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流星が大気中を飛行に、割れてゆくことを「破砕(fragmentsation)」と言います。
1.猛烈な大気圧を受ける流星物質
流星が地球に落下すると、まず大気が薄い「自由分子流領域」に入ります。
この領域は、あまりに大気が薄いため、大気を集合体としての「流体」として扱うことは適当ではありません。
よって、この段階では流体に付随する概念である圧力を考えることは適当ではありません。
ただ、流星物質は大気分子と激しい衝突で強い力を衝突箇所のピンポイントで受け続けます。
もっと低い空に落ちてくると、大気密度が高くなって圧力が働いていきます。
このとき流星物質の前面に最も大きな大気の衝突による圧力が働き、
その大きさは、おおむね地上高度(=大気密度)と流星の速度で決まります。
図の圧力よりも、流星物質の機械的な強さが劣っていれば分裂や破砕が起きます。
2.実測データが少ない流星物質の力学的な強さ
上の図から流星の速度が速いほど、低空まで落下するほど破砕が起きやすいことがわかります。
もう一方の破砕に関わる主役、流星物質の強さはいったいどれくらいなのでしょうか?
流星物質が手元に有れば、それを使って破壊実験をやってみるのが一番確かです。
しかし、ほとんどの流星物質は大気中で燃え尽きてしまっており、誰の手元にもありません。
なんとか手に入るのが隕石ですが、大きな力を加えて隕石を潰してしまう強度試験を実践した
勇気ある研究者は少く、力学的な強さに関するデータは必ずしも多くありません。
幾つかの測定結果では、隕鉄では400[MPa]前後が多く、石質隕石では、かなりの幅があり、
10〜400[MPa]前後に分布します。
しかし、注意しなければならないのは、それより弱い断面が最初にあっても、大気内を落下中に割れてしまい
隕石として発見されたときには、もう既に弱かった断面は測定できる状態で残っていなかったでしょう。
つまり、これらの測定値は、最初の隕石の強さの上限値は示しているかもしれませんが、
もっと弱い断面があったかどうかについては、何も示していないことになります。
一方、落下中の流星の分裂を確認できれば、上の図と照らし合わせて、
その流星の力学的な強さが決定できます。
例えば、1996年に落下した「つくば隕石」では、5[MPa]くらいで大破砕を起こしており、
典型的には、その程度の力学的な強さだったと推定できます。
逆に、破砕がその隕石の力学的な強さを教えてくれた例です。
3.破砕様式のパターン化
現実に観測される流星の光度変化は、大気密度などの一定の要因を除くと破砕によって支配されます。
つまり、流星物質の分裂がその表面積を増加させ、大気とより効率的な衝突を引き起こし、
光度上昇、そして、小破片の燃え尽きにより、光度低下となります。
流星の経路途中での増光や、経路末端での爆発なども、そのように理解できます。
流星の物理計算でよく用いられる分裂の扱いは、主に次の2つです。
4.他に考えられる破砕要因
流星物質を(蒸発以外で)破壊する作用は、大気圧による破砕の他にもあります。
これらはほとんどの場合、流星物質の表面の薄い層に作用するものです。
流星物質表面からの蒸発と混在し、流星物質の摩滅を促進します。
流星観測で「火花が散ったような」と、形容される現象は、このような小破片の飛散が原因かもしれません。
大気中を落下する隕石の表面には、数千度の高温で溶けた「溶融層」ができます。
この層の回りの大気流れは渦巻く「乱流」状態で、溶融層を飛び散らせて行きます。
多くの物質は温度上昇に伴い膨張を起こします。これば熱膨張です。
一定の条件が整う場合、隕石表面の加熱層で熱応力による亀裂と小片の飛び出しが起きます。
その条件とは、幾つか組み合わされるのですが、おおむね「硬い石」の方が起きやすいです。
原則的には表面の加熱層に亀裂を引き起こしますが、加熱時間が長くなり、かつ
流星物質の直径が1mm程度以下の場合には、内部からの破砕を引き起こします。
流星の末端爆発はこういった結果起きているのかもしれません。