〜Fate Silver Knight〜 

〜剣の乙女〜



鮮やかな色が駆ける。月光に照らされた、冬木中央公園――――夜の闇を縫って、二人の英霊が迫ってくる。
迎え撃とうと、前に出ようとした俺だったが、その時、金色の腕がその動きをさえぎった。

「疾く、退くがよい。我とて無粋な斬り合いに応じる気はない」

その言葉の意図を理解して、俺が後ろに飛び退くのと、ギルガメッシュの布陣が展開するのはほぼ同時であった。
俺が引いたのに反応してか、狙いをギルガメッシュに絞るように、アーチャーとジャネットは、英雄王に肉迫する。
その時、引いた俺の目に、ギルガメッシュの頭上に展開し、雨のように降り注ごうという無数の武具が見えた。

ギルガメッシュは、何かの合図を送ることもない。もとよりそれは、彼自身のもの。半年前の指を鳴らす、あの仕草は演出なのだろう。
そうして、唐突に何の躊躇もなく、武具の雨は、アーチャーたちに降り注いだ――――だが、

「投影、開始――――」

まるで、それを予期したかのように、アーチャーは足を止め、驚いたことに、ギルガメッシュと同じように、自らの頭上に無数の武器を出現させ、それを防いだのだ。
いや、驚いている暇など、俺には与えられなかった。こちらに駆けてくる、ひとつの影がある。

ギルガメッシュの武器が投下されたその寸間、ジャネットの様子に変化はなかった。
だが、駆ける彼女に降り注ぐ武器は命中しない。鎧一枚、皮一枚の隔たりを経て、彼女は武具の豪雨の横を駆けていた。
命中しないのではない、彼女はまるで、最初からその攻撃の有効範囲を知っていたかのように、その横すれすれを駆けたのである。

怯みや脅えがあれば、その豪雨の中に引き込まれかねないだろうに、ジャネットの目には迷いはない。
ただただ、遠坂に命じられた言葉を達するため、ギルガメッシュの横をかけ、俺へと突進してきた。

「くっ」

迎撃するために、俺は即座に投影を開始し、武器を生み出す。白と黒の夫婦剣、それを両の手に生み出し、ジャネットを迎え撃った。
狙いは、胴――――相手は英霊、手加減などしていられない。俺は両断するかのように、ジャネットに向かって剣を振るい……空を切った。

「なっ!?」

彼女の上半身が、消失した……いや、剣が振るわれる直前に、彼女は獣のように身をかがめると、またも紙一重の状態で、俺の剣をかわしたのだ。
そうと理解したときには、かがんだ状態のジャネットの回し蹴りが、俺の足を払い、俺は地面に転倒した。

息が、詰まる。月光が照らす夜空が視界一杯に映り――――剣を振り下ろそうとするジャネットの姿がそこにあった。
俺は声を出すこともできず、目を閉じながら、遮二無二、横に転がる。
目を開けて身を起こすと、憮然とした様子のジャネットの姿が、少し離れた場所にあった。

「随分と、しぶといんですね。アーチャーのマスター」
「ああ、遠坂の命令に、素直に従う謂れは無いからな」

軽口の返答を返し、俺は周囲に視線を向ける。イリヤを抱えたライダー、アーチャーと対峙するギルガメッシュの姿が見えた。
どうやら、援護は望めそうも無い……俺は覚悟を決め、ジャネットを視界に捕らえた。

「――――いきます」
「ああ……お手柔らかに頼む」

律儀な正確なのだろう。静かに宣言するジャネットに、俺は笑いながら返事をした。
それに対し、ジャネットは一瞬ほうけた様な表情になり、からかわれたと思ったのか、頬を染め、ムッとした表情になった。

剣を構え、突進してくるジャネット。俺は彼女を向かえうとうとし、思うところがあって、片手の干将を捨てた。
そうして、一振りの剣を両手で持つ。かつて、セイバーと特訓したあの時を思い浮かべるように。
突進するジャネット。その力量は、はるかに俺よりも上。だが、度重なるセイバーとの稽古での研ぎ澄まされた感覚は、感じ取る。
僅かな隙――――、彼女の左肩の付け根に、ほんの僅かな揺らぎを感じる。

「はあっ!!」

裂迫の気合を込めて、突き出された刃――――決まれば、ジャネットとて無事ではすまなかっただろう。
だが、その刃すら、彼女の身を傷つけることは適わなかった。

「なっ――――?」

至近距離のその攻撃を、ジャネットは瞬きする瞬間に、最小の動きで避けていたのだ。
ジャネットの身体が、俺にぶつかる。体重差のせいか、吹き飛ばされることも無く、俺はジャネットを抱きとめるような格好になる。
しかし、その胸には刃が今にも突き立とうと、切っ先が服に掛かっていた。

「終わりです」

厳かな、彼女のその言葉とともに、俺の胸に衝撃が走った――――。



そうして俺は、吹き飛ばされ、地面に背中から落下した。しかし、予想していた胸の痛みは、切り裂かれたものではない。

「っ――――なんだ!?」

俺は、殴られた胸の痛みに顔をしかめながら、身を起こした。
そうして、状況を確認する……ジャネットは変わらず騎士の佇まいのまま、少し遠くの位置にあった。
俺を突き飛ばしたあと、大きく後ろに跳んだのだろう。表情を確かめるのが困難な位の遠さに、彼女は身を置いていた。

そして、もう一人。月光に照らされ、銀色に輝く鎧姿の人が、そこにあった。
ジャネットが純白とすれば、その人はまさに純銀――――月光を纏う銀の鎧に、その手に持つは、一振りの太陽の剣。

「よくよく、君とは縁があるようだな。士郎」
「あ、あなたは――――シグ……さん」

先ほど、俺とジャネットがいた位置に、忽然と姿を現した銀色の騎士は、いつも通りの憮然とした表情で、ああ、とだけ言葉を返したのだった

〜幕間・少女と巨人〜
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