#DOWN

語る人形たちの宴(3)

 シチューやステーキ、山菜サラダに焼きたてのロールパン、自家製らしいジャム、ポークウィンナー、木苺パイなど、料理の種類は様々だった。人形たちが役割分担して鳥や牛を育てたりしているのか、と考えて、セティアは人形たちのほうを見た。とても、料理のために働いているようには見えない。
「普段は、こんな風に食事したりはしないのサ」
 そばに座っているゼペットが、セティアの表情を見て疑問に答えた。
「お客さんが来た時だけ、宴が開かれる。食事は魔法で異空間に蓄えられているものだヨ、もちろん、人体に影響はナイ」
(ふーん、便利だね)
 何を期待していたのか、シゼルはつまらなそうに相づちを打った。
 ワインを飲み干し、ゼペットはセティアに向き直った。
「どうして、ここまで歓迎するんだと思う? 聞いて来たんだろう、ボクたちのコト」
「……ことばを呪文とする人形たち」
 少女は、村で聞いたことを口にする。その意味は、村の長老たちも知らないようだったが。
 ついにその秘密が語られると知って、セティアとシゼルはゼペットの次のことばに集中した。それに気づいて照れたように頭を掻きながら、長身の魔法人形は説明する。
「実は言うと、この屋敷には呪いがかけられてるのサ」
(呪い……?)
「そ。この屋敷に入った人間は、次に太陽が昇るまで、ずっと話しをしていないといけないんだヨ。十分間何も言わないと酸素がなくなるのサ」
「一晩も話し続けないといけないって……」
 驚きのあまり、セティアは沈黙した。しかし、慌てて食堂内にある柱時計を見る。
「まだ、大丈夫。〇時からなんだ。でも、話し続けないと外には出られないか死んじゃうかだから気をつけてネ」
(そんなあ……)
「ご主人サマの魔法だからどうしようもないヨ。それに、みんな楽しみにしているから、頑張ってほしいナ」
 見ると、確かに人形たちは、何かの期待感に包まれている雰囲気だった。なかには、時々チラチラとこちらに目を向ける者もいる。耳をすますと、かすかにざわめきを構成する会話のひとつが聞こえた。
「今日のヒトは、一体どんな話しをしてくれるんでしょうねえ」
「色々回ってる旅人だから、期待できそうだナ」
「少しはご主人サマの行方がわかればいいが……」
 皆、口々に今夜のことを話している。セティアの話によほど期待しているようだ。
 彼らの注目の的になっている旅人は、溜め息混じりに言った。
「仕方ない。まあ、一晩くらいは話してあげるよ」
(おもしろそう。ボク、今のうちに寝ておくね)
「わたしもそうしよう」
 香り高いワインを飲み干し、彼女は席を立った。

 『語り』は、二階の大部屋で行われるのが通例らしかった。〇時にあと数分まで迫ったころ、セティアは屋敷の者たちが集まってくるのを待ちながら、開け放った窓の外を眺めていた。夜闇のなか、雨が静かに降りそそいでいたが、風はほとんどなくなっていた。
「一種の結界が張られているな。まあ、破れないこともないけどね、付き合ってみるのも一興か」
(そうだよ、みんな楽しみにしているんだから)
 セティアは苦笑し、振り返った。木の椅子を持参している者や、直接床に座り込む者、なかにはメモをとろうというのか、ペンと紙の束を手にしているものもいる。
 やがて、柱時計がボーンボーンと不気味に揺れる音を出し、『語り人』は口を開いた。

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