〜Fate Silver Knight〜
〜小休止・午後3時のティータイム〜
大聖杯の空洞から出て、自宅に戻ると、すでに昼も半ばを回っていた。
居間に入ると、それぞれめいめいに腰を下ろす。くつろいだ様子のイリヤとギルガメッシュと対照的に、ライダーの表情は固かった。
「ふぅ、これでようやく、一息つけるわね」
「……これから、どうしましょう、マスター」
ポツリと、ライダーの呟いた言葉に、イリヤは、ん? と問うように視線を投げかける。
休息を入れるため、台所で紅茶を用意しながら、俺はその話に聞き耳を立てていた。
「予想していた場所にサクラの姿はなく、行方も知れません。これから私達は何を指針に行動すればよろしいのでしょうか?」
「――――そうね、ともかくは、夜になるまで休みましょう。人目のあるうちに行動するのは、魔術師としては愚策だし」
「……ですが、それではサクラの身に危険が及びませんか?」
沸かしたお湯をティーポットに入れ、次に紅茶を煎れるためのお湯を、ヤカンにかけて火を入れた。
よくよく言われることだが、紅茶を淹れる時は、ティーポットは温めておいたほうがいい。
「あのね、サクラの身を案じるのはかまわないけど、それで私たちが殺されたら、本末転倒じゃないの?」
「…………」
「マスターとして命じるわ。今は休息をかねて様子を見ること。全員で外に出るのは、夜になってからよ」
しゅんしゅんと、やかんから湯気の上がる音。ころあいを見計らって、俺はティーポットのお湯を捨てる。
ティースプーンに山盛りの茶葉をいれ、沸騰したお湯を入れて、ポットに蓋をした。
「――――周辺の状況を探ってきます」
数分間、時間をかけて抽出した紅茶を器に注いで、お茶請けのクッキーと一緒に居間に持っていくと、そこにライダーの姿はなかった。
「ライダーは?」
「パトロールにいってるわ。何か異常があったら、戻ってくるでしょ」
焦っても、いいことなんてないのに。と、憮然そうな表情を見せるイリヤ。
その表情がすぐに満面の笑みに変わったのは、俺の手に持った盆の上にある、ティーセットに目が言ったからだろう。
「ほら、イリヤの分。暑かったから、喉も渇ききってるだろ?」
「ありがとう。シロウって、こういうところで気が利いてるから、大好き」
紅茶のカップとは別に、ガラスの容器に入れたアイスティーをイリヤに手渡すと、イリヤは美味しそうにそれを口につけた。
そうして、俺は居間に腰を下ろす。誰も、とりわけ何もしゃべらない。つけられたテレビの音が、周囲に流れていた。
「あの祭壇は……」
「ん、何か言ったか、ギルガメッシュ?」
どれほど時間が経過した頃だろうか。紅茶のカップをテーブルに置き、ポツリと呟くギルガメッシュ。
何か深刻そうな、そんな響きを感じ取り、俺はギルガメッシュに視線を向ける。
「――――いや」
しかし、ギルガメッシュは、俺の言葉が聞こえているのかいないのか、あいまいに呟くと、一人、自らの思考の淵に沈んでしまった。
あいまいな時間は、そうして流れていった。夏の暑さも徐々に薄れ、それでも肌に熱気の残る夕刻。
ほんの一時の休息であったが、身体と心を休ませるのには、ちょうどよい頃合だった。
夕食の準備を始める頃、ライダーが戻ってきた。
調理のための野菜を切っていると、足音を感じさせない軽やかさで、漆黒の服に身を包んだ彼女は居間に入ってきたのだ。
「お帰りなさい、ライダー。それで、どうだった?」
開口一番、イリヤがライダーに問うたのは、桜のことだろう。ライダーは、その言葉に首を横に振った。
その顔はいつも通り。一人で駆け回って、かえって落ち着いたのだろう。ライダーは淡々と、言葉を放つ。
「駄目ですね、大聖杯の周辺および、この付近を徹底的に捜しましたが、それらしい痕跡は見当たりませんでした」
「……そう。郊外の森にいるんなら、セラから連絡が入るだろうし、サクラは新都にいる可能性が高いわね」
「はい、夜は新都方面を捜索するべきでしょう……士郎、すみませんが、飲み物をいただけませんか?」
「あ、ああ」
いつの間にか、息もピッタリなやり取りをするイリヤとライダーに驚きながら、俺は麦茶を注いだコップを、ライダーに手渡した。
俺の表情を見て、クスリと笑うライダー。やっぱり、なんだか照れる。
「シロウ、夕ごはんは?」
「ちょっ、イリヤ、何を怒ってるんだよ」
なぜだか怒り出したイリヤをなだめながら、俺は夕食の準備を再会する。そして、調理をしながらふと思った。
(そういえば、遠坂達が家に来た様子はなかったけど、夕飯は食べに来るんだろうか?)
結局、夕飯になっても、遠坂達の姿は現れなかった。多めに作った焼飯、吸い物、フライなどを前に、俺はなんとなく不安になった。
だが……多分、入れ違いになったんだろう――――漠然とした不安はあったけど、俺はそう考えて、食事に専念することにした。
日は沈み、宵闇があたりを包み込もうとしていた。
〜幕間・或る世界の最果て〜
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