#DOWN

魔術師たちの決闘(2)

 そんななか、制服姿の髭をたくわえた男だけが、不快の表情を浮かべていた。
「じいさん、困るんだよ。いつもいつも、無許可で勝手に石像置いて」
 セティアは身を乗り出して通りの奥をのぞき込んだ。見ると、石像は一定の間隔で並んでいる。神官だったり、騎士だったり、あるいはドラゴンのような、人間外の姿をした像もある。
 白髪に白髭の老人は、屈託のない笑みを浮かべて言った。
「まあ、いいではないかい。ここら辺は木も少ないし、殺風景だ。何か注目を引くものがあったほうが露店の売上も増えるだろう」
「しかしじいさん……」
 困ったような制服の男に、彼の部下らしい制服姿の青年たちが笑みを向ける。
「まあまあ、いいじゃないですか。邪魔になるものでもないし」
「街中が観光名所になりますしね」
 そのことばに、周囲の見物人たちからも同意の声があがる。部下からも人々からも反論されて、髭の男は苦虫を噛み潰したような顔をする。その彼に向けて、老人は相変わらずにこやかに声をかける。
「いつも申し訳ありませんな。次は警備隊長殿をモデルに彫りましょうか」
「ばっ、馬鹿なことを言うな! 行くぞ!」
 老人から目をそらし、彼は部下たちを怒鳴りつけた。若い部下たちはがっかりしたように肩をすくめ、元気なく返事をして、すごすごと退場する警備隊長のあとに続く。人々は、おかしそうな表情でそれを見送った。
 ほとんどの者たちは石像より警備隊と老人のやり取りが目的だったのか、それとも像はいつでも見物できるためか、間もなく人垣は崩れ始める。
 人々がいなくなる間、老人は知り合いに声をかけながら、布きれで石像を拭いていた。
 やがて、道行く人が足を止めて眺めることはあるが、像のそばで見物しているのはセティアだけになった。それに気づいた老人が、ボロボロのバッグに布きれをしまいながら声をかけて来る。
「お嬢さん、旅の人だね? どうだい、なかなかのものだろう? 長年やってると、素人も玄人に変身するってものさ」
「他の像も……すべてお一人で?」
「ああ。北の丘に鉱山跡があってね、そこに転がってる岩を再利用しようと思ったのさ。老後のたしなみってやつだよ。是非、あちこちにある像を見ていってくれ」
 そう言い残して、老人はバッグを肩に下げ、軽く手を振ってセティアの前から去って行った。
 シゼルの希望もあり、セティアは老人の勧めに従って街を見て回った。街の各所に、美しい芸術作品である石像を見ることができる。ときには、橋の上や墓地の真ん中など、変わった場所にも置かれていた。しかし、それぞれの石像は完全にその場に一体化していて、違和感はない。
 町中を見て回った後には、すでに太陽が沈みかけていた。
「図書館は明日にするか。時間をかけて、色々読んでみたいし」
(そうだね。今日もいいもの見れた。満足、満足)
「そりゃよかった」
 セティアは街の中央部にある宿屋に部屋を取り、夕食を済ますと、その日は早めにベッドに入った。

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