アマドコロの仲間
分類
アマドコロ属(ナルコユリ属、Polygonatum)の植物は以前までユリ科に分類されていましたが、現在ではクサスギカズラ目スズラン科(またはナギイカダ科)に分類されています。
アマドコロ属植物は世界に約58種が認められていて、ユーラシア大陸と北米の比較的温暖な地域に広く分布しています。ヒマラヤから日本にかけた地域が分布の中心地です。
日本に約13種います。
1) ウスギワニグチソウ Polygonarum cryptanthum Lev. et Van't.
高さ20−40cm程度の小型の植物で、対馬と韓国南部にのみ分布します。
葉は卵形から楕円形、黄緑色の花は花序あたり2−3個つき、花筒の長さは13mm程度、卵形の苞があり、花は苞に包まれたように見えます。花柄には柱状突起があります。花期は5月です。
2) ナルコユリ Polygonatum falcatum A. Gray
高さ50−100cm程度の中〜大型の植物で、山地の林床に普通です。北海道から九州、朝鮮半島、中国東北部に分布します。
茎に稜がなく円柱状で、上部は斜上し、葉が披針形から長楕円形と比較的細長く、裏面脈状に小突起があります。緑白色の花は花序当り3−5個つき、花筒の長さは17−23mm、花柄に苞がなく、花糸は平滑です。根茎は太く節間が短いです。花期は5−6月頃です。
花糸は平滑ですが、熊本県と宮崎県には花糸に乳頭状突起があるものがあり、ヒュウガナルコユリ(P. falcatum var. hyugaense Hiyama)として変種区分されます。
3) ハガクレナルコユリ Polygonatum kiotense N. Yonez.
高さ30−50cm程度の小〜中型の植物で、京都府にのみ分布が知られる希少種です。
茎に稜があり、上部は斜上し、葉は狭卵形で、裏面はほぼ無毛です。緑白色の花は花序当り1−4個つき、花筒の長さは23−27mm、花柄は茎に沿って斜上し、花序当り1−8個の披針形の苞があり、花糸は平滑です。根茎は太いです。花期は5月です。
4) ワニグチソウ Polygonatum involucratum (Franch. et Savat.) Maxim.
高さ20−40cm程度の小型の植物で、山地の林床に生えます。北海道西南部から九州まで分布し、国外では朝鮮半島、中国東北部、ウスリーに分布します。
茎は上部に稜があり、葉は卵状楕円形、白緑色の花は花序あたり2つつき、花筒の長さは25mm程度、花柄の先に卵形の苞がつきます。花柄も苞も平滑です。花糸は扁平で粒状突起をもちます。根茎は節間が長くなります。 花期は5−6月です。
5) マルバオオセイ Polygonatum trichosanthum Koidz.
小石川植物園で栽培されたものに命名されたもので、長崎県に自生するとされますが確認されていないものです。ナルコユリの葉を長楕円形から披針状卵形にしたものです。
6) コウライワニグチソウ Polygonatum desoulavyi Komar. var. yezoense (Miyabe et Tatew.) Satake
高さ20−40cm程度の小型の植物で、山地の林床に生えます。北海道と朝鮮半島に分布します。
全体ワニグチソウに似ますが、苞が披針形で小花柄の中部から上部につき、縁に柱状突起をもち、花糸はほぼ平滑です。花期は6月です。
苞が小花柄の基部につき平開するものをタカオワニグチソウ(P. desoulavyi var. azegamii Ohwi)と呼び、東京都などで見つかっていますが、この植物はナルコユリとワニグチソウの雑種または雑種起源の可能性が示唆されています。
7) ドウモンワニグチソウ Polygonatum domonense Satake
高さ20−30cm程度の小型の植物で、山形県・福島県・滋賀県に分布が知られる希少種です。
コウライワニグチソウに似ていますが、苞が狭披針形から線状披針形で小花柄の基部につき、 花糸は円柱状で乳頭状突起と短毛があります。
この植物についても、ミヤマナルコユリとワニグチソウの雑種または雑種起源の可能性が示唆されています。
8) コワニグチソウ Polygonatum miserum Satake
高さ10−30cm程度の小型の植物で、山地の草原に生えます。長野県・山梨県・滋賀県に分布が知られる希少種です。
コウライワニグチソウに似ていますが、全体小型で、苞が狭披針形で花糸に粉状突起があります。
この植物についても、ヒメイズイとワニグチソウの雑種または雑種起源の可能性が示唆されています。
9) ヒメイズイ Polygonatum humile Fischer
高さ20−50cmの小〜中型の植物で、山地の草原または海岸に生えます。南千島、北海道、本州中北部、九州、朝鮮半島、樺太、中国東北部、シベリア東部に分布します。
茎は直立し、稜があり、葉は長楕円状披針形で小さく、縁と裏面脈上に小突起があり、裏面は白くなりません。苞はなく、淡黄緑色の花は花序あたり1−2個つき、花筒の長さは15−20mm、花糸には乳頭状突起があります。根茎は細く、節間が長くなります。花期は6−7月です。
10) ミヤマナルコユリ Polygonatum lasianthum Maxim.
高さ30−70cmの小型から大型の植物で、山地の林床に普通です。北海道から九州、朝鮮半島に分布します。
茎は稜があり、上部が斜上し、葉は卵形または長楕円形、無毛で、裏面は粉白を帯びることが多いです。白色の花は花序当り2−3個つき、花筒の長さは15−20mm、苞はなく、花柄が一旦斜上し、その先から小花柄が垂れ下がります。花糸には長軟毛が密生します。根茎は太く、節間は短いです。花期は5−6月です。
11) アマドコロ Polygonatum odoratum (Mill.) Druce var. pluriflorum (Miq.) Ohwi
高さ30−80cmの小型から大型の植物で、山地の草原などに普通です。北海道から九州、朝鮮半島に分布します。
茎は稜があり、 上部は弓状に曲がり、葉は長楕円形、無毛で、裏面は粉白を帯びます。白い花は花序当り1−2個つき、花筒の長さは15−20mm、苞はなく、花柄は下垂します。花糸に細突起があります。根茎は白く、節間は長くなります。花期は4−5月です。
植物体の大きさや葉の裏の突起の状態から国内に2変種が認められています。
ヤマアマドコロ(P. odoratum var. thunbergii (Morr. et Decne.) Hara)は京都府から秋田県までの日本海岸地域を中心に分布し、海外では朝鮮半島に分布します。大型で、花筒の長さは20−25mm程度、葉の裏に細突起があります。
オオアマドコロ(P. odoratum var. maximowiczii (Fr. Schm.) Koidz.)は南千島、北海道、本州北部、樺太、ウスリーに分布し、さらに大型で(1mにまでなる)、花筒の長さは25−35mm程度、葉の裏に細突起があります。
12) ミドリヨウラク Polygonatum inflatum Komar.
高さ30−70cm程度の小型〜大型の植物で、山地の草原にまれに生えます。本州の中国地方、四国、九州、朝鮮半島、中国東北部に分布します。
茎は稜があり、葉は長楕円形または卵状楕円形で、裏面は白色を帯びます。淡緑色の花は花序あたり3−7個つき、花筒の長さは20−25mm、苞は広披針形で膜質、 花筒内面と花糸に長軟毛があります。根茎は節間が長くなります。花期は6月です。
13) オオナルコユリ Polygonatum macranthum (Maxim.) Koidz.
高さ80−130cmの大型の植物で、山地の林床などに普通です。北海道から九州に分布します。
茎の上部は斜上し、葉は披針形から長楕円形、大きいもので長さ30cmを超えます。 緑白色の花は花序あたり2−4個つき、花筒の長さは25−35mm、苞はなく、花柄は下垂し、花糸に細突起があります。花期は5−7月です。
生態
日本産のアマドコロ属の植物には主に山地の草原や海岸の林下に生えるもの(アマドコロ、ヒメイズイなど)と、主に山地の林床に生えるもの(ナルコユリ、ミヤマナルコユリなど)がありますが、生えている場所が違っていても生活環はよく似ています。
春に芽を伸ばし、葉を展開してから葉腋に花をつけていきます。花は筒型の虫媒花で、訪花昆虫は主にマルハナバチの仲間のようです。花は茎の基部側から先端側へ、ナルコユリ類のような大きなものでは数週間の間順番に咲きつづけます。
春から夏の間、地下部では根茎が前方に伸び、翌年の新しい節と芽をつくります。毎年新しい節をつくるので、比較的若い個体では節の数を数えればその個体の年齢がわかります。
秋になると直径1cm程度の暗緑色または黒紫色の果実が熟します。果実は漿果で、丸く、中に1〜数個の種子が詰まっています。また、この頃から葉と茎も枯れ始めます。
秋の終わりには地上部は完全に枯れ、地下で根茎の先につけた翌年芽が次の春を待ちます。
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