駆け引き~おまけ~






「それにしても、今日はいつもより気合入って俺の事探してたみたいだけど、どうしたんだよ?」


結局リョーマにとらわれてしまった俺は、潔く観念して今はリョーマの腕の中に居る。
といっても、体格差は歴然だから、床に座り込んだリョーマに後ろから抱き締められているという状態だ。
驚いた事に、俺を捕まえたリョーマは、動揺する俺に一度だけ口付けただけで、後はただひたすらぎゅっと俺を抱き締め続けるだけだった。


「当たり前っスよ。先輩、今日何の日か分かってる?」
「今日?」

「……やっぱりね。そんな事じゃないかと思ったけど。」


やれやれというように溜息をついてみせるリョーマに、俺は僅かに眉を寄せた。

「何だよ?」
「今日、先輩の誕生日でしょ?自分の誕生日まで忘れたんスか?」

そう言ってリョーマは後ろから俺の耳元に小さくキスを落とした。



「誕生日………俺の……?」



そう言われれば今日は俺、の15回目の誕生日だった。
ここ最近いやにバタバタしていたからすっかり忘れていた。
いや、誕生日を忘れていたというより、日にちの認識がズレてしまっていたと言った方が正しいかもしれない。


「せっかくの誕生日に、一番におめでとうを言おうと思っても、肝心の先輩が逃げるんだから必死にもなるっス。」

「そのため?その為だけに俺をずっと追いかけてたのか?」


俺はあまりの事に呆然とするしかなかった。
でも、それなら今のこの状況も理解できる。
俺を抱き締めるだけで他には何もしようとしなかったのは、本当に俺に一番に祝福の言葉を言いたかったから?


「悪いっスか?」


俺の問いに、いささかぶっきらぼうに、リョーマが答える。
後ろから抱き締められているから表情は伺えなかったけれど、それでもリョーマが本気で俺を祝福しようとしてくれている事は判る。
俺は何だか嬉しさと申し訳なさで、胸が熱くなるのを感じていた。

「ま、出来ればそれだけで終わらせたくないと思ったのは否定しないけど……。」

意図的に耳元で囁くようにして、リョーマが小さく笑う。
でも、今日は我慢してあげるっスよ――というリョーマの言葉に、そんな暖かな声に俺は沸きあがってくる想いを押さえる事が出来なかった。



「っ?!先輩?!」



ふと、驚いたようにリョーマが声をあげる。
まわされていた腕が僅かに緩んで、俺はゆっくりと背後のリョーマを振り返った。

「何で泣いてるんスか?そんなに俺の事イヤ?」
「違う………。」
「じゃあ、どうして泣くんスか?!」


リョーマの言葉通り、俺は情けなくも涙を止める事が出来なかった。

「分かんねーよ俺だって。でも、リョーマがそんな事言うから……。」
「俺のせい?」


「リョーマのせいだ……こんなんなっちまったのも。全部リョーマのせいだかんな。」


何だか涙が止まらなかった。
そんな俺にリョーマは小さく笑うと、俺の目元に唇を寄せてくる。
何度も何度も、溢れてくる涙をリョーマはずっと拭い取ってくれた。

「しょっぱい……。」

ペロリと舌を出してリョーマが笑う。
そんなリョーマの姿に、俺も知らず知らずの内に笑みが零れる。
たとえどんな状況になっても、やっぱりリョーマは俺にとってかけがえのない存在である事にはかわりない。
俺は小さく笑ってリョーマの肩口に顔をうずめた。


先輩………?」
「ん………。」



「HAPPY BIRTHDAY!!」



続きは又今度ね――そう言って口付けてくるリョーマの顔は、いつになく楽しげだった。




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