2021.2.21



 

阿泉来堂「ナキメサマ」2/19
山尾悠子「飛ぶ孔雀」2/7
若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」1/11
犬塚理人「人間狩り」12/30
中西鼎「放課後の宇宙ラテ」12/19
石井遊佳「百年泥」12/6
瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」11/21
馳星周「雨降る森の犬」11/7
伊岡瞬「いつか、虹の向こうへ」10/24
柚木麻子「BUTTER」10/10

 

HEART「BAD ANIMALS」1/14
FLEETWOOD MAC「TANGO IN THE NIGHT」9/10
ASIA「ASIA」12/27
JAMES TAYLOR「JAMES TAYLOR」1/16
PETER, PAUL AND MARY「LIVE IN JAPAN, 1967」1/9
PETER, PAUL AND MARY「PETER, PAUL AND MOMMY」12/26
PETER, PAUL AND MARY「IN JAPAN」12/22
PETER, PAUL AND MARY「IN CONCERT」12/19
PETER, PAUL AND MARY「LATE AGAIN」12/12
PETER, PAUL AND MARY「ALBUM 1700」12/5

 

記録集


時系列INDEX


作家別INDEX


ARTIST別INDEX


 
阿泉来堂「ナキメサマ」
 2021年2月19日(金)
  倉沢尚人の部屋を突然訪れた有川弥生という女性は、かつて恋焦がれた葦原小夜子が祖父が住む稲守村へ行ったきり戻らないので、一緒に連れ戻してほしいと言った。稲守村を訪ねると、小夜子は二十三年ぶりに行われる稲守祭の儀式の巫女を務めるため禊をしているとのことだった。夜神社へ行くと、奇声がして薄汚れた着物を着て悪臭のする化物のようなものが現れた。翌日、稲守祭を取材に来たという雑誌社の佐沼佳祐とホラー作家の那々木悠志郎が訪ねてきた。そして、異様に破壊された死体が見つかる。
 横溝正史ミステリ&ホラー大賞読者賞受賞作。 ほとんど非現実的なホラー・ファンタジーだが、叙述ミステリーのトリック、ソした最後の大どんでん返しとしては、乾くるみの「イニシエーション・ラブ」のパターンだ。
 
山尾悠子「飛ぶ孔雀」
 2021年2月7日(日)
 「シブレ山の石切り場で事故があって、火は燃え難くなった。」と始まるが、それを説明するような短いエピソードが続いた後、本編「T 飛ぶ孔雀」が始まる。川中島Q庭園で大きな野点が開かれ、菓子屋の娘タエと双子の妹で女子高生のスワが火を運ぶが、飛ぶ孔雀が現れて大混乱に陥る。「U 不燃性について」Kは地下公営浴場で電車の女運転士ミツと知り合う。ミツの弟で劇団員のQは、山の頭骨ラボで働くことになる。そこは後代の温泉施設のあるが元宿泊施設のようだった。
 ストーリーは夢をそのまま描写したみたいに、脈絡なく展開していき、ほとんど理解不能。いくつかの物語で共通する名前の人物が登場するが、これもあまり意味がない。泉鏡花文学賞、日本SF大賞、芸術選奨文部科学大臣賞受賞作。
 
若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」
 2021年1月11日(月)
 70代の桃子さんは、決まっていた縁談を捨てて東北の故郷を飛び出し、東京で働いて結婚。その後夫は急死し、子供たちも独立して今は一人暮らし。このところ、心の中で性別不詳、年齢不詳、使う言葉もばらばらな様々の声が聞こえるのだった。
 なぜか東北弁が出てくるようになった桃子さんだが、結構思弁的であったりもする。作者63才でのデビュー作にして、芥川賞受賞作。久し振りにおもしろい作品だった。
 
犬塚理人「人間狩り」
 2020年12月30日(水)
 警視庁の観察係に勤務する白石は、少年による女児殺害事件の録画映像がネットで売りに出された案件にあたることになり、当時の関係者の調査に取りかかる。一方、カード会社の回収部門で働く三田江梨子は毎日督促の電話をかけているが、クレームをつけてきた男に娘が自殺したと言われその男の家を訪ねると、男は精神科で大量の薬を受け取り、ファミレスで援助交際の交渉をしていた。怒りを覚えた江梨子は、〈ネット自警団〉と呼ばれるコミュニティサイトにその動画を投稿する。『自警団』に深入りしていくと、女児殺害事件の犯人少年Aで今は更生して弁護士になっている男を告発する行為に巻き込まれていく。
 白石と亡くなった姉夫婦の娘玲奈、江梨子と自警団サイトを運営する山本弥生、少年Aを告発しようとする竜馬が交差して、意外な真実が明らかになる。横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作。おもしろかった。
 
中西鼎「放課後の宇宙ラテ」
 2020年12月19日(土)
 小学四年生の時、近所でミステリーサークル騒動があり、真夜中家を抜け出して幼馴染の未想と見に行き、その時体が上空に引き上げられるという体験をした。未想はそんなこと犯なかったと言ったが、それ以来宇宙人や超常現象に興味を持つようになった。高校生になって、未想が持ってきた使われていない部室の鍵で部屋に入ると、数理研究部という超常現象の部室だった。そこで曖という女の子と出会う。曖はいなくなった姉の手がかりを数理研究会で探そうとしていた。曖の両親は姉なんて最初からいないと言っているそうだが。こうして、ぼくたちは数理研究会を復活させた。
 アニメ風の表紙からしてライトノベル風の青春小説という感じだが、途中からあっという間に流れが変わってSFアクションになってしまう。序文の「私」は未想ということになり、そうするとちょっと変じゃないかという感じもするが、要は宇宙人とは何のことかということだ。
 
石井遊佳「百年泥」
 2020年12月6日(日)
 借金のかたにインドのチェンナイのIT企業で、何の資格も経験もないまま日本語教師をすることになった私。百年に一度という洪水に遭い、三日後会社へ行くため街に出ると、洪水した川にかかる橋の歩道に泥の山ができていた。その泥の中から長い間不明になっていた子供が現れたりして、大勢の人間が殺到し、次々と泥の中から過去を掘り出し始めた。
 インドではセレブが飛翔で通勤するとか、言ってみれば幻想「ホラ」小説なのだが、子供時代と義父との生活とか国内のエピソードのほうがおもしろかった。芥川賞受賞作。
 
瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」
 2020年11月21日(土)
 優子は高校二年生。進路面談で「困ったことやつらいことは話さないと」と先生に言われた。優子は、水戸優子から、田中優子、泉ヶ原優子を経て現在は森宮優子。父親が三人、母親が二人いて、家族の形態は十七年で七回も変わった。優子は不幸とも困難とも思わないので答えようがない。ほんとうの母親は三歳の時亡くなっていて、思い出は一つもない。今の父、森宮さんは高校三年の始業式の朝、はりきってかつ丼を作ってくれる…。
 ストーリーの組み立てがうまい。友だちとのトラブルから、ブラジルに赴任する父ではなく、小学校の友だちと一緒にいられる後妻の梨花さんとの生活を選んだこと、合唱祭でピアノ伴奏をすることになって、ピアノを弾きたいと言い出したら梨花さんがピアノのある不動産会社の社長と結婚して中学の三年間暮らしたことがわかる。梨花さんは、泉ヶ原さんとも森宮さんとも離婚して、優子は二十歳離れた森宮さんと暮らしている。
 なんということもないけれど、登場人物がそれぞれ魅力的だし、優子と森宮さんのやり取りもおもしろい。本屋大賞受賞作。
 
馳星周「雨降る森の犬」
 2020年10月24日(土)
 中学生の広末雨音は、父が亡くなった後、母がボーイフレンドを追ってアメリカへ行き、一人暮らしていたが、伯父の蓼科高原にあるロフトで暮らすことになった。伯父、乾道彦の家にはバーニーズ・マウンテン・ドッグのワルテルがいた。ワルテルは道夫には忠実だが、雨音は無視するようだった。隣の別荘には高校生の正樹がやってきた。厳格な父と継母とうまくいっていない正樹は、山岳写真家である道彦の影響で写真を趣味にしていた。天音は道夫に導かれて正樹と山に登るようになり、ワルテルとも家族になっていった…。
 「少年と犬」で直木賞を受賞した作家の犬と山を中心に据えた作品だが、犬を中心にした作品もシリーズになっているそうだ。おもしろかったが、料理の描写とかストーリー自体とか、知らないで読めば若い女性作家の作品かと思うかもしれない。
 
伊岡瞬「いつか、虹の向こうへ」
 2020年10月24日(土)
 尾木亮平は元刑事だがトラブルに巻き込まれて殺人を犯し、今は交通整理のアルバイトをして暮らしている。妻の出て行った家には、学生で同じ職場で働いているジュンペイ、翻訳の仕事をしている石渡、そして村下恭子が居候している。皆それぞれ事情があって一緒に暮らすことになった。ある夜飲んだ帰りに声をかけられた若い娘が、朝家にいた。早希という娘は事情のある女で、尾木は暴力団も絡んだ事件に巻き込まれていく。
 ハードボイルドなので暴力がつきものだが、ストーリーはそれなりにおもしろかった。警察や暴力団を向こうに回して単身犯人を推理して解決するというのは、ある意味リアリティのない世界ではあるが。
 
柚木麻子「BUTTER」
 2020年10月10日(土)
 週刊誌記者の里佳は、結婚を餌に近づいた男たちの財産を奪い殺害していた梶井真奈子の取材を試みていた。学生時代からの親友で今は専業主婦の伶子のアイデアで、料理の話で近付く。取材を受け入れる条件として、真奈子が勧めるものを食べているうちにぶくぶく太っていく。気が付けば真奈子に操られ、恋人の関係にも影響が出て、さらに伶子まで巻き込まれていく。
 シチュエーションが前読んだ小説に似ているなと思ったら、同じ作者の「ナイルパーチの女子会」だった。おもしろかったが、話がひろがりすぎて、強烈な割には散漫な印象になった感じもする。
 
伊坂幸太郎「サブマリン」
 2020年9月14日(月)
 家庭裁判所調査官の武藤が今度担当したのは、無免許で車を盗んで運転して人を撥ね殺した十九歳の少年だった。その少年棚岡は、何を聞いても「はい」としか答えなかったが、彼の両親も幼い頃交通事故で亡くなっていた。とんでもない性格で迷惑この上ない上司の陣内が資料を見ると、「二度あることは三度ある」と呟いた。ネット上で脅迫文を投稿していた相手に逆に脅迫文を送って保護観察処分になっている高校生、小山田が事件のことを探っていて妙なことを言い出す。棚岡が経験したもう一つの事故の加害者若林青年と会い、陣内の友人で盲人の永瀬の協力を得たりして、武藤は事件の真相に迫ろうとする。
 ミステリー的にはなるほどそうかという展開で、登場人物のキャラクターもおもしろいのだが、少年事件だけに一件落着というわけにもいかない。伊坂幸太郎というよりは、重松清か天童荒太かという感じの作品だ。
 
月原渉「鏡館の殺人」
 2020年9月7日(月)
 鎌倉にある黒澤家の別宅では、当主松太郎の妾たちの娘たちが暮らしていた。旧館、新館の対称の位置に48枚の鏡が姿見が配置され、鏡館と呼ばれていた。一番古株の澄香の双子の姉、桐花は自殺していたが、澄香はいつも鏡にその気配を感じていた。年に一度松太郎が訪れる晩餐の際、鏡に『ころす』という文字が書かれ、その夜松太郎が殺された。そして、久楽々の鏡に殺害予告が書かれ、久楽々が密室で殺害された。澄香の付き人で、北の帝国の血を引くという栗花落静が、「…死体は何を意味するのか?」などと言って、凄惨に笑んでいた…。
 シズカというロシア系の美女の使用人が探偵の役割をするシリーズものらしい。叙述トリックと言えるのだろうか、そんなバカなという人物が犯人で、いまいち納得いかない。
 
折原一「死仮面」
 2020年8月31日(月)
 雅代の夫が突然亡くなった。夫と言っても、創作教室で知り合って週末一緒に過ごすだけのパートナーだったが、亡くなって初めて義手だったことを知り、勤務先も名前もでたらめだったことが分かった。手掛かりを求めて夫が残した創作ノートをワープロに写し取る。小説らしきものの主人公は夫の息子らしい。頭文字の地名や駅名から実際の場所を推測し、訪れるのだが、なぜかストーカーと化した前夫が現れる。何とか逃れて、ついに小説の舞台と思われる館にたどり着いた…。小説の主人公である淳平は、父親の『雅代の物語』と書かれたノートを見つけた…。
 読んでいるうちにどれが地の文でどれが作中作なのかわからなくなってくる。結局、それだけが狙いの作品だった。
 
東野圭吾「11文字の殺人」
 2020年8月20日(木)
 推理作家である《あたし》の友人で担当編集者・冬子の紹介で付き合い始めた川津は、命を狙われていると言っていて、本当に殺された。以前川津と一緒に仕事をしていたカメラマンの新里美由紀に川津の仕事の資料を求められたが、その美由紀も殺された。川津が亡くなる前、スポーツセンターの社長・山森と会っていたことがわかって訪れる。その後、川津も美由紀も山森に招待された旅行で、クルーザーの転覆事故にあっていたことがわかる。その時一人亡くなっていて、一緒にいた恋人が犯人ではないかと推理して《あたし》はまた山森に接触する。深入りしないよう警告を受けたりしたが、なぜか山森からクルージングに招待された。
 なんとなく2時間ドラマっぽいなと思いながら読んでいたら、実際テレビドラマ化されていた。犯人は意外な人物で、さらに意外な展開となるのだが、何となくそうかもしれないという感じもする。東野圭吾の作品にしては、軽いというか浅いというか、それほどでもないという感じだ。
 
宮内悠介「カブールの園」
 2020年7月18日(土)
  「カブールの園」:日系三世のレイは、小学校では仔豚と呼ばれ、鞭で打たれて豚の鳴きまねをさせられ、家では母に優等生としての作り話をしていた。大学の仲間と起業したIT企業でプログラムを書き、医師のカウンセリングを受けている。休暇をとって日系人収容所へ寄ってみればと言われ、久し振りに母に会って、ヨセミテ公園へ向かう。
 「半地下」:日本から逃げた父に連れられてアメリカにやってきて、そのうち姉と二人半地下のアパートで暮らすようになる。
 興味の持てないまま読んでいたので、印象がぼやけて何だったのかよくわからない。ストーリーとしては「半地下」がおもしろかったが、何となく映画を見終わったような印象だ。「カブールの園」は三島賞受賞作。
 
沼田真佑「影裏」
 2020年7月15日(水)
 わたしは親会社から岩手の会社に異動してきた。会社で知り合った日浅という男と釣りや酒でよく付き合うようになった。しかし、日浅はわたしに何も言わずいつの間にか会社を辞めていた。突然アパートを訪ねてきた日浅は、互助会のセールスをしていて、わたしも一口加入した。その後つまらないことで喧嘩別れしたが、震災で行方不明になっていると聞き、知っている日浅とは別の顔を知ることになる。
 芥川賞受賞当時、東日本大震災を扱った作品ということで話題になったは、これはストーリーを進めるためのきっかけに利用しているだけで、本筋にはあまり関係ない。「別れた和哉」という言葉にエッと思うのだが、これもただ出てくるだけ。親しかった人間が本当はどういう人間だったのか、というのもよくあるテーマだとは思う。
 他に、独身の中年男の心情を描いた「廃屋の眺め」、やはり中年のLGBTの女性を描いた「陶片」。こちらが小説としてはおもしろかった。古風な作風で、こういうのが好きな審査員に気に入られたのだろうと思う。
 
古処誠二「いくさの底」
 2020年7月4日(土)
 第二次大戦中のビルマ 。日本軍による制圧の後、重慶軍の侵入が見られるため、ヤムオイという村に警備隊が派兵された。隊長の賀川少尉はその村は二度目の任務で、村民とは旧知の仲だった。しかし村に入ったその夜、賀川少尉は何者かに首を斬られて死んだ。杉山准尉は、住民にはマラリヤにかかったと説明して、遺体を連隊に送った。連隊からは副官が派遣され、副官は聞き取りを始める。すると、今度は村長が同じように首を斬られて死んだ。副官はいったん連隊に戻り、何らかの調査をして帰ってきた。
 戦時下の日本軍に起こった事件を扱った、珍しいミステリー。 ミステリー的に言えば、誰が誰なのか、というパターン。そういう意味では、えっと驚く結末だ。日本推理作家協会賞受賞作。
 
遠田潤子「冬雷」
 2020年6月16日(火)
 大阪で鷹匠の仕事で一人暮らしている夏目代助のもとへ警察が訪れて、千田翔一郎の遺体が見つかったと告げた。翔一郎は義弟で、十二年前行方不明になっていた。孤児院で育った代助は小学五年生の時、海辺の田舎町で製塩業を営みながら鷹匠として地元の神事に携わる千田家の冬雷閣の養子になった。ともに神事を司る鷹櫛神社の巫女、加賀美真琴は同級生で、いつしか思い合うようになっていた。町には姫と怪魚の祟りの伝説があり、巫女と鷹匠の神事が重要な役割を果たしていた。しかし、千田家に実子が誕生すると代助は厄介者にされてしまい、翔一郎が行方不明になると殺害を疑われ、町を出ていた。葬儀のために町を訪れると拒絶に会うが、真琴が疑われていると知り、真相を探ろうとする。
 伝説と因習の町、旧家と神社、鷹匠と巫女、失踪、殺人、自殺、誘拐、純愛、不倫、とてんこ盛り のミステリーで、おもしろかった。未来屋小説大賞という賞を受賞したそうだ。
 
新章文子「沈黙の家」
 2020年6月1日(月)
 保科あゆみと新太郎の姉弟は、乾物問屋を営む両親が殺害され、京都から東京へ出てきた。あゆみは少女小説家として、新太郎はその紹介で出版社の編集として身を立てて行く予定だった。新太郎は男色家で、先生だった坂崎から逃れるという意味もあった。二人が借りた麹町の高級アパートの隣の向井津矢子の部屋には、作家の船原宇吉が同棲していた。船原は津矢子の妹樹里子とも付き合っていて、樹里子は船原の子を妊娠していた。新太郎は、あゆみと同じ少女小説家の徳田牧子に付き合わされるようになっていた。あゆみは頻繁に連絡してくる坂崎が自分に気があると思い、新太郎には樹里子と結婚しろとけしかける。新太郎は、樹里子と結婚したら金持ちになって、坂崎からも逃れられると思うようになる。そして事件が起こった。
 アッと驚く展開。40年前の作品だが、まるでタランティーノの世界だ。そして、登場人物の誰もが悪人か気持ち悪い人物。「犯人」だけがきれいな心の持ち主だった。他に、「こわい女」、「盗作の周辺」、「落ちていた手紙」を収録。帯に「元祖イヤミス」とあった。著者は宝塚歌劇団出身で、同期は淡島千景。デビュー作の「危険な関係」は江戸川乱歩賞を受賞し、直木賞候補になった。
 
恒川光太郎「無貌の神」
 2020年5月17日(土)
 「無貌の神」:世界から見捨てられたような茅葺の集落で、いつどこから来たかわからないまま、アンナと暮らしていた。古寺に顔のない神がいて、傷や病を治してくれるが、うわばみのように人を飲み込んでもいた。ある日アンナは谷へ連れて行き、赤い橋を示して渡って行けと言ったが行かなかった。アンナが神を倒すと、誰もがその肉を食べ始め、私も食べた。アンナが次の神になり、赤い橋は見えなくなった…。
 「青天狗の乱」:伊豆へ向かう交易船の船員をしていた頃、流刑人にと青い天狗の面を預かった。その後、その島で青天狗が島役人一族を殺したという噂を聞いた。明治の代になって、ある日洋装したその流刑人によく似た男を見かけたのだった。
 「死神と旅する少女」:十二歳の少女フジが尋常小学校帰りに級友と別れてから道に迷って歩いていると、中年の男と若い男と出会った。中年の男に「このぼんに斬られてくれ」と言われ、よけると小刀を渡されて「このぼんを殺せ」と言われる。咄嗟に小刀を刺して殺すと、時影と名乗る男に従うことになる。時影の車に乗って旅をして、時影が命じた男を刀で殺すという月日が始まった。七十七人を殺したらもとに帰すと言われる。七十七人を殺して、村の畦道で発見されたのは、いなくなってから三日後のことだった。
 「十二月の悪魔」:若いころ警察に逮捕され、出所した時は高齢者だった。去年何をしていたか覚えていないし、なぜ今ここにいるのかわからないし、家族も友人もいない。通りの角から腹を刺された男が歩いてきて、「逃げるんだ。騙されるな」と言われた。住宅街を抜けて山道を歩いていると、森の中に家を見つけた。アカネという若い女性がいて、逃げてきたというと、「反乱軍結成だね」と言った。
 「廃墟団地の風人」:空を飛んでいて団地の廃墟に落ちてしまった。誰にも自分は見えないようだが、一人の男の子が話しかけてきた。その子は頻繁に遊びに来るようになった。そしてある日、若い女性と目が合い、夜その女性が廃墟にたずねてきた。昔同じような存在だったと言い、三か月後ぐらいに消滅する、生き残る方法は一つ、人間の身体を乗っ取る事だと言った。
 「カイムルとラートリー」:黒く幼い獣はいつも母の後をついていた。ハゲタカ岩の向こうは〈奴らの領域〉だった。ある日、ハゲタカ岩にいると〈奴ら〉がやってきて、罠にかかって捕らわれてしまった。市場で族長に買われ、カイムルという名をもらい、色々話しかけられているうちに人間の言葉を理解するようになり、話すようになった。次は皇帝にもらわれ、ラートリーという車椅子の王女に誕生日プレゼントにされた。
  異界のファンタジー。デビュー作の「夜市」、「風の古道」以来の秀作。「無貌の神」、「死神と旅する少女」、「カイムルとラートリー」が特に印象的だった。
 
折原一「棒の手紙」
 2020年5月9日(土)
 水原千絵は、「棒の手紙」という不幸の手紙のような郵便物を受け取った。妹、百絵の筆跡の文字だった。千絵は、妹と近所の「困ったさん」、高校時代の体育教師に棒の手紙を送った。ルポライターの高畑良介は、友人の喜多見から棒の手紙を見せられた。そして、ここ一週間で金属バットで殴られる殺人事件が三件起こっていると知らされる。後日喜多見を訪れると彼も殺されていた。パソコンのメールアドレスから、水原千絵と野島あずさに注目するが、野島あずさも殴られて重体となっていた。
 棒の手紙が何度も行ったり来たりするのでややこしくなるが、いつものように複数の犯行が重なっていたり、人物の正体が実は、だったりする。最後もいまいちよくわからないが。
 
近藤史恵「震える教室」
 2020年5月4日(月)
 秋月真矢は、骨折とインフルエンザのせいで受験に失敗して、音痴なのに音楽とバレエで有名な凰西学園 へ入学した。始業式を終えて教室に向かうと小柄な女の子に袖をつかまれた。この学校が怖いのだという。相原花音の母は作家で、ネタ探しを頼まれていた。二人で出るという噂のあるピアノ練習室へ行って、手をつないで中に入ると…。
 「ピアノ室の怪」、「いざなう手」、「捨てないで」、「屋上の天使」、「隣のベッドで眠る人」、「水に集う」の6話。学園ホラーミステリーだが、悪霊退散というわけではなく、怪奇現象の裏にある事実を知り、霊はそのままそこにいてもらうという趣向。霊に恨みを与えた人物は結局罰を受けるのだが。おもしろかった。
 
柚木麻子「ナイルパーチの女子会」
 2020年4月22日(水)
 栄利子は父が勤めていた国内最大手の商社の営業部員。家と美貌とキャリアに恵まれた彼女が夢中になっているのは、おひょうさんというぐうたら主婦のブログ。記事から家の近所に住んでいることがわかり、行動パターンを読んで通う店に行って出会い、「友達」になる。おひょうさんこと、翔子はブログ通り最低限の家事しかしないということにして、夫の賢介と暮らしていた。栄利子は同じマンションの幼馴染圭子と中学生のときトラブルを起こして、友達というものがなかった。祥子は、何もしないくせに高圧的な父を嫌って家を出て、勤めていたアパレルショップでの女子社員たちとの人間関係に疲れて人付き合いが面倒になっていた。栄利子は、「友達」になった翔子のブログにますますのめり込んでいく。
 栄利子と翔子、共感できたかと思うと反発しをくり返し、二人それぞれ思いがけない事態につながっていく。栄利子、翔子、圭子、そして派遣社員の真織、よくこんな強烈のキャラクターを造形できたと思う。山本周五郎賞受賞作。
 
津村記久子「浮遊霊ブラジル」
 2020年4月4日(土)
 「給水塔と亀」:定年退職した私は故郷に帰り、借りたアパートを探して昔住んでいた町を給水塔があったはずだと思いながら歩き、亡くなった前の住人が飼っていた亀を見ながらビールを飲み、帰ってきたと思う…。川端康成文学賞受賞作。
 「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」:うどんが好きで、よく行く評判のうどん屋は店主が食べ方のハウツーを話しかけまくる。よく見かけるお客で心の中でコルネさんと呼ん出いる女性がいる。コルネさんは店主に「初めて?」と聞かれて「初めてです」と答えた…。
 「アイトール・ベラスコの新しい妻」:友人にサッカー選手のスペイン語のゴシップ資料の下読みを頼まれて読むと、その選手の再婚相手はなんと私の小学校の同級生だった。クラスのいじめられっ子で、先生に世話を押しつけられていたのだった。
 「地獄」:同級生のかよちゃんんと温泉帰りのバス事故で死んだ。作家だった私が配属された地獄は物語消費しすぎ地獄で、来る日も来る日もいろんな物語の中で殺された。たまたま出会ったかよちゃんがいたのは、おしゃべり下種野郎地獄だった。
 「運命」:なぜか知らない街で道を聞かれる。記憶をたどると十歳のとき、そして生後二か月のとき道を教えていた。そして、賽の河原でも、宇宙船でも…。
 「個性」:夏期講習で坂東さんがとんでもない恰好で教室に現れた。秋吉君に覚えてもらえないからで、秋吉君は見える人と見えない人がいるという。
 「浮遊霊ブラジル」:町内会の海外旅行でアラン諸島へ行くことになったが、その前に死んでしまった。ふとしたきっかけで副会長の仲井さんの体に憑りついて、いろいろな人の体に乗り換えているうちにブラジルにたどり着いてしまう。アラン諸島まで行けば成仏できると気づくのだが…。紫式部文学賞受賞作。
 この前読んだ「この世にたやすい仕事はない」もおもしろかったが、こちらは強烈におもしろい短編集だった。
 
櫛木理宇「避雷針の夏」
 2020年3月28日(土)
 日本海側の盆地にある睦間町。町は山崎一族と船江一族に分かれ、かつて殺人を犯した源田が消防団を牛耳っていた。よそ者は虐げられ、友人の誘いで塾講師としてこの町に移住した梅宮は「先生」と持ち上げられていたが、小料理屋の倉本一家はことあるごとに凄惨な暴行を受けていた。梅宮の娘・風沙と倉本の娘・菊瀬は親しくなり、お互い心に共通の傷を持つことから、夏休みにある計画を立てていた。そしてかつてないほどの猛暑の夏、祭りの神輿と一緒に暴走が始まる。
 帯に「嫌ミス系サスペンス」とあったが、なにが「嫌」かというと、登場人物のほとんどが嫌な奴だということになる。それでもある種の爽快感があって、おもしろかった。
 
島本理生「ファーストラヴ」
 2020年3月20日(金)
  臨床心理士の真壁由紀は、出版社から聖山環菜という女子大生についての半生をまとめる本を依頼されていた。環菜は父親を殺害して、逮捕された後『動機はそちらで見つけてください』と言って話題になっていた。環菜の国選弁護人は、夫我聞の弟の迦葉で、大学の同期生だった。由紀は環菜に面会し、親友や元恋人を訪ねて、環菜に心に迫ろうとする。
 環菜の虚言癖、心の不安定さの底にあるのは何か。そして由紀と迦葉の間にも過去に何かあった。ミステリー仕立てになっていて、読んでいておもしろかった。直木賞受賞作。「リトル・バイ・リトル」で野間文芸新人賞を受賞してから15年。ずいぶん長かった。
 
津原泰水「妖都」
 2020年3月12日(木)
 高校生の周防馨は数週間前から”死者”の存在に気がついた。その日も、生きてもいない、霊でもない女がサラリーマンの手を引いて車に一緒にはねられた。ふつうの人は男が一人で車道に出たようにしか見えないだろう。そこに居合わせた女子大生の後ろに少年の霊がいた。鞠谷雛子も小三の頃から司会に妙なものが映り、見ないためにメガネをかけるようにしていた。東京で”死者”が増殖して、奇妙な事件が多発するようになったのは、ロックグループCRISISのヴォーカリスト・チェシャが自殺してからのことらしい。中学の時初めてデートした日に車にはねられてなくなった尾瀬くんの霊を見るようになり、雛子は当時住んでいた山梨の尾瀬くんの家を訪ねる。馨はチェシャの解剖に付き添った医師兼松を訪ねる。
 どうなることかと興味津々で読んでいったが、最後はエログロで収拾がつかなくなったようだ。がっかり。
 
山下澄人「しんせかい」
 2020年2月27日(木)
 新聞の記事で、俳優と脚本家をめざすものを育てるというのに、遠く離れたところへ行く、費用がかからないというのにひかれて、応募して試験を受けたら受かった。船で海を渡り、車に揺られて【谷】に着いて、一期生に迎えられてたくさんのテレビドラマや映画の脚本を書いている【先生】の授業を受け、作業に従事する生活に入っていく。
 倉本聰の富良野塾の体験記のようなものでもあり、青春群像劇でもある。作者はその後劇団を主宰し、作家になっているのだから、一応役には立ったのだろう。主人公は、前途の未知を連想させるかのようにナイーブに描かれているが、作者自身のボーっとした性格なのだろう。何でこれが芥川賞なのかは理解できないが、おもしろいことはおもしろかった。
 
蒼月海里「水晶庭園の少年たち」
 2020年2月12日(水)
 生まれてからずっと一緒だった犬のメノウが亡くなって、そのショックで中学校に行けなくなった僕は、その前に亡くなった祖父の収集品がある土蔵の中で、真珠のように白い肌の少年に出会った。「君は、樹…僕は雫」と言った。雫は僕に祖父の収集品の好鉱物についていろいろ教えてくれた。祖父の石仲間の律さんに鉱物の即売会、ミネラルショーに誘われ、翌日、失恋したのでパワーストーンが欲しいという友人の学と一緒に会場出かけた僕と学は不思議な出来事を体験する。
 鉱物とその石精を巡るファンタジー。受賞作でも話題作でもないが、タイトルに惹かれて読んでみて、おもしろかった。ただ、飼い犬が亡くなって学校へ行けなくなったり、自分の家の土蔵に知らない人間がいて不審に思わなかったり、かなり純粋、というかナイーブすぎる人物設定だとは思う。
 
中村文則「私の消滅」
 2020年2月4日(火)
 僕は小塚亮大という成り代わろうとしていた。しかし小塚の部屋にやってきた男が、あなたは小塚亮大だと言った。小塚は心療内科の医師だった。トラウマを抱えたゆかりの診療にのめり込んで、睡眠療法を試みていた。前の医師に電気ショックを施されたゆかりには記憶障害があった。小塚の元から消えたゆかりは自殺し、小塚は一緒に住んでいた男から恐ろしい提案を受ける。
 読んでいるうちに僕が誰だかわからなくなってくる。ミステリー仕立てで最初はおもしろいのだが、次第にうんざりしてくる。興味を引かれたのは最後の最後だけ。最近新聞で連載している小説もそうだが、この作家は袋小路に入り込んでしまったではないだろうか。Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞作。
 
藤田宜永「大雪物語」
 2020年1月25日(土)
「転落」:派遣切りに会い、姉にも母親にも見捨てられた良太は、ひったくりをして老婆を負傷させた。姉に電話すると既に警察に知られていて、両親が保養所の管理人をしていたK町の別荘に忍び込むが、大雪に閉ざされてしまった。
「墓掘り」:忠志は遺体搬送の運転手で、直美という女性の母親の遺体をK町まで搬送していたが、大雪のため高速が通行止めになり国道に下りるとそちらも車が動かなくなった。
「雪男」:父が怪我をして母が世話に行き、高校生の佳代は一人留守番をすることになった。飼い犬の姿がなく、好きな犬のところへ行っているのだろうと思い、雪の中を向かうのだが、その家は自分を振った同級生の家だった。
「雪の華」:達雄が妻の親戚の家を借りて開いている花屋の前のバイパスの車が動かなくなり、車から降りてきた女性はかつて付き合っていた人だった。
「わだかまり」:自衛隊員の忠夫は除雪にK町へ出動するが、作業中向かいのアパートでふと見かけた女性は、失踪した姉に似ていた。
「雨だれのプレリュード」:大雪に閉ざされてコンサートが中止になり、秀光は別れた妻朋恵に出会いのきっかけになったK町の雪の写真を送る。その返事にコンサートが開かれていたらショパンを心で聴いているとあった。
 避暑地として名高いK町が大雪に閉ざされ、その中で様々なドラマが起こる。吉川英治文学賞受賞作。おもしろかった。何と1月30日に亡くなられたのだ。ご冥福をお祈りします。
 
長嶋有「三の隣は五号室」
 2020年1月18日(土)
 横浜の郊外駅近くに立つアパート、第一藤岡荘、その二階の真ん中の部屋五号室、その隣は四号室ではなく三号室。6畳、4畳半、台所、風呂、トイレ付きの普通のアパートだが、障子だらけの変な間取りだ。そこに住んだのは、単身赴任の中年男、引退した老夫婦、近くの大学の学生、失恋したOLなどいろいろ。アパートの住人を順に紹介するのではなくて、間取りの使い方、ガス、水道、風呂、エアコン、テレビ、あるいは風邪、タクシーといったテーマごとに住人の生活やキャラクターを描いていく。第一話の後に、扉と推理小説のような間取り図と目次がある。まさに主人公は部屋だ。66年から15年までの間に次々と居住者は入れ替わり、その時々の出来事や風俗も描かれて、なかなかおもしろい。谷崎潤一郎賞受賞作。
 
津原泰水「11」
 2020年1月10日(金)
 「五色の舟」:奇形を見世物にしている一座は、人と牛のあいのこで未来を言い当てるという「くだん」を買いに行く。くだんは恐るべき爆弾が落ちて日本は負けると予言し、別の世界へ導くと言った…。他、全11篇の幻想?怪奇?ホラー?SF?短編、ショートショート。単純に謎?な作品もあれば、単純に風変わりな作品もある。特に印象的な「五色の舟」と「テルミン嬢」は同時に星雲賞の候補となって、自作同士が票を争って共倒れに終わったそうだ。Twitter文学賞受賞作。
 
藤石波矢「流星の下で、君は二度死ぬ」
 2020年1月2日(木)
 火災で父が亡くなった後、みちるは関わりのある人が死ぬ予知夢を見るようになった 。最初は病気で休職中だった担任の先生、次は顔なじみの町工場の工場長、三度目は青森で漁師をしている祖父だった。家庭教師をしてもらっていた従兄の土岐は、予知を覆そうと言ってくれた。高校生になったみちるはまた予知夢を見た。その時は誰が死ぬのかわからなかったが、もう一度見た夢で見えた顔は、今はみちるが通う高校で用務員をしている土岐だった。みちるは予知夢を覆そうと奔走するのだが、死んでいたのは同じクラスの男子生徒だった。
 人の死の予知夢を見るようになった少女を巡る青春ミステリー。 何の伏線もなく最後真相が明らかになるのだが、正月休みにふさわしい楽しく読める作品だった。
 
津村記久子「この世にたやすい仕事はない」
 2020年1月1日(水)
 「みはりのしごと」:燃え尽き症候群のようになってやめて実家に帰っていたが失業保険が切れて職探しを始め、「家から近いところで一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事」と言って紹介されたのが、家の向かいにある会社でビデオを仕掛けて人物をみはるというものだった。契約を更新しないで紹介された次の仕事は「バスのアナウンスのしごと」、バスの車内広告を作るものだった。その次は、お菓子の袋の裏に一口知識のような文章を作る「おかきの袋の仕事」、そして家々に標語のポスターを貼ってもらう「路地をたずねる仕事」、広い森林公園の奥の小さな小屋で事務仕事をしたり園内監視をする「大きな森の小屋での簡単なしごと」。
 主人公は35歳ぐらいの独身女性で仕事というものに熱意は失っているのだが、それなりのキャリアがあるだけにどの仕事を始めてものめり込み過ぎて、結果的に続けられなくなる。おもしろかった。芸術選奨新人賞受賞作。
 
佐藤正午「月の満ち欠け」
 2019年12月15日(土)
 小山内堅は、八戸の高校から東京の私大に進み、就職し、大学のサークルで知り合った高校の後輩の梢と結婚し、娘瑠璃が生まれた。瑠璃が七歳のとき熱を出し、その後妙に大人びて、家でをするようになった。高校を卒業するまでおとなしくするよう言い聞かせたが、十八歳になって梢と一緒に車で外出中に事故で亡くなった。十五年たち、小山内は実家に帰り、荒谷清美とみずきの親子と親しくなっていた。そのみずきが連れてきたのは三角哲彦という、梢の親友の弟で、やはり同窓の後輩にあたる男で、三角が語ったの不思議な物語だった。学生の時瑠璃という年上の人妻と愛し合うようになったが、駅でホームから転落して亡くなった。亡くなる前、彼女は月の満ち欠けのように生と死をくり返し、哲彦の前に現れる、瑠璃も玻璃も照らせば光る、と言っていた。時は過ぎ、小山内は東京駅でるりと名乗る少女とその母親と会っていた。
 生まれ変わりを扱った小説は他にもいろいろあるが、ミステリー的な要素もあっておもしろかった。直木賞受賞作。
 
荻原浩「海の見える理髪店」
 2019年12月8日(日)
「海の見える理髪店」:いつもは美容院へ行っているが、結婚を前にネットで噂になっている海辺の小さな町の理髪店へ行った。椅子に座ると、店主は自分のことを語り出した。
「いつか来た道」:長年縁を切ってきた母親に、弟に言われて会いに来た。画家で自分の趣味を子供に強要する母だった。
「遠くから来た手紙」:仕事一途の夫に愛想をつかして実家に帰ってきたのだが、弟が嫁を連れて帰ってきた実家も居づらい。そのうち、妙なメールが入るようになる。
「空は今日もスカイ」:母と一緒に居候しているおじさんの家は居づらいし、学校もいやだ。家出することにして歩いていると、ゴミ袋をかぶった男の子と出くわし、一緒に海を目指す。
「時のない時計」:平凡なサラリーマンだった父の形見の腕時計を母から受け取り、商店街の古めかしい時計店に修理を頼むと店主は…。
「成人式」:5年前事故で亡くなった娘宛に、成人式の着物のDMが届いた。夫婦で憤ったのだが、ふとある計画を思いつく。
 直木賞受賞作だが、どの作品もこんなストーリー他であったよなという感じがする。一言で言うと凡庸。「成人式」は荻原浩らしい痛快なところがあって、「空は今日もスカイ」もこの中では異質な作品でおもしろかった。
 
佐藤多佳子「明るい夜に出かけて」
 2019年11月30日(土)
 富山は大学を休学して、都内の実家を出て金沢八景でコンビニの深夜勤務をしている。ある夜、小柄な変な格好をした女の子が店に現れるが、その子のリュックに富沢が聴いている深夜放送の番組の、最高の投稿ネタに送られる缶バッチが2個もついていた。富沢もその番組、「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」のリスナーで、投稿する「職人」だった。その女子高生の佐古田、店の先輩でユーチューブで歌を歌っている鹿沢、高校時代からの友人で今住んでいる部屋を紹介してくれた永川の4人が付き合うようになる。富田は接触恐怖症で、そのことである出来事があって心に傷を負っていた。
 いい内容だとは思うが、個人的にはお笑い芸人 が好きじゃないし、ラジオも伊集院やナイツに替わってからおもしろくなって聴かないので、あまり興味が持てなかった。山本周五郎賞受賞作。
 
吉田修一「犯罪小説集」
 2019年11月15日(金)
「青田Y字路」:十年前、田園の十字路で七歳の少女が姿を消した。そしてまた一人の少女が行方不明になった。村人たちは、当時疑われた移民の若者を追い詰める。
「曼殊姫午睡」:小中学校の同級生だった女が、殺人犯としてニュースに出た。ネットで情報を集めて、その後の女の人生を覗き、女が働いていたスナックを探して歩く。
「百家楽餓鬼」:大手運送会社の御曹司として仕事で実績を上げ、結婚した女性の影響でアフリカでボランティア活動もしていたが、実はマカオでバカラ賭博にはまり会社から百億円を超える金を不正に借りていた。
「万屋善次郎」:親の介護のために農村に戻ってそのまま居ついて、養蜂で村興しをしようとしていたのだが、村民との行き違いから家に閉じこもり、奇行が目立つようになった。そしてある日惨劇が起こる。
「白球白蛇伝」:慰安旅行で立ち寄ったスナックで出会ったのは、引退したばかりのプロ野球のピッチャーで憧れの選手だった。そのうち飲みに連れて行ってもらうようになるが、コーチを首になり会社で雇うことになる。給料の前借が目立つようになり、ついには断ろうとするのだが。
 犯罪を犯すことになる人間の心模様を描いているのだろうか。「青田Y字路」と「万屋善次郎」が「楽園」として映画化された。
 
滝口悠生「死んでいない者」
 2019年10月26日(土)
 ある老人が亡くなり、地区の集会所の通夜に子、孫、ひ孫が集まる。知っている者もいれば、どこの誰だかわからない者もいる。年齢の近い者同士集まって、酒を飲んだり、風呂へ行ったりする。そして、それぞれが直接故人とは関係ない回想に浸ったり、思いを巡らしたりする。
 一種、とりとめのない群像劇で、それぞれのエピソードはそれなりにおもしろいのだが、全体としてはずいぶんとぼやけた印象で、前作の「愛と人生」と同じような作風。芥川賞受賞作。 賞の選評を読んでも、選考委員自身の作風によって評価が割れているようだ。
 
井上真偽「聖女の毒杯」
 2019年10月26日(土)
 中国人の金貸し・フーリンは、以前世話をしたに所有会社の一つの社長を任せようと田舎の町を訪ねた。その中学生になる娘・双葉は地元の名家俵屋の婚礼に付き添いとして出ることになっているという。見物可能というので挙式に出席すると、三々九度代わりの「大盃の回し飲み」が行われ、花婿、花婿の父、花嫁の父が毒死するという事件が起こる。盃を口にした順で一人おきに死んでいた。フーリンの元ボスの中国人・沈が現れて、どさくさで酒を飲んで死んだ犬が彼女の大切なペットだったという。フーリンについていった少年探偵・八ッ橋が謎を解こうとするのだが、この犯人、実は…。
 事件が起こるたび、犯人やトリックより奇蹟としようとする探偵・上苙があとから登場して、何とか解決するのだが…。このシリーズはあまり好きじゃない。20 17本格ミステリ・ベスト10第1位。
 
塩田武士「罪の声」
 2019年10月14日(月)
 父から引き継いだテーラーの店主・曽根俊也は、母に頼まれて探しものをしていて、父の遺品らしいカセットテープとノートを見つけた。ノートには意味不明の英文が書いてあり、カセットテープを聴くと、自分の声で「ギン萬事件」で使われた犯人グループのメッセージだった。大日新聞文化部の阿久津英士は、社会部の年末年始企画、昭和・平成の未解決事件特集のため、「ギン萬事件」の取材をすることになった。こうして、異なる立場から二人の男が「ギン萬事件」の謎に迫っていく。
 グリコ・森永事件をモデルにしたミステリー。 事件の内容、報道については極力史実通り再現しているということもあって、真相は本当にそうだったんじゃないかと思わせる。山田風太郎受賞作。「週刊文春ミステリーベスト10」第1位。
 
滝沢志郎「明治乙女物語」
 2019年9月28日(土)
 明治二十一年、東京・御茶ノ水にあった高等師範学校女子部、通称「女高師」で学ぶ野原咲と駒井夏。いわゆる「鹿鳴館時代」、講堂で舞踏会が開かれている最中、爆破事件が起こる。夏はその一味と思われる若い男と偶然話をいていた。咲は読んでいたシャーロック・ホームズに倣って現場から遺留品を見つける。夏が話をした西洋人の様な顔をした大男は、米国公使の通訳と芸妓の間にできた子で、横浜にいた頃幼い咲を見知っていた。そして今は車夫として仲間と反洋化運動に加わっていた。
 森有礼、大山捨松など実在の人物に、主要な登場人物もモデルが存在する一種の時代小説であり、ミステリー的な要素もある学園青春物語でもあり、読んでいておもしろかった。松本清張賞受賞作。 
 
逸木裕「虹を待つ彼女」
 2019年9月19日(木)
 工藤賢はシステム会社で人工知能を使ったキャラクターソフトや囲碁ソフトを開発していた。亡くなった人を人工知能として蘇らせるという企画が持ち上がり、そのプロトタイプとして水科晴という女性が候補に上げられた。水科晴は六年前、渋谷のスクランブル交差点をドローンで襲い、そのドローンに銃撃させて自殺するという事件を起こしていた。仮想人格を作るため水科晴のことを調べ始めた工藤は、子供の時から自らを達観し、人工知能にも見切りをつけていたのだが、彼女の不思議な人間性にひきつけられていく。そんな時、「水科晴について嗅ぎまわるな。お前も殺してやろうか」というメッセージが届いた。
 主人公の工藤の性格ははっきり言って不愉快なのだが、AIを扱ったミステリー、なかなか興味深かった。横溝正史ミステリ大賞受賞作。
 
西尾維新「掟上今日子の推薦文」
 2019年9月8日(日)
 親切守は、希望通り警備会社に就職し、美術館に配置された。白髪の女性がたびたびやってきては、一枚の絵をじっくり眺めていた。つい声をかけると意外に可愛らしい女性で、差し出された名刺には「置手紙探偵事務所所長 掟上今日子」と書いてあり、この作品は二億円の価値があるということだった。だが、ある日またやってくるとその絵の前を素通りしてしまった。また声をかけると、二億円どころかせいぜい二百万円ということだった。そしてまた別の日、はかま姿の老人がやってきて、いきなり杖でその絵を滅多打ちにしてしまった。こうして失業してしまった親切守は、自分が失業した理由、絵の価値が変わったり、壊された理由の解明を掟上今日子に依頼する。彼女は、一度寝ると前の記憶がなくなる忘却探偵だった。後日、その老人、額縁匠の和久井翁に警護を依頼され、忘却探偵にアドバイスを求める。不穏な空気を感じた探偵と一緒に和久井翁のアトリエ荘をたずねると…。
 忘却探偵シリーズの2作目。テレビドラマで見ていたが、おもしろかった。 ワトソン役が1作目と替わっていておやっと思ったが、1作目のワトソン役は探偵を記録する作家になり、2作目のワトソン役は探偵の警備員になるということだ。
 
東野圭吾「マスカレード・イブ」
 2019年8月25日(日)
 「それぞれの仮面」:山岸尚美は、ホテル・コルテシア東京のフロントオフィスに配属され、チェックイン業務についている。ある夜入ってきた客の一行に学生時代の恋人がいた。そして、内密の助けを求められる。
 「ルーキー登場」:新田浩介は、警視庁捜査一課の新米刑事。ランニング中の飲食店経営の実業家が刺殺されるという事件が起こった。現場に残った煙草の吸殻の捜査から容疑者は逮捕されたが…。
 「仮面と覆面」:新進女性作家が執筆のため連泊することになり、ストーカーと思われるグループがチェックインしてくる。尚美は、この作家のプライバシーを守ろうとするが…。
 「マスカレード・イブ」:大学で教授が刺殺されるという事件が起こり、新田は所轄署の女性警官とコンビを組んで捜査にあたることになる。共同研究していた准教授が容疑者として浮かび上がるが、当日の宿泊先をどうしても答えなかった。
 「マスカレード・ホテル」のシリーズ2作目だが、時系列的にはその前になるそうだ。 「それぞれの仮面」と「仮面と覆面」で山岸尚美を、「ルーキー登場」で新田浩介を紹介し、最後に二人の接点が生まれるという作品集。「それぞれの仮面」は、ホテルマンがこんなことしていいのかという不快感が残るし、「ルーキー登場」は結果的に未解決で終わる。そして、「マスカレード・イブ」もかなり古典的な類型で終わってしまう。いまいち物足りなかった。「仮面と覆面」は一種のどんでん返しで、おもしろかった。
 
生馬直樹「夏をなくした少年たち」
 2019年8月20日(火)
 刑事・梨木拓海は遺体安置所で殺人死体を見て、「結局、死んだのか」と内心つぶやいた。そして、休暇をとり故郷へ帰った。小学六年、梨木拓海、紀本啓、榊雪丸、三田村国実の四人はいつもつるんで遊んでいた。そして国実には智里という四歳の妹がいて、いつも一緒についてきていた。近所には、二つ年上の東堂聖剣という変わり者がいた。小学校最後の夏休みの思い出作りに花火大会に出かけると智里も着いてきて、そしてなぜか同じ電車に聖剣も乗っていた。立入禁止の登山道に入ると、智里が蜂に刺され、四人は置き去りにして頂上を目指した。突然の雨に戻ると、智里が死んでいて、聖剣も倒れていた。その後四人はばらばらに別れ、二十二年の月日がたち、梨木は刑事として聖剣の死体を目にしたのだった。
 二十二年前何があったのか、そして聖剣はなぜ殺されたのか。梨木は、再び山に登り、そして紀本と再会する…。夏休みにふさわしいストーリーで、おもしろかった。新潮ミステリー大賞受賞作。
 
藤石波矢「初恋は坂道の先へ」
 2019年8月14日(水)
 三日前宅配便で木崎海人という送り主から届いた本と一緒に、研介の彼女の品子が消えた。初恋の話をしたとき、故郷にいる、イニシャルはKくんと言っていた。「忘れられない人がいる。運命の出会いってあると信じてるんだ。」とも言っていた。田舎の町の中学生、しなこは敬愛する作家の日向鉄平の家で、風変わりな少年海人と出会う。海人は不登校児で、しなこもあることから保健室登校をしていた。研介は品子の故郷山梨へ会いに行くことを決意する。
 他愛のない青春小説ではあるが、ミステリーっぽいひっかけや伏線がしかけてあって、楽しく読めた。夏休みにふさわしい一冊。ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞受賞作。
 
櫛木理宇「ホーンテッド・キャンパス」
 2019年8月12日(月)
 八神森司は霊感があって霊が見える。高三のある昼休み、中庭にいる女子生徒に黒い影が這い寄って行くのを見て、駆けつけて助ける。それ以来、その美しい少女、灘こよみへの恋に落ちた。一浪して入った大学にはこよみがいて、オカルト研究会に誘われたというので、一緒に入ることにする。部員は、部長の黒沼、副部長はアネゴ肌の三田村藍、そして黒沼を本家と呼んで付き従う黒沼泉水といった面々で、なぜか霊にまつわる相談事を引き受けてしまうのだった。
 おどろおどろしいホラー物かと思ったら、青春謎解きミステリーといった感じの軽い作品でおもしろかった。日本ホラー小説大賞・読者賞受賞作。
 
島田雅彦「虚人の星」
 2019年8月6日(火)
 星新一が小学二年の時、父が寿司屋に置き去りにしたまま消えてしまった。学校で「シカト」されるようになり、フリーズしている間に覚えない行動をしているようになった。父の友人たちの中で最後まで残った精神科医の宗猛に相談すると、七つのキャラクターを操るレインボーマンになるよう言われた。自由国民党の松平定男は、祖父も父も総理という家系に生まれながら、漫画好きで美術を志していたが、首相の北条が入院し、次期首相候補がみな政治献金問題で脱落したことから、陰の実力者上杉によって総理大臣にされてしまった。星新一は実は中国の組織の元締めだった宗猛によってスパイに育てられて外務省に入り、松平は初のアメリカ大統領との会談で、自分にも思いもかけないタカ派の主張をしてしまい、その別人格をドラえもんと呼ぶようになった。そして、星新一は松平の秘書に抜擢される。
 モデルは明らかに安倍晋三。自国党の有力者は戦国武将の名、アメリカ側はハンチントンにアルツハイマーにメニエル。名前だけで笑えるのだが、中味は辛辣で、政治小説としてもサスペンス小説としてもおもしろかった。
 
恩田陸「蜜蜂と遠雷」
 2019年7月21日(日)
 芳ヶ江国際ピアノコンクールは、新しい才能が現れるコンクールとして注目を集めている。パリのオーディションに現れた風間塵という十六歳の少年は、履歴が空白だが、伝説的なピアニスト・ホフマンに師事し推薦状があり、その演奏は審査員やオーディエンスに衝撃を与えるものだった。栄伝亜夜はジュニアコンクールを制覇しCDデビューも果たしていたが、十三歳の時母が急死するとピアノを弾く理由を失ってコンサートから逃げ出していた。その後音大に入り、勧められてコンクールを目指すことになった。高島明石はサラリーマン家庭に育ちながらも、将来を嘱望され音大に進んだが、普通ではない世界に棲むことを恐れて楽器店勤務のサラリーマンになっていた。そして28才になった今、コンクールに挑戦することにした。母がペルーの日系三世であるマサル・カルロス・レヴィ・アナトールは、ジュリアードの隠し玉と言われる本命だが、幼い頃日本に住んでいたことがあって、その時近所に住む少女のピアノに魅せられて、彼女のレッスンについていきピアノを弾くようになっていた。
 またピアノか、それも上下2冊、と思ったが、読み始めるとおもしろくてグイグイ読んでしまった。楽曲や演奏について、よくこれほど写実的に物語を作って描写できるものだと感心するが、ちょっと文学的すぎるかもしれない。直木賞・本屋大賞 同時受賞作というだけのことはあると思う。それにしても、ホラー、ファンタジー、ミステリー、青春物と、よくこれだけ書けるものだ。

早瀬耕「未必のマクベス」
 2019年7月7日(日)
 IT企業Jプロトコルに勤める中井優一は、同僚の伴と共にバンコクでの仕事を成功させての帰路、空港トラブルで澳門に立ち寄ることになり、遊びに行ったカジノで娼婦に「あなたは、王にあって、旅に出なくてはならない」と言われた。そして、付き合っている元上司で今は総務部にいる由記子からJプロトコル香港の代表取締役に出向する事例を受けることになると知らされる。高校時代の同級生だった伴と一緒に香港の会社へ行くと、仕事は接待で利用する飲食店との顔つなぎだけだった。
 どういうストーリーだろうと思って読んでいると、ある所から俄然ミステリアスで興味津々な展開となっていく。おもしろいことはおもしろかったが、どうして人を殺す必要があるのか、伴の高校時代のニックネーム「バンコウ」にかけた「マクベス」への見立てとか、あまりにも不自然だ。まあ、普通で自然なストーリーならサスペンス小説にはならないわけだが。

カズオ・イシグロ「遠い山なみの光」
 2019年6月7日(金)
 娘の景子が自殺して、次女のニキが帰ってきて、悦子は景子が生まれる前、長崎にいた頃付き合いのあった佐知子とその娘万里子のことを思い出していた。当時、悦子は世話になった緒方さんの息子の二郎と結婚して、子どもを宿していた。緒方は戦前の教師だったらしく、今は批判される身、二郎は発展していく会社で出世が期待されていた。佐知子はアメリカ人と付き合っているらしく、アメリカへ行こうとしていて、万里子は風変わりな女の子で放任状態だった。………
 本来海外文学であって、このページの趣旨とは外れるが、一応読んでみた。イギリスの王立文学協会賞受賞作だそうだ。

村上春樹「騎士団長殺し」
 2019年5月25日(土)
  妻に突然離婚を切り出された私は、車で北海道、東北を彷徨った後、友人の雨田の父で高名な日本画家が使っていた伊豆の家を借りて、肖像画の仕事もやめて、絵画教室の先生をしながら自分の絵と向かい合っていた。屋根裏から物音がして、覗くと梱包されて絵があって、未発表の「騎士団長殺し」という絵だった。画商から肖像画の依頼があって、どうしてもということで依頼主に合うと、谷の向かいに住む免色という風変わりな男だった。夜中鈴の音が聞こえて眠れなくなり、音の出所を探して免色に相談すると、工事業者を入れ音の出所の穴を探し当てる。ある夜、「騎士団長殺し」の絵の中から抜け出したような男がいて、自分は「イデア」だと言う。一方、自分の肖像画に満足した免色はもう一つの依頼をする。近くに住むまりえという少女が自分の娘かもしれない、その肖像画を描いてほしいというものだった。
 あれこれてんこ盛りで謎は交錯していくのだが、終わってみれば、いつものように何だったのという感じ。おもしろいのだけれど。
 
滝口悠生「愛と人生」
 2019年4月17日(土)
「愛と人生」:映画「男はつらいよ」シリーズについて語っていて、語り手の《私》が寅さんだったり、さくらだったりして、「男はつらいよ」の世界に入り込んでいくのだが、途中で子役だった男性と、タコ社長の娘役で出ていた美保純の道行きに変わっていく。おもしろいといえばおもしろいが、作者は美保純が好きだったのかと思う程度。野間文芸新人賞受賞作。
「かまち」・「泥棒」:向かいの家の、玄関の上がりかまちに座布団を敷いて噺をする、《アマチュア女性落語家犬猫亭つばき》こと伊澤さんや、斜め向かいの《チンピラの熊》などを巡る日常の出来事。どこか、保坂和志風だ。
 どこがどうということもないが、何となくおもしろいとは言える。
 
松村栄子「僕はかぐや姫/至高聖所」
 2019年4月14日(日)
「僕はかぐや姫」:裕生は伝統ある女子高の文芸部の部長。文芸部は一人でいたがる者が集まっている場所で、彼女たちは自分のことを《僕》と言い、裕生は《うつむく青年》役を自分に割り振っていた。悠生は、《僕》を気取る自分の信条に着いて、もっと純粋で毅然とした固有の一人称が欲しいと思うようになっていた。
「至高聖所」:田園の中に作られた新構想大学の理系学部に入学した沙月の、学生寮のルームメイト真穂は二週間ほどして現れるとそのまま3日間ほど眠り続けて、夜中に起きるとサンドイッチを作らせて食べた。風変わりな印象だったが、意外に活動的で社交的な真穂の、学園祭に向けた演劇活動に引き込まれていく。
 廃刊になっていた26年前の海燕新人文学賞受賞作と芥川受賞作が復刊された。 「僕はかぐや姫」という題名に覚えがあったが、本はなくて読んではいなかった。「至高聖所」は廃刊のため読んでいなかった数少ない芥川賞受賞作品の一つ。ひところの若い女性作家はこんな感じだったなと思うような作品。
 
須賀しのぶ「革命前夜」
 2019年4月3日(水)
 バッハに傾倒する眞山柊史は、バッハにゆかりのある東ドイツのドレスデンに音楽留学する。大学には天才肌のヴァイオリンの天才ヴェンツェル、正確無比な演奏をする同じくヴァイオリニストのシュトライヒ、ピアノ科には北朝鮮からの留学生李、ベトナムからの留学絵師スレイニェットなどがいた。ある日、柊史は教会でオルガンを演奏する女性クリスタと出会う。彼女は保安省の監視対象だという。柊史は父の戦中からの友人だったダイメル家をライプツィヒに訪ね、ダイメル氏の遺品であった楽譜を受け取る。そして、クリスタやダイメル家の人々との出会いから、柊史は東西冷戦下にあった東ドイツでの動乱に巻き込まれていく。
 ベルリンの壁崩壊直前の東ドイツへ音楽留学した青年が遭遇する激動の物語。 作者自身は音楽をやっているわけではないようだが、音楽についての表現がすごい。最後、ヴェンツェルやクリスタを襲った事件を巡るミステリー要素も加わる。大藪春彦賞受賞作。
 
青山文平「つまをめとらば」
 2019年3月5日(火)
 高根の花を射止めたものの破滅に陥った本家の友、自分は武士を捨てて江戸へ出て得意の釣り具の商いを始めるが、いつの間にか妻が…という「ひともうらやむ」。亡くなった妻が実は戯作を書いていて、自分自身も俳諧の道へ進もうとする「つゆかせぎ」。ようやく役に取り立てられたものの、土地の娘と出来てしまい侍を捨てて婿入りを勧められる「ひと夏」。出仕をあきらめて元妾暮らしの煮売屋の女と一緒になって算学をやっていこうとする貧乏旗本の「逢対」など。時代小説だが、ちょんまげのかつらをかぶった 脱サラドラマ。直木賞受賞作。
 
岩城けい「さようなら、オレンジ」
 2019年2月20日(水)
 サリマは夫と息子二人と一緒に、アフリカから難民としてオーストラリアにやってきた。やがて夫は去り、サリマはスーパーで生鮮食料の加工の仕事に就いた。子供たちが英語を話すようになり、サリマも英語の学校へ通い始め、オリーブ色の肌をしたイタリア人、黒髪で直毛のアジアの女と話をするようになる。ところどころ、この同じクラスのアジア女性(日本人)の恩師らしき人への手紙が挿入される。この女性は夫についてオーストラリアにやってきた。この手紙の中では、サリマはナキチ、イタリア人はパオラと紹介されている。サリマは職場での地位が上がり、地元の人たちにも溶け込んでいく。日本人(サユリ)も幼児の死と二度目の出産を経験し、大学での勉強と作品の執筆を目指すようになる。
 アフリカ難民と、日本からの移住者の女性。その解放と成長の物語といえるかもしれない。この小説には仕掛けがあるのだが、ネタバレになるのでここでは書けない。ミステリーではないからどうでもいいことだが。太宰治賞、大江健三郎賞受賞作。
 
小山田浩子「工場」
 2019年2月10日(日)
 「工場」:町に君臨する巨大な工場。面接して契約社員として採用されると、仕事は一日書類をシュレッダーにかけることだった。苔を研究していた研究室の教授から推薦されて就職した工場での仕事は、苔で屋上を緑化することで、たった一人苔に取り組むことになった。システムエンジニアとして働いていた会社を突然解雇され、恋人に紹介された工場での仕事は、毎日印刷物を赤ペンで校閲することだった。
 カフカを連想させる不条理な工場の世界。何の区切りもなく語り手が変わったり、人間関係があとからわかってきたり、もしかしたら時間も違っていたりするので、余計に不気味な感じがしてくる。新潮新人賞、織田作之助賞受賞作。 他に、「ディスカス忌」と「いこぼれのむし」。「いこぼれのむし」は、大企業の一部署に勤める女子社員、パート社員、管理職などを、それぞれの視点から語らせたもので、「工場」と同じような不条理さを漂わせている。
 
額賀澪「屋上のウインドノーツ」
 2019年1月26日(土)
 幼稚園でいつも一人で遊んでいる給前志音に声をかけてきたのは、青山瑠璃という子だった。それから、小学校、一緒に入った私立中学でも、「なんでもできる瑠璃ちゃん」がいつも志音を守ってくれた。志音が初めて父とあったのは、中学二年の二月だった。もう一度音楽を始めて、バンドでドラムをたたいて、テレビに出ることになったと話していたが、その年の十二月に過労で亡くなった。高校の屋上でホルンの練習をしていた日向寺大志は、ドラムとも違う軽快なリズムを聞いた。女の子がイヤホンを聴きながら、バチで給水タンクや柱をたたいていた。吹奏楽部の部長を押しつけられて、少人数で打楽器担当一人だけの部で、ドラムセットを使おうと思っていた大志は、「見つけた」を思った。父の遺品のドラムで一人練習し、瑠璃と別れて県立高校へ入った志音だった。大志に誘われて初めて一緒に演奏して、楽しいと思った志音は入部すること決意する。「一緒に東日本大会へ行こう」と言った大志だったが、その東日本大会にトラウマを抱えていた。そんな時、テレビの番組に出ていた中年のバンドがいて、いつも見ていたのだった。
 高校の吹奏楽部を描いた、青春ドラマ。久し振りにいい感じで読めた。松本清張賞受賞作。 ミステリーでも時代小説でもなく、エンターテインメント作品が対象に変わったのだそうだ。
 
中島京子「長いお別れ」
 2019年1月20日(日)
 中学校の校長、図書館の館長を務めた東昇平が認知症 を患い、症状は年々悪化していく。妻の曜子は、アメリカにいる長女の茉莉、家庭を持っている次女の菜奈、フリーランスで働いている三女の芙美を呼び集めて現状を見せて、三姉妹はGPS付き携帯電話を両親にプレゼントする。長女が住むアメリカに連れて行ったり、昇平の故郷に連れて行ったりするが、「帰る」、「いやだ」を繰り返すようになる。
 認知症の父と妻、娘たちの日々を描いた、中央公論文芸賞・日本医療小説大賞受賞作。 作者はフリーライター出身で、笑わすツボを押さえているので、楽しく読めた。

恩田陸「木漏れ日に泳ぐ魚」
 2019年1月12日(土)
 引越しの決まったがらんとしたアパートの部屋で、男と女は酒を飲みながら話をする。二人で旅した山地で、ガイドの男が死んだ。事故として処理されたが、お互い相手が殺したのではと疑っている。二人は別々に育った双子、大学で出会い、付き合うようになり、双子だったと知り、一緒に住むようになった。そして男は生まれる前に去った父親だった。その旅行での出来事、幼い日の思い出など、とりとめもなく話すうち、二人はある真相にたどり着く。
 ミステリー的に言うと、記憶にまつわるひとつのパターンと言えなくもないが、男と女の愛についても物語という感じでもある。

今村昌弘「屍人荘の殺人」
 2019年1月5日(土)
  葉村譲は神紅大学一回生でミステリ愛好会の会員、会長は「神紅のホームズ」と呼ばれる明智恭介。と言っても会員は二人だけ。明智は夏休みの映画研究部の合宿に参加したいが断られている。夏のペンションに同世代の若者が集うわけで、事件が起こりそうだというのだ。そこへ剣崎比留子という二回生の学生が現れ、『今年の生贄は誰だ』という脅迫状が届いて多くの部員が参加を辞退しているので、一緒に参加することをもちかけてきた。そして、三人で合宿に参加することになる。参加したのは映画研究部、演劇部の部員にOBの男性三人。柴湛荘という三階建てのペンションでの合宿最初の夜、バーベキューの後の肝試しの最中事件が起こった。ゾンビの群れに襲われ、柴湛荘に籠城することになったのだ。明智もゾンビの群れに呑まれてしまった。パニック状態の中で、映画研究部部長の進藤が殺された。
 有栖川有栖の江神・有栖のコンビみたいなものかなと思っていたら意外な展開。クローズド・サークル・ミステリーにパニック物を組み合わせたような感じ。何となく犯人の目星は着いたが、実際はもう一人の方だった。パニックを引き落とした集団が直接関係しないところが変な感じではある。鮎川哲也賞受賞作。その他各種ミステリーベスト10第1位、本屋大賞第3位という話題作。

東野圭吾「人魚の眠る家」
 2019年1月2日(水)
 娘の瑞穂がプールでおぼれて病院のICUに運び込まれた。薫子と別居中の夫和昌は、医師から心臓は動き出したが、自発呼吸はなく、脳は機能していない。臓器移植に同意すれば脳死判定をすると言われ、いったん同意することにしたが、握ったみずほの手が動いたような気がいて、決意を翻す。BMI(ブレーン・マシン・インターフェース)技術を開発している会社の社長である和昌は、他病院の呼吸装置や自社の技術を用いて、瑞穂の延命を図る。薫子は、妹の美晴、その子の若葉、祖母の千鶴子、そして瑞穂の弟生人を巻き込んで、眠り続けているだけということにして、瑞穂を育て続ける。
 脳死判定と臓器移植を問題にして小説だが、ミステリー的な要素も恋愛模様もちょっとだがあって、おもしろかった。
 
折原一「鬼面村の殺人」
 2018年12月31日(月)
 埼玉県白岡署の黒星警部は、単純な事件を密室殺人に仕立てたりして、数々の事件を迷宮入りさせてきた。叔母危篤の知らせに飛騨高山に駆けつけたが、間違いだったので休暇をとって白川郷へ向かうことにした。一方、フリーライターの葉山虹子は白川郷の奥にある鬼面村での国際芸術週間という催しのため推理作家という名目で訪れようとしていた。たまたまバスで隣り合わせた二人は、合掌造りの消失マジックを目撃し、殺人事件に巻き込まれる。
 ずっこけミステリーだが、最後のどんでん返しのどんでん返しはおもしろかった。
 
本谷有希子「異類婚姻譚」
 2018年12月28日(金)
 「ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。」これは夫婦は似てくるといったことではない。その夫の顔が時々崩れるようになってきて、生活も崩れて専業主婦の私の真似をし始める。
 「トモ子のバウムクーヘン」では平凡で幸福な家庭生活に現れる裂け目の感覚、〈犬たち〉では一人暮らす山小屋にたくさんの犬がいて、麓の町では「犬を見かけたら注意」というビラが配られている。「藁の夫」は、回りの心配を押し切って結婚した夫は藁だった。
 幻想的、という以上に非現実的な意外性があっておもしろかった。芥川賞受賞作。
 
赤川次郎「東京零年」
 2018年12月20日(木)
 水沢亜紀は、昼は保険会社の事務、夜は弁当屋で働いていた。身体が不自由で施設に預けられている父の浩介は、かつて反戦運動の中心となるジャーナリストで、検察・警察の弾圧を受け、殺人の容疑をかけられていた。亜紀は、その検察の中心人物だった生田目重治の息子健司が地下鉄のホームから転落したところを救った。施設から浩介が発作を起こしたと連絡があり、駆けつけるとテレビを見ていて興奮していたのだという。ちょうど訪ねてきた元刑事の北村と一緒にその番組のビデオを見ると、そこには父が殺したことになっている、かつての浩介の盟友だった湯浅が映っていた。喜多村は湯浅を探しに出かけるが、検察・警察も喜多村や亜紀をマークしていた。亜紀も健司と一緒に真相を探ろうとする。
 検察や警察がここまでやるかなと思ったが、これは検察・警察が政権のもとで強大な権力をふるう近未来のディストピアを描いた作品だった。若い二人が活躍したり、正義に目覚める人たちが現れたりするのは、赤川次郎らしいのだろうか。楽しく読めた。吉川英治文学賞受賞作。

一條次郎「レプリカたちの夜」
 2018年12月15日(土)
  希少動物が死滅し、そのレプリカを製造している工場の品質管理部に勤める往本は、後ろ足で立って歩いているシロクマを見かけ、襲われた。同僚の被毛部の粒山とその話をしていると工場長に呼ばれ、調べるように命じられる。品質管理部長は配属されて一週間で姿を消し、工場長もいなくなり、あのシロクマが品質管理部長に就任した。自分のドッペルゲンガーが現れるようになり、そしてある日給料が現物支給になり、もらったものは資材部の女性うみみずのレプリカだった。本物のうみみずとレプリカと一緒にシロクマの後をつけるうち、地下の洞窟に入り込んでいた。
 カフカのようでもあり、村上春樹の世界のようでもあり、おもしろいようでいて何もない感じ。新潮ミステリー大賞受賞作。 最後の3ページで「おう!」と思うかもしれない。

呉勝浩「道徳の時間」
 2018年12月7日(金)
  ビデオジャーナリスト伏見は、重大なミスを犯して、妻の故郷で休業中だった。妻の先生だった陶芸家南房先生が亡くなり、服毒自殺とみられていたが、部屋に「道徳の時間を始めます」という落書きがあったことから事件性が疑われた。同じようなメッセージを落書きした悪質ないたずら事件が連続していたのだった。一方、伏見は越智冬菜という若い女性から仕事を依頼される。十年前、著名な教育家を教え子だった大学生が講演会の最中に刺殺し、「これは道徳の問題なのです」としか言わず服役していた。その事件と犯人を取材してドキュメンタリー作品にするというものだった。
 おもしろそうな設定だが、過去と現在の事件の関連性にしても、過去の事件の真相にしても、いまいちピンとこない。条件付きの江戸川乱歩賞受賞作だそうだ が、そういうことならなしで良かったと思う。

小林由香「ジャッジメント」
 2018年11月26日(月)
 凶悪な犯罪が増加する一方の日本で、二〇××年、犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰として執行できる『復讐法』が生まれた。被害者は、旧来の法律に基づく判決か、復讐法に則り刑を執行するかを選択できる。ただし、復讐法を選んだ場合、選択した者が自らの手で刑を執行しなければならない。応報監察官・鳥谷文乃は、復讐法が執行される刑事施設で、刑の執行に立ち会う。息子を惨殺された父親、自分の母を自分の娘に殺され娘に刑を知っこする母親、通り魔事件の被害者になった兄、娘、婚約者、そして、妹を虐待死されて母と義父に刑を執行しようとする兄。
 おそらく世論を二分することになりそうな設定で、復讐すれば非難され、復讐しなくても別に非難される。監察官も好待遇を受けるが、こんな前歴があっては他の職場では受け入れられない。興味深い内容だった。小説推理新人賞受賞作。個人的には単純に割り切れている。刑罰は被害者の復讐ではなく、法の逸脱に対する懲罰なのだから。

村田沙耶香「コンビニ人間」
 2018年11月22日(木)
 私は少し奇妙がられる子供だった。幼稚園のころ、公園で死んでいた小鳥を焼いて食べようと言ったり、小学生に入ったばかりの時、男子がけんかをしていて「誰か止めて」という悲鳴を聞いてスコップで頭を殴ったり。その度問題になって親に心配され、必要なこと以外喋らず自分から行動しないようにして、小学校、中学校、高校と成長していった。大学一年生のとき、道に迷ったオフィス街で「スマイルマート日色駅前店」を見つけ、「オープニングスタッフ募集!」というポスターを見て応募して採用され、二週間の研修の後働き始めた。私は、初めて、世界の部品になることができた。私は、今、自分が生まれたと思った。気がつけば、その後18年、店長も店員も何人を入れ替わる間、同じコンビニで働き続けてきたのだが…。
 話題になった芥川賞受賞作。この作家の登場人物、女の子、若い女性、は皆外部に対してk妙なスタンスを持っていて興味深いのだが、この作品がいちばんおもしろかった。話題になった芥川賞受賞作。

井上真偽「その可能性はすでに考えた」
 2018年11月14日(水)
 姚扶琳(ヤオフーリン)は中国出身の悪辣な金貸し。そのフーリンから巨額の借金をしているの探偵・上苙丞(うえおろじょう)の南阿佐ヶ谷の事務所に、渡良瀬莉世(リゼ)という若い女性が仕事の依頼にやってきた。「人を殺したかも、しれないんです。」リゼは、幼い頃山中の断崖に閉ざされた「血の贖い」という新宗教団体に母と一緒に入っていた。ある日地震が起こり、水が涸れると、教祖は村の出入り口を塞いで、「最後の晩餐」を開き、集団自殺した。リゼは親しくしていたドウニという少年に抱かれて脱出したが、発見された時、傍らにドウニの切り離された首と死体が横たわっていたという。リゼには自分を抱いて走っているドウニの首を持っていたという記憶があった。
 うえおろは膨大な報告書を作り、これは『奇蹟』だという結論を出した。うえおろ「奇跡の存在証明」という妄執に取り憑かれていたのだった。そこに、元検事の大門、フーリンの昔の仕事仲間・リーシー、元うえおろの助手で小学生の八つ星などが現れて、トリックを推理して『奇蹟』を否定しようとする。その度、うえおろは「その可能性はすでに考えた」と言って、報告書の該当ページを示してトリックを棄却するのだが…。
 メフィスト賞受賞作家の第2作で、ミステリ界激賞の話題作だそうだが、どんでん返しに次ぐどんでん返し、くどくて飽きてしまった。(漢字変換が大変だった)

佐藤究「QJKJQ」
 2018年11月4日(土)
 市野亜李亜の殺人鬼一家の女子高生。不動産の仕事をしている父の桐清は犠牲者の血を抜いて殺し、母の紀夕花はシャフトで殴り殺し、引き籠りの兄浄武は鋼のマウスピースで噛み殺す。我が家には殺人の専用部屋があるが、亜李亜は外で鹿角で作ったナイフで刺し殺す。ある日、兄が部屋でパン切りナイフでめった裂きにされて死んでいた。そして次の日、母が姿を消した。父を疑った亜李亜は家を出て、パン切りナイフを使った殺人事件を調べて、その現場へ行く。
 殺人鬼一家などというあり得ない設定が成り立つのは、折原一の作品によくあるパターンの状況だ。なるほどそういうことかと思うが、後日譚(?)も意外でおもしろかった。江戸川乱歩賞受賞作。

羽田圭介「スクラップ・アンド・ビルド」
 2018年10月15日(木)
 カーディーラーを退職した後、健斗は花粉症と腰痛に悩まされながら、中途採用の面接と行政書士試験の勉強と恋人とのセックスで日々を過ごしている。同居している祖父は「早う迎えにきてほしか」と繰り返す。健斗はその願いを叶えさせようと、体力を奪う過剰な介護をすることにして、自身は筋トレで自分を鍛えることにする。
 作者は一時期テレビによく出演していたので、主人公の社会批評的な主張や文体が作者自身と重なって、妙な感じがする。ブラックな感じで始まるが、物語的には結局落ち着くところに落ち着いたという感じもする。芥川賞受賞作。

干刈あがた「ウホッホ探検隊」
 2018年10月16日(火)
 夫が職場から戻らなくなり、別の女性ができ、離婚することになる。作者自身を投影した《私》が《君》(長男の太郎)に呼びかける形式の小説。約35年前、離婚がまだ微妙であった時代に書かれた小説で、子供たちも離婚した夫婦の子供のあり方を模索する。それが「ウホッホ探検隊」ということだそうだ。芥川賞候補作。

中村文則「悪と仮面のルール」
 2018年10月11日(木)
  日本で隠然たる権力を有する久喜家に代々伝わる「邪」として生まれた文宏は、顔を手術で変え、新谷弘一という男になり、探偵を使って、子供の頃一緒に過ごし愛し合った香織を探す。そして、クラブで働く香織に付きまとう男がいることがわかり、その男に近づく。ある日、愛だという男が現れる。文宏がなりすました新谷を探っている刑事だった。また、伊東という若い男がから金を要求される。彼は久喜家の傍系の同じ「邪」で、テログループで活動していた。
 いろいろと出てくるわりに、ストーリーは意外とシンプルで、いわゆるノワールでもない。東野圭吾の「白夜行」と比べてもピュアな感じがする。ウォール・ストリート・ジャーナルでベストミステリー10に選ばれて、映画化 もされた話題作。

松下麻理緒「誤算」
 2018年9月16日(金)
 看護師の川村奈緒は、患者だった年下の男と同居するようになって籍も入れたが、ヒモ同然の男でヤミ金融に手を出していた。奈緒は、病院を辞めた退職金で借金を清算し、アパートも出て、住み込み看護師の仕事に就いた。雇い主は鬼沢というい一代で財を成した、わがままで傲慢な老人だった。息子の淳一は気弱で、京子、洋子の二人の娘が金目当てで出入して、腹違いの息子恵太も時々顔を出している。鬼沢の幼馴染の老医師山崎から指導を受け、言い争いばかりしていた奈緒と鬼沢だったが、次第に受け入れるようになり、鬼沢の健康状態も回復していった。ある日、恵太が鬼沢と結婚して遺産を山分けしようと言ってきた。
 ミステリーだから、殺人事件が起こるわけだが、しんみりとしたところもあって、おもしろかった。横溝正史ミステリ大賞・テレビ東京賞受賞作。 作者は、女性二人の共同執筆だそうだ。

小野不由美「営繕かるかや怪異譚」
 2018年9月5日(水)
 地方の古い城下町だった街の町屋。事情があって移り住んできた人たちに、不思議な出来事が起こる。奥座敷の襖が開いて中に人影が見える、屋根裏に誰かがいる、入り組んだ通りに鈴を鳴らす喪服の女性が立っている、家の中に見知らぬ老人がいる、夫が手を入れ始めた庭で植物が枯れていく、書庫の車の調子が悪くて中に子供の姿見える。大工や造園屋の紹介で「営繕かるかや」という青年が現れて、家に手を入れる。
 ホラーだ。映画化された「残穢」は別に怖いとは思わなかったが、これは怖かった。「奥庭より」、「屋根裏に」、「雨の鈴」、「異形のひと」、「潮満ちの井戸」、「檻の外」の6編。「奥庭より」は不気味だったし、「雨の鈴」は死につながるので特に怖かった。

西尾維新「掟上今日子の備忘録」
 2018年8月29日(水)
 研究所で室長のバックアップデータのSDカードがなくなった。真っ先に疑われたのは、雑用係で入ったばかりの僕だった。僕、隠館厄介はこれまで度々事件に巻き込まれ、その他に犯人と疑われてきた。そして身につけた自衛策が自衛策が、探偵を雇うこと。僕は、置手紙探偵事務所所長の掟上今日子さんを呼んだ。彼女は、知る限り『最速』の名探偵だ。なぜなら、彼女は一度寝るとそれまでの記憶をすべて失ってしまうのだ。こうして、僕隠館厄介は、会うたびに初対面の今日子さんに、SDカード紛失事件、盗んだ百万円を返してほしければ一億円用意しろ、急死した作家が隠した最後の作品の原稿を探す、といった珍事件を解決してもらう。
 テレビドラマで見ていたが、幸いにもまったく覚えてなくて、新鮮に読めた。キャラクターが際立っていて、おもしろい。

宮部みゆき「過ぎ去りし王国の城」
 2018年8月22日(水)
 高校への推薦入学が決まった尾垣真は、早退して母に頼まれていった銀行で、子供たちの絵に交じって貼られているヨーロッパの古城の絵を見た。落ちて踏まれたその絵をポケットに入れて持ち帰り、夜部屋で見ていると森の匂いがして、指で触れると絵の中に入ったような感覚がした。自分の分身を絵に描けば絵の中に入れるのではと思い、絵の得意な城田珠美に頼むことにする。鳥になって絵の世界に入ると、塔の中に少女が閉じ込められていた。準備して城田と二人で絵の中に入ると、そこにはパクさんという漫画家のアシスタントをしている大人がいて、何度か絵の中の世界を冒険しているのだという。
 いろんな作風を持っている宮部みゆきの、これはファンタジー作品。誘拐事件とか、パラレルワールドとかからんできて、いまいち構造がよくわからなかったが、夏休みにふさわしくおもしろかった。(実際には春休みだけど)

東野圭吾「ラプラスの魔女」
 2018年8月16日(木)
 温泉地で、近くの山を散策中の映像プロデューサー水城義郎が硫化水素中毒で死亡した。水城の母から、四十歳近く年の離れた嫁が何かするのではと心配だという相談を受けていた刑事の中岡は捜査を始める。地球化学者の青江は、県警の依頼で調査に協力することになる。温泉地の現場周辺では、過去に硫化水素が発生したことはなく、現在も検出されなかった。後日別の温泉地で同じような事故があり、無名の映画俳優が死亡した。新聞社の依頼で調査に訪れた青江は、事故現場で前の現場で見かけた少女を再び見かける。少女は、2つの現場に現れた青年を探しているのだという。そして、円華と名乗る少女は天候の急変を言い当てるなど、不思議な能力で驚かせた。青江に刑事の中岡が接触し、事件ではないかと言う。
 事件は思いもかけないような展開を見せる。SFまがいの現象やあり得ない殺人の同期の説明はかなりきわどい感じもするが、それだけにおもしろいといえばおもしろかった。

湊かなえ「ユートピア」
 2018年8月12日(日)
 太平洋を望む港町、鼻崎町。堂場菜々子は商店街の仏具店に嫁いだ。娘の久美香は交通事故に逢い、車いすで小学校に通っている。夫が日本有数の食品加工会社、八海水産の工場に勤めている相場光稀は社宅のマンションに暮らして、雑貨・リサイクルの店を営んでいる。星川すみれは、美大時代の同級生宮原健吾に誘われて、高台の岬タウンの家で陶芸の仕事をしている。三人は、健吾が発案した商店街祭りの実行委員として出会う。そして祭りの当日、無料サービスの食堂で火事があり、車いすの久美香を助けるため、光稀の娘、彩也子が額に傷を負った。すみれは、この事故をきっかけに車いす利用者支援の運動を立ち上げて、雑誌にも取り上げられて順調に売り上げを伸ばす。しかし、この町ではかつて八海水産の従業員が資産家の老人を殺して逃亡するという事件があり、その事件や久美香の足のことを絡めて、悪意に満ちた中傷が渦巻くようになる。
 いわゆる「イヤミス」と呼ばれる作風のミステリーで、当然読んでいて気分が悪い。 結末はちょっと意外で、さわやかと言っていいかブラックと言っていいかわからない。山本周五郎賞受賞作。

蜂須賀敬明「待ってよ」
 2018年8月2日(木)
 世界的なマジシャン、ベリーは招待を受けて海辺の街へやってきた。迎えに来たのはこうこというお腹の膨らんだ女性だった。着いた日の夜、騒がしいので部屋を出ると、「産まれそうなの」と言うので一緒に出ると、なんと墓場へ向かい、墓から老婆を掘り出した。娘のありさだという。この町では、時計の針が逆に回り、人は老人として墓で生まれ、次第に若くなって、乳児となって娘の胎内に還って死ぬのだという。ショーが終わって街を出ようとしたベリーだが、街に留まることにする。ベリーは還る娘を持たない迷子の幼児を世話するこうこの幼稚園の仕事を手伝いながら、ありさの面倒も見て、ありさはベリーのマジックに興味を示すようになる。
 人生が逆に進むという発想はおもしろいし、死への道筋がはっきりしすぎているから哀しくもある。なかなか良かったと思う。ミステリーではないと思うが、松本清張賞受賞作。

笹沢佐保「人喰い」
 2018年7月21日(土)
 花城佐紀子の姉・由記子は、勤め先の社長の息子・本多昭一との結婚を反対されて解雇され、昭一と心中するという遺書を残して姿を消した。そして、昇仙峡で昭一の遺体だけが発見された。浦賀にある会社の工場で爆破事故があり、社長夫人が行方不明になり、由記子の姿が目撃されていた。さらに、工場再建現場で社長がナイフを刺されて死んでいた。警察は、由記子が生きているものとみて指名手配し、勤務している銀行を辞めさせられることになる佐紀子は、会社の組合の委員長であり、今は恋人である豊島宗和に相談して、捜査を始めた。
 1961年の日本探偵作家クラブ賞受賞作で、さすがに設定や素人探偵ぶり、犯行の動機を示すタイトルにしても時代をを感じさせるが、おもしろかった。「木枯し紋次郎」で有名だが、もともとは「新本格派の旗手」と呼ばれていたそうだ。帯に「たった5ページめくるだけで…必ず騙され続ける」とあったが、何度も見返しても該当するようなことは一切なかった。ただ、こいつが怪しいと思った奴が真犯人だった。読んでいて、テレビの2時間ドラマそのものだと思った。その辺の原点と言える作りかもしれない。

谷甲州「星を創る者たち」
 2018年7月14日(土)
 人類は宇宙に進出し、月、火星、水星、木星、金星、土星といった衛星、惑星で企業の技術者たちが土木工事に従事していた。そして、各現場で予期せぬ星の自然現象のためにトラブルが発生し、解決に挑む技術者たちの姿が描かれている。
 驚愕のラスト、とあるので地球が滅亡して宇宙に出て行ったのかと思っていたが、そうではなくて天然資源の採取が目的で、驚愕のラストというのは、SFならではの荒唐無稽なことだった。土木その他の用語の説明が全くないので、何のことかよくわからなかった。星雲賞日本短編部門受賞作。

宮内悠介「彼女がエスパーだったころ」
 2018年6月21日(木)
 ジャーナリストの《わたし》は、いわゆる“疑似科学”にまつわる人々を取材する度に、事件に巻き込まれてしまう。「百匹目の火神」では火をおこすことを覚えた猿を巡る共時性論争、「彼女がエスパーだったころ」はスプーン曲げ、「ムイシュキンの脳髄」はロボトミーから着想した“オーギトミー”、「水神計画」では放射能に汚染された水を言葉で浄化するという団体の環境テロ、「薄ければ薄いほど」では〈量子結晶水〉という水を用いる“終末医療”施設。「佛点」ではアルコール依存症者のサークル。
 題材的にはおもしろいはずなのだが、SFなんだかミステリーなんだかいまいちピンとこなかった。吉川英治文学新人賞受賞作。本当だろうか。

嶺里俊介「星宿る虫」
 2018年6月13日(水)
 宗教団体『楽園の扉』の施設で火災が発生し、教団関係者全員の死亡が確認された。法医昆虫学者の御堂玲子は、アメリカから呼び出された。すべての死体は昆虫に内部を食いつくされていた。その正体不明の虫を調査するためだ。悟の妹・美都子は家出していて、ある日玄関のチャイムが鳴ったので出て行くと、そこには美都子ではなく老婆がいた。山中でその老婆の死体が発見され、持ち物から美都子と分かった。発見者の話では、遺体から多数の虫が出てきて、発光し讃美歌を鳴らしながら木を登っていったという。この虫はグルウと名付けられ、治療方法のない老化病を起こすことがわかった。
 日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。 ものすごくおもしろそうだったが、結局ミステリーというよりはSFだし、尻切れトンボな感じで物足りなかった。

湊かなえ「贖罪」
 2018年5月30日(水)
 空気がきれいというだけが取り柄の田舎の町に大手の工場が進出して、新しい住民も増えた。紗英、真紀、由佳、晶子のクラスにも工場長の娘エミリが入ってきた。地区の近い5人でよく遊ぶようになったが、お盆休みに学校で遊んでいる最中、エミリが作業服の男に手伝いに連れ出され、探しに行くと死んでいた。エミリの母は4人に、「あんたたちを絶対許さない。時効までに犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい。」と言って東京へ去った。そして、成人した4人は連鎖反応でも起こしたかのように、それぞれ殺人を犯してしまう。
 最後まで読むと、エミリの被害も4人の殺人も、発端は一人の人間の性格と行動によるものだったことがわかる。アメリカのエドガー賞ノミネート作品。

渡辺優「ラメルノエリキサ」
 2018年5月23日(水)
 女子高生・小峰りなは、学校の帰り、後ろから腰を斬られた。犯人の顔はフードに隠れてわからなかったが、「ラメルノエリキサのためなんです、すみません」と呟いて逃げた。「お前絶対ぶっ殺すからな!」と叫んで、りなは犯人捜しを始める。りなは幼い頃から復讐の申し子だった。まず疑ったのが、人妻と二股かけられていることがわかって、恥をかかせてふった篠田だが、彼にはアリバイがあった。復讐のため警察にも秘密にして、「ラメルノエリキサ」という言葉の意味を友人の立川に相談する。そうこうするうちに第二、第三の事件が起こる。
 小説すばる新人賞受賞の少女ミステリー。ラストちょっとしたどんでん返しもあったりして、おもしろかった。

河野裕「その白さえ嘘だとしても」
 2018年5月12日(土)
 「自分の不必要な部分」として自分自身によって捨てられた人たちが暮らしている階段島。階段の上に魔女が住んでいて、その魔女がこの島を管理していると言われている。そんな階段島で、ある日商品の発送をキャンセルするというメールが一斉に届き、インターネット通販の商品が届かなくなった。クリスマスを前に、島ではクリスマスの七不思議といううわさが流れていた。七草の小学生時代からの友人・真辺由宇はその一つ、島に来たハッカーがネット通販に障害を起こしたと思い、ハッカー捜しをしようとしていた。同じ寮の佐々岡は女子中学生のためヴァイオリンの弦を手に入れようとしていた。委員長の水谷は皆になじめない真辺にクリスマスプレゼントを考えていた。島の郵便局員・時任は、突然の大量のクリスマス・カードの配達に奔走していた。階段島でいったい何が起きているんだろう…。
 「いなくなれ、群青」に次ぐ、「階段島」シリーズ第2弾。 最大の謎が早くもわかってしまうのだが、別の謎がほのめかされて、次も読みたくなる。伊坂幸太郎の「オーデュボンの祈り」のような世界で、なかなか興味深い。

折原一「異人たちの館」
 2018年5月5日(土)
  純文学とミステリーの新人賞を受賞しながら芽の出ない作家島崎潤一は、出版社の依頼で、宝石店の店主小松原妙子の息子で、8歳で児童文学賞を受賞し天才と呼ばれた小松原淳の伝記を依頼される。小松原淳は富士の樹海で行方不明になり、白骨死体と運転免許証が見つかっていた。島崎が小松原邸で資料を読み、取材に出ると、いつも先回りして取材している中年女性がいた。そして、小松原家では妙子の夫譲二が行方不明になっていた。
 母親の息子への盲目的な愛がキーになっているが、問題はそれが誰のことかということ。作家志望が書く作品内作品、というのもいつも通り。1993年の作品だが、2018年本屋大賞発掘部門「超発掘本」に選ばれている。

宮下奈都「羊と鋼の森」
 2018年4月24日(火)
 たまたま教室にいて、先生に調律師を体育館に案内するよう言われ、調律師が鍵盤をたたく音から森の匂いがして、調律師になろうと思った。ピアノを弾いたこともない、音楽も聴かなかった僕は、紹介された専門学校に二年間通い、その調律師板鳥さんが勤める楽器店で働くようになり、先輩の柳さんについて仕事を覚えていく。ロックバンドでドラムをたたいている柳さん、元ピアノニストで調律師になった冷めた感じの秋野さん、そして著名ピアニストの調律も任される板鳥さんに教えられ、柳さんのお客さんで、異なった演奏をする双子の姉妹と関わることで、調律師として少しずつ成長 していく。
 主人公の過剰にセンシブルな言葉は男性にしては恥ずかしすぎる少女趣味だが、音楽を、ピアノを、音をこんなに言葉で表現できるのかと感心したし、ストーリーもおもしろかった。羊はハンマーのフェルト、鋼は弦のことだ。本屋大賞受賞作。

上田岳弘「私の恋人」
 2018年4月14日(土)
 一人目の私は約10万年前のクロマニョン人で、洞窟に未来を予測したヴィジョンや思想を書き綴っていた。二人目の私はユダヤ人のハンリヒ・ケプラーで、ナチの収容所で超然と死んだ。三人目の私、井上由祐は今、一人目の私の空想の産物であり、二人目の私が独房で思い続けた「恋人」を目の当たりにしている。彼女、キャロライン・ホプキンスは、死を前に「行き止まりの人類の旅」に出た高橋陽平と一緒に旅をし、遺骨を持って日本に来た。
 10万年前の私とか、「行き止まりの人類の旅」とか興味深いのだが、実際書かれていることが、彼女がいまだに心酔しているらしい亡くなった男への嫉妬でしかないような気がして、拍子抜けな感じもする。三島賞受賞作。

小野正嗣「九年前の祈り」
 2018年4月6日(金)
 作者の故郷である大分県のリアス式海岸の入江の町を舞台にした、「九年前の祈り」、「ウミガメの夜」、「お見舞い」、「悪の花」からなる短編集。それぞれの作品に共通する人物名が出て、最後まで読むとこれが連作短編集で、ある人物がキーパーソンだということがわかるけど、それがどうしたという感じもするし、いまいちピンとこなかった。芥川賞受賞作。

太田愛「幻夏」
 2018年3月27日(火)
 十二歳の相馬亮介は、夏休み水沢尚と拓の兄弟と知り合うが、新学期の朝、尚が行方不明になった。私立探偵の鑓水七雄は、水沢香苗という女性から行方不明になった息子、尚の捜索を依頼される。いなくなったというのは二十三年前のことだった。刑事になって交通課に配属されている亮介は、少女の連れ去り事件の応援に駆り出され、その少女が連れ去られた現場で樹皮に刻まれた印を見つける。それは、二十三年前尚が最後に目撃された場所に残されていたものと同じだった。亮介は2つの事件の関連を疑うが、捜査本部は前科のある変質者を逮捕した。亮介と、友人である鑓水は、それぞれ過去の事件を探る。尚たちの父は、殺人事件の犯人として誤認逮捕されて刑を終え、出獄した後尚たちが住む近所で事故死していたことがわかる。
 「相棒」などの脚本を手がけてきた作家の、日本推理作家協会賞候補作。そう言われればテレビドラマっぽい感じもするが、おもしろかった。

額賀澪「ヒトリコ」
 2018年3月17日(土)
 三連休が終わって学校へ行くと、水槽の金魚が死んでいた。その金魚が、担任のお気に入りだった、転校した冬希が残したもので、生き物係の日都子は担任に殴られ、親友やクラスの仲間にもいじめられ、「ヒトリコ」として生きていくことになった。中学に上がり、部活を避けるため、偏屈なおばあさんにピアノを習うようになる。日都子を好きだった明仁は、そんな日都子に関わろうとするが冷たく突き放されるだけだった。高校に入ると、モンスターペアレントの母親から逃れた冬希が帰ってきた。冬希は、変わってしまった日都子や周りの様子に、日都子に声をかけたり、明仁に事情を聞いたりする。
 日都子は、金魚が死ななかったら私は嫌な奴になってたと思う、虐げる側に回って嘲笑って傷つけて、だからヒトリコでいいと言う。それでも、後戻りできない一歩を踏み出そうとし、自分の足跡にさようならと両手を振る時が来る。久し振りにいい感じになれた。小学館文庫小説賞受賞作。

北村薫「太宰治の辞書」
 2018年3月12日(月)
 期待を膨らませた久し振りの《円紫さんと私》シリーズの新作。女子大生、そして新米編者者だった《私》も、中学生の母。中身は、芥川龍之介から太宰治へとめぐる文学談義だった。これなら、小説の主人公の《私》ではなくて作者自身の「私」のエッセイにしてもいいのではないかと思う。それだったら最初から買っていないけど。「白い朝」だけが、謎解きミステリー、といってもおそらく《円紫さん》が中学生の時の出来事。

湯本香樹実「夜の木の下で」
 2018年3月7日(水)
 「緑の洞窟」:庭のアオキは実際は二本の木で、その根元は洞窟のようになっている。そこで双子の病弱な弟と過ごした。弟は小学三年で亡くなった。
 「焼却炉」:ミッション系の女子高で、汚れ物を焼却炉へ持って行くのが私の仕事になり、カナちゃんもつき合うようになった。カナちゃんは出版社で子供の本を作るのが夢で、美大を目指している私に絵本を作ってもらうと言っていたが、父の反対で短大へ進んだ。
 「リターン・マッチ」:いじめられているあいつからケットウジョウが届いた。屋上で巴投げで投げ飛ばすと教えてくれと言われ、それから俺はあいつと付き合うようになった。俺の家では母のせいで姉が家を出た。そしてあいつの母親も…。
 「私のサドル」:同じ塾に通っていた城ヶ崎くんと先生のことが問題になり、泣いていると「私はサドルです」。声をかけてきたのは、母から引き継いでママチャリのサドルだった。
 「マジック・フルート」:一時期預けられた祖父の家にあったピアノを弾きたくて通うようになったピアノの先生の家に、網江という女性がいて、一緒に神社へ行って野良猫に餌をやるようになった。
 「夜の木の下で」:弟は人工呼吸器をつけて眠り続けている。会社の近くで缶チューハイを買って飲んで、自転車で帰る途中タクシーにはねられたのだ。父はいなくて、母も早くに亡くなって、ずっと二人で生きてきた。
 ストーリーをかいつまむと、ちょっと風変わりなだけでどうということもないが、しんみり染みるものがあるし、何気ない表現にきらりと光るものがあって、魅力的だ。

東山彰良「流」
 2018年2月27日(火)
 一九七五年台湾、蒋介石が亡くなった。葉秋生は十七歳。山東省から台湾に逃れてきた祖父、葉尊麟がその翌月殺害された。幼馴染の趙戦雄と悪さを働き、不良の雷威と決闘をし、幼馴染の毛毛と愛し合うようになり、大学受験に失敗して軍隊に入って過酷な訓練を受け、大学にはいり直して日本語を勉強して仕事で日本を訪れるようになり、日本の取引先の通訳、夏美玲と愛し合うようになり、祖父の死の真相を知るため中国へ向かう。なんだこれはという感じだが、ほぼこの通り。審査員大絶賛の直木賞受賞作 だが、どこがおもしろいのだろう。メインテーマがわからない。NHKの朝ドラのようなものか。

恒川光太郎「スタープレイヤー」
 2018年1月31日(水)
 斉藤夕月、三十四歳、無職の私は、住宅街で二メートルぐらいの全身真っ白の男から籤をさしだされ、紙切れを摘まんでだすと、一等、スタープレイヤーとベルを鳴らされた。突然街が消え、見ず知らずの草原にいて、東屋のテーブルに長方形のものが載っていて、触ると文字が現れた。ここは別の惑星で、「スターボード」を使って「十の願い」をかなえることができるという。石松という案内人が現れて、いろいろ助言してくれる。夕月は実家と食料品を呼び出し、ついで野菜を自給できる豪華な庭園を造った。ある日、マキオという男が現れる。彼もスタープレーヤーでタワー村という建造物を造って、他のスタープレイヤーに連れてこられた人々や現地人と一緒に暮らしていた。この世界に、ラズナという国とトレグという国があることを知らされる。
 「幻想的」な作風の著者が書いた「ファンタジー」。おもしろかったが、願いがちょっとやりすぎかなという感じもする。

田中慎弥「宰相A」
 2018年1月21日(日)
 私、作家のTは母の墓参りをして小説のアイデアを得ようと、故郷のO町を訪ねた。駅に到着してホームの案内板を見ると、なぜかアルファベットの「O」の一文字しか書かれていない。すれ違う乗客はアングロサクソン系の人ばかり。切符を自動改札機に通そうとするが通らず、軍に捕らえられてしまう。彼らは日本人であり日本軍だという。第二次大戦後、戦勝国アメリカから入植してきた人々が日本人になり、従来の日本人は旧日本人として居住区に閉じ込められていた。日本はアメリカとともに、「戦争主義的世界的平和主義」に基づいて、世界中で戦争をしていた。そして、私はかつての反逆者「J」に瓜二つで、その再来と思われていた。
 あり得たもう一つの日本を描いたディストピア小説。尻切れトンボの感もあるが、おもしろかった。

知念実希人「螺旋の手術室」
 2018年1月13日(土)
 純正会医科大学付属病院での手術中、出血が止まらず、助手を務めていた冴木裕也の父、准教授の冴木真也が亡くなった。マスコミが医療ミスと騒ぎ立て、裕也の妹真奈美や裕也を不審な男が探りに来た。後日、警察がやってきて、連続殺人事件の被害者の一人が馬淵という医師で、大学の時期教授候補で、冴木真也も候補だったことから関連が疑われるとのことだった。一方、医療ミス騒ぎで入院していた執刀医の海老沢も突然亡くなった。裕也は深夜の血液の検査結果から殺人を疑い、真相を探ろうとする。
 医療ハードボイルドという感じの作品。父と息子、兄と妹のわだかまりも絡めたドラマだが、真相は思いが得ない方向へ転がっていく。おもしろかったが、ただの医師がスパイもどきの調査をしたり、襲ってきた連中を撃退したりという、ハードボイルド特有のお約束には違和感を感じる。

阿川大樹「終電の神様」
 2018年1月5日(金)
 夜の満員電車が突然事故で止まり、そこに乗り合わせた人達の物語に大きく影響するというような触れ込みだが、よく読むと必ずしも七つの短編全てが同一のシチュエーションではないようだし、帰りが遅れることで逼迫するような必然性も感じられない。同じ人物が別の物語に出てくるようなシーンもあるが、そうすると何十年も時間が異なることになる。ちょっと物語に無理がある。無理やり感動をひねり出そうとしているようにも感じられる。「エキナカ書店大賞」とか「amazonミステリー・サスペンス部門第1位」とか書いてあるが、どうだろう。作者は、東大在学中野田秀樹とともに「夢の遊民社」を立ち上げ、その後企業のエンジニアになった人だそうだ。

湊かなえ「豆の上で眠る」
 2018年1月1日(月)
 結衣子が小学一年の時、二歳上の姉、万佑子が行方不明になった。神社の裏山で一緒に遊んで、一人帰る途中で、途中の店のゴミ入れに一緒に食べたアイスの容器が捨ててあり、スーパーには帽子が落し物として届けられ、白い車に乗っていたという目撃情報もあった。結衣子は、母親に猫探しを口実に近所の家を探るよう言われ、学校では仲間はずれになっていく。二年後、神社で少女が保護された。衰弱していて、記憶喪失になっていたが、結衣子を見て「ゆいこ、ちゃん」と言った。結衣子はその少女が万佑子だとは思えなかった。自分のせいで怪我した目の縁の傷もなかった。思い出や好みなどを聞いてかまをかけるのだが、その少女は正確に答えた。母方の祖父がDNA鑑定を提案したが、結果は問題なかった。
 よくある入れ替わりものだが、最後に一ひねりあっておもしろかった。

綾辻行人「殺人鬼−覚醒編」
 2017年12月31日(日)
 〈TCメンバーズ〉という会のメンバー、八名の男女が双葉山の山小屋の前でキャンプファイアを取り囲んでいた。その中の男女二人が散歩に抜け出すと、突然大男に惨殺される。探しに出たメンバーも次々と惨殺されて、山小屋に残ったのは女子大生と中学生の男の子、二人だけになってしまった。男は山小屋に襲い掛かり、二人は外へ逃げ出す。
 とんでもないスプラッタ・ホラーだが、登場人物の独白の後に()囲いでさかさまに同じ言葉が繰り返されるところに、何か違和感を感じる。何の仕掛けだろうか。最後まで読むとやっとその意味が分かり、〈TCメンバーズ〉の意味も分かる。犯人捜しのミステリーではないが、そういう仕掛けかというところのだまされ感がおもしろい。

彩藤アザミ「サナキの森」
 2017年12月27日(水)
 私、荊庭紅は、二十七歳、実家にパラサイトしているインドア女。売れない作家だった祖父が亡くなり、祖父の書斎の本棚の最上段の本を手に取ると、「サナキの森」とあり、最後のページから白い封筒が落ちた。「こうちゃんへ」とあり、遠野市の佐代村という所の神社の岩壁をくり抜いた祠の裏に隠してある鼈甲の帯留めを探して墓に供えに来てください、と書いてあった。盛岡から高速バスで出かけて、その神社へ行くと東条泪子という美少女と知り合う。彼女の家にも曾祖母の遺品に「サナキの森」があり、その龍子が小説のモデルだったらしいことがわかる。龍子は曾祖父の死んだ弟の嫁として冥婚をして東条家に入っていた。そして、東条家では龍子の義母が密室状態の蔵で惨殺されるという事件があった。
 祖父が書いた小説と、現在が並行して進み、猟奇小説のようでもあり、密室トリックのミステリーでもあり、こじれた恋愛小説のようでもあるという、妙な小説でおもしろかった。新潮ミステリー大賞受賞作。

西條奈加「まるまるの毬」
 2017年12月17日(日)
 麹町の裏通りのささやかな菓子店南星屋、主の治兵衛、娘のお永、孫娘のお君の三人で切り盛りし、諸国の珍しい菓子を手頃な値で出しているので、いつも売り切れで繁盛していた。治兵衛は、実は旗本岡本家の次男で、武家の身分を捨てて菓子職人に弟子入りし、諸国を巡ってその土地の菓子屋で働くという暮らしを十六年続けて江戸に戻り店を出した。ある日、奉行所に連れて行かれ、調べを受けた。店で出した印籠カステラが、平戸藩秘伝の「カスドース」という菓子の製法を盗み出したものだという訴えを受けたのだった…。
 家族を巡るトラブルに菓子が絡んで、菓子作りで解決していくという趣向の連作短編集。治兵衛の弟も出家して名刹の住職を務めている。そして、治兵衛にはさらに重大な出生の秘密がった…。吉川英治文学新人上を受賞した人情時代小説。「毬」は「まり」ではなく「いが」と読むのが一つのみそ。まあ、おもしろかった。

高橋弘希「指の骨」
 2017年12月2日(土)
 戦闘で負傷した私は、野戦病院に収容された。そこには負傷した兵やマラリヤに感染した兵がベッドに横になっていた。次第に薬も尽きて、不明の風土病に感染する者もいて、次々と死んでいく。そうすると、衛生兵が指を切って遺品とするのだった。戦況が悪化し、預かった指を背嚢に入れ、病院を出て退却を始める。限りなく歩き続ける兵は次々と倒れ、私も木の幹に背を預け、死を待つことにした。
 三十代の青年が書いた戦場文学として話題になった作品。ニューギニアにおける戦闘のようだ。新潮新人賞受賞作、芥川賞候補作。

柚月裕子「孤狼の血」
 2017年11月23日(木)
 昭和63年、日岡秀一は県警機動隊から呉原東署捜査二課に赴任してきた。上司は大上章吾、暴力団係の班長だ。大上は凄腕のマル暴刑事として有名だったが、暴力団との癒着が疑われ、処分歴も多かった。暴力団系列の金融会社の社員が失踪する事件が起こり、対立する暴力団の抗争が起こる。
 警察小説や暴力小説は元々好きではないが、この作品がなぜ日本推理作家協会賞受賞なのか、まったく理解できない。日本推理作家協会の連中は、頭がおかしいんじゃないだろうか。

薬丸岳「Aではない君と」
 2017年11月4日(土)
 吉永が勤める会社に警察が訪ねてきて、中学生の息子・翼のクラスメートが殺されたという。そして、翼が犯人として逮捕された。妻の純子とは離婚して、翼は純子が育てていた。翼とは時々会っていたが、最近は遠ざけるようになり、事件のあった東村山に引っ越したことも、可愛がっていたペットが亡くなったことも知らなかった。そして、事件の直前にあった翼からの電話にも出ていなかった。翼は、取り調べに何も答えないし、吉永にも弁護士にも何も語ろうとしなかった。弁護士によれば、家庭裁判所の少年審判で処分が決まるが、場合によっては検察に逆送致されて一般の裁判で審判を受けることもあるという。
 少年犯罪の加害者に焦点をあてた作品。亡くなった者は二度と戻らないが、加害者は加害者として生きていかなければならない。雑誌連載は第二章までだったが、単行本化の際第三章が加えられ、さらにつらい展開が描かれている。吉川英治文学新人賞受賞作。

米澤穂信「満願」
 2017年10月29日(日)
 「夜警」は横山秀夫風の警察小説、主人公がエリートではないというところはちがうが。「死人宿」は自殺者がよく出る旅館で見つかった遺書の書いた人探しという謎解きだが、推理というよりは肉体勝負。「柘榴」は容姿に恵まれながら男運の悪い母娘の醜い悲喜劇。「万灯」は仕事のために殺人を犯した男に降りかかる意外な復讐。「関守」は伊豆の峠道で事故が多発する都市伝説の恐ろしい真相。「満願」は学生時代の恩人の裁判に関わった弁護士が抱く疑問。
 山本周五郎賞受賞作にして、「このミステリーがすごい!」、「週刊文春ミステリーベスト10」、「ミステリが読みたい」1位だそうだ。どこかで読んだような話ばかりで独創性は感じられないし、人の心の醜さしか感じられなくて、どこがおもしろいのかまったくわからない。

早見和真「イノセント・デイズ」
 2017年10月21日(土)
 田中幸乃、十七歳のホステスの子として生まれ、養父から虐待を受け、中学時代不良グループに入り、強盗致傷事件を起こして児童自立支援施設に入り、別れた恋人敬介のストーカーとなり、そのパートに放火して母と双子の娘二人を死に至らしめ、死刑判決を受けた。幸乃は、「生まれてきて、すみませんでした」とだけ言い、傍聴席を振り向いて笑みを浮かべた。裁判傍聴オタクから女性刑務官になった佐渡山、幸乃の母が結婚した男の娘、幸乃の義理の姉の陽子、中学時代の友人の理子、幼なじみの慎一、敬介の親友聡、彼らは皆少しずつ真実を知っていたり、疑惑を抱いたりしていた。
 犯人当てミステリーとして読めば、最初のところで察しはつくが、人を惹きつける密かな魅力のある少女が転落した女として報じられて、それを受け入れて死を選ぶ心がやりきれない。日本推理作家協会賞受賞作。 

中村文則「教団X」
 2017年10月13日(金)
 楢崎は、自殺をほのめかして失踪した立花涼子探して、探偵事務所に勤める友人に調査を依頼し、ある宗教団体をたずねた。そこは、松尾という老人の話を聞く会だという。そして、かつて沢渡という男が松尾の資産と集まる人の一部を奪って、名前のない宗教団体”教団X”を作り、立花涼子はその詐欺を働いた一人だという。松尾の講話のDVDを見て屋敷を出た楢崎は若い女から声をかけられ、教団Xに連れていかれる。一方、教団の幹部、高原は外部の何者かの指令を受けて、教祖沢渡を裏切ってテロの準備をしていた。
 様々なコンプレックスを抱えて教団に集まる者たち、日本の右傾化を謀って”外敵”に目を向けさせ、教団を生贄にしようとする政権と警察。2014年の作品だが、今日現在を語っているような内容 だ。ただ、高原が訴えるアフリカなどの飢餓の問題、沢渡のアフリカでの活動での性癖に大きな部分を割いているのは、どうかと思う。

川上弘美「水声」
 2017年9月30日(土)
 わたし、都と陵は一つ違いの姉と弟。私が高校一年、陵が中学三年の時、ママの実家を継いだ武治さんが、パパはほんとうのパパじゃないんだよ、あの二人はきょうだいなんだと教えてくれた。美人ではないが誰もが魅了されたママが死んで十年、地下鉄サリン事件があった年、陵が一緒に住もうと言ってきて、無人だった家に再び住むようになった。そして、眠れないという陵の求めに応じて、一緒に寝るようになる。
 都が十一歳の1969年、ママが死んだ1986年、都と陵が一緒に暮らし始める1996年、そして現在の2014年、時をさかのぼり、その時々の社会の出来事を絡めながら、不思議な家族の物語が語られる。読売文学賞受賞作。

柴崎友香「春の庭」
 2017年9月23日(土)
 「春の庭」:取り壊されて退去することが決まっているアパートで、太郎はベランダから頭を出して隣の家を観察している西さんと知り合った。その家は昔、著名なCMディレクターと女優の妻が住んでいて、西さんはその家の写真集を持っていた。西さんはその家に越してきた家族に取り入って、家に入り込む。ちょっと風変わりな日常を、場所をキーにして淡々を描くだけのいつもの作風。太郎にも西さんにもいろいろな事情があるが、それは作品の背景でしかない。最後、語り手が太郎の姉に替わるが、ピンとこない。なぜか、芥川賞受賞作。
 他に、「糸」、「見えない」、「出かける準備」を収録。「糸」と「見えない」は短編らしい味わいがると言えばある。「出かける準備」は、「その街の今は」の後日譚かもしれない。

竹本健治「匣の中の失楽」
 2017年9月18日(月)
 学生を中心に、ミステリー好きがいろいろな縁で集まった12人のファミリー。年若い双子の兄弟のナイルズが探偵小説を書くと言い出した。設定も登場人物もファミリーそのままの実名小説で、最初に死ぬのは曳間だという。その曳間が倉野のアパートの密室で殺された。ファミリーはそれぞれアリバイを証明しあい、推理を披露するが、今度は真沼がファミリーが集まっている密室から姿を消した。第二章ではいきなり曳間が登場して、第一章はナイルズが書いた小説だとわかる。こんな調子で二転三転、数学、物理、易学その他のうんちくに、こじつけの見立てに、お粗末な推理合戦で、延々800ページ。正直、時間の無駄だった。

有栖川有栖「江神二郎の洞察」
 2017年9月9日(土)
 「瑠璃荘事件」:推理研の望月先輩の下宿で借りたノートがなくなるという事件があり、望月が疑われる。推理研のメンバーは汚名を晴らすべく、犯人探しを始める。
 「やけた線路上の死体」:夏休み、和歌山の望月先輩の実家で過ごすことになるが、鉄道で轢死事故があり、殺人事件らしいのでメンバーは現場を見に行く。
 「蕩尽に関する一考察」:望月先輩が、よく行く書店で本をもらったという。噂だと、店を安値で売りに出し、スナックで椀飯振舞したり、寄付したりしているという。隣家とは長年もめ事があるのだという。いろいろ推理するが、飽きた頃江神先輩が調査を始めた。
 江神二郎シリーズの短編集。英都大学推理小説研究会にアリスが入部して、翌年マリアが入部するまでの事件やエピソードが描かれている。 他に、「ハード・ロック・ラバーズ・オンリー」、「桜川のオフィーリア」、「四分間では短すぎる」、「開かずの間の怪」、「二十世紀的誘拐」、「除夜を歩く」を収録。日常の謎解きミステリー的な作品が多い。

綾辻行人「どんどん橋、落ちた」
 2017年8月26日(土)
 大晦日の夜、突然奇妙な来客があった。名前や顔に覚えはあるが、誰なのか思い出せない。そのU君がノートに書いた小説の犯人当てのようなものを求めてきた。小説と言っても文章も小説の体をなしていないし、登場人物も伴ダイスケ、阿佐野ヨウヂ、斎戸サカエ、リンタロー、タケマル、ポウ、エラリイ、アガサ、カー、ルルウといった人を食ったような名前ばかり。「どんどん橋、落ちた」は不可能犯罪のありえない犯人(?)、「ぼうぼう森、燃えた」は逆のパターン。そして、「意外な犯人」に至っては、犯人を当てても不正解だ。他に、「フェラーリは見ていた」と、唯一 まともだがパロディーの「伊園家の崩壊」。その元ネタは、日曜の夕方になればわかるだろう。
 脱力系犯人当てミステリー短編集。

麻耶雄嵩「さよなら神様」
 2017年8月20日(日)
 二学期に五年のクラスに転校してきた鈴木は、クラスの女の子のリコーダーが盗まれる事件の犯人の名をぴたりと当て、「僕は神様だから」と云い放った。俺、桑町淳が、隣の小学校の先生が殺されて、担任の美旗先生が疑われていることから、犯人の名前を聞くと「犯人は上林護だよ」と言った。幼なじみの市部始に誘われて入った久遠小探偵団の団員上林の父だった。情報通の丸山、霊感少女の比土のメンバーで調査を始めるのだが…。
 次から次と殺人事件が起こり、しかも被害者や犯人と名指しされるのが皆身近な人間で、最初に神様が犯人の名前を言い当てるものだから、言ってみれば後追い捜査をするだけ。この分では、そして誰もいなくなった…となるのではと思ったが。途中でえっと思うようなことが明らかになり、最後にやはりそして誰も…ということになるのだが。本格ミステリ大賞受賞作。まあおもしろかった。

永井するみ「隣人」
 2017年8月15日(火)
 「隣人」:美由紀は猫のサシーがいるだけで幸福だったが、夫の幸介は猫を嫌い養子を迎えようとしていた。実家のある鵠沼で、海に入って溺れかけた美由紀を助けようとして幸介がおぼれて死んだ。
 「伴走者」:派遣社員の好美の次の職場の上司は新庄という女性だ。新庄は好美が付き合っている結城の妻で、浮気相手をつきとめて離婚するからと言われて応募したのだった。
 「風の墓」:妻の時子と義両親から二世帯住宅を迫られている歴史教師の榎木は、逃れて出た街のギャラリーでガラス細工に魅せられ、その作家の女性を紹介されて作業場に通うようになる。
 「洗足の家」:父の運転で母が亡くなり、同乗していた伯母も下半身不随になっていた。結婚が決まって、夜女子会の後洗足の家を訪ねると火が出ていて、伯母は救い出したが、叔父は亡くなった。
 「至福の時」:恭平はスカウトされたモデルのバイトをやる気になって、六本木の事務所を訪れた。そこは、母が車の中で自殺した駐車場の近くだった。
 「雪模様」:紀和は実家の妹を訪れて、妹が買物に出た間に、娘の誓子を連れて旅に出た。誓子は紀和が付き合っていた男と妹の間にできた子供だった。
 6編中5編は不倫もの。4編が殺人もので、2作では事故を装って殺し、残り2作では自分が殺されてしまう。おもしろいことはおもしろいが、ミステリーの首なし死体や連続殺人はどうってことないが、人の悪意を見せられるのは気持ち悪い。「隣人」は小説推理新人賞受賞作。

太田柴織「あしたはれたら死のう」
 2017年8月11日(金)
 矢作遠子が病院で目覚めた時、二年間の記憶を失っていた。二週間前、宇津瀬志信という同級生と橋から飛び降り自殺を図り、助けられたのだ。しばらく休んで高校に登校すると、自分が宇津瀬君を殺したということになっていた。その時の記憶はないが、誰かが橋の欄干に腰掛けて「来て」と手招きして、遠子の手を握ったまま身を投げる夢を見た。コインロッカーに入れていた鞄の中のスマートフォンには、「あしたはれたら死のう」という書きかけの記事が残されていた。
 スマホの履歴やSNSが真相解明のキーになるところが、女子高生らしいところ。いろんな点で意外な事実が明らかになるところがおもしろい、青春ミステリーだ。

村田喜代子「ゆうじょこう」
 2017年8月5日(土)
 青井イチは、十五歳で薩摩の南の硫黄島から熊本の遊郭・東雲楼に売られてきた。いきなり性器を入れられる検分を受け、花魁の東雲のもとで修行することになる。午後は女紅場という娼妓の学校で読み書きや計算を勉強する。お師匠さんの鐵子は、旗本の娘だが落ちぶれて吉原に売られ、熊本まで落ちてきていた。きついなまりの消えないイチだが、作文に日記を書いて提出し、鐵子もそれを読んで感慨に浸るのだった。時代も変化していて、花魁が子供を産んでやめたり、脱走する娼妓が増えたりし、ついに東雲楼の娼妓たちもストライキを始める。
 実際に「東雲楼」という遊郭で娼妓のストライキがあったらしいという伝聞に基づく作品。自然児ともいえるイチの感性が魅力的だし、ストライキの行く末も興味深い。読売文学賞受賞作。

瀬戸内寂聴「風景」
 2017年7月22日(土)
 半分は自伝的な短編で、「デスマスク」は不倫して掛け落ちした、夫の教え子だった男との思い出、「絆」は結婚したばかりの夫と過ごした中国での思い出、同棲していた井上光春と出家前後の思い出。「骨」は夫が急逝した後愛人の親子が現れて鬱病になり、四国遍路に出るという話で、こちらは実話かどうかわからない。「迷路」は青年が四国遍路に出かける話、「悋気」は老夫婦の話で、この2つはちょっとミステリーっぽいところがあっておもしろかった。泉鏡花文学賞受賞作。

坂井希久子「こじれたふたり」
 2017年7月11日(火)
 「かげろう稲妻水の月」:再テストのお願いんで教授室を訪ねた私に、柿崎教授はシュークリームを踏むように頼んだ。柿崎教授は小さな生き物が踏み潰される瞬間に性的興奮を得るというフェティシズムの持ち主だった。
 「チャット・ガール」:バイトからの帰り道、突然声をかけてきたのは、そのバイトのライブチャットの常連客冷凍まぐろだった。同じバイト先の秀輝に頼んで話をつけてもらったのだったが…。
 「素っ裸の王様」:同じ会社の藤原が突然ロハヌーディズムに入れ込み始め、仲間に引き込もうと家中の服を持って行き、そのせいでよりを戻そうとしていた佳苗と会えなかった。
 「虫のいどころ」:同居している崇が、寄生虫で花粉症が治るという話を聞いて、サナダムシを飼おうと、ますずしを大量に食べたり、卵を取り寄せたりするようになった。気持ち悪いので、虫下し効果のある食品を密かに食べさせるのだが…。
 オール讀物新人賞受賞作「虫のいどころ」を含む短編集。意外とおもしろかった。

伊吹有喜「ミッドナイト・バス」
 2017年7月2日(月)
 東京の不動産開発会社で働いていた利一は、子供のアレルギーもあって、故郷の新潟県美越市に帰り、大型車のドライバー、ついで地元の白鳥交通のバス運転手として働いていた。妻の美雪は母と折り合いが悪く、子供を置いて家を出ていた。息子の怜司は東京で就職し、娘の彩菜には結婚を考えている人がいると言われた。利一自身、高速バスの運転で東京へ行った時は、元の職場の上司の娘、志穂の定食屋で過ごしていた。志穂を美越に呼び寄せて家に入ると怜司がいて、驚いた志穂は帰ってしまった。そして、ある日美雪が高速バスに乗り込んできた。父が入院していて、その世話や実家の片づけで時々帰っているのだそうだ。子供たち、そして別れた妻が抱える問題にかかずらううち、志穂との間に隙間ができていく。
 この前の直木賞候補作。ちょっとエピソードが多すぎるかなという感じもするが、おもしろかった。

 

HEART : BAD ANIMALS
CAPITOL RECORDS(1987年)
 
2018年1月14日(日)

  1. Who Will You Run To
  2. Alone
  3. There's The Girl
  4. I Want You So Bad
  5. Wait For An Answer
  6. Bad Animals
  7. You Ain't So Tough
  8. Strangers Of The Heart
  9. Easy Target
 10. RSVP
 デビューした頃のアルバム・ジャケットを見ると、アンとナンシーのウィルソン姉妹が初々しくて、フォークロックぽいイメージなのだが、このアルバムはヘヴィーメタル路線。アルバムは全米2位、シングル「Alone」はナンバー1ヒット、「Who Will You Run To」も7位のヒット。なんといっても、アンのヴォーカルがすごい。「女ロバート・プラント」と呼ばれていたそうだが、「Alone」は身震いするほどだ。フリートウッド・マックの「Tango In The Night」と同じ頃にヒットしていたので、一緒に買ったような気がする。当時はバンドブームだったのだろうか。近所の家に女の子が集まって練習していて、「Alone」を大音量でかけていた。

FLEETWOOD MAC : TANGO IN THE NIGHT
WARNER BROS. RECORDS(1987年)
 
2017年9月10日(日)

  1. Big Love
  2. Seven Wonders
  3. Everywhere
  4. Caroline
  5. Tango In the Night
  6. Mystified
  7. Little Lies
  8. Family Man
  9. Welcome To The Room...Sara
 10. Isn't It Midnight
 11. When I See You Again
 12. You And I, Part U
 フリートウッド・マックといえば、なんといっても1977年にメガヒットした「RUMOURS(噂)」だが、バカ売れしたアルバムほど後になって聴いてみると何であんなものがと思うことが多い。「噂」も(当時から感じていたが)退屈だ。それに比べると、このアルバムは、シングルコレクションかと思うほど、ポップでノリが良くて耳なじみのいい曲満載だ。実際、リンジー・バッキンガムの「ビッグ・ラヴ」、「ファミリー・マン」、クリスティン・マクヴィーの「リトル・ライズ」、「エヴリホエア」、スティーヴィー・ニックスの「セヴン・ワンダーズ」がシングルカットされ、「ビッグ・ラヴ」と「リトル・ライズ」がベスト10入りしている。B面も含めれば、12曲中10曲がシングル発売されたことになる。もちろん、他の曲もヒット曲と言われればそうかと思うような曲ばかり。では、どんなアルバムかと言えば、シングル・コレクションっぽいとしか言いようがない。個人的には、ラジオでスティーヴィー・ニックスの「セヴン・ワンダーズ」を聴いて気に入って買ったアルバムなので、この曲に一番思い入れがある。


ASIA : ASIA
GEFFIN RECORDS(1982年)
 
2015年12月27日(日)

  1. Heat Of The Moment
  2. Only Time Will Tell
  3. Soul Survivor
  4. One Step Closer
  5. Time Again
  6. Wildest Dreams
  7. Without You
  8. Cutting Fine
  9. Here Comes The Feeling
 元キング・クリムゾンのジョン・ウェットン、元イエスのスティーヴ・ハウとジェフ・ダウンズ、元エマーソン・レイク・アンド・パーマーのカール・パーマーが結成したグループということで、非常に注目されたし、興味津々のアルバムだったし、驚異的なヒットも記録した。
 「Heat Of The Moment」ヒットシングル、金管楽器風のイントロで始まる「Only Time Will Tell」も結構気に入っている。どの曲もメロディーがきれいで、シングルっぽい感じ。そこにイエス風、EL&P風の変拍子、転調の入ったイントロや間奏、スティーブ・ハウのエッジの効いたギターが所々にチョコッと入って、確かにたまらない感じだ。ジョン・ウェットンのボーカルはマッチョな感じで、どちらかといえばハイトーンのほうが良かった。2枚目の「アルファ」も買ったが、その後しりすぼみになってしまったような印象がある。

JAMES TAYLOR : JAMES TAYLOR
APPLE RECORDS(1968年)
 
2015年1月16日(金)

  1.Don't Talk Now
  2.Something Wrong
  3.Knocking 'Round The Zoo
  4.Sunshine Sunshine
  5.Taking It In
  6.Something In The Way She Moves
  7.Carolina In My Mind
  8.Brighten Your Night With My Day
  9.Night Owl
 10.Rainy Day Man
 11.Cirlcle Round The Sun
 12.The Blues Is Just A Bad Dream
 記念すべきアップルからのデビューアルバム。曲と曲のつなぎに、室内楽の様な弦楽器、チェンバロ、ハープなどの曲が入っているのは、ビートルズの横やりだろうか。邪魔だ。「サムシング・ロング」、「ノッキング・ラウンド・ザ・ズー」、「ブライトン・ユア・ナイト・ウィズ・マイ・デイ」、「ナイト・アウル」、「レイニー・デイ・マン」は、ダニー・コーチマーと結成したザ・フライング・マシンのデモテープのアルバムに収録されていて、そちらのほうが感じがいい。「サムシング・ロング」は演奏だけだが。「サムシング・イン・ザ・ウェイ・シー・ムーヴス」と「思い出のキャロライナ」も、グレイテスト・ヒッツのセルフ・カバー版のほうがなじみやすい。と言ってしまえば身もふたもないが、ギターは「SWEET BABY JAMES」をほうふつさせる。歌い方にかなり癖があって、この辺は若気の至りだろうか。ビートルズ(ジョン・レノンか?)は、アップルに来た連中は屑ばかりで、失敗だったと言ったそうだが、ビートルズっぽくプロデュースされたほうがかわいそうだと思う。

PETER, PAUL AND MARY : LIVE IN JAPAN, 1967
 WARNER BROS. RECORDS(2012年)
 
2015年1月9日(金)

  1 Sometime Lovin'
  2 No Other Name
  3 The Other Side Of This Life
  4 Good Times We Had
  5 Paul Talk
  6 Puff, The Magic Dragon
  7 Serge's Blues
  8 For Baby (For Bobbie)
  9 If I Had My Way
 10 Don't Think Twice It's Alright
 11 If I Had A Hammer
 12 This Land Is Your Land
  1 When The Ship Comes In
  2 500 Miles
  3 Lemon Tree
  4 Gone The Rainbow
  5 Hurry Sundown
  6 Well, Well, Well
  7 San Francisco Bay Blues
  8 It's Raining
  9 And When I Die
 10 Where Have All The Flowers Gone
 11 Blowin' In The Wind
 12 The Times They Are A'Changin'
 結成50周年記念のリマスター盤制作の過程で見つかった日本公演の音源を収録したCD。1枚目は従来の「IN JAPAN」で、2枚目が未発表曲。「ハリー・サンダウン」、「ウェル、ウェル、ウェル」、「アンド・ホエン・アイ・ダイ」は前作「アルバム」からで、ほかの9曲は既発表のアルバムからで、ベストアルバムと言っていい内容。「レモン・トゥリー」や「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」はギターの奏法がふだんのスリーフィンガー・ピッキングやアルペジオとは違うから、コピーバンドには興味津々だったに違いない。「アンド・ホエン・アイ・ダイ」のマリーさんのヴォーカルは、フォークというよりはシンガー・ソング・ライターという感じだ。「雨降り」では何かハプニングがあったのか、笑いをこらえている様子が聞こえる。「ウェル、ウェル、ウェル」や「時代は変わる」は3人の熱唱、特にマリーさんの高音がすごい。「虹と共に消えた恋」はその頃日本独自にシングルカットされて、「シュール・シュール・シューラルー」というリフレインがヒットしていた。

PETER, PAUL AND MARY : PETER, PAUL AND MOMMY
 WARNER BROS. RECORDS(1969年)
 
2014年12月26日(月)

  1 The Marvelous Toy
  2 Day Is Done
  3 Leatherwing Bat
  4 I Have A Song To Sing, O!
  5 All Through The Night
  6 It's Raining
  7 Going To Zoo
  8 Boa Constrictor
  9 Make-Believe Town
 10 Mockingbird
 11 Christmas Dinner
 12 Puff (The Magic Dragon)
 解散前最後のアルバムになってしまった。子供のためのアルバムで、演奏もフォークソング・スタイルに戻っている。子供たちの歌声が入ったライブ録音の曲も収録されている。「不思議なおもちゃ」と「動物園へ行こう」はフォークシンガー、トム・パクストンの作品で、「動物園へ行こう」は邦訳されて子供番組などでよく歌われていた。「デイ・イズ・ダン」と「メイク・ビリーヴ・タウン」はピーターのオリジナルで、「デイ・イズ・ダン」はシングルヒットしている。「クリスマス・ディナー」はポールの作曲で、ポールらしいセンチメンタルな曲だ。「オール・スルー・ザ・ナイト」、「モッキンバード」はスタンダードな曲で、たぶんほかのアーティストの演奏でも聴いていると思う。PP&Mの持ち歌からは、「パフ」と「雨降り」が収録されている。「パフ」は子供たちの歌声も入ったライブ録音。この翌年、解散してしまった。

PETER, PAUL AND MARY : IN JAPAN
 WARNER BROS. RECORDS(1967年)
 
2014年12月22日(金)

  1 Sometime Lovin'
  2 No Other Name
  3 The Other Side Of This Life
  4 Good Times We Had
  5 Paul Talk
  6 Puff, The Magic Dragon
  7 Serge's Blues
  8 For Baby (For Bobbie)
  9 If I Had My Way
 10 Don't Think Twice It's Alright
 11 If I Had A Hammer
 12 This Land Is Your Land
 1967年の日本公演のライブ盤。日本の聴衆の反応が悪いということで、通訳のMCが入っている。直前の「ALBUM」からの曲が「サム・タイム・ラヴィン」、「人生の裏側」、「グッド・タイムス」、「フォー・ベイビー」の4曲、次のアルバムに収録されたのが「ノー・アザー・ネイム」。「パフ」はピーターが一人で聴衆に歌わせる。当時は気づかなかったが、このライブ盤は5曲がソロだ。「ドント・シンク・トワイス」は高校のギター研究会の先輩がオリジナルアルバムの演奏よりいいと言っていた曲。ラスト、「イフ・アイ・ハド・マイ・ウェイ」と「ハンマーを持ったら」は「イン・コンサート」でもラストを飾っていたデビューアルバムからの力強い曲。「わが祖国」では最後に日本の地名を入れている。それにしても、やはりマリーさんの声はすごい。ソロの曲では低音でハスキーだが、コーラスだととんでもなくかん高く力強い声を出す。

PETER, PAUL AND MARY : IN CONCERT
 WARNER BROS. RECORDS(1964年)
 
2014年12月19日(金)

  1 The Times They Are A Changin'
  2 A'Soalin'
  3 500 Miles
  4 Blue
  5 Three Ravens
  6 One Kind Favor
  7 Blowin' In The Wind
  8 Car-Car
  9 Puff, The Magic Dragon
 10 Jesus Met A Woman
  1 Le Deserteur
  2 Oh, Rock My Soul
  3 Paultalk
  4 Single Girl
  5 There Is A Ship
  6 It's Raining
  7 If I Had My Way
  8 If I Had A Hammer
 PP&M通算4枚目のアルバムは、2枚組のライブアルバム。MCはおもしろいし、ライブ感があって楽しい。アルバム未収録の曲は18曲中11曲。「時代は変わる」と「井戸端の女」は、PP&Mの代表曲の一つと言えるだろう。「ゼア・イズ・ア・シップ」は、「ちっちゃな雀」、「愛は面影の中に」と並んでマリーさんの3大バラードと言える曲。「ブルー」はロックンロールを茶化しておもしろい。「三羽の烏」はPP&Mがよく取り上げているイギリス系のバラード。「ワン・カインド・フェイヴァー」はギターがブルースっぽくてすごいし、「シングル・ガール」のポールのギターはジャズっぽくて感じがいい。「ロック・マイ・ソウル」でのオーディエンスの盛り上げ方もうまい。アルバム収録曲では、「500マイルも離れて」はコード進行に変化を入れて良くなっているし、他の曲もコーラスやギターはライブでも完璧だ。それにしても、マリーさんのヴォーカルは低音から高音まですごい。

PETER, PAUL AND MARY : LATE AGAIN
 WARNER BROS. RECORDS(1968年)
 
2014年12月12日(金)

  1 Apologize
  2 Moments Of Soft Persuasion
  3 Yesterday's Tomorrow
  4 Too Much Of Nothing
  5 There's Anger In The Land
  6 Love City (Postcards To Duluth)
  7 She Dreams
  8 Hymn
  9 Tramp On The Street
 10 I Shall Be Released
 11 Reason To Believe
 12 Rich Man Poor Man
 このアルバムも持っていたはずだが、改めて聴いてみたら驚くことにほとんど聞き覚えがない。かろうじて記憶しているのは、ボブ・ディランの作品で「素敵なロックンロール」という邦題でシングルカットされた「トゥー・マッチ・オブ・ナッシング」、同じくボブ・ディランの「アイ・シャル・ビー・リリースト」、ティム・ハーディングの「リーズン・トゥ・ビリーブ」ぐらいのもの。それも、もっとシンプルな音だったような気がする。ビートルズっぽい音楽をやりたいというポールの志向が強く反映されたそうで、ギターの弾き語り的要素はほとんどないし、音の使いすぎでコーラスも前面に出てこない。エルビン・ビショップ、ハービー・ハンコック、ジョン・サイモン、チャーリー・マッコイなどが参加しているそうだ。

PETER, PAUL AND MARY : ALBUM 1700
 WARNER BROS. RECORDS(1967年)
 
2014年12月5日(金)

  1 Rolling Home
  2 Leaving On A Jetplane
  3 Weep For Jamie
  4 No Other Name
  5 House Song
  6 The Great Mandella (The Wheel Of Life)
  7 I Dig Rock And Roll Music
  8 If I Had Wings
  9 I'm In Love With A Big Blue Frog
 10 Whatshername
 11 Bob Dylan's Dream
 12 The Song Is Love
 この頃からリアルタイムで聴くようになっていて、友達か誰かの家で立派なステレオで聴かせてもらった記憶がある。「ロック天国」がシングルで発表されてかなり話題になった。ママス&パパス風のコーラスがきれいで、風刺が効いていておもしろい。ジョン・デンバーの作品「悲しみのジェット・プレーン」はなぜか2年後シングルカットされて全米1位のヒットとなった。「ノー・アザー・ネイム」はマリーが切々と歌う名曲で、「ハウス・ソング」、「あの娘の名前は」とともにポールの作曲能力が発揮されている。バロック調の「ウィープ・フォー・ジェイミー」、東洋風の「グレイト・マンデラ」もひきつけられる。「ボブ・ディランの夢」も本人が歌うよりは魅力的な曲になっている。前作は全体的にポップス寄りになっていたが、このアルバムではアコースティックギター中心の曲も増えている。アルバムジャケットは「ボニー&クライド」をもじったものらしいが、当時は日本公演の写真を使ったものだった。

PETER, PAUL AND MARY : ALBUM
 WARNER BROS. RECORDS(1966年)
 
2014年11月28日(金)

  1 And When I Die
  2 Sometime Lovin'
  3 Pack Up Your Sorrows
  4 The King Of Names
  5 For Baby (For Bobbie)
  6 Hurry Sundown
  7 The Other Side Of This Life
  8 The Good Times We Had
  9 Kisses Sweeter Than Wine
 10 Norman Normal
 11 Mon Vrai Desitin
 12 Well, Well, Well
 4枚目のアルバムあたりから、カントリー、ブルースを取り上げて、たぶんゲストミュージシャンのリードギターを入れたりしていたが、このアルバムでは大きくポップスの世界に踏み込んでしまっている。当時はわからなかったが、マイク・ブルームフィールド、ポール・バターフィールド、アル・クーパーなどがゲストで演奏している。取り上げている作品も、ローラ・ニーロ、ジョン・デンバーなど、フォークからシンガー・ソング・ライターへと変わっている。時代そのものが変化していたのだった。このアルバムには、本当に美しすぎる曲、かっこよすぎる曲が多い。ハーモニカ、ピアノが入った「サムタイム・ラヴィン」、木管楽器の音が美しい「グッド・タイムス」、フランス語でギターのハーモニックスを多用した「鐘の音にみちびかれて」、ティファナブラス風の「ハリー・サンダウン」、ほろ苦い「ワインより甘いキッス」、ゴスペル風の「ウェル、ウェル、ウェル」、R&Bっぽい「人生の裏側」。ドラムやほかの楽器もが入っても、単なるさわやかフォーク・ロックにならないところが、さすがPP&Mだ。

PETER, PAUL AND MARY : A SONG WILL RISE
 WARNER BROS. RECORDS(1965年)
 
2014年10月26日(日)

  1 When The Ship Comes In
  2 Jimmy Whalen
  3 Come And Go With Me
  4 Gilgarry Mounttain
  5 Ballad Of Spring Hill
  6 Motherless Child
  7 Wasn't That A Time
  8 Monday Morning
  9 The Cuckoo
 10 San Francisco Bay Blues
 11 Talkin' Candy Bar Blues
 12 For Lovin' Me
 PP&Mの4枚目のアルバム「A SONG WILL RISE」。ヒット曲もフォークのスタンダードナンバーもないが、前3作で人気が定着しているので、意欲的なアルバムとなっている。2つのゴスペルを結合した「カム・アンド・ゴー・ウィズ・ミー」、ジェームス・テイラーも取り上げている「マンデイ・モーニング」、スリーフィンガーピッキングがかっこいい「カッコー鳥」、エリック・クラプトンが「アンプラグド」で歌っている「サンフランシスコ湾ブルース」などは、ファンの間では人気の高い曲だと思う。このアルバムから3人のソロ曲が収録されていて、ピーターは脱力系の「ギルギャリー・マウンテン」、ポールは今のラップにつながる「トーキング・キャンディー・バー・ブルース」、そしてマリーは名曲「母のない子」を歌っている。イギリス系のトラディショナルソングが多いのも特徴だ。PP&Mっていうのはフォークとイメージする以上に、ゴスペル、ジャズ、ブルース、といろんな曲を演奏していて、ギターも結構難しい。

PETER, PAUL AND MARY : IN THE WIND
 WARNER BROS. RECORDS(1963年)
 
2014年10月19日(日)

  1  Very Last Day
  2  Hush-A-Bye
  3  Long Chain On
  4  Rocky Road
  5  Tell It On The Mountain
  6  Poly Von
  7  Stewball
  8  All My Trials
  9 Don't Think Twice, It's Alright
 10 Freight Train
 11 Quit Your Low Down Ways
 12 Blowin' In The Wind
 PP&M3枚目のアルバム。シングルヒットした「くよくよするな」と「風に吹かれて」のほか、「クイット・ユア・ロウ・ダウン・ウェイズ」とボブ・ディランの曲が3曲取り上げられている。PP&Mの「風に吹かれて」のヒットで、ボブ・ディラン自身フォークシンガーとしてメジャーな存在になったそうだ。ほかに、童歌の「ハッシャ・バイ」、ゴスペルの「ヴェリー・ラスイトデイ」、「私の試練」などが入っている。PP&Mのギターというと、スリーフィンガーピッキング、アルペジオ、コードストロークと単純な感じだが、このアルバムではオブリガートやハーモニックス、いろんな技法が入っていて、こんなのコピーしたのかなと思い出せない。

PETER, PAUL AND MARY : MOVING
 WARNER BROS. RECORDS(1963年)
 
2014年10月13日(月)

  1  Settle Down (Goin' Down That Highway)
  2  Gone The Rainbow
  3  Flora
  4  Pretty Mary
  5  Puff, The Magic Dragon
  6  This Land Is Your Land
  7  Man Come Into Egypt
  8  Old Coat
  9 Tine Sparrow
 10 Big Boat
 11 Morning Train
 12 A'Soalin'
 PP&Mのデビュー2作目のアルバム。何といっても、彼らの代表曲「パフ」が収録されている。スタンダードな曲としては、「虹とともに消えた恋」、「わが祖国」。前者も彼らの代表曲といえる。ほかに、マリーさんの歌とギターのアルペジオが魅力的な「ちっちゃな雀」、ポールのギターが驚異的な「ア・ソーリン」が入っている。驚くことに、擦り切れるほど聴いていたはずなのに、ほかの曲はあまり印象がなくて新鮮に聴こえた。ギターでコピーする曲だけ熱心に聴いていたのかもしれない。かわいいタイトルがついていても、シニカルな歌詞の曲が多い。それと、PP&Mって意外とゴスペルが多かった。

TEARS FOR FEARS : SONGS FROM THE BIG CHAIR
  PHONOGRAM LTD.(1985年)
  2012年1月9日(月)

 1  Shout
 2  The Working Hour
 3  Everybody Wants To Rule The World
 4  Mothers Talk
 5  I Believe
 6  Broken
 7  Head Over Heels/Broken (Live)
 8  Listen
 MTVで「Everybody Wants To Rule The World」を聴いていると、おしゃれで軽いポップデュオという印象だが、サウンドはかなりへヴィーで、プログレっぽくもある。しかし、やはりメロディーはきれいで親しみやすいし、ヴォーカルはグラム系な感じ。ROXY MUSIC見たいな感じもする。イギリスじゃないとこんな音楽は出てこないなと思う。同じくヒットした「Shout」も素晴らしい。歌詞もグッとくるものがある。誰も聞いていなければほんとうにShoutしたくなる。おそらく、この曲を聴いてCDを買ったんだと思う。他の曲もそれぞれ特徴的で、改めて聴くと記憶に鮮やかによみがえる。

LINDA RONSTADT : GREATEST HITS
  ASYLUM RECORDS(1976年)
  2011年12月18日(日)

  1 You're No Good
  2 Silver Threads And Golden Needles
  3 Desperado
  4 Love Is A Rose
  5 That'll Be The Day
  6 Long, Long Time
  7 Different Drum
  8 When Will I Be Loved
  9 Love Has No Pride
 10 Heat Wave
 11 It Doesn't Matter Anymore
 12 Tracks Of My Tears
 カントリーガールっぽい容姿と元気な歌声が特徴のウェストコーストの歌姫。「You're No Good(悪いあなた)」、「When Will I Be Loved」、「That'll Be The Day」、「Heat Wave」がヒット曲。後者2曲がリンダらしい曲と言えるだろうか。この中では「Heat Wave」がいちばんお気に入り。イーグルスの「Desperado」と「Love Has No Pride」はしんみりするバラード。ロックンロール、バラード、カントリー混ぜ込んだのがこの頃のリンダの魅力だった。何か足りないなと思ったら、「It's So Easy」と「Just One Look」はこの後のヒット曲だった。このベスト集に含まれる「Heart Like A Wheel」、「Prisoner In Disguise」、「Hasten Down The Wind」と、その後の「Simple Dreams」、「Living In The U.S.A. 」、「Mad Love」が全盛期だったので、この6枚をまとめてくれればいいのだが。
 この古いLPのジャケットには隅に丸い穴があけてある。レコード会社が広告代理店にプロモーション用に配布したもので、最初に勤めた会社でもらってきた。そういう意味でも懐かしい。

HUEY LEWIS & THE NEWS : FORE!
  CHRYSALIS RECORDS(1986年)
  2010年6月27日(日)

  1 Jacob's Ladder
  2 Stuck With You
  3 Whole Lotta Lovin'
  4 Doing It All For My Baby
  5 Hip To Be Square
  6 I Know What I Like
  7 I Never Walk Alone
  8 The Power Of Love
  9 Forest For The Trees
 10 Naturally
 11 Simple As That
 全米No.1ヒットアルバム。そして、1.「Jacob's Ladder」、2.「Stuck With You」、8. 「The Power Of Love」がNo.1ヒットシングル、4.「Doing It All For My Baby」、5.「Hip To Be Square」、6.「I Know What I Like」も10位以内のヒットシングル。11曲中6曲がヒットしているんだから、ベストアルバムを聴いているようなものだ。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で大ヒットした「Power Of Love」はボーナストラック。5.「Hip To Be Square」とイントロがそっくりだから、同じアルバムに入れるはずがない。シングルカットの残りの曲はどうかというと、コーラスの決まった3.「Whole Lotta Lovin'」、ドゥーワップの9.「Naturally」はいいし、7.「I Never Walk Alone」、9.「Forest For The Trees」もなかなかの佳作である。
 やはり、「The Power Of Love」を聴くと、その時代が思い出される。まだ30代前半、一応ヤングだった。ストレートで骨太なアメリカン・ロック。HUEY LEWISの嗄れ声は、まさにオッサンバンドという感じ。元気が出る音楽だが、聴き続けていると疲れて飽きてくるのも事実。

THE DOOBIE BROTHERS : BEST OF THE DOOBIES
  WARNER BROS. RECORDS(1976年)
  2010年6月13日(日)

  1 China Grove
  2 Long Train Runnin'
  3 Takin' It To The Streets
  4 Listen To The Music
  5 Black Water
  6 Rockin' Down The Highway
  7 Jesus Is Just Alright
  8 It Keeps You Runnin'
  9 South City Midnight Lady
 10 Take Me In Your Arms
 11 Without You
 1975年、アルバム「STAMPEDE」とシングル曲8.「Take Me In Your Arms」がヒット、そして76年イーグルスと相次いで来日し、ベスト盤も発売されて、ウェストコーストが大ブームとなっていた。
 ベスト盤ではあるが、一応オリジナル、ドゥービー7作目のアルバム。1.「China Grove」はノリノリのアメリカンロック。リズムギターは左右のスピーカーからステレオで響き、リードギターも当然ハモリ。そして、パワフルなトム・ジョンストンのヴォーカル。2.「Long Train Runnin'」、6.「Rockin' Down The Highway」、11.「Without You」も同じような曲。イーグルスといえば「Take It Easy」、そしてドゥービーといえば4.「Listen To The Music」。5.「Black Water」と9.「South City Midnight Lady」はアコースティックでレイドバックした感じの毛色の違った曲。これもいい。6枚目のアルバム「TAKIN' IT TO THE STREETS」では、スティーリー・ダンからマイケル・マクドナルドが加入し、音楽性ががらりと変化する。3.「Takin' It To The Streets」と8.「It Keeps You Runnin'」がそれ。とくに後者は真夏の白昼の街を感じさせてお気に入りの1曲。マイケル・マクドナルドはユニークなリズムパターンを作るのがうまいようだ。
 テレビでライブを見たことがあるが、旧ドゥービーの曲も新ドゥービーの曲も、全く何の違和感もなく演奏していて、器用なものだと思った。

BOSTON : BOSTON
  CBS Inc.(1976年)
  2010年6月6日(日)

  1 More Than a Feeling
  2 Peace Of Mind
  3 Foreplay/Long Time
  4 Rock & Roll Band
  5 Smokin'
  6 Hitch A Ride
  7 Something About You
  8 Let Me Take You Home Tonight
 70年代後半大ヒットしたグループ。ボストンといえば、トム・ショルツ、そしてMIT。トム・ショルツ一人の多重録音による分厚いギターサウンド、そしてブラッド・デルプのハイトーンのヴォーカルとハーモニー。マニアックな音作りだ。爆発した惑星から都市ごとギター型のUFOで避難するアルバムジャケットから、「幻想飛行」という邦題がつけられ、同じく「宇宙の彼方へ」と名付けられた1.「More Than a Feeling」も大ヒットした。左右のスピーカーから響くギターのメロディーに続くリズムパターンや間奏のギターは本当にカッコいい。2.「Peace Of Mind」もヒットしたように思う。アメリカン・ハード・プログレと呼ばれたりもしたが、3.「Foreplay」がちょっとYESっぽいだけで、基本的にはロックンロールである。5.「Smokin'」がどことなく「スモーキン・ブギ」っぽいのがおもしろい。7.「Something About You」のギター・イントロも感じがいい。
 2年後の「DON'T LOOK BACK」も大ヒット、そしてほとんど誰もが忘れていたその8年後に「THIRD STAGE」もNo.1ヒットとなった。

THE POLICE : SYNCHRONICITY
  A&M RECORDS(1983年)
  2010年5月30日(日)

  1 Synchronicity I
  2 Walking In Your Footsteps
  3 O My God
  4 Mother
  5 Miss Gradenko
  6 Synchronicity II
  7 Every Breath You Take
  8 King Of Pain
  9 Wrapped Around Your Finger
 10 Tea In The Sahara
 大ヒットアルバムで、6.「Every Breath You Take」(邦題:見つめていたい)も大ヒットした。このギターのアルペジオパターンはかなり真似されたような気がする。繰り返し聴いたわけでもないが、手持ちのLPは最初のコーラスのところで針飛びしてしまう。緊張感のある1.「Synchronicity I」もいいが、LPで言うところのA面はエキセントリックな曲が続いていて、6.「Synchronicity II」まで来ると、ポリスっぽいカッコよさが感じられる。レゲエ曲の9.「Wrapped Around Your Finger」もよく聴いた。
 それにしても、あまりにもヒットしてしまうと、後がなくなってしまうのだろうか。この後活動停止してしまった。

PRINCE : PURPLE RAIN
  WARNER BROS. RECORDS(1984年)
  2010年5月22日(土)

 

  1 Let's Go Crazy
  2 Take Me With U
  3 Beautiful Ones
  4 Computer Blue
  5 Darling Nikki
  6 When Doves Cry
  7 I Would Die 4 U
  8 Baby I'm A Star
  9 Purple Rain
 なんでこんなアルバム買ってしまったんだろう。あまりのヒットと話題で、一応押さえておかなくちゃとでも思ったのだろうか。いや実際は、プロモーションビデオで見た1.「When Doves Cry」や9.「Purple Rain 」に衝撃を受けたのだった。映画「PURPLE RAIN」のサウンドトラックということで、映像が印象的だった。ギターの演奏もジミ・ヘンドリックス並みに衝撃的だったような記憶がある。「When Doves Cry」の東洋風のイントロとか、No.1ヒットとなった1.「Let's Go Crazy」のラストの部分とか。Uはyou、4はforを表す特有のつづり。天才か変態か。その後「元プリンス」を名乗ったり、「プリンス」に戻ったりしているが、音楽はラジオで流れれば聴く程度。自分にとっては、このアルバム1枚が記念碑的な存在になっている。
 それにしても、年をとるとこういう音楽を聴くのは疲れる。

DURAN DURAN : RIO
  CAPITOL RECORDS(1982年)
  2010年5月16日(日)

 

  1 Rio
  2 My Own Way
  3 Lonely In Your Nightmare
  4 Hungry Like The Wolf
  5 Hold Back The Rain
  6 New Religion
  7 Last Chance On The Stairway
  8 Save A Prayer
  9 The Chauffeur
 ルックスでブームになっているアイドルグループのアルバムを買うのはなかなか恥ずかしいものだが、この頃はまだ20代だったし、8.「Save A Prayer」はどうしても聴きたい曲だった。ヴィブラ―トの効いたシンセサイザーの音、4度のコーラスが神秘的な雰囲気を出している。ちょっとプログレっぽい。こういう音楽というかグループというか、ニューロマンティックスとか、エレクトロポップスとか呼ばれていたらしい。要するにポップなテクノでヴィジュアル系ということだ。ROXY MUSICなんかと比べると、やはり子供っぽい。ヴォーカルはデビッド・ボウイ以来のビジュアル系特有の唱法。1.「Rio」や4.「Hungry Like The Wolf」も大ヒットした。このグループの曲は、同じフレーズの繰り返しが多い。他に、2.「My Own Way」もシングル曲。9.「The Chauffeur」も印象的な曲だ。
 正直、ロックはヴィジュアルが良くなければ魅力がないと思っている。

MICHAEL BOLTON : SOUL PROVIDER
  CBS RECORDS(1989年)
  2010年5月9日(日)

 

  1 Soul Provider
  2 Georgia On My Mind
  3 It's Only My Heart
  4 How Am I Supposed To Live Without You
  5 How Can We Be Lovers
  6 You Wouldn't Know Love
  7 When I'm Back On My Feet Again
  8 From Now On (Duet With Suzie Benson)
  9 Love Cuts Deep
 10 Stand Up For Love
 「How Am I Supposed To Live Without You 」はNo.1ヒットとなった曲で、グラミー賞も受賞した。グラミー賞かMTVかはっきりしないが、授賞式でケニー・Gのサックスだけをバックに歌った演奏が印象的だった。ソロ・ロックシンガーかと思っていたら、実はシンガー・ソング・ライターで、ほとんどの曲が自作。例外の一つがスタンダードの「Georgia On My Mind」で、ラストの”泣きのシャウト”が魅力的。この人の魅力はこの一言に尽きる。他に、アルバムタイトル曲「Soul Provider」、「How Can We Be Lovers」、「When I'm Back On My Feet Again」などもヒットした。女性歌手とのデュエット曲「From Now On」もいい感じ。
 この頃の音楽は、ヴィブラフォンのようなキーボード、甘い響きのギター、ソフトなサックス、効きすぎたエコーの感じとか、どのグループのアルバムを聴いても同じようなサウンドだ。80年代はロックがポップス化してMTVによってばらまかれた時代なので、これがその時代の音なのだろうとは思う。心地いいことは心地いい。

U2 : WAR
  ISLAND RECORDS LTD.(1983年)
  2010年5月5日(水)

 

  1 Sunday Bloody Sunday
  2 Seconds
  3 New Year's Day
  4 Like A Song...
  5 Drowning Man
  6 The Refugee
  7 Two Hearts Beat As One
  8 Red Light
  9 Surrender
 10 "40"
 グラミー賞の常連、商業的にも大成功した超ビッグバンドとしてブレークする前の、初期の代表作。バンド名もアルバムタイトルも、そしてジャケット写真も衝撃的だったし、ヴォーカルのBONO、ギターのTHE EDGEという名前も風変わり。
 このアルバムを買うきっかけになったのは、MTVで聴いた「New Year's Day」。非常に印象的な曲だった。アイルランド紛争、「血の日曜日」を歌った「Sunday Bloody Sunday」も強烈だ。掘立小屋で録音したのかと思うような荒削りなサウンド、BONOの独特な鼻声のシャウト、THE EDGEの文字通りエッジの効いたギター、そして全編悲痛な叫び。ここから、「THE JOSHUA TREE」の成功はどうしても想像できないのだが。

バッハ : インヴェンションとシンフォニア 2010年2月21日(日)

ヘルムート・ヴァルヒャ(チェンバロ)

録音:1961年

 昔、FM−77というパソコンにFM音源セットというオプションがあって、そのデモ曲の中にチェンバロの曲があって、かなり気に入っていた。前奏曲とフーガ○短調という曲だと記憶していて、いろいろ探したが見つからなかった。有名な曲のはずなのにどうしてないのかと思っていたが、ネットでバッハの短調のチェンバロ曲をしらみつぶしに視聴していたら見つかった。「2声のインヴェンション第13番イ短調」だった。ピアノを習う人なら必ず弾くそうだからすぐにわかっただろうが。そこはかとなく悲壮感が漂い、わずか1分30秒の短い曲だが強く印象に残る。
 第1番ハ長調も、実はFM−7というパソコンのデモ曲だった。これも印象的な曲。パソコンからの連想のせいか、理知的な雰囲気のする曲だ。富士通のパソコン開発技術者の中に、バッハマニアがいたのかもしれない。通勤の車で通して聴いていると、他にもこれいいなと思う曲が見つかる。たとえば、「3声のシンフォニア第11曲ト短調」とか。

RICHARD MARX : REPEAT OFFENDER
  EMI-USA (1989年)
  2009年7月12日(日)

  1 Nothin' You Can Do About It
  2 Satisfied
  3 Angelia
  4 Too Late To Say Goodbye
  5 Right Here Waiting
  6 Heart On The Line
  7 Living In The Real World
  8 If You Don't Want My Love
  9 That Was Lulu
 10 Wild Life
 11 Wait For The Sunrise
 12 Children Of The Night
 個人的には記念碑的な作品。FENの「American Top 40」とかFM東京の「ポップス・ベスト10」とかテレビ朝日の「ベストヒットUSA」とかのチャート番組で、これはという曲があると買いに出かけていたのだが、その最後になったのがこのアルバム。番組がなくなって、代わりに聴くようになったJ−WAVEの「TOKYO HOT 100」の選曲が気に入らなくて、ヒットチャートから離れてしまったのだ。
 10代の頃からプロとして作曲していたリチャード・マークスのデビュー2作目。どの曲もシングル曲かと思うほど出来がいい。実際のシングルヒットは、2.「Satisfied」(No.1)、3.「Angelia」、4.「Too Late To Say Goodbye」、5.「Right Here Waiting」(No.1)、12.「Children Of The Night」の5曲。「Right Here Waiting」はピアノのイントロが印象的で大ヒットしたバラードだが、個人的には「Angelia」の絶唱とギターサウンドがお気に入り。ベスト物を買うくらいなら、これ1枚を買ったほうがはるかにお得だ。

ROY ORBISON : MYSTERY GIRL
  VIRGIN RECORDS AMERICA (1989年)
  2009年6月25日(木)

  1 You Got It
  2 In The Real World
  3 Dream You
  4 A Love So Beautiful
  5 California Blue
  6 She's A Mystery To Me
  7 The Comedians
  8 The Only One
  9 Windsurfer
 10 Careless Heart
 1960年代に活躍した、オールディーズに近いポップスターが、ELOのジェフ・リンのプロデュースでよみがえった。ほとんどの曲が愛をうたったもの。1.「You Got It」は大ヒットしたノリのいいロックンロール。2.「In The Real World」と4.「A Love So Beautiful」はセンチメンタルなバラード。後者はELOらしいオカズつき。5.「California Blue」と9.「Windsurfer」は浜辺でビールでも飲みながら聴きたい感じ。特に前者はラテンっぽい雰囲気もあっていい。10.「Careless Heart」はスケール感のある伸びやかなミディアムバラード。どの曲も高音の美声が魅力的だ。夏休みにふさわしい明るさと開放感もある。
 このアルバムは、1988年に心臓発作で亡くなった後発表された遺作。素晴らしい作品なので、実に惜しいことだった。それにしても、20年以上前のスターが現役で復活できるアメリカのポップ ス界はうらやましいものだ。といっても、このアルバム自体20年前のものになってしまった。36歳、ジョギングを始めた年だ。 そんな昔の曲だとは思えない。光陰矢のごとし。

PETER, PAUL & MARY : SEE WHAT TOMORROW BRINGS
 WARNER BROS. RECORDS(1965年)
 
2008年11月3日(月)

  1. If I Were Free
  2. Betty and Dupree
  3. Rising of the Moon
  4. Early Morning Rain
  5. Jane Jane
  6. Because All Men Are Brothers
  7. Hangman
  8. Brother, Can You Spare a Dime?
  9. First Time Ever I Saw Your Face
 10. Tryin' to Win
 11. On a Desert Island (With You in My Dreams)
 12. Last Thing on My Mind
 モダン・フォーク・トリオ、PP&M5枚目のアルバム。洋楽を聴くようになったきっかけが、4曲目の「Early Moring Rain(朝の雨)」、ゴードン・ライトフットの名曲だ。一方が長調、一方が単調を弾くことで微妙な響きを出すギター、ニヒルなポールのヴォーカルとコーラスごとにパターンが変化する対位法的なハーモニー。中学生の頃、初めて聴いて一瞬でジーンとしびれてしまった。7曲目「Hangman」はスリー・フィンガー・ピッキングが決まった曲。9曲目「First Time Ever I Saw Your Face」はロバータ・フラックでヒットした曲だが、こちらのほうが薫り高い。5曲目「Jane Jane」は2つの童歌を組み合わせたPPMらしい曲。このアルバムにはリズム&ブルース色が出てきているが、「Betty and Dupree」もそんなノリのいい曲。アルバムタイトルは、この歌詞からとられたものだ。
 秋風に乗ってフォークが聴こえてくる。そんな秋の一日。

フォーレ : 「夢のあとに」 2008年9月28日(日)

ヨゼフ・スーク(ヴァイオリン)
ヨゼフ・ハーラ(ピアノ)

録音:1990年

 長いこと気になっていたメロディー。銀座の山野楽器へ立ち寄った時たまたま流れていて、女子大生風の二人が「これは誰?」「フォーレよ」と会話していた。そうか、フォーレだったかと探してもなかなか見つからず、ならば小品集かとあたってみたら見つかった。
 悲しい夢で目覚めた、午後のまどろみの後のような物憂いメロディー。この曲も、秋の曇り空にふさわしい一曲。演奏はもう少し地味なほうがいいが、収録されているCDがあまりなかったので。

ドビュッシー : ベルガマスク組曲 第3曲「月の光」 2008年7月11日(金)

ミシェル・ペロフ(ピアノ)

録音:1979年-1980年

 久し振りの「music」更新。軽い鬱症なのか、いつも頭が晴れず、音楽を聴く気になれなかった。夏の定番は、ピアノ曲。弦の音は暑苦しい。
 ドビュッシーの音楽は、フランスの詩人マラルメのように無機質で聴きづらいものが多いが、この組曲は詩的な雰囲気があって親しみやすい。「月の光」はその中でも、最もポピュラーな曲。いろいろな楽想が流れるが、夢へ誘うような冒頭部分から、降り注ぐ月の光、揺れる光の波紋といったイメージで続いていく。
 曲想を得たとされるヴェルレーヌの「Clair de lune」は、「おりしも彼らの歌声は月の光に溶け、消える、 /枝の小鳥を夢へといざない、/ 大理石の水盤に姿よく立ちあがる/噴水の滴の露を歓びの極みに悶え泣きさせる/かなしくも身にしみる月の光に溶け、消える。」(堀口大學訳)

GENESIS : AND THEN THERE WERE THREE
 CHARISMA RECORDS(1978年)
 2008年1月11日(金)

  1. Down And Out
  2. Undertow
  3. Ballad Of Big
  4. Snowbound
  5. Burning Rope
  6. Deep In The Motherlode
  7. Many Too Many
  8. Scenes From A Night's Dream
  9. Say It's Alright Joe
 10. Lady Lies
 11. Follow You Follow Me
 主要メンバーが次々と脱退して、トニー・バンクス(キーボード)、フィリップ・コリンズ(ドラム)、マイク・ラザフォード(ベース)の3人だけになったことを端的に表すタイトル。アルバム全体を通して、深い霧のようなキーボード、プログレッシブ・ロックらしい変拍子、抒情的なメロディーとフィル・コリンズのウェットなボーカルで、独特のミステリアスで寒々しい雰囲気を出している。
 どの曲も同じような感じで、特にこの曲がということはないのだが、アフロっぽいリズムのイントロで始まる「Follow You Follow Me」は、FMのベストテン番組でもよくかかっていたポップな曲。この頃は、プログレ・バンドがよくヒット曲を出していた。プログレだからといって、長大な曲で、意味不明の歌詞、頭に残りようもない複雑なリズムやメロディーでなければならないというこだわりは、個人的にはないのでけっこう気に入っている。