里中先生のサイン会in明日香&講演会in橿原

2003年10月19日


万葉文化館前。これは一週間前の
写真で、この日はもう少し色づいてい
た。向こうに見えるのは大原の里。
 その日の明日香は快晴でした。名古屋で新幹線から近鉄特急に乗り継ぎ、橿原神宮前駅からはゼイタクにもタクシーをとばして万葉文化館に到着したのがすでに11時40分くらい。万葉文化館の外はいつものようなのどかさだったのに、中に入ってみると異様な熱気が……。当然のごとく、「先着100名」というサイン会の受付は終了していました。朝早く並んだ方もいらしたということで、すでに万葉文化館の渡り廊下にはこれからサインをもらう人たちの行列が……。

 万葉文化館では「漫画家 山岸涼子・里中満智子作品展〜日本を生んだ時代の主役たち〜」という特別展を開催中でした。「日出づる処の天子」と「天上の虹」のカラーイラストや
原画の展示です。私は前回来た時(なんとわずか一週間前……そのうち破産するゾ!)こちら
のほうは見ていました。短時間でダダ〜ッと見たのですが、各キャラクターの象徴的なシーンを
選んで展示してあって、漫画を読むのとはまた一味違った感動を味わえました。せっかくだか
らもう一度見ていこうかな、とも考えたのですが、そのサインをいただける方々の行列の前を
通らないと展示室に行けないわけです。それがチト悔しいのでやめました(心の狭いヤツ!)。

 そうとなったら途端に気になったのが、文化館前の売店「かんなび」
さんで売っていた「飛鳥鍋」。この時期にならないと売られないので
す。飛鳥鍋というのは一言で言えば和風シチューというか、牛乳入りお
鍋。鶏ダシで野菜などを煮た鍋ものに牛乳を加えているんです。「あり
えない〜」と思う方もいらっしゃるかもしれないけど、去年、石舞台近く
の「明日香の夢市」さんで食べてから私は病みつき! ……で、とっと
と外に出て「飛鳥鍋、お願いします!」300円。とっても暖かい日で、温
めていただいているのを待っている間にも背中にあたる日差しで汗が
出そうなほどなのに、それでも食べたい! で、食べました。最高〜!
 翌日、家でも自分で作って食べました。ほとんどビョーキ。ちなみに
「かんなび」さんではこれに黒米のオニギリ2個がついて500円。明日
香でのお昼にオススメです。

「かんなび」さんの飛鳥鍋

 これで満足したところで、やっぱり里中先生のご尊顔を拝したいと思い、文化館に引き返す
(ややこしいヤツ!)。すでにサイン会は始まっていて、ミュージアムショップ前の会場はクロヤ
マの人だかり。写真を撮るのは自由、という感じだったので、人を掻き分けてなんとか里中先
生のお姿をカメラに収めてきました。サインをもらっているのは若い女性が多いのかと思いき
や、意外にオジサマ、オバサマも多かったですね(私もオバサマです。ハイ)。それにしても里
中先生は一人一人の人にやさしい笑顔で言葉を交わしながら丁寧にサインをしていらっしゃ
る。うるわし〜。うらやまし〜っ! くやし〜っ!
←サイン会風景。サインし
たあと、カメラに微笑む里
中先生。

横顔もお美しいわぁ〜。

 ……というわけで、あまり長居せずに文化館を出て、天気も
いいことだし、1時間ほど散策することにしました。伝板蓋宮跡
から田んぼの真ん中の道を通ってブラブラ飛鳥寺、そして水
落遺跡、石神遺跡。甘樫丘の麓で持参したパンを食べて、周
遊バスが来る時間になってしまったので、残念ながら甘樫丘
に登るのはやめて、バスで橿原神宮前駅へ。たった1時間の
散策でも、すっごく充実した気分でした。

快晴の明日香。伝板蓋宮跡付近。南方向→


かしはら万葉ホール。1階にに藤原
京のジオラマがありました。
 電車で一駅、畝傍御陵前駅から徒歩15分。かしはら万葉ホールに着きました。エレベーターで講演会会場の5階に上がると、天平装束を着たおじさんたちが、キトラ古墳の記念切手を売っていたりして、その雰囲気にちょっとびっくり。開演20分前で広いレセプションルームの前のほうの席はほとんど埋まっていました。それでも何とか里中先生のお顔がよく見えそうな席を見つけて座りました。ただし、写真は撮ってはいけなさそうな感じだったので撮っていません。客層としては普通の講演会と同じく(?)地元のオジサンという感じの方も多い中に、若い女性も混じっているという感じでした。

 今回の講演会は現在開催中の「飛鳥京ルネッサンス」のイベントのひとつです。今回はじめ
て知ったのですが、「飛鳥京ルネッサンス」というイベントは2010年に平城遷都1300年を迎え
るにあたって、数年にわたりいろいろなイベントが企画されている中の第1弾なのだそうです。
その中のこの日は「リレー講演会」といって、明日香村とその周辺の五つの市町村が各回の主
催者となって二人の講師(一人は学者さん。もうひとりは作家さんなど学者ではない方)をお呼
びして、テーマごとの講演をするというもの。橿原市担当の今回は「天武天皇と持統天皇」と
いうテーマで講師は千田稔先生と里中満智子先生。私がわざわざ新幹線に乗ってでも行きた
くなるのがわかりますでしょ?

 さて、2時。橿原市長のご挨拶のあと、千田稔先生の講演から始まります。千田先生は「皆
さん私の顔を見るためにいらっしゃったのではないことはわかっておりますけれども……」なん
ておっしゃっていましたけれど、いえいえ、私個人としては千田先生もスキですよ。飛鳥・奈良
関係の著作は多い先生ですから普段からお世話になっておりますし、テレビでは以前教育テレ
ビで「歴史みちウォーキング」という番組が放送されたのを覚えていますか? その案内役で何
回か出ていらっしゃいました。今回会場でも売られていた2001年発行の中公新書「飛鳥―水
の王朝」(先生は「水の都」ではなく「水の王朝」だよ、と強調していらっしゃいました)は、たま
たま先日図書館で見つけて、たいへん面白く読ませていただいたところでした。それが今回の
よい予習になりました。著作やテレビの印象からもっとオカタイ感じの先生かと思っていたので
すが、お話を聞いていたら、見た目は実際クールなんですけど、ちゃんとホンネを出す、という
か、けっこう人間的な先生なのねー、とますますファンになりました。お話は「夢と病という現
」と題して、大海人皇子の夢―天皇になる夢、それが実現したら日本という国をつくっていく
夢。その夢も病気という現実の前に実現せずに終わる……というのが本筋。その中で大海人
さまが大友を死に追いやる、さらら様が大津を死に追いやる……、そこには殺しの論理、当時
にしては正当化できる理由があったのだから、今の価値観で責めてはいけない、という話をな
さっていました。それに関連して「万葉集をロマンとして捉えるのは好きではない」と万葉集ファ
ンが聞いたらけっこう気を悪くするかも、という話を気を遣いながらお話していましたが、私には
ものすごーく共感できるお話でした。

 3時。いよいよ里中先生の登場です。何と言っても先生はお美しい! うっとり見とれてしま
います。額田王って先生みたいな人だった、と私は思っています。先生のテーマは「持統天皇
の実像に迫る」、その内容紹介としてプログラムには「史上初の男女共同参画社会を実現
した夫婦のかたちに迫ります」と。さすがぁ〜。里中先生! 先生はまず、なぜ自分が「天上
の虹」のような話を描きたいのか、というお話をなさいました。人は何かと分けたがる。こちらと
むこう。男と女。今の人と昔の人。違うようにみえるものがわかりあえてこそ嬉しいことなのに、
違うのだからわからなくて当たり前とあきらめてしまいがち。自分たちとつながっている昔の人
のことを考えてみることからはじめてみようよ、という気持ちで描いているとおっしゃっていまし
た。なるほど〜。
 具体的にはさらら様の生涯を追うかたちで、当時のアジアの中における日本の状況がどんな
ものであったか、などその社会的背景も丁寧に説明してくださいました。作品の中では「吉野の
盟約」のシーンはさらら様の夢の中でしか出てこないので、先生はあまり重要視していないの
かな?と思っていたのですが、このとき皇子たちは天皇に誓ったのではなく、天皇と皇后の二
人に誓っている。これが二人の「同列」の関係をよくあらわしている、とおっしゃっていました。
それで、最後に「縁あって夫婦となったからには、同じ夢を見て、共に何かをなしとげてこ
そ夫婦の愛、そういう夫婦を描きたかった」とおっしゃっていました。同感! そうそう! 大
海人さまとさらら様の夫婦をすれ違い夫婦だとか、わかりあえない夫婦だとか言う人がいるけ
れど、里中先生は決してそういうつもりであの夫婦を描いてはいないし、私もあの夫婦ってひと
つの理想像だと思うんですよねー! 私もそこを強調したいっ! 先生、よくぞおっしゃってくだ
さいましたっ……って先生の作品なんだから……。そこで先生、「同じ夢を見れない夫婦なら、
別々の道を歩くという選択もあるのではないかと……」とキツイ一言! 現実にはねー、とつく
づく自分の夫婦関係を反省してしまいました。そりゃ、ウチは趣味だけは合っていて、そういう
非現実の夢なら一緒に見るんだけどさ……。

 休憩のあと、コーディネーターの方をはさんで千田先生と里中先生の対談が30分間というこ
とだったのですが、スケジュールが延びて予定より15分遅れ。私は帰りの電車の時間を決めて
いて、それに乗らないと帰りがすごく遅くなってしまうので、対談15分のところで残念ながら中座
しなければなりませんでした。残念は残念だったのですが、そこまでの対談を聞いていて不満
だったのは……、まあ最後まで聞いていなかったので何とも言えないのですが、対談というの
なら、里中先生と千田先生で直接お話してほしかった。たとえば、里中先生と千田先生ではお
話を聞く限り、さらら様の生涯に対してもっているイメージがかなり違うように思えるのです。
里中先生は「やるべきことはすべてやりとげた」かなり充実した生涯という感じでとらえている
のに対し、千田先生はむしろ「失意の女帝」だったのではないか」と捉えていらっしゃるので
す。夫も志半ばで亡くなってしまった。息子を天皇にすることもできなかった。天皇にもなりたく
てなったわけではないような気がする。そんな彼女の心の不安定さが度重なる吉野行幸にあら
われているのではないか、と。そのあたりについて二人の先生が直接話したら、けっこう面白
かったんじゃないか、と(実際にはいろいろ難しいのはわかるけど……)。無責任なようだけ
ど、私は両方共感できるんです。最初は千田先生のイメージに近かったです。さらら様ってい
つも夫とか子供のことばかり考えて、自分が生きたいようには生きなかったんじゃないかなあ、
って。でもそれはそれでシアワセなことだったかもしれない、とも思えるし、さびしさの上にたつ
充実感みたいなのが私のさらら様の生涯のイメージかな? ……とにかく、コーディネーターの
方はお二人のお話を聞いた上でそれにのっとった質問の仕方をすべきではないか、と私は思
うのだけど、多分、あらかじめ質問を用意してあって、しかもご自分がお聞きになりたいことを
聞いている感じで、聞いているほうとも先生とも噛みあっていない(特に千田先生と)ように思え
て。それがちょっと不満……。

  そんなこんなで後ろ髪をひかれる思いでホールを駆け出て、帰途につきました。外に出ると
二上山の夕焼け。
 何と言っても里中先生から直接「天上の虹」への想いを聞くことができて、ほんとうによかった
と思います。ハイテンションのまま、畝傍御陵前駅まで走る、走る。

 帰りはギリギリの時間の乗り継ぎだったので、あちこちで走るわ人にぶつかるわ、困ると騒ぐ
わあわてるわ……。こんな私に親切に対応してくださった八木駅の若くてかわいい駅員さん、
ありがとうございました。おかげさまで呉女は無事、予定の時間どおりにオオアマさまの待つ神
奈川の自宅に帰りました。

(2003年10月記)


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