今は昔の物語





 昔、ある人とパーティを組んでいた。
 パーティと言ってもパートナーではなく、いつも気が付くと一緒のチームになっていただけの関係だった。
 それだけの関係・・・そんな言葉で終わらせられるなら、こんなに苦しむ筈はないのに・・・。
 あの人の戦うスタイルは私に真似出来ないもので、密かに憧れを感じていた。
 その憧れが恋心に変わるのに、然したる時間はかからなかった。
 一緒に冒険出来る事が嬉しかったし幸せだった。
 側に居られるだけで良かった。
 あの人も、一時は私を受け入れてくれた。
 それがあの苦しみを私に与えたのかも知れない・・・。

 歯車は突然狂い始めた。
 他の冒険仲間からあの人に関する話を聞いた時に、決定的なものになった。
 「あいつ結婚するらしいな」
 彼女が居る事すら知らされてなかった私の世界は・・・崩壊した。
 今までの私は何だったのだろう。
 あの人にとって、私はどんな存在だったのだろうか。
 その彼女はハンターズの一員ではなく、一般市民だった。
 悪い噂一つ無い「出来た彼女」だと聞いた。
 あの人が「彼女」に求めた物は「一緒に戦場を走ってくれる人」ではなく、「家で帰りを待ってくれる人」だったのだ。

 別にあの人の為に戦っていた訳ではない。
 その事には気付いていたが一気に目的を見失った気がした。
 いつも誰かの背に守られて補助に専念していたが、あの頃は一人敵陣の中に飛び出しては瀕死状態になり他の仲間に迷惑をかけていた。
 一時期鬱状態になりかけていたが、見捨てない人が居てくれた。
 「もっと自分を大切にしろ」
 そんな言葉をかけてくれた。
 私は死ぬ事を求めていたのかも知れなかった・・・。
 戦場ではいつもあの人の後姿を思い出していた。
 同じ様な背格好、服装、戦闘スタイル・・・
 武器の種類が限られているこの世界では、ある程度の経験を積めば自然と同じ様な戦闘スタイルになるようだ。
 そんな人達に出会う度に、心が張り裂けそうになっていた。
 それでも、私は戦い続けていた。
 死に場所を探しながら・・・。

 いつしか、ラグオルであの人の話を聞かなくなっていた。
 ハンターズを辞めたらしい・・・そんな噂が最後だった。
 戦う事が嫌になった訳ではないらしい。
 とすれば、辞めた理由は私以外ではあり得ないのでは・・・。
 それが正しいのなら、あの人と仲の良かった人は私を許しはしないだろう。
 あの場所へ勝手に踏み入ったのは私なのだから・・・。
 そう思うと、ラグオルに降りるのが怖くなった。
 ・・・降りるのを、辞めた。
 ハンターズを辞めたくはなかった。
 いつも私を支えてくれたのがハンターズのみんなだったから。
 その目には見えない繋がりを、失いたくなかった。
 卑怯な事に、自分からは・・・
 いつもみんなは暖かかった。
 それに甘えていたかった。
 私の我がままだと言う事は、理解しているつもりだった。

 そうして悶々としていたある日、呼出がかかった。
 その人とはあまり冒険をした事はなかったが、冒険仲間の一人だった。
 「みんな待ってるよ」
 それは私の秘密を知らないから・・・。
 この秘密を知られれば、きっと見る目が変わるだろう。
 それでも・・・その瞬間まではみんなの傍に居たいと思った。
 重い腰を上げ、お世辞にも馴染んでるとは言えない剣を握ってラグオルに降り立った。
 「お!久しぶり!」
 そこには以前と変わらぬ仲間が居た。
 思わず、涙がこぼれた・・・。

 暖かい仲間に囲まれながら、幸せをかみ締めた。
 こんなに幸せな場所は失いたくない!と強く思った。
 仲間にすら・・・仲間だからこそ言えない秘密を抱えているにも関わらず・・・。
 失うのが、怖い。
 私に人生を狂わされた人は一人の例外もなくこの場所を去って行ったのに、私はぬくぬくとこの幸せに浸っている。
 申し訳なさを感じながらも、「去る」という選択肢を選べない自分が居た。
 そして、ふと気付く。
 私には何かすがる物が必要なのだと・・・。

 同じ轍を踏むかも知れない。
 怖いけれど、寂しいけれど、一人で生きて行く事は出来ない。
 私は一生何かにすがって生きるしかないのだ。

 そして私は今日も、ラグオルの地に降り立つ。
 「こんばんはぁ〜!」
 いつもの挨拶と共に・・・。
 仲間の明るい変わらぬ返事に幸せを感じながら・・・。





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