#DOWN

魔術師たちの決闘(1)

 広い草原に、一本の、土が剥き出しになった道があった。それは円形の城壁に囲まれた町の真ん中を抜け、緩やかに波打つ丘の上へと続いている。町の西側には、木々に覆われた低い山がそびえていた。
 その道を、一人の旅人が歩いていた。黒いマントにローブという、見るからに魔術師らしい出で立ちをした少女である。黒目黒髪で、一つに束ねた長い髪とマントが風になびいていた。
(ねえセティア、本当にあそこに偉大な魔術師とやらがいるの?)
 少女の頭の中に、少年の声が響く。距離を隔てたものと会話をすることができる、〈テレパシー〉と他人の目を借りてものを見ることができる〈ビジョン〉は、一般の人々にとっても割りと馴染みがある魔法だ。
「古い情報だそうからね。わたしも半信半疑だよ」
(会えたらいいな。それに、図書館があるんだよね)
「シゼルは読書好きなのかい」
(本を読むことくらいしかできることがないから。今は、もっとたくさんのものを見たり聞いたりできるけどね……感謝するよ)
「珍しい。気持ち悪い」
(ひどいなあ、まったく)
 すねたようなことばに苦笑を洩らし、少女は眼前に迫った白い城壁を見上げる。二人の門番が立つ入り口から、人の姿が行き交う通りと、その両端に並ぶ露店が見えた。
 門番は、特に武装しているわけでもない。旅人がそばまで来ると、親しげに声をかけて来る。
「ようこそわが町へ、旅のお方。ここへは、観光で?」
「まあ、そんなところです。できれば、図書館訪問と、偉大な魔術師にお会いできたらいいなと思っているのですが」
 セティアが言うと、若い門番は首をかしげ、一度もう一方の門番と目を合わせた。
「魔術師……ですか? 山の魔術師の噂はありますが」
 彼は、西の山に視線を向けた。高い山ではないが、角度が急で、針のような木がびっしりと生えた、見る者に〈険しい〉ということばそのままの印象を与える山である。
 もう一方の、少し歳のいった門番が、詳しい説明を付け加えた。
「昔から、あの山に悪い魔術師が住んでいて、この町を支配しようと狙っている、という言い伝えがありますが、ただの噂でしょう」
(聞いていたのと違うね)
 セティアは、頭の中でシゼルのことばに同意する。
「そうですか。残念です」
「まあ、図書館は見所だよ。あと、暇があれば、町中を見て回るといい。芸術と触れ合えるよ」
 どこかおもしろがるような表情の門番の言葉に、今度は、セティアが首を傾げた。
 しかし、通りに出て間もなく、彼女とシゼルは彼のことばの意味を知ることになる。
 通りは、多くの人々で賑わっていた。人々に紛れて歩いていたセティアは、露店が並ぶ脇で、制服姿の男たちが一人の老人の周囲に集まっているのに気づく。その集まりの周囲に、さらに人垣ができかけていた。
 人垣が厚くならないうちに、速足で集まりに近づく。ある程度近づくと、集まりの中央にあるものがわかった。
 それは、勇壮な戦士の像だった。鎧や兜の模様まで、細かく彫りこまれている。材質がどことなく安っぽい白い石なのが玉にきずだが、像の存在感と美しさは、それを補って余りあるものだった。
(わー、すごい。芸術作品だね)
 周りに居並ぶ野次馬たちも、シゼルと同じような感想を抱いているらしい。皆、感動を表して戦士の像を見上げている。

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