえちゃん…」
「あ…、みんな。お見舞い有難うね。ら…、いやコナン君気がついた?」
「さっき気がついたんだけどな…」
「そうですね。何だかコナン君のわけがわからないこと言ってるんですよね」
(…もしかして…)
「あ、あのね。みんな。お姉さんちょっとコナン君と二人だけでお話しがしたいの。だか
らちょっと病室から出てくれないかな」
「…でも…」
「すぐ終わるから。ちょっとごめんね」
 そして“蘭”はその場にいた全員を追い出すと、病室のドアを閉める。
「…誰もいなくなったな。…ねえ、一つ聞きたいことがあるんだけど。…もしかして、蘭
ねえちゃん?」
“蘭”が“コナン”に向かって言う。
「…コナン君?」
“コナン”が“蘭”を指差して言う。
「…い、一体どういうことなの?」
「それはわからないよ。もしかして…ボクと蘭ねーちゃんの中身が入れ替わったとしか言
いようがないよ…」
「そんな…、ドラマや映画じゃあるまいし…」
「でもボクは蘭ねーちゃんの姿形なのに、中身はコナンだし、蘭ねーちゃんはコナンの姿
形なのに中身は蘭ねーちゃんなんだよ。そうとでも考えなきゃ説明がつかないよ」
 勿論二人は今自分の目の前に起こっていることがにわかには信じられなかった。
 しかし、コナンの目の前にいるのは紛れもなく江戸川コナンの姿形をした少年であり、
蘭の目の前にいるのは毛利蘭の姿形をした少女なのだ。
 
 精神が入れ替わる…、そんな実際あり得そうもないことが今二人の目の前に起こったの
だ。

「…と、とにかくどうする、コナン君?」
“コナン”が“蘭”に聞く。
「どうすると、言われたって…。おじさんやおばさんはボクのことを『蘭』だって思って
るし、元太たちは蘭ねーちゃんのことを『コナン』だって思ってるんだから…」
“蘭”が言う。
「そうよね、元に戻る方法が見つからないんだもんね…」
「となると、このまましばらくはお互いのフリをするしかないかもしれないね。…つまり,
ボクは蘭ねーちゃんのフリをして、蘭ねーちゃんはボク、つまりコナンのフリをして周り
に話を合わせるしかないよ」
「…そうするしかないか。…ねえコナン君。このことは二人だけの秘密だからね」
「わかってるよ」

 こうしてコナンは“蘭”の、蘭は“コナン”のフリをする、という奇妙な生活が始まっ
たのである。


事件編に続く>>


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