絆〜don't forget〜 第一章 「鎖」 第一節


「あの……綾部朔夜あやべさくやさん……ですか?」

「そうだけど……」

 受話器の向こう側から聞こえてきた声は、朔夜の知らない声だった。

 声の高さと質から推測すると、おそらく小学生高学年から中学生くらいの女の子なのだが、あいにくと、朔夜にはそのような知り合いは思い当たらなかった。

 幼い頃に死んだ彼の妹が生きていれば、ちょうどその年頃なのだが。

 朔夜はその妹知り合いからかと思ったが、どうもそうではないらしかった。

「君……誰?」
「あ……すいません、私……仙岳寺栞せんがくじおりといいます」

「仙岳寺? ああ、神羅の妹か?」

 朔夜は、何度か神羅から聞いたことのある『かわいい妹』のことを思い出す。

「……よかった……お兄ちゃんを知っている人がいて……」

「どうしたんだ? 神羅がどうかしたのか? そういえばここ二、三日学校休んでいるみたいだけど」

「……」

 しかし栞からの返事は帰ってこず、しばらく無言の状態が続いた。

「どうしたんだ?」

 朔夜がもう一度訊いてみると、栞は戸惑いながらも話しをはじめた。

「お兄ちゃんが……行方不明なんです……」

「行方不明?」

 行方不明と聞いて、朔夜は神羅の行きそうな場所を幾つか思い浮かべてみる。

「心当たりはないのか?」

「それが……学校やバイト先にも電話してみたのですが……」

 栞はまた、そこで言葉を切って黙ってしまった。

「おーい」

「あの……信じてくれますか? 私が今から話す事を」

「……話してみろよ」

 朔夜の答えを聞いて、朔夜は一言ありがとうございますと言ってから、その話しをはじめた。

「――なんだって……?」

 朔夜はその話しを信じることができなかった。

 だが、栞の今にも泣き出しそうな声は嘘を言っているようにはどうしても思えなかった。

「わ、わかった。とりあえず俺も心当たりのあるところを探してもしそれでもみつからなかったら……明日もう一度、詳しく話しを聞かせてくれないか。今度は会って直接」

 栞は悲しみを堪えた声で、わかりましたと、そしてもう一度ありがとうございますといって電話を切った。

 朔夜も、電話を切るとすぐに、家を飛び出していった。



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