『友』と『愛』との境界線
俺の名前は。
王城高校2年に在籍する、ごくごく普通の高校生だ。
ごく普通にかったるい勉強をし、ごく普通に部活もし、ごく普通に友人とバカ騒ぎして、ごく普通に可愛い女の子に目がいっちまう…そんな、本当にふつーの高校生。
それが俺、なのだ。
しかし、その普通である俺に一つだけ普通じゃない事がある。
それは――
惚れちまった相手が、そりゃもう普通からは程遠い世界に生きている住人で、その上なおかつ………というか、こっちの方がよっぽど問題だと思うのだが……惚れちゃヤバイだろっていう相手に惚れてしまったって事なのだ。
いや、何が問題って………奴の性別が問題なんだ。
俺の惚れた相手ってのは、よりにもよって『男』だったって訳。
それも、女だと思っていたら実は男だったとか、女の子顔負けの可愛い子ちゃんだったとかそういう類じゃない。
それだったらまだナンボかマシだったと思う。
俺の所属する王城ホワイトナイツのエースにして最強のラインバッカー。
大柄というわけではないが、鍛え上げられた無駄のない筋肉の鎧が目にも眩しい、ストイックな努力する天才――進清十郎。
それが、普通の俺が惚れてしまった普通じゃない男の名前だった。
いや、もちろん俺だってこんな事になるとは思ってもいなかったんだ。
だってさっきも言ったが、俺だって可愛い女の子が好きだし、今までだって俺以上に体格の良いヤローによろめくなんて事は一度も無かったんだから。
早い話、俺にそーゆー趣味があったわけじゃないって事なのだ。
けど、実際奴に惚れてしまったのは誤魔化しようもない事実な訳で。
いやはや…最初に自覚した時の俺の混乱と葛藤といったらそりゃもう、筆舌に尽くしがたい。
だってそうだろ?
ごく普通に可愛い女の子と恋愛して――なんて思ってたのが、よりにもよって無表情天然ボケ機械オンチの俺以上にゴツイヤローだよ?!
一瞬、精神的な病気にでもなったんじゃないかと思ったとしても、おかしくないだろう?
ただ、どんなに冷静になっても、それこそ気の迷いじゃないかと己の想いを誤魔化そうとしてみても、事実は事実として頑として眼前に横たわっていて。
ちょっとやそっとの誤魔化しや何かじゃどうにも出来なかった。
で、結局俺は葛藤の挙句自分の想いに素直に従う事にしたのだ。
そして――
俺は端から玉砕覚悟で、思い切ってこの普通ではない想いを伝える…という暴挙に出た。
いやもう正直な話ほぼ九割九分、玉砕だろうと思ってたわけよ。
だってさ、俺だよ?!男だよ?!
可愛い女の子ならともかく、ヤローに告られたらヒくのが普通だよな。
いや、悪けりゃウザがられるか無視って事だってあり得る訳だ。
どう考えたって困られることはあったって、喜ばれるような事じゃない。
だから、いっそ自分じゃどうにも出来ないこの想いに、スピアタックルよろしくドカンと引導を渡してもらう…位のつもりで告白したわけだ。
しかし……。
決死の覚悟で挑んだ俺に返ってきた答えは、俺が想像していたものとは激しくかけ離れたものだった。
進いわく――
「俺もお前の事は好きだが――?」
特に表情を変えるわけでもなくサラリとそう答えた進に、一瞬俺は飛び上がりかけた。
いやしかし!
忘れちゃいけない!こいつは特訓マニアで天然の朴念仁なのだ。
友人として好き――なーんて可能性はおおいにあり得る。
「いや、違うんだって。桜庭とかと同じ好きじゃなくってさ……。」
「そうだな。」
「……………えと、進?意味分かってっか?」
「は俺の事が好きで俺と付き合いたいのだろう?」
相も変わらず無表情のまま答える進。
確かにそうなんだけど、何と言うか……進の口から改めてハッキリ言われると……その……異様に照れるんですが。
しかし、今の言葉からすれば、進は俺の言った事の意味をちゃんとに理解した上でOKしてくれてる…って事じゃないか?!
「オッケー…してくれんの?」
「ああ。」
………いやいや落ち着け!
舞い上がるな!
進の事だ。まだ完全に勘違いって点を否定出来ない。
まだまだ早合点は出来ないのだ。
俺は状況をハッキリさせるべく、最後の手段を行使する事にした。
「んじゃさ……………キスしてくれる?」
いきなりかなー?とも思わないでもなかったけど、告られてOKしてんだったらコレもアリだろう?
つまりは、そーゆー意味で好きなんだって事なんだから。
これでヒかれたら、やっぱり勘違いってやつだ。
そして、もし万一……そう万一、進からしてくれるとしたら…そりゃもう俺としては願ったり叶ったりな訳だし?
俺は、流石に驚いたように目を見開いた進の、吸い込まれそうに深く澄み切った闇色の瞳をじっと覗き込んだ。
そして次の瞬間、微かに唇を掠めた温もりに、俺は内心で盛大に勝利の雄叫びをあげたのだった。