ピンクの花びら





 ハンターズの一員になってラグオルに降り立つようになってどのくらい経ったのだろう。
 まだ一人だった頃は辛い冒険も、いつしか仲間を得て、行った事のない深い場所へと潜って楽しい旅を繰り返した。
 快い時間。
 ほど良い高揚感。
 敵は強く、足手まといになってばかりだったけれど、とても楽しい時間を過していた。

 ニューマンの私は前線で戦うハンターか魔法で戦うフォースしか選択肢がなかったけれど、ハンターズになりたいと思い始めた時から大剣で戦うハンター達に憧れていたから迷うこともなかった。
 そうして今、私はハンターズスーツで身を包み、大剣を手に戦地に赴いている。
 ハンターズの一員になって受け取ったハンターズスーツは、ピンクと白で設えられたものだった。
 私の髪はピンク色をしていたから、自分でも良いと感じていた。
 初めて渡されたマグは茶色だったけれど、ラグオルで知り合ったフォーニュエールがきっと似合うと言ってピンク色のマグをプレゼントしてくれた。
 貰った時は「ただ」のマグだったけれど、今ではヤクシャとなって私の背中で一緒に戦ってくれている。
 ピンクの髪に、ピンクの服、そしてピンクのマグ。
 まるで桜のように・・・。

 季節は移り変わり、何度目かの桜のホログラムがパイオニア2のロビーを飾っている。
 キラキラと光を受けて輝く桜の花びらが無機質なロビーを彩っていた。
 桜の木の下に立ち、ふいに見上げると、まるで自分に桜の花びらが向かって来るような不思議な感覚に襲われた。
 桜色の私が、桜色で埋め尽くされたら・・・。
 そっと手を伸ばすけれど、光る花びらは手に触れることなく床まで舞い落ち、降り積もることなく消え去ってしまう。
 それでも見上げれば次々と花びらは舞い落ちてくる。
 それこそ24時間、休むことなく。
 いつか・・・本物の桜の花びらに触れる事が出来るのだろうか。
 いつか・・・地上が危険な場ではなくなる日が来るだろうか。
 いつか・・・皆が幸せになれる日が・・・来るだろうか・・・。

 「サクラ!」
 突然名前を呼ばれて振り向くと、いつも一緒に冒険してくれるレイマーさんが手を振りながら近付いて来るところだった。
 「こんばんは〜」
 振り向きながら挨拶をすると、彼は少し不思議そうな顔をしていた。
 「そんな所で何してるの?」
 ホログラムの桜の木に向かって手を伸ばしている姿は、遠くから見ても不思議な光景だったに違いない。
 「なんとなく・・・触れるかなぁって見てたの」
 正直に答えると、軽い笑い声と共に「触れたらきっとロビーが花びらで埋め尽くされちゃうね!」と言われた。
 触れる事が出来たらそれは質量を持っているという事だから、そのまま降り積もっていつかはロビーが花びらでいっぱいになってしまう。
 「ロビーが花びらで埋め尽くされたら私達は中に入れないよね〜」
 「受付の人たちなんか埋まっちゃうよ!」
 なんて他愛のない会話をしていると、次々にロビーに仲間が集まって来た。

 しばらくは談笑していたのだけれど、
 「そろそろ行こうか!」
 そう切り出したのはフォニュームさんだった。
 「はいっ!」
 私は今日も皆と戦地へと赴く。
 まだまだ足手まといになってしまうけれど、皆と一緒に戦場へと行ける事が何よりも嬉しい。
 ラグオルへと向かう手続きをしている間も、背後では光の花びらが舞い落ち続けている。
 止まることなく。
 ラグオルで戦っている間も止むことなく降り続けるだろう。
 戦いに身を置き、荒れてしまった心と身体を癒してくれる桜の花びら。
 キラキラとロビーを彩るピンクの花びら。
 これからどんなに季節が移り変わっても、変わること無いこの場所、人、空間。
 私は忘れない。
 忘れる事の出来ない、大切な思い出になるのだろう。
 この戦いに身を投じる事になった運命を呪った事もあったけれど、今では感謝しているくらい。
 ありがとう。
 いつか、きっと、私はあの場所に立ってみせる。





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