#DOWN

思い出にする日(1)

 夏も終わりの時期のためか、数日前まで大量の緑の葉をまとっていた木々も、今は丸裸になっていた。まあ、昨日は風が強かったからね、とセティアは言い、枯葉の上に荷物を降ろす。使い込まれた肩掛け鞄には、様々な道具や食料が入っているが、非常食や本当に欠かせないものはベルトのポーチやマントの隠しポケットの中だ。
 そこは、小川のそばで、丘の上で、岩でできた小さな洞窟があって、野宿には最適な場所だった。薪になる木片も、探すまでもなく辺りに転がっている。なので、セティアはまず、たき火の土台に使う石を探し始める。
「火事が怖いからね」
 そう言って洞穴の周りを一周してきた彼女の両腕には、拳大の石が十数個、抱えられていた。
 洞窟は非常に狭く、高さも一メートル足らずだった。その入り口の近くで、ブーツの先で落ち葉を退け、石を輪になるように並べていく。剥き出しの土の上に仕切りができると、そのなかに同じくらいの長さに折った木の枝を並べる。枝の輪の上に、改めて落ち葉をかぶせた。
 ポーチから取り出したマッチを擦って、慎重に乾いた落ち葉に火を移す。赤く揺れる光が生れた。
「シゼル、一雨来ると思う?」
 彼女は火を見守りながら言った。周囲に、彼女の他に人の姿はない。
(まあ、普段の行い次第でしょ)
 と、シゼルと呼ばれた少年の声が、素っ気なく答えた。
 遠くの者と会話する魔法、〈テレパシー〉。黒いローブとマントという、典型的な魔術師ルックのセティアがその魔法を使えたとしても、誰も疑問は抱かないだろう。
 彼女が見上げると、空は厚い雲に覆われていた。まだ太陽は地平線の下に落ちきっていないはずだが、辺りは夜のように暗い。
 とりあえず彼女は枯葉の上に布を敷き、そこに腰を下ろすと、手際よく準備にとりかかる。
 彼女は背負い袋から、殺菌効果のあるハーブ数種類と、同じ効果のある大きめの葉のハーブに包まれた、二匹の魚を取り出した。どれも、道中川や草原で手に入れたものだ。
 セティアは魚を包む葉の中に香草をいくつかちぎって入れると、再びしっかり包む。細い枝で炎の上に網を作り、その上で蒸し焼きにする。
 それから、ハーブティーを作ろうと、水筒から金属のビンに水を入れ、それを火のそばに置いた。退屈なので干し肉をかじろうかと一瞬考えるが、とりあえず、魚を食べ終わるまでは我慢することにして、パンを取り出す。釘も打てそうな、カチカチに硬いパンだ。セティアはそれを、ハーブティーにつけながら食べることにしている。
 やがて料理ができあがったころには、完全に陽も落ち、夜闇が降りていた。
(それで、今日はここに泊まるとして、明日はすぐに出発するの?)
「そうだね……一目見て、特に用事もないってわかるし」
 パンの最後の一欠片を口に放り、ハーブティーと一緒に飲み下してから、
「シゼルが何か気になるなら、出発は遅らせてもいいけど」
 と、気のない様子で言う。
 同じく気のない調子で、別にいいや、とシゼルは答えた。
 セティアは食事を終えると、眠る準備にかかろうとする。だが、彼女は突然動きを止めて、背後の洞窟を振り返る。
「誰だ!」
 若い男の声だった。
 洞窟の岩の壁の向こうから、二つの姿が飛び出した。一方は松明を、もう一方は木の棒を手にしている。どちらも、まだ若い。十代半ばといったところの、少年だった。
「お、お前、魔術師か? ここで何をしている?」
 少年たちは、セティアの格好を見て、少し怯んだらしかった。
「見ての通り、野宿だよ。きみたちは、旅人には見えないね」
 警戒もなく言う魔女のことばに、少年たちは顔を見合わせた。

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