女子高生・毛利蘭の殺人

(第3話)



 翌日の米花公園。
 学校帰りに園子に呼び出されたコナンは園子と並んでベンチに坐っていた。
「…で、どうだったの?」
 コナンが園子に聞く。
「うん…。学校も真っ二つに分かれてるみたいね。蘭のことを信じている人と蘭がやっぱ
り上村先輩を殺したんじゃないか、って人と…」
「確かにそうだけど…」
「蘭が昨日から学校に来てないでしょ。それもあってみんな余計なこと考えてるみたいよ。
先生たちも蘭の停学を考えてるようだし…。もし、蘭が無実って証拠が見つからなかった
ら…」
 園子の言わんとしていることはわかってる。…このままじゃ蘭は停学どころか退学させ
られてしまう…。
「…で、園子ねーちゃん、例のことだけど…」
「大丈夫、3人から約束取ったわ。明日学校休みでしょ? 話聞いてみようと思ってるか
ら。一応蘭にも連絡はしておくね。それにしても…」
「…どうしたの?」
「…こんな時新一君がいてくれればいいのに…。いったいどこ行っちゃったのかしらね…。
コナン君何か聞いてない?」
「え? そ、そうだね。本当に新一兄ちゃんどこにいるんだろうね」
   *
 翌日。米花駅東口前にある喫茶店。
 毛利探偵事務所の下にある喫茶店「ポアロ」でもよかったはずだが、小五郎に気を使っ
たのだろうか、園子はわざわざコナンとの待ち合わせ場所に別のところを指定した。
最も今、小五郎は別の依頼を受けてそっちの方にかかりきりなので心配するほどでもない
のだが。
 その喫茶店のあるテーブルにコナンと園子が並んで座っていた。

「…園子ねーちゃん、どう?」
「うーん…。そろそろ来るはずなんだけどね」
 園子が時計を眺めながら言う。

 それから2、3分ほどして一人の少女が喫茶店に入ってきた。
「ま、そこに座って」
 園子が言うとその少女は園子の前に座った。
「…山本さん、話は聞いたことあるでしょ? この子は蘭のところで預かってる江戸川コ
ナン君。どうしても山本さんの話を聞きたいんですって」
 とコナンを紹介する。
「…で、コナン君、この人は山本典子さん。ウチの学校の2年生で、私や蘭の隣のクラス
の子よ」
(…そういえばいたな、そんなヤツ…)
「で、何を聞きたいの?」
「うん…。上村先輩が殺された日、蘭が先輩のアパートに行ってたでしょ?」
「それは聞いたわ。…そういえば毛利さんどうしたの? あの事件があった日から学校に
来てないけど…」
「あ、一寸ね。…それでさ、話を聞きたいんだけど…」
「話?」
「うん…。蘭のお父さんが探偵やってるの知ってるでしょ? それでさ、なんか今回の事
件に納得できないところがあるらしいのよ。蘭が犯人だとしたらおかしいところが出てく
る、って…。それでコナン君がこのこと話したら『じゃあ、話を聞いてみろ』って言った
んだって。…そうだよね、コナン君」
「え? …あ、そ、そういえばおじさんそう言ってたよ」
(…ハハハ、何でオレまで嘘つかにゃいけねーんだ…)
 実際は二人で勝手に調べていることなのだが、こうでも言わなければ相手を信用させる
こともできないだろうが…。
「…それでさ、先輩のケータイ調べたら、山本さんが電話してるのわかったのよ。…それ
でさ、先輩にどんな電話したの?」
「ああ、それね。別に鈴木さんたちには関係のないことよ」
「…じゃあさあ、どこで電話したのか、それくらい教えて、ね。そうすれば山本さんのア
リバイも証明されるしさ」
「…わかったわよ。鈴木さんも意外としつこいからねえ…。米花駅西口の前よ。ちょうど
帰りのバスから降りて電車待ってたときだったから、そこから上村先輩のケータイに電話
したのよ。確か5時ちょっと過ぎだったかしら。駅前にある時計台見たから間違いはない
はずよ」
    *
 それから1時間ほど経った後。
 駅前から少し離れたところにあるハンバーガーショップ。
 コナンと園子、そして一人の男子高校生がいた。
 園子は3人から事情を聞くのに3人が鉢合わせしたらいけない、と思ったのかそれぞれ
違う時間、違う場所を指定していたのだ。

「…はい、お待たせ」
 園子がハンバーガー、フライドポテト、ドリンクがそれぞれ3つ載ったトレイを運んで
きて、コナンの隣に座った。
「…で、先輩。オレに聞きたいことってなんですか?」
 高井伸年と名乗ったその高校生が園子に聞いた。
 彼は帝丹高校の空手部員ということだから蘭の部活の後輩に当たる人物である。
「…高井君は空手部員だから知ってると思うけど…。上村先輩が殺された、って聞いたで
しょ?」
「…聞きましたよ。何でも毛利先輩が部の方針を巡って先輩と口論の挙句に殴り殺した、
とか言うそうじゃないですか」
「うん、そう言われてるけど…。蘭のお父さんがこの事件にどうも納得できないところが
あるらしいのよ」
 そして園子は「蘭のお父さん(つまり小五郎)が調べて欲しいと言ったから」と例によ
ってでまかせを言い、自分達が調べたことを話した。
「…というわけなのよ。それで、高井君がどこで電話したのか知りたいんだけど…」
「成程、アリバイ、ってワケですか…。あの日は確か、駅前の公園からから電話しました
よ」
「駅前の公園から?」
「ええ。ちょうど先輩に話したいことがあって。でも先輩出なかったんですよね。もしか
したらもうその時先輩は死んでたのかもしれませんが…」
「それ、って何時ごろ?」
「…何時ごろだったかなあ…。毛利先輩が上村先輩のところに行く、って行って部活の途
中で帰ったのが4時過ぎで、それから1時間ちょっとしてからだったから…。5時10分
ごろだったかな?」
「よく覚えてるわねえ」
「ええ。ちょうど公園の前を救急車が通りかかって、何の気なしに公園の時計を見たらそ
うどそのくらいだったんですよ」
  *
 さらにそれから1時間ほど後。
 米花駅前にあるデパートの屋上。
 休み、ということもあってか家族連れににぎわっているその屋上の一角にあるベンチにコ
ナンたちと一人の女子高生が座っていた。
「…で、何? 私に話、って?」
「…先輩知ってますよね? 空手部OBに上村先輩が殺されたの、って」
 その女生徒――帝丹高校3年の岩田美智子と名乗った――にコナンを紹介した後、園子
が話しかけた。
「ああ、あのことね。…小耳に挟んだんだけど、その現場に毛利さんがいたとかいうじゃ
ない。…あの日以来毛利さん学校に来てないからウチのクラスじゃ毛利さんが殺したんじ
ゃないか、って噂で持ちきりよ」
「ええ、それでなんですけど…。なんでも蘭のお父さんがこの事件に納得できないところ
があるっていうんで調べて欲しいことがあるそうなんですよ」
「毛利さんのお父さん、って探偵の毛利小五郎よね、確か」
「…それでなんですけど、犯行があったと思われる午後5時から6時の間に先輩宛に電話
した人の中に岩田先輩が電話していたんですが…」
「ああ、それね。…上村先輩に今度の休みにちょっと話したいことがあるから、と連絡し
ようと思ったんだけど、出なかったのよね」
「それ、って何時ごろですか?」
「…5時少し前だったかしら。ちょうどこのあたりに用があって西口の商店街にいたんだ
けど、なんか駅前の方で騒ぎがあったみたいでねえ…。なかなか帰りのバスが来なかった
の覚えてるわ」
  *
「はい、コナン君」
 いつの間にか時刻は5時近くになり、あたりはすっかり夕暮れが近づいていた。
 米花駅西口前にある自動販売機。園子がコナンに缶ジュースを渡した。
 コナンはプルタブを開けると一口飲んだ。
「…コナン君はどう思った?」
 園子がコナンに聞く。
「…うーん…。聞いた限りでは誰も嘘付いているようには思えなかったんだけど…。園子
ねーちゃんはどう思ったの?」
「私もコナン君と同じ考え。あの3人の中に犯人がいると思ったんだけど、考えすぎだっ
たかなあ…。でも蘭が人殺しするなんて思えないし…」

 と、その時だった。

 ドカーン!

 何かが衝突するような大きな音があたりに響いた。
「何?」
「行ってみようよ!」
 コナンの声に園子が頷き、二人は外へ出た。

 二人が駆けつけると、既に多くの野次馬が集まっていた。
「あ、コナン君!」
「歩美ちゃん…」
 コナンたちはその野次馬の中に歩美がいたのを見つけた。
 歩美がコナンに駆け寄る。
「コナン君も来てたの?」
「うん、ちょっとね。…それよりどうしたの?」
「衝突事故だって」
「衝突事故?」
「うん、何でもそこのロータリーで曲がろうとした車とまっすぐ行こうとした車がぶつか
ったんだって」
「この辺建物が多くて、しかも信号が見辛いところにあるからねえ…」
 園子が言う。

 程なく救急車とパトカーが到着し、現場検証が始まった。
「…それにしてもいやよね。昨日も事故があったんだって」
「昨日も?」
「うん。パパがちょうど会社から帰る頃だったんだけど、昨日もこのあたりで交通事故が
あって30分くらい通行止めになってたんだって」
「へえ、そんなことがあったんだ」
 園子が言う。
「…ねえ、歩美ちゃん。歩美ちゃんのパパ、って普段は何時ごろ会社から帰ってくるの?」
「…確か会社が終わるのが4時50分頃だ、って言ってたから…5時10分ごろには帰っ
て来るわ。でも昨日はそんなことがあったから帰ってきたのは6時ちょっと前だったけど
ね」
「そう…」
 そう言うとコナンは黙ってしまった。
(…なんかひっかかるんだよなあ…。いったいなんだろうな、この違和感は…)
 その時だった。
(…まさか! そうか、やはり犯人はあの3人のうちの一人だ。たまたま蘭が上村先輩の
家に寄って行ったから、それを利用して、蘭に罪を着せようとしたんだ!)
   *
 長野県軽井沢市、園子の別荘。
 蘭がテーブルに座っていた。その前にはまだラップすら剥がしていないコンビニの弁当
が置かれてあった。
 何も作る気が起きなくて、近くのコンビニから弁当を買ってきたのだが、食べよう、と
いう気も起こらず、気を紛らわそうか、と思って買った雑誌も開いていなかった。

 その時だった。不意に別荘においてある電話のベルが鳴った。
 一瞬、蘭は取るのを躊躇したが、思い切って受話器を取った。
「…もしもし」
「…蘭、オレだ。わかるか?」
 そう、電話の向こうは工藤新一の声だったのだ。
「し、新一…、あんたどこ行ってるのよ! あたしがどんな目にあってるのかも知らない
で!」
 電話の向こうの相手が新一だ、と知って安心したのか、蘭は受話器に向かって叫んでい
た。
「…知ってるよ。お前も大変な目にあったな」
「え?」
「コナン君から聞いたよ。心配するな、蘭。謎は解けたぜ」
「本当?」
「ああ、明日東京に戻って来い。金はあるんだろ?」
「う、うん。家から持ってきたし、園子のお姉さんからも少しもらったから、帰るくらい
の電車賃はあるけど…」
   *
 翌日の東京駅21番線。
 長野からやってきた新幹線が東京駅に到着した。
 中からサングラスをかけた蘭が降りてくる。

「蘭ねーちゃん!」
 向こうからコナンが近づいてきた。
「あ、コナン君、ただいま。心配かけてごめんね」
 数日振りにコナンの笑顔を見て蘭はなんとなくホッとするものを感じた。
「うん、それでさ、帰ってきたばかりで悪いんだけど、新一兄ちゃんから電話来てるよ」
 そういうとコナンはイヤリング型携帯電話を蘭に手渡した。
「私に?」
 そういうと蘭は携帯電話を耳に当てる。
「お帰り、蘭」
 新一の声が聞こえてきた。
「新一! あんたどこいるのよ!」
「まあ、落ち着け。蘭、お前が戻ってきたのはなぜだか知ってるよな?」
「…事件が解決したからでしょ?」
「ああ、でもな。まだ事件は終わっちゃいねえんだよ」
「…終わっていない?」
「ああ。…お前に濡れ衣を着せたヤツとこれからお前が対決するんだ」
「私が? そんな…」
「蘭、よく聞け。この事件に決着を付けられるのはオメーしかいねえんだよ!」
「…私しか…いない?」
「そもそもこの事件はお前から始まったことなんだからな。…心配するな。オレが付いて
いる」
「…新一…」
 蘭が右手をギュッ、と握り締める。
「…わかったわ、新一。やってみる!」
「よし! コナン君が場所を知ってるからな。お前今からそこへ行けよ」
「うん」
 そういうと蘭は左耳に携帯電話を取り付けた。

「…蘭ねーちゃん」
 コナンが蘭に近づいた。
「…コナン君、行くわよ!」
 蘭が決意に満ちた表情を見せた。


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