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1.採取可能な微小流星物質
顕微鏡で観察できる小さな宇宙由来の粒子「流星塵」(micro meteorite)は、 古くより採取、観測の方法が確立している。
顕微鏡で球形の物質を数えるのだが、
アーク溶接などによって人工的な類似形状の物質も生成されるため、
宇宙由来かどうかの正確な判定は、かなり難しい。
もちろん、球形でない物質にも宇宙由来のものが含まれている可能性があるが、
一層判定困難であり、一般には除外して計数している。
しかし、この方法でも流星塵の落下に季節変化があり、
それは、流星活動より約一ヶ月遅れたカーブを描くことが知られている。
実際の流星活動より落下数変化が大幅に遅れるのは、あまりにも小さな粒子のため、
空気抵抗の効果が大きく、上空80km前後から地上まで到達するのにそんなに長くかかるのである。
このような流星塵は、南極の氷の中や太平洋の深海底からも回収されている。
2.成層圏で採取されるブラウンリー粒子
地上10km前後までの対流圏では、大気中に地上から巻き上げられた粒子が
かなり含まれるが、それより上の成層圏では、大気の上下方向の対流が無いため
地上の塵粒子が吹き上げられることがごく少ない。
このような所で、大気中の塵を採取すると、宇宙からやって来た物質が採取しやすい。
その中には、地上で採取されてきた流星塵と違って、さらに小さく、
そして、球形とは似ても似つかない不定形をした物質が多く含まれる。
それらはちょっと力を加えると壊れそうな弱くて密度の小さいもので、
「ブラウンリー粒子」という。
3.スフェルールの成因
一方、流星塵の主役である球形の粒子を「スフェルール」という。
美しい球形になるのは、一度溶融し液体になった後、表面張力で球形を保ったまま
冷却、個化したためと理解できる。
それは、1個の小さな流星物質が1個のスフェルールとなったかもしれないし、
大きな流星物質が表面から溶融しつつ、液滴となって飛び散った多数の雫のうちのひとつかもしれない。
4.ブラウンリー粒子はなぜ溶けなかったのか
さて、一つの疑問が生じる。
流星はあんなに激しく高温になって光るのに、ブラウンリー粒子はなぜ溶けた形跡がないのか?
次の図は、密度0.5[g/cm3]、質量10-9〜10-15[g]の、球形の微小流星物質が
地上200[km]における初速、20[km/s]と、50[km/s]で突入し、質量欠損無く、
空気抵抗(CD=2)によって速度5[km/s]まで減速する地上高度を試算したものである。
速度5[km/s]という速度に明確な物理的根拠はないが、流星としての発光や加熱が
かなり沈静化する速度だろうと推定してここで使った。
図の左端近くは、一般的なスフェルール粒子のサイズ(直径10μm程度)で、右端付近は、
ブラウンリー粒子のサイズに相当する。
地上100km程度以上の大気密度の低い領域は、
流星物質に対して、空気抵抗によるブレーキの効果は大きい反面、加熱効果は小さい。
ブラウンリー粒子は、その希薄大気の中で十分に減速してしまい、一般的な流星のように
より低空での溶融、発光のチャンスを失ったか、あるいは溶融するには十分な加熱時間が無かったと推定する。